プロ野球有観客解禁の舞台裏 初日の入場不可者は3人

有観客試合解禁初日の京セラドーム大阪(写真:ストライク・ゾーン)

新型コロナウイルスの感染拡大によって、例年より遅れて開幕した世界のプロ野球リーグ。台湾(CPBL)、韓国(KBO)、日本(NPB)の順で始まった公式戦は無観客で行われ、7月10日には日本が台湾に次いで有観客を解禁した。

同日に予定された6試合のうち、3試合がドーム球場での開催。コロナ禍における屋内でのプロ野球はどのようにして防疫対策を行い、観客はどのように観戦を楽しんだのか。オリックス-北海道日本ハム戦が行われた京セラドーム大阪の様子と、球団の取り組みを伝える。

ファンが待ちわびた生観戦。チケットの売れ行きは?

政府がイベント開催制限を緩和したことで、プロ野球も入場者5000人以内での開催が可能に。オリックス球団は4000席に限定して入場券販売を行った。ファンにとってようやく見られるようになった生のプロ野球。しかしチケットは即完売とはいかなかった。

オリックスの小浜裕一事業運営部長兼コミュニティグループ長(52)は「予想していたより、(売れ方の)波が緩やかだった」と話す。

「ご高齢の方や基礎疾患をお持ちのご家族と同居されている方は、本当は球場に行きたいんだけど、なるべく人混みを避けようとまだ警戒しているのだと思います」

小浜裕一事業運営部長兼コミュニティグループ長(写真:ストライク・ゾーン)
小浜裕一事業運営部長兼コミュニティグループ長(写真:ストライク・ゾーン)

他球団からも「チケット販売の初動が通常よりも低調だった」という声が聞かれた。

その他の要因には、チケットの販売方法がこれまでとは異なるという点がある。購入手続きはウェブサイト上に限られ、もし、感染者が出た場合に来場者の追跡調査ができるよう、個人情報の登録が必須となっている。

場内では「大阪コロナ追跡システム」の登録も促している(写真:ストライク・ゾーン)
場内では「大阪コロナ追跡システム」の登録も促している(写真:ストライク・ゾーン)

経費の支出額は通常と大差なし。しかし…

ドーム内入場に際し、観客には検温が義務付けられている。オリックスは普段はバス乗降場として使用している場所に4台の赤外線サーモグラフィを設置。当日のチケット所持者のうち一部の入場ゲートを除く来場者はこの場所を通過し、「検温完了証」を受け取らないと入場することはできない。

赤外線サーモグラフィで体温をチェック。機器は4台設置され混雑はなかった(写真:ストライク・ゾーン)
赤外線サーモグラフィで体温をチェック。機器は4台設置され混雑はなかった(写真:ストライク・ゾーン)
検温が終わると「検温完了証」が渡される(写真:ストライク・ゾーン)
検温が終わると「検温完了証」が渡される(写真:ストライク・ゾーン)

ここで使用されていた体表面温度発熱監視装置は、付属品込みで1台約180万円(筆者調べ)と高額なもの。さらに関係者入口にも数多くのカメラ検温機器を配置していた。購入、リースなど契約形態によって金額の幅はあるが、感染予防のために1千万円以上の経費がかかっているのは明らかだ。しかし小浜氏は「コストはかかっていますが、出ていくお金は昨年までとあまり変わりません」と話す。

「これまでの試合ではスポンサー企業さんのサンプリング(配布物)や場外ステージイベントを行っていたので、そこにかかる人件費、ブースの設置やのぼりの制作などがありました。その額と今年の感染予防対策の額は同じぐらいです。もっと予防対策の方が上回ると思っていたので、そこは予想外でした」

支出こそ予想よりも抑えることができたが、現状、スポンサーイベントはまったく行えないため、そちらでの収入はゼロ。観客数の制限もあり、感染拡大は球団経営を厳しくしている。

生でしか味わえない楽しみ

ファンにとってコロナ禍の観戦は制約が多い。マスクの着用が必須で、応援にも禁止事項がある(以下、画像参照)。

場内では禁止事項を踏まえ、拍手とハリセンを叩いての応援を促している(写真:ストライク・ゾーン)
場内では禁止事項を踏まえ、拍手とハリセンを叩いての応援を促している(写真:ストライク・ゾーン)

「応援歌を熱唱したい」、「声でチームを後押ししたい」というファンには物足りないだろう。では応援以外でのテレビ、インターネット中継では味わえない、球場ならではの楽しみとは何か。検温所でファンに聞いた。

大阪市の30代の男性は「ベンチの様子や守備交代の合間が見られるのが好き」と話し、実際に10日の試合ではこんなシーンがあった。

4回表の日本ハムの攻撃が三者凡退で終わり、オリックスファンは声を上げることなく手を叩いた。そして若干の静寂が流れた後、再び拍手が沸き上がった。一塁側ベンチから一番遠いレフトを守るT-岡田が、ベンチ前で待つ同僚のもとに小走りで戻ってきたからだ。

その回のT-岡田は、1死で7番ビヤヌエバが放ったファールフライをフィールドシート(大商大シート)のフェンスの内側にグラブを入れてジャンピングキャッチ。3アウト後の二度目の拍手はそのファインプレーを改めて称えたものだった。

中継ではほぼ映し出されることがない、外野手が自軍のベンチに戻って来る姿。ファンたちは現場にいるからこそ味わえるその瞬間、ベンチ前のチームメイトと一体になって拍手を響かせた。

「売りに来る売り子」から「会いに行ける売り子」へ

飲食物の販売も通常とは異なり、アルコール飲料の販売は6回裏までだ。

「感染症の専門家、病院の先生と議論する中で、当初アルコールは販売しない方がいいのではないかという話も出ました。しかし『応援できない』、『アルコールも飲めない』となると野球観戦の魅力が無くなってしまいます。そこで販売時間を短くすれば酔われる方も少ないだろうということで、全球団で合意のもと決めました」(小浜氏)

アルコール飲料の販売は6回裏まで(写真:ストライク・ゾーン)
アルコール飲料の販売は6回裏まで(写真:ストライク・ゾーン)

また、積極的なアルコールの販売を避けるため、生ビールをはじめとした「売り子」による販売はスタンド内では行っていない。客はコンコースの指定位置に立つ売り子のところに出向き、間隔を保って並ぶという形態がとられている。

このプラカードのところで売り子さんは待機している(写真:ストライク・ゾーン)
このプラカードのところで売り子さんは待機している(写真:ストライク・ゾーン)

(※メディア従事者はドーム内での観客との接触を避けるため、スタンド、コンコースでの取材は不可。上のコンコースの写真は開門1時間前に撮影したもの)

ドーム球場にとって最も懸念されるのが、コンコースで密集状態を生み出すこと。そのため試合後の退場には、規制を設けて来場者が出口に集まらないように配慮していた。

解禁初日に入場できなかったのは3人

観客解禁日の10日、37度5分以上の熱があり入場できなかった人が3人いた。

「せっかくお越しくださったのに本当に申し訳ないですが、みなさんご納得くださって、チケットの払い戻し手続きを行ってお帰りになりました」(小浜氏)

検温所を案内するボード(写真:ストライク・ゾーン)
検温所を案内するボード(写真:ストライク・ゾーン)

小浜氏はプロ野球が有観客を開始したことに、責任の重さを感じている。

「大きな施設やイベントをされる企業、団体から、『どういう(感染予防)対策をしているか教えて欲しい』という質問や視察のお申し出をたくさんいただいています。注目度が大きいプロ野球とJリーグを参考にしてどんどん他のイベントも立ち上がっていくと思うので、失敗せずに万全を期してお客様を迎えていきたいという思いです」

来場者へのお願い事項(写真:ストライク・ゾーン)
来場者へのお願い事項(写真:ストライク・ゾーン)

もう無観客には戻りたくない

日本よりも1ヶ月以上前に開幕するも、いまだ無観客試合が続く韓国では、有観客が始まった日本に対して、「感染が収束していないのに無謀ではないか」という意見が、幾ばくかの嫉妬も含んである。また、日本の複数球団の職員からも、「まだ早くないか」という心配の声があるのも事実だ。

ただ、誰もが経験したことがない困難の中で共通しているのが、「もう無観客には戻りたくない」ということだ。

有観客初日を終えて小浜氏は時折言葉に力を込めて決意を語った。

「昨年までお客様に入っていただくのが当たり前だと思っていたことが、当たり前ではなくなって改めてありがたいことだとわかりました。そして一球一球に喜怒哀楽を出して観ていただく、拍手してもらう、『はぁ』というため息も出る、という様子を見たら、もう一回無観客に戻すのは絶対に嫌ですね」

「そういうことがないように、やってやり過ぎではないくらい、座席のふき取り消毒や清掃をはじめとした感染予防対策を続けたいと、みんな思っています。お客様に『京セラドームなら大丈夫だな』と思っていただけるように、少々コストがかかってもできる対策はすべて行うようにしていきます」

NPBは今後も政府のイベント制限の緩和指針に従い、8月1日をめどに入場可能な人数を収容人員の50%まで引き上げることを予定している。

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