優勝セールでお馴染み 西武ライオンズ球団歌「地平を駈ける獅子を見た」が長く愛されている理由

西武のパ・リーグ優勝を祝い、記念セールを告知するくす玉(写真:笠原 良)

(本記事は2018年6月22日にLINEブログに記したものに加筆し、構成し直したものです)

筆者の手元には1本のカセットテープがある。これは1980年代に西武流通グループ(当時)の会社で働いていた母が同僚からもらったものだ。

「室井さんち、ライオンズファンでしょ?」

そう言って手渡されたのは、秋になると毎年のように「西友」の店内で使われていたもの。「エンドレステープ」という種類の、収録された音源が繰り返し再生されるカセットテープだ。

母が職場で譲り受けた、かつて西友店内で使われていたエンドレステープ(写真:ストライク・ゾーン)
母が職場で譲り受けた、かつて西友店内で使われていたエンドレステープ(写真:ストライク・ゾーン)

押し入れから引っ張り出したこのカセットテープを三十数年ぶりにラジカセに入れ、再生ボタンを押した。

軽快なイントロと古臭さを感じないメロディー。そして力強い歌声。「ラーィオーンズ」とサビが終わると、再び軽快なイントロが流れ出した。

今年、ライオンズは2年連続23度目のパ・リーグ優勝を決めた。そしてこの曲が各地のスーパーやデパートの店先で繰り返し鳴り響いた。

西武ライオンズ球団歌『地平を駈ける獅子を見た』

1979年の球団創設以来、昭和、平成と40年を経てもこの曲が愛され続けているのにはいくつもの理由がある。

魔法のような曲と期待を込めた呪文

「地平を駈ける獅子を見た」(以下「地平―」)はプロ野球のチームの「球団歌」ではあるが、歌詞に野球をはじめスポーツに関する言葉が一切出てこない。

他球団の歌には登場する「球」、「バット」、「アーチ」、「グラウンド」、「球場」、「スタジアム」、「ナイン」、「プレイ」、「勝利」、「優勝」、「戦う」、「頑張れ」といった言葉がどこにも見当たらないのだ。

しかし、ひとたび耳にし、そして口ずさむとグラウンドを駈ける選手の姿が目に浮かび、自然と勇気が湧いてくる。この曲にはそんな不思議な力がある。

その魔法のような曲に3回登場するフレーズがある。いわば呪文のような言葉。それが「ミラクル元年」だ。

なぜ「ミラクル元年」なのか。

40年前のライオンズファンブックを開くと「地平―」について作詞の阿久悠氏が以下のコメントを寄せていた。

最初に“ミラクル元年”という言葉が浮かんだ。大人も子供も、あまり夢がなさすぎますからね。現代は。でも心の底では、だれもが“奇跡”を願っているはずだと思う。楽しく、スカッとした“奇跡”をね。西武ライオンズがそんな“奇跡願望”をきっとかなえてくれるに違いない。そう思いながら一気に詩を作って行きました。すべての日本人の心の中に広がる青い大草原、疾駆する獅子たち。獅子の行きつくところ、奇跡あり――ぜひ期待に応えて欲しいな。(談)

出典:1979年西武ライオンズファンブック

ライオンズは創設4年目の1982年に初の日本一となった。駅で、スーパーで、デパートで繰り返し耳にしたこの曲を聴きながら、当時小学4年生だった筆者はその年、「ミラクル元年」を実感した。

「ミラクル元年」、それはファンそれぞれに違うもの。「いつ」と限定しない「ミラクル元年」がこの曲から古臭さを感じさせないでいる。

優勝記念ポスターを飾るライオンズストア西武池袋本店(写真:ストライク・ゾーン)
優勝記念ポスターを飾るライオンズストア西武池袋本店(写真:ストライク・ゾーン)

斬新で歌い手の特色を生かしたポップス

西武球場前駅の改札を抜け、球場ゲートに向かって駈ける青い帽子をかぶったちびっ子たち。そのバックで球場前広場に響き渡る「地平―」はワクワク感を刺激した。

「地平―」はイントロから聴く人の心をつかむ。今ではアップテンポの球団歌は珍しくないが発表当時はとても斬新だった。作曲の小林亜星氏はそれを意識してこの曲を作ったという。

新生ライオンズですから、フレッシュなイメージあふれる曲を、と思って作りました。従来のこの種の歌は、どうも軍歌とか寮歌みたいで古臭い感じから抜け出ていませんからね。それで思いきってポップス調にしたんです。松崎しげる君というのは、とても音域の広い歌手だから、彼の特色を十分に生かしました。音符通りだと一般の人には少し高音が苦しいかもしれないが、1オクターブ下げて歌ってもいい。この歌が西武ライオンズ球場にコダマする日が待ち遠しいねえ。(談)

出典:1979年西武ライオンズファンブック

歌手松崎しげる氏の特色を十分に生かすという、ファンの歌いやすさからは離れた曲作りだった「地平―」。しかしこの曲はファンが熱く歌える曲へと昇華していった。

阿久悠、小林亜星両氏のタッグは「地平―」の3年前に「北の宿から」(歌:都はるみ)という名曲を生み出し、レコード大賞をはじめ1976年の賞レースを総なめしている。

曲調も内容も「地平―」とはまったく違うが、このコンビが作った曲が愛され続けるのは必然だ。

衰えることのない美しきシンガー

筆者は子供の頃、後楽園球場に見に行ったオールスター野球大会での松崎しげる氏の姿が今も印象に残っている。

一塁の守備につき、右手にはめたファーストミットで野手からの送球を受けると、左投げ特有の切り返しで機敏にボール回しを見せた。茶褐色の肌と風になびく後ろ髪。カクテル光線に照らされたその姿はとても美しかった。

調べると松崎氏は日大一高出身の野球経験者だという。野球への情熱にあふれ、類まれな力強い歌声を持つ、衰え知らずのシンガー。その松崎氏だからこそ「地平―」は発表から40年以上経っても成立している。

声高らかに歌い上げるために

名曲「地平を駈ける獅子を見た」をどのように歌えば、さらに素晴らしくメットライフドームに響き渡らせることが出来るのか。

10月19日から東京凱旋公演を行うミュージカル『刀剣乱舞』のほか、数々の2.5次元ミュージカルなどで歌唱指導をしているカサノボー晃(ひかる)氏はこう解説する。

「サビの前の“アアア”はその後の“ライオンズ”に想いを込めやすくするために、短くアクセントをつけるといいと思います。そして“獅子よ 吠えろよ 限りなく”のフレーズは一つ一つの言葉を、階段を上るように意識しながら上げていって、サビの“ウォウォウォ”で高らかに吠えるといいでしょう」

カサノボー氏は「地平―」には気持ちよく歌える要素が盛り込まれているという。

「サビで“ラーィオーンズ”と音を伸ばしていますが、伸ばしているのは母音の中でも喉を自然に開けられる“あ”と“お”です。そのため大きな声で叫ぶように歌っても、喉を締めることなく気持ちよく歌うことができます。松崎しげるさんに合わせた歌ということで、男性が歌うにはかなり高いキーになっていますが、成人男性は1オクターブ下げれば大丈夫。また声変わり前の小学生高学年の男子なら、サビの部分はちょうど歌いやすい高さです。少年ファンが一番気持ちよく歌えるでしょう」

ライオンズは11年ぶりの日本シリーズ進出を目指してクライマックスシリーズファイナルステージを戦う。令和元年秋、「ミラクル元年」の歌声を再びスーパーやデパートで繰り返し聞くことは出来るか。

映像:「地平を駈ける獅子を見た(40thバージョン)」応援動画(埼玉西武ライオンズ)