コーチから現役選手への転身 西武・星と同年代で捕手復帰した韓国の経験者の思い

コーチから捕手復帰した経験のあるチャン・ジェジュン氏(写真:SKワイバーンズ)

今月7日、西武は星孝典2軍育成コーチ(37)と育成選手契約を結んだと発表した。ファームで捕手が一時的に不足していることへの対応だという。星は2016年以来の選手復帰となる。

「捕手の人材不足」。球界でこの言葉が話題に上ることは少なくない。それは日本だけではなく韓国も同じだ。

韓国KBOリーグにもかつて、今回の星同様に現役引退後、コーチから捕手として選手生活を再開させた人物がいた。現在、SKワイバーンズで1軍バッテリーコーチを務めるチャン・ジェジュン氏(48)だ。

引退から4年、36歳でコーチから捕手に復帰

チャン・ジェジュン氏(以下、チャン氏)は2003年に32歳で現役を引退。翌04年からLGツインズで指導者生活をスタートした。後に移籍し、SKでのコーチ2年目となった07年、その年に就任したキム・ソングン監督(現ソフトバンクコーチングアドバイザー)に現役復帰を提案された。

「“選手をもう一度やれ”と言われました。当時、正捕手のパク・キョンワン(現SKヘッドコーチ)がひざの故障を抱えていて、その他に経験のある捕手が少なかったのが理由です。事情としては今回の西武と似ています」

3年間のブランクを経て、36歳での再スタート。それをチャン氏は「簡単ではなかった」と振り返る。

「32歳で引退した時は、どこかを故障して現役を辞めたわけではありませんでした。しかし36歳で選手を再開すると、現役当時は痛くなったことがない腕やハムストリングス(太ももの裏側)を痛めました。コーチとしての3年間は特に鍛えていなかったので、体がついていかなかったです」

一方、コーチを経たことでの好材料もあったという。

「コーチをやったことで視野が広くなっていました。コーチとしての経験を踏まえて投手をリード出来たことはチームにとってもプラスになったと思います」

春季キャンプで練習を見つめるチャン・ジェジュンコーチ(右)。選手に復帰した07年当時、高卒2年目の「同僚」だったイ・ジェウォン(中央)は正捕手になりキャプテンとして牽引している(写真:SKワイバーンズ)
春季キャンプで練習を見つめるチャン・ジェジュンコーチ(右)。選手に復帰した07年当時、高卒2年目の「同僚」だったイ・ジェウォン(中央)は正捕手になりキャプテンとして牽引している(写真:SKワイバーンズ)

現役復帰に周囲の反応は…

シーズンオフに放映されるテレビのスポーツドキュメント番組では、選手が家族や恩師に現役引退を告げる場面をよく目にする。皆が「お疲れさまでした」と選手を労い、涙する姿が印象的だ。

では「現役復帰」を告げられると周囲の人はどんな反応を見せるのか。チャン氏は当時を再現して大きな笑い声を上げた。

「“ハッハッハッ、運がいいね!”と言われました。プロ野球では球団から可能性がないと判断されて1、2年でクビになる選手がいる中で、私はそんなに優れた選手ではなかったのに、引退後にコーチをやって、また選手もやれてラッキーだねという声が多かったです」

しかしチャン氏の思いは周囲の反応とは違った。

「皆は私を、控え捕手としてならまだまだやれると思っていたので、現役復帰を喜んでくれました。しかし私自身は早くに引退したことで、コーチとしてもっとたくさんの経験を積みたいと考えていました。だから喜ぶということはなかったです。でも現役復帰したことを後悔はしていません」

試合前、元同僚と談笑するチャン・ジェジュンコーチ(写真:ストライク・ゾーン)
試合前、元同僚と談笑するチャン・ジェジュンコーチ(写真:ストライク・ゾーン)

指導に生かされた2度目の選手としての経験

チャン氏の2度目の現役生活は07年のシーズン途中、1、2軍いずれの試合にも出場することなく終了。08年からはKIAタイガースで再びコーチとしての活動が始まった。チャン氏は1年弱、選手復帰したことで指導者としての姿勢に変化が生まれたという。

「選手と同じ立場で一緒に過ごしたことで彼らの気持ちがわかるようになりました。コーチになったばかりの頃は若手選手に、“なんでこんな簡単なことが出来ないんだ?”と問い詰めることもありましたが、実際に自分が選手に戻ってみたら出来ないことが多かったんです。それ以来、選手に対して、安易に責め立てることはなくなりました」

11年、KIA在籍時のチャン・ジェジュンコーチ。左は平野謙・現BC群馬監督(写真:ストライク・ゾーン)
11年、KIA在籍時のチャン・ジェジュンコーチ。左は平野謙・現BC群馬監督(写真:ストライク・ゾーン)

日本の同士に贈るメッセージ

星コーチ、チャン氏の選手復帰時の年齢はそれぞれ37歳と36歳。現役を退いていた期間も星コーチの2年、チャン氏の3年と近い。チャン氏は日本にいる「同士」にこうアドバイスを寄せた。

「新たなスタートということで意欲的に取り組みたくなるけど、20代の時とは違って故障しやすいし、一度痛めると回復まで長引いてしまう。ケガをしたら“なんで選手に復帰したんだろう?”と精神的に追い込まれます。だからあまり積極的にならずに、たとえ体がついていかなくても経験や考え方は他の選手よりは上回っているはずだから、あせらずにやって欲しいです」

チャン氏は選手から再びコーチになった08年以降、KIA、サムスン、KT、ロッテでバッテリーコーチを務め、今年からは選手復帰した時のチーム・SKで指導者生活を送っている。

「西武の方がどういうキャッチャーか詳しくは知りませんが、頑張ってと伝えてください」

チャン氏は低音を響かせ、歯切れ良い口調でそういうと、笑顔でコーチ室へと入っていった。

<チャン・ジェジュン(張在仲) 建国大から94年にサンバンウルレイダース(のちに消滅)に入団。SK、LGでプレーし、通算成績は596試合、打率2割1分9厘、14本塁打、104打点。身長172センチ、体重72キロ。1971年5月19日生まれの48歳>

[以下、5/22追記]

本記事を読んだという西武・星孝典捕手からチャン・ジェジュン氏へのメッセージがツイッター上で寄せられました。