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民主主義は学校だけじゃなく大学でも!学生の声を聞くスウェーデン「大学法」

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
スウェーデン視察でストックホルム大学の学生組合を訪問(写真:筆者、以下同じ)

日本でも、「学校内民主主義」の必要性が徐々に認識され始めているが、スウェーデンでは、学校はもちろん(※)、大学でも、民主主義の実践が行われている。

※別で記事を書くが、訪問した中学校では、「学校は民主的だと思いますか?」、「自分たちの声が学校に聞かれていると思いますか?」という質問に対し、クラスの全員が手を挙げるほど、学校で民主主義を実践できている。

筆者は、9月7日から13日までスウェーデンを訪れ、様々な学校や選挙小屋、政党のユース党、行政などでインタビューを行ったため、数回に分けて、スウェーデンでの取り組みを紹介したい。

まずは、大学の自治がどうなっているのか、ストックホルム大学の学生組合の事例を取り上げる。

インタビュー先:

ストックホルム大学学生組合(Student Union)

代表 Simon Froster Delbomさん(24)写真真ん中左

副代表 Disa Ahlblom-Bergさん(25)写真真ん中右

HP https://www.en.sus.su.se/

約3人に1人が学生組合に参加

ストックホルム大学は、スウェーデン最大規模の大学であり、学生組合もスウェーデンで最大となっている。

ストックホルム大学学生組合(SUS)は、ストックホルム大学の学生を代表し、ストックホルム大学や他の組織(政府等)とのやり取り、大学内にある施設運営(カフェやパブ、スポーツ施設等)などを行っている。

スウェーデン高等教育評議員会によると、「学生組合は学生にとって重要な問題について学生に代わって活動する独立した組織」と定義されており、学生への影響、平等、教育の質、学生寮等の事項を扱っている。

SUSに加盟している学生は、年会費が有料ながら、約1万人いる。

ストックホルム大学(SU)の学生数は約3万人いるため、3人に1人はSUSに加盟している。

年会費はまとめて払うかなどによって多少異なるが、1学期でおよそ1,625円となっている(1スウェーデンクローナ=約13円)。

Membership prices:

One semester, 125 SEK

Two semesters, 240 SEK

Six semesters, 500 SEK

SUSに加盟するメリットとしては、会員限定の施設利用や教科書などの割引、キャリア支援、学生寮への優先的な入居などがある。

学生が大学の意思決定に参加する権利があることを法律で保障

こうした直接的なメリットは、日本の大学にある大学生協に近い。

ただ、SUSはそれにとどまらない。

ストックホルム大学の方針などを決定する理事会に席を持っており、学生の考えを大学の意思決定に反映させている。

それもSUに限らず、他の大学でも同様に、学生が大学の意思決定に参加している。

その根拠となっているのが、「大学法」(University Act,1992)、「高等教育法」(Higher Education Act,1993)の存在だ。

その中で、学生は大学教育に影響を与える権利を持っていることを定め、大学に対して、大学の意思決定に学生を加えることを義務付けている。

§ 4 a The students shall have the right to exercise influence over the education at the universities.

The universities must work to ensure that the students take an active part in the work of further developing the education. Law (2000:260) .

引用元:University Act (1992:1434)

インタビュー時のプレゼン資料
インタビュー時のプレゼン資料

SUSでは、講義に関して学生にアンケートを行い、改善点を大学側に伝えたり、学生のメンタルヘルスをケアするために、テストが終わってすぐに、次の課題に移るのではなく、休みを入れるなどの要求を行っている。

最近では、物価高騰によって、生活が厳しくなっていることから、教材費が高いことを指摘し、ストックホルム大学の教授が書いた教材の一部をデジタルで無償で提供することが決まったという(後述するが、政府に対して奨学金の引き上げなども要求している)。

学生組合の議席は学生の政治団体による選挙で争う

このように大きな影響力を与えられている学生組合のガバナンスはどうなっているのか。ここにも民主主義の実践が見られる。

まず、学生だけで構成される評議員会(The collective assembly=FUM)が存在し、35議席存在する。

その議席は、学生で構成された各政治団体が毎年選挙で争う。

そして、評議員会で学生組合の役員を選出し、学生組合の代表と副代表が学生代表として、大学の理事会に参加する。

選挙権は、学生組合の会員に与えられる。政治団体は、最低15人から構成される。

各政治団体は、学生の声を聞き、改善策(公約のようなもの)を掲げる。

日本の大学に馴染みのない取り組みで、一見イメージするのがやや難しいが、国会や地方議会と同様に、選挙で議席を争い、得票数に従って、議席が割り当てられる。

その後、多数派になった複数の政党から役員(首相や大臣)が選出される形を想像してもらえればわかりやすいのではないだろうか(つまり各大学内で議会と同様の民主的な取り組みが実践されている)。

評議員会では、予算、組織など3年間の計画を決め、特に優先度の高い今年のアドボカシーテーマも決める。

ちなみに現在の重点的なアドボカシーテーマは下記だという。

Sustainability in education (キャンパス内の気候変動対策など)

Safer student finances(家賃、食料などの負担軽減が大きい、奨学金の額を上げるように政府やメディアに訴えている)

Equal treatment of students

Develop the work for student’s health(同世代に比べて、学生のメンタルヘルスが良くない。勉強のストレス、アルバイト、一人暮らしになって友達が少ないなど)

いわば学生組合は、この計画の実行部隊であり、学生組合からも議会に提案するが、決定は年に4回開催される評議員会で行われる。

その上で、7人(代替メンバー7人も含めると計14人)で構成される学生組合役員会によって年間の具体的な活動計画が決められる。月に1回会合があり、学生組合の中心的役割を担う。

また、学部ごとに学生委員会が存在し、そこで、学部のカリキュラムや勉強する環境、教材の値段、合格の基準などに関する意見をまとめて、学生組合に伝えている。

これは博士課程でも同様の構造になっている。

学生組合の役員メンバー。カッコ内は政党の略称
学生組合の役員メンバー。カッコ内は政党の略称

予算規模は約2.3億円!

このように、学生組合と言っても、活動の規模・質的には、労働組合などと変わらない。

そのため、学生組合の役員(学生)は給料をもらって活動しており、専属のフルタイムスタッフ(学生ではない)も存在する。

現在は、17人のフルタイムスタッフが、オフィスの運営やファイナンス、広報、アドボカシーのサポートなどを行っている(学生の役員は選挙ごとに変わるが、常勤スタッフはずっといる)。

SUSスタッフはHPで紹介されている
SUSスタッフはHPで紹介されている

こうした人件費はどこから出ているのか。

もちろん学生からの会費もあるが、多くが大学の補助金と政府からの補助金で成り立っている。

予算規模は、なんと1800万SEK(約2億3400万円)で、半分以上(55%)は大学から補助金が出ている。

ちなみに筆者の出身大学、慶應義塾大学は、塾生代表を選挙で選ぶなど、日本で比較的自治的な取り組みを行っている大学だが、その運営を行っている全塾協議会の予算規模は、全学部生から徴収している(年間一人あたり750円)、総額2200万円程度だ。

いかに規模が異なるかがよくわかるだろう。

インタビュー内容をもとに筆者作成
インタビュー内容をもとに筆者作成

学生組合が入っている学生用の建物自体、非常に大きいが、学生組合のオフィスの中には、個人のオフィスルームや会議室などが充実している。

カフェやコミュニティスペースなどが入っている学生用の施設
カフェやコミュニティスペースなどが入っている学生用の施設

SUSのオフィスには、個人のオフィスルームや会議室などが充実している
SUSのオフィスには、個人のオフィスルームや会議室などが充実している

政府にもアドボカシー

学生組合の活動は、大学内にとどまらない。

大学だけで解決できないことは、他の大学の学生組合とも連携しながら(全国学生組合連盟=SFSという、全国規模の学生組合も存在する)、国(政府)やメディアに働きかけている。

例えば最近だと、住宅の問題や食料費の高騰などに対して訴えている。

ちょうど2週間前に、高等教育大臣に会って、現状の奨学金(大学の授業料は無償なので、生活費のために奨学金を借りている/支給されている)だけでは足りないので、インフレ以上に、もっと上げてほしいという話をしたという。

メディアで住宅問題を取り上げてもらうなど学生の代表として発信している
メディアで住宅問題を取り上げてもらうなど学生の代表として発信している

対話を大事にするThe Swedish Way

このように、学生に大きな権限が与えられているスウェーデンの大学。

なぜ「大学法」(University Act)のようなものが作られたのか?

SUS代表のサイモンさんは、スウェーデンには、対話を大事にする文化(The Swedish Way)があるという。

「スウェーデンでは、伝統的に、労働組合が強く、労働者が経営者と交渉して決めてきた。対立が生じた時に、常に対話を重視し、一緒に解決してきた、The Swedish Wayという考え方がある。1970年代、1980年代から、学生が(大学に)影響を与えるべきという考えが広まってきたが、高校などでも、授業に対して生徒が影響力を持つべきという考えがある。」

「また、みんなが平等というのをスウェーデンはずっと力を入れてきた。女性に子どもができても、仕事を辞めたりしないで済むように、保育園の整備など、あらゆる機会を提供している。世界で一番最初に体罰を禁止したりと(1979年)、子どもの権利も大事にしている。発言権が大人にも子どもにも対等に与えられるべきという考えが強く、子どもや若者の意見を聞く文化ができている。

大学の質が高いところは、学生の意見を聞いたり、そうした民主的なガバナンスがきちんとできていると言われている。」

また、日本でどうすれば大学自治を実現できるか?という問いに対しては、こう答えた。

「自分たちは法律があるから動きやすい。学生の影響力を保障する法律を作ることが重要。そのためのアドボカシーをした方が良い。」

なぜSUSのような組織が必要なのか?

「3万人の学生が個別に意見を言うと、受け取る側も大変。代表的組織がまとめることで、適切にコミュニケーションができる。」

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10月15日に、スウェーデン視察のオンライン報告会を開催します。

スウェーデンの民主主義、選挙、子どもの権利に関心のある方はぜひご参加ください。

詳細→ https://youthconference.jp/archives/5804/

また北欧で行われている「デモクラシーフェスティバル」を参考に、日本で「民主主義ユースフェスティバル2023」を開催します。実行委員会のメンバーに関心のある若者はぜひご参加ください。

https://youthconference.jp/archives/5796/

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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