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そろそろ日本の選挙も「投票に行こう」ではなく、「〇〇に投票しよう」にシフトしよう

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:アフロ)

参院選の投開票日(7月10日予定)まで、あと1カ月近くまで迫ってきた。

徐々に各選挙区で候補者が確定し、選挙モードになりつつあるが、与野党が拮抗していないことからも、盛り上がりにはイマイチ欠ける。

選挙結果もさることながら、前回非常に低い投票率となった、2019年の投票率48.8%を超えるのか注目される。

出典:総務省
出典:総務省

投票率を大きく改善していくためには、主権者教育の拡充、選挙報道の増加・質的改善、選挙規制の大幅な緩和、もっと日常的に政治の話をするようにするなど、変えなければいけないことは多いが、毎回そうした改善はあまり進まず、ひたすらに「選挙に行こう!」ばかりが、メディアやSNS上で広く叫ばれる。

関連記事:10代の投票率は3分の1以下。主権者教育と政治報道を抜本的に見直さないと若者の投票率は上がらない(室橋祐貴)

が、投票率向上を目指す学生団体が出始めて10年程度経過するが、大した効果が出ていないことからも、それでは限界がある。

関連記事:「投票に行こう!」という呼びかけは誰に届いていないのか?(室橋祐貴)

前回の衆院選で若者の投票率が上がったのも、コロナ禍の影響やSDGs教育・主権者教育の影響だと見るのが自然である。

関連記事:今後若者の投票率は右肩上がりになるのではないかという希望と懸念(室橋祐貴)

なぜ人は投票に参加するのか?

では、「声掛け」は無駄なのか、というと全くそんなことはない。

政治学では、有権者の投票参加行動を規定する要因として、大きく2つのアプローチから説明がなされる。

一つが、経済学的なアプローチである、ライカーとオードシュックによって定式化された投票参加の期待効用モデル「R=P×B-C+D」である。

筆者作成
筆者作成

これは、有権者が利益最大化行動を取る、という合理的選択理論に基づいた分析である。

もう一つのアプローチが、社会学的視点を用いた「市民の自発的参加モデル(civic voluntarism model)」である。

筆者作成
筆者作成

こちらは、有権者の属性や心理、ネットワークが投票行動に大きな影響を与える、という考え方である。

それぞれの要因を改善していくためには、情報を得やすい環境整備、当事者としての規範意識の醸成や社会参加の蓄積による効力感の向上、競争的な選挙制度の構築、投票コストの削減など、様々な角度から取り組みを進めていく必要がある。

まずはそうした観点から、一つ一つ検証しながら、PDCAを回していくのが重要である。

データに基づいた正確な実態把握を

このように足りない部分ばかりであるが、日本では選挙のたびに、毎回似たようなキャンペーンが行われ、PDCAが回っていない印象を受ける。

政治行政の中ではようやくEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング、 証拠に基づく政策立案)が叫ばれ始めているが、実は、メディアを中心に、日本社会全体の統計的リテラシーが低く、データに基づいた判断をできていない。

そのため、まずは冒頭に紹介したように、実態を正確に把握するのが第一歩である。

引用元:「投票に行こう!」という呼びかけは誰に届いていないのか?(室橋祐貴)

付加価値のある「声掛け」を

その上で、「声掛け」行動は、直接的には「動員」、候補者に関する情報も含めた上で「声掛け」すれば、「便益(Benefit)」・「主観的確率(Probability)」を加えることもできる。

しかし、メディアやSNS上で広く叫ばれる、「選挙に行こう!」では、新しい付加価値はほとんどない。

身近な人である、家族や友人・知人、学校・職場で誘われる、一緒に投票所まで行くのであれば別だが、知らない人の「選挙に行こう!」を聞いて、すぐに投票に行く人は、(言われなくても)自ら行っている可能性が高い。

最初から行く気がない人は、選挙日さえ知らない可能性はあるが、それは選挙自体の存在は認知していながらも(さすがに義務教育を修了して日本に選挙があることを知らない人はいないだろう)、自分には関係ない、行く意味がないと思われているからである。

関連記事:投票に行っていない若者が重視する選挙の争点はなにか?(目指せ!投票率75%プロジェクト)(室橋祐貴)

これまで行っていない人を投票に行かせるには、「なぜ行く必要があるのか?」の部分を補強する必要がある(政治家はそうした層に刺さる公約を掲げる必要がある)。

具体的には、候補者間の違いや、各候補者の実績、掲げている公約が与える影響(実現性)など、「便益(Benefit)」の部分だ(さすがに選挙割ほどの便益では小さすぎるし、テキトーに投票した投票率に意味があるのかは考える必要がある)。

自分で情報を収集し、分析することができる人は、すでに政治(選挙)への関心が高い人であるため、これまで投票に行っていない人には、より直接的に伝える必要がある。

○○党(候補者)が良い(メリットの大きい)政策を掲げているから、「○○党(候補者)に投票しよう」「○○党(候補者)に投票してほしい」という呼び掛けである(推しを他人に薦めるのをイメージするとわかりやすい)。

普段から政治活動をしている人たちからすれば、「当たり前だろ」という感じだろうが、現状は支援者や候補者の陣営に入ってる人など、より直接的に関わっている人ばかりで、多くの人はそこまで明確なメッセージを出していない。

しかし、だからこそ、刺さっていない。

確かに「選挙に行こう!」という呼びかけは、何かやった気がするし、誰にも批判されない無難な行為だが、大した意味はない。

そろそろ日本も、海外と同様に、「〇〇に投票しよう」という「声掛け」にシフトすべきである。

その上で、あなたはこの政党(政策)が良いと言うけど、自分はこう思うと、議論を繰り返す。

それが日本の民主主義の成熟度を上げるために欠かせない取り組みである。

マスコミは判断材料の提供を

もちろんマスコミが直接的に政党の支持を呼びかけるわけにはいかないが、「資源」・「便益」の追加、つまり主要政党の実績や掲げている公約の分析はできる。

公平に情報提供するには、立場の違う専門家を複数人呼ぶなど、バランスに気を配りながら分析する必要があるが、それが公共性の高いメディアとしての仕事である。

だが、現状は、選挙割や若者の投票率向上を目指した若者団体を取り上げる、という、大して役に立たない、無難な報道が増えている。

関連記事:減り続ける選挙報道、2022年の参院選ではどう変わるべきか?(室橋祐貴)

それらの報道は、「資源」・「便益」の追加にも繋がっていないし、投票先の判断材料にもなっていない。

いい加減、「投票に行こう」という、無難な呼び掛けから卒業する時だ。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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