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国民民主党の予算案賛成は、「日程闘争」から「政策本位」の国会運営への転換点になるか?

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:つのだよしお/アフロ)

政府が提出した2022年度予算案に、野党である国民民主党が賛成し「異例」だと注目を集めている。

通常、野党は、独自の予算案である組み替え動議を提出した上で(少数政党であるため与党によって否決される)、政府の予算案に反対するのが一般的だ。

今回、国民民主党は、組み替え動議を提出し、否決されたにもかかわらず、直後の採決で政府予算案に賛成した。

その意味で、「異例」であることには間違いない。

しかし、これを持って、「与党の一部」や、「与党の補完勢力」であると評価するのは、あまりにも表層的である。

立憲民主党・泉健太代表「予算の賛否というのは、総理の首班指名と同じくらい非常に重たい。本予算に賛成する野党というのは、ちょっと考え難い。大変残念な判断だと思う」

もしかしたら、国会運営における大きな転換点になるかもしれない、そう筆者は考えている。

なぜそう考えるのか、順に説明していこう。

法案修正より、「日程闘争」に注力してきた55年体制以降の国会

通常、野党は政府予算案に反対する。

しかし、もちろん、少数政党であるため、与党の賛成多数によって可決することは既定路線だ。

予算成立という意味では、野党が賛成しようが、反対しようが、大勢に影響はない。

その中で野党が採用する戦術は、大きく3つある。

一つ目が、政府予算案の問題点を指摘し、(野党の方が優れていると)国民にアピールすること、

二つ目が、政府答弁から失言などを引き出し、議会を紛糾させること(与党の信頼低下を狙う)、

そして三つ目が、答弁が不十分などを理由に、審議をなるべく長引かせる、審議を止めるなどによって、予算案成立をなるべく遅らせること(予算案が成立しないことはさすがにないが、法案の場合は時間切れによって法案成立を防ぐ)。

こうした、日程を軸にした国会運営は、「日程闘争」と呼ばれ、審議の中身以上に、いつ予算・法案を成立させるかが主な焦点となる。

日程闘争とは:国会の審議日程をめぐる与野党の駆け引きで、日本は会期中に議決に至らなかった案件は廃案となるため、可決を急ぐ与党は審議を早めて採決に持ち込もうとし、野党は引き延ばして廃案に追い込もうとする。

質疑の際、野党が狙っているのは、与党政府の問題点指摘や、議会の紛糾であるため、建設的に提案することは少なく、失言を引き出すためのやや意地悪な質問(例えばクイズ式の質問をする野党議員もいる)や、テレビ映えする糾弾調の質問であることは珍しくない。

こうした議会運営は、会期制(現状、日本以外の主要国は事実上の通年国会となっている)と「会期不継続の原則」が導入された明治時代からの名残りであるが、特に近代においては、与党(自民党)と野党が基本的に入れ替わらない「55年体制」以降、野党は一部テーマ(安全保障や憲法改正など)や「反権力」を重視するコア支持層向けにアピールしてきた。

会期不継続の原則とは:国会の会期が終わると採決の終わっていない法案は廃案となり、また一から審議となる。

55年体制以降の野党もしくはそのコア支持層の最大の関心事項は、予算案や法案の修正を狙って具体的な政策を提案し、社会的課題を解決するよりも、対決色を全面に押し出し、憲法改正や安全保障改革などを阻止すること、与党に問題があると溜飲を下げることにあった。

政策修正の実績を狙う新しい野党像

しかし、それでは、与党候補としての実績を積み重ねることが難しいため、政権担当能力を身に付けることも、発揮することも難しい。

何より、日本社会の課題解決よりも、党利党略的な国会運営に奔走されるため、政治の問題解決力は高まらない(その結果の「課題先進国」日本と言われる始末である)。

そうした戦略のもとでは、一部の特定の層の支持獲得≒憲法改正を阻止する議席数(3分の1以上)を獲得することはできても、国民の過半数まで支持獲得する=中庸を獲得することは難しい。

例外的に、淡い期待のもと、民主党政権が実現したが、一度「失敗事例」が生まれたため、これまで以上に、政権担当能力が重視されるようになってきているのが、2012年以降の日本政治だ。

それは2021年衆院選の結果を見ても明らかである。

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それに対し、今回の国民民主党の動きは、判断軸を「日程闘争(審議日程)」から「政策本位」へと移すものである。

これまで野党は、反対を前提に、いかに議会を紛糾させ、審議日程を遅らせるかに注力してきたが、審議の中身に注力する方向へと転換する。

今回であれば、国民民主党がずっと主張してきたトリガー条項の凍結解除に前向きな検討を示したことから、賛成に回っている。

もちろん、予算案の修正案が出された訳でも、トリガー条項の凍結解除に関する法案提出が決まった訳でもないが、法案修正を受け入れる(前向きに検討する)のであれば賛成に回るというのは新しい動きである(仮に実現しなくてもその理由を追及することができるため国民民主党的には今後攻めやすい)。

これによって、野党賛否の意味合いが増し、与野党間でも、これまで以上に、交渉の余地が生まれることになる。

そしてこれは、与野党双方にとって、Win-Winの関係である。

仮に法案修正が実現すれば、国民民主党(野党)にとっては実績につながり、それが積み重なっていけば、政権担当能力を示すことにもつながる。

一方、与党にとってもメリットはある。

岸田文雄首相がまさにキャッチコピーにしているが、野党からも「聞く力」を発揮し、柔軟な姿勢を国民に示すことができるからである。

そして何より、よりベターな政策が実現すれば、課題解決につながり、国民の利益へとつながる。

特にコロナ禍や現代日本のような、課題が山積した状態では、与野党が対決し政策がなかなか進まないよりも、与野党が協力して前進させることの方が良いのは、どう考えても明らかである。

ちなみに、今後さらに、法案修正を活発にしていくためには、内閣が議案を修正できるように国会法59条を改正する必要がある。

内閣修正に係る手続:議院の会議又は委員会の議題となった議案は、議院の承諾を要するため、本会議に諮る必要がある。また、一院で議決した後は内閣修正を行うことができない(国会法第59条)。

衆議院に提出された議案は、昭和40年頃まではほぼ毎年のように内閣修正が行われていたが、その後は大きく減少している。

これまで度々、筆者は「日程闘争」の問題点を指摘し、「国会改革」の必要性を訴えてきたが、今後は法案修正がより積極的に起こる、「政策本位」の国会運営へと変わるかもしれない。

そう期待させる、国民民主党の動きである。

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日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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