様々なキャンペーンが行われた今回の衆議院議員選挙。

筆者が実行委員として関わった「目指せ!投票率75%プロジェクト」のほか、SNSでの「#投票に行こう」というハッシュタグや、俳優らが投票を呼びかけた「VOICE PROJECT 投票はあなたの声 #わたしも投票します」など、インターネット上では、過去最高の盛り上がりとなったと言っても過言ではない。

しかし結果は、投票率が55.93%と、過去2番目の低投票率となった前回2017年の衆院選(53.68%)とほとんど変わらない結果となった。

毎回若者の投票率のみが指摘されるが、1990年代以降、全世代の投票率が低下しており、親世代とある程度連動していることを考えると、今後ますます下がっていく可能性が高い。

まだ年代別の投票率は出ていないが、若者の投票率だけ大きくアップしていることも考えにくい。

これだけ「投票に行こう!」と叫んでも、なぜ届かないのか。

その理由を考えるためにも、まずは誰が投票に行っていないのかを明らかにしたい。

社会階層で政治参加に大きな差

結論から言えば、現代日本人の政治的態度や政治意識については、男性のほうが女性より積極的で、年齢が高いほど積極的で、学歴が高いほど積極的であるという傾向がある。

出典:若者の投票参加小さすぎる存在感 大阪大学大学院人間科学研究科教授 吉川 徹
出典:若者の投票参加小さすぎる存在感 大阪大学大学院人間科学研究科教授 吉川 徹

これまでの投票結果を見ても、年齢を重ねれば重ねるほど投票に参加する人は多くなるが、上記のグラフによると、大卒の若年層(30歳代以下)の方が、非大卒の壮年層よりも、積極的に政治に関心を持ち参加している。

つまり、政治参加に消極的なのは、中高卒などの非大卒層である。

実際、明るい選挙推進協会が全国の有権者3,150人を対象に2017年の衆院選後の2018年1月に実施した郵送法による世論調査によると、18〜20歳代で大学・大学院卒で「投票に行った」割合は62.5%なのに対し、中学・高校卒は43.9%と、同じ年代で20ポイント近くも差がついている(選挙を棄権する有権者は本調査にも協力しない傾向があるため実際の投票率よりは高いポイントになっているが、傾向は把握できる)。

これは30〜40歳代になっても同じ傾向である(中学・高校卒と大学・大学院卒で約20ポイント差がついている)。

出典:第48回衆議院議員総選挙全国意識調査(明るい選挙推進協会)
出典:第48回衆議院議員総選挙全国意識調査(明るい選挙推進協会)

一般的に、非大卒層の方が、雇用が不安定で、所得が低い傾向にある。つまり、政治的な関与を必要としていると言える。

しかし実際は、政策的な支援のニーズが高い層ほど、政治に参加していない、十分に政治状況を理解できていない状況にある。

これは、筆者が実行委員として関わった「目指せ!投票率75%プロジェクト」の調査結果(若年層(30代以下)×非投票層(選挙権がありながらもこれまで投票に行ったことのない層)に絞った結果)とも整合的である。

投票に行っていない若者が重視する選挙の争点はなにか?(目指せ!投票率75%プロジェクト)(室橋祐貴)

この層ほど、そもそも選挙があることを知らず、労働環境など日々の生活に不満を抱えている。

まず、そもそも選挙が行われることを知っているのか。

全員を対象にした結果では、今年の秋に衆院選が行われることを「知らない」のはわずか21%で、ほとんどが「知っている」結果となった。

一方、若年層×非投票層に限定すると、半数以上(54%)が「知らない」結果となり、普段から政治ニュースにあまり関心がない、リーチできていないことが明らかになった。

(中略)

「今回、あなたが『最も重要』だと思う政策分野を一つ選んでください。」という質問に対しては、全体と同じ「現役世代の働く環境を整備」が一番関心の高い政策分野となった。

ただ、全体が18.3%という割合だったのに対し、若年層×非投票層では、27.4%と10ポイント近くも上がり、賃金や長時間労働などの労働環境に関して強い関心があることが浮き彫りになった

引用元:投票に行っていない若者が重視する選挙の争点はなにか?(目指せ!投票率75%プロジェクト)(室橋祐貴)

しかし、現状多くのメディアが、取材対象にしている「若者」の多くが、大学生であり、残りの約半分である非大卒層がメディアに登場することはほとんどない。

選挙期間中によくメディアに取り上げられていた、8割が「投票したい」と答えていた「Z世代の政治に関する意識調査」(株式会社SHIBUYA109エンタテイメント)という、東京都在住の大学生・短大・専門学校生を対象にした調査結果が、いかにピントのずれた調査かよくわかるだろう。

はっきり言えば、こうしたデータを見てもあまり参考にならない。

そして、「投票に行こう!」と呼びかけているのも、その大半が大学生や大卒の高学歴層であり、ツールも同じ属性が繋がりやすいSNSを活用しているため、その対象も大半は同じような属性である。

つまり、本来のターゲットが不在のまま、キャンペーンを行なっているのが結果が出ない理由である。

まずはこの実態を踏まえた上で、適切な相手に、適切なキャンペーンを仕掛ける必要があるだろう。

家庭環境も大きく影響

さらに、別の研究結果も参照すると、よりターゲットは明確になる。

学校教育、家庭教育の経験によって、中学生・高校生の政治関心と意見表明への意欲はどう変わるのか分析した、「中学生・高校生の政治関心と意見表明抑制の規定要因 -管理的な学校教育,家庭教育の経験による政治的社会化-」(太田 昌志,2021)によると、社会経済的に恵まれた家庭の子どもほど、政治関心を持ちやすい

性別,学校段階,成績,母親の学歴,母親の職業が,子どもの政治関心と関連がある。

男子であるほど,高校生であるほど,学校の成績が高いほど,母親の学歴が高いほど,母親が専業主婦であるほど政治関心を持つ関係にある。

このように,性別や学校段階のような属性に加えて,成績が高く,社会経済的に恵まれた環境にある(母親の学歴が高く,専業主婦である)子どもが政治関心を持ちやすい。

また、意見表明の意欲にも学校風土や家庭環境が大きく関係している。

学校の校則,母親のきびしさ,母親との会話,母親の学歴,父親の職業が,子

どもの意見表明と関連がある。

学校で校則が自由であるほど,母親がきびしくないほど,母親との会話が多いほど,母親が高専・短大卒であるほど,父親の職業が管理・専門(および農林漁業・自営・経営)であると,販売・サービス・事務・技術(および技能・作業)と比べて意見表明をしやすい関係にある。

父親の職業については,管理・専門や農林漁業・自営・経営のような仕事上の裁量が相対的に大きい職業であるか,販売・サービス・事務・技術や技能・作業のような仕事上の裁量が相対的に小さい職業であるかによって子どもの意見表明が異なっていると解釈できる。

義務教育の見直し

このように、育ってきた環境によって政治関心への差が大きく出ることを踏まえれば、いかに義務教育が重要かがわかるだろう。

しかし日本では、18歳選挙権の実現以降、高校では主権者教育が徐々に行われているが、中学校ではほとんど行われていない。

そのため、投票への意識が家庭環境に大きく依存しており、親が投票に行くなど、投票が「当たり前」な環境で育った子どもは、有権者になっても投票に行っている。

上記でも紹介した、明るい選挙推進協会の世論調査によると、18〜20歳代で投票を「国民の義務」とする有権者の81.1%が投票に行ったと答えているのに対して、「個人の自由」とする有権者は30.8%しか投票に行っていない

イギリスでは中等教育での「シティズンシップ」導入時期と若年世代の投票率アップの時期が合致

投票率向上のヒントとして、近年になって若者の投票率が大きく上がったイギリスの事例を見てみる。

イギリスでは、1992年までは18-24歳の投票率は60%台後半をずっとキープしていたが(日本もこの時期までは全体的に投票率が高く冷戦など世界的な影響が大きいと思われる)、その後、2001年40.4%、2005年38.2%と大きく低迷。

しかし、2002年に、「シティズンシップ」科目が中等教育(11歳〜16歳までの生徒が対象)の必修科目として採用され、その授業を受けた世代が増え始めた2010年から投票率が上がり始め、2017年の総選挙では、18-24歳の投票率は64.7%まで回復している。

政治報道の見直し

とはいえ、すでに卒業した層に対しては、義務教育の内容を変えても遅い(それでも今後のために一刻も早く改善すべきだが)。

では、他にどういうアプローチがあるか。

上述の「目指せ!投票率75%プロジェクト」の調査結果で、非常に印象が残ったのが、あまりにも一面的な「政治家像」だ。

自由記述の内容を見ると、政治家への強い不信感が滲み出ている。

・税金から給与をもらっているのだから真面目にしごとして。給与さげて。人員多すぎのため減らして。国会議員の主権制限をして欲しい。例えば、裁判中でも給与が支給されるなどの権利を失くす等。無駄な答弁が多い。

・各候補者把握してる時間がない為、選挙に参加していない。

一人一人の投票が未来を変えるとは言われるが、あまりにもイメージができなさすぎる。非現実的。

実際誰になっても変わらないし、未来への期待なんてしていない

ろくな政治家がいないのに選挙も何もあったもんじゃないじゃ?あと選挙カーは煩いので廃止して欲しい。

このような記述がひたすら並ぶ。

確かに一部不正を起こしたり、問題行動を起こしている政治家もいるが、それはごく一部で、多くの政治家は真面目に働いている。

しかしそうした普段の活動は、報道されることがほとんどなく、国民に知られる機会は少ない。

メディアで報道される内容は、その多くが減点につながるようなものばかりで、良い政策を作ってもプラスの評価を得ることはほとんどない。

新型コロナウイルスの感染者数が多い時ほど報道され、少なくなった時にはほとんど報道されないなどは、典型例である。

こうした減点主義に基づく報道によって、政治家の一面しか伝わらず、期待値はどんどん下がっている。

もちろん批判的な報道も重要であるが、現状は義務教育でも政治の実態について教えられず、メディアでもそうした情報を得ることができないため、実態とは乖離した政治家像ばかりが広がっている。

これでは参加意欲が湧かなくても不思議ではない。

今回テレビ局による「投票に行こう!」キャンペーンも目立ったが、そうした表層的な取り組みではなく、日頃からきちんと政治の実態を伝える、国民の理解を助けるような内容を伝えるのが、やはり重要である。

関連記事:10代の投票率は3分の1以下。主権者教育と政治報道を抜本的に見直さないと若者の投票率は上がらない(室橋祐貴)

街中での選挙運動をもっと自由に

そして最後に、同質性の高いSNS上でのキャンペーンがあまり有効でないことを考えると、もっと自然と目に触れる街中での取り組みが広がると良いだろう。

例えばヨーロッパでは選挙小屋と呼ばれる、各政党が設置する小屋が街中に置かれ、そこで飲食物も提供しながら、政策などについて対話する。

また学校内での政治活動も自由に行われている。

学校内で討論会が行われるだけではなく、政党の青年部に所属する学生が政党のパンフレットを配りながら宣伝する。

まるで文化祭かのように、校庭に選挙小屋が建てられ、無料でコンドームが配られたりもする。

このように至るところで政治に関する情報を得られ、コミュニケーションも活発に行われている。

しかし日本では選挙運動の規制が厳しく、上記のような取り組みはほとんど実施できない。

これでは「わざと」国民に政治的関心を持たせないようにしているかのようであり、規制も見直さなければならない。

データに基づいた正確な実態把握を

このように足りない部分ばかりであるが、日本では選挙のたびに、毎回似たようなキャンペーンが行われ、PDCAが回っていない印象を受ける。

政治行政の中ではようやくEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング、 証拠に基づく政策立案)が叫ばれ始めているが、実は、メディアを中心に、日本社会全体の統計的リテラシーが低く、データに基づいた判断をできていない。

そのため、まずは冒頭に紹介したように、実態を正確に把握するのが第一歩である。