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「校則の改定プロセス明文化」がなぜ重要なのか?岐阜県教育委員会が明文化を通知

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:アフロ)

5月21日、岐阜県教育委員会が県内すべての県立高校と特別支援学校あわせて83校に、校則改定プロセス明文化を通知したと報じられました。

県教育委員会によりますと、校則改定のプロセスが明文化されている県立高校はなく、来年から導入される新しい高校の学習指導要領に「主体的に社会に参画し自立して社会生活を営む力」の育成が盛り込まれることから、生徒たちに校則をきっかけにこうした力を養ってもらいたいと通知を決めたということです。

岐阜県教育委員会学校安全課は「明文化することで、生徒に『校則は変えられるものだ』という認識を持ってもらい、時代に合った教育環境を作っていってほしい」と話していました。

引用元:NHK「校則改定プロセス明文化を通知」

※太字は筆者

「学習性無力感」に陥っている現状

筆者が代表理事を務める日本若者協議会でも、2021年1月以降、文部科学省や教育委員会、政党などに対し「校則の改正プロセス明文化」など「学校内民主主義」の実現を求めてきたように、非常に重要かつ画期的な取り組みだと考えています。

なぜなら、現状、校則の改正プロセスが明文化されていないがために、児童生徒が学校内で声を上げても、受け流されるケースが多く、児童生徒の声が反映されるか否かは、校長や教員の意識に大きく依存しているからです。

実際、日本若者協議会が実施したアンケートにおいても、「児童生徒が声を上げて学校が変わると思いますか?」という問いに対し、約70%の児童生徒が「(どちらかというと)そう思わない」と回答し、「児童生徒が要望・提案を行った時、教職員はどのような対応をしますか︖」という問いに対しては、半数(50%)の児童生徒が「(どちらかというと)親身に対応してくれない」と回答しています。

その理由としては、「どうしても変えたいという要望を持ち、声をあげたとしても、『それはしょうがない。生徒なんだから』とまるで取り合ってもらえないから(千葉県・国公立中学校 生徒)」、「校則だから、と提案を聞き入れることを拒む(福島県・国公立中学校 生徒)」、「一切の無視、又は教師側の気に食わない要望であれば放課後の居残り反省文が待っている(兵庫県・国公高校 生徒)」、「無視。若しくは一度は聞くものの、後日何も無かったかのように振る舞う(埼玉県・私立高校 生徒)」といった声が上げられています。

出典:日本若者協議会「学校内民主主義」に関する生徒/教員向けアンケート結果まとめ
出典:日本若者協議会「学校内民主主義」に関する生徒/教員向けアンケート結果まとめ

こうした「無力感」を中学校や高校で経験した生徒は、「どうせ声を上げても無駄」と、その後は声を上げなくなり、後の社会参加、政治参加の低さにも繋がっていきます。

出典:日本財団「18歳意識調査」第20回 テーマ:「国や社会に対する意識」(9カ国調査)
出典:日本財団「18歳意識調査」第20回 テーマ:「国や社会に対する意識」(9カ国調査)

日本財団が2019年に日中韓米英など9カ国で実施した「18歳意識調査」では、「自分で国や社会を変えられると思う」人が2割にも満たず、日本はダントツで最下位となっています。

こうした事態を防ぎ、各ステークホルダーの意見を尊重する民主的な意思決定プロセスを構築するためには、どうしたら校則を変えられるのかのルールを定めることが極めて重要です。

そして、そのプロセスに沿って生徒側も意思決定に参画できるようにしていくべきです。

一般社団法人日本若者協議会

「学校内民主主義」に関する提言

1.校則の改正プロセス明文化を求める通知の発出

わが国は1994年に「子どもの権利条約」を批准し、「児童の権利に関する条約」に関する通知(初第149号 平成6年520)において、同条約に関する配慮を求める通知を発出している。

一方、日本若者協議会が行った実態調査によると、「児童生徒が要望・提案を行った時、教職員はどのような対応をしますか︖」という問いに対し半数(50%)の児童生徒が「(どちらかというと)親に対応してくれない」と回答し、「校則だから、と提案を聞き入れることを拒む(福島県・国公立中学校 生徒)」「一切の無視、又は教師側の気に食わない要望であれば放課後の居残り反省文が待っている(兵庫県・国公立高校生徒)」といった声も寄せられており、生徒側からの提案に対する教職員の対応は学校・個人に大きく左右されている。

そのため、「子どもには意見を聴かれる権利がある」と定めた第12条(意見表明権)を筆頭に、「子どもの権利」を十分に保障するよう全教職員に配慮を求めた上で、「生徒総会」「三者協議会・四者協議会」「学校協議会」「学校管理評議会」のような仕組みを導入し、校則の改正プロセスを明文化するよう、各教育委員会、各学校に通知を発出されたい。

学校の民主化へ

また冒頭の記事でも、岐阜県教育委員会学校安全課の方が言っているように、校則の改定プロセスを明文化することは、生徒に『校則は変えられるものだ』というメッセージを渡すことに繋がります。

これまで一方的に(独裁的に)「校則を守りなさい」と生徒側に要求してきた学校が、「校則は変えられるものだ」と意思決定を生徒側にも開いていくことを意味します。

つまり、学校の民主化です。

知識で「民主主義」を教わるだけでは、その重要性や意味を実感することは難しいですが、幼少期から民主主義に慣れる(市民性教育)ことで、主権者として自律した市民になることができます。

校則の改訂プロセス明文化は、学校の民主化に向けた大きな一歩であり、これを教育委員会が全校に求めたことはエポックメイキングな出来事です。

一方で、ここ最近、教育委員会が校則の見直しを求める通知を各学校に出したニュースがよく流れていますが、共同通信社が行ったアンケートによると、全国の都道府県と主要市区の計99教育委員会のうち、2017年度以降、各学校に校則見直しを求める通知を出したのは3割弱の28教委にとどまっています。(校則見直し通知発出、3割弱 教委、不合理規制に対応ばらつき

これだけ「ブラック校則」が大きな話題になっていても、過半数の教育委員会が動いていないことに驚きを隠せませんが、日本を成熟した市民社会へとしていく上で、学校の民主化は欠かせません。

今回の岐阜県教育委員会の決定に、ほかの自治体・教育委員会が続くことを期待しています。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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