政策提言・署名など主体的な取り組みが広がる一方、制度的な停滞が続く日本の若者の政治参加
オンライン署名、陳情、大臣との対話
「日本では、教育現場において『現実の政治』が避けられ続け、こうした感覚を育てる取り組みも乏しかったが、最近は若者が政策に関わる取り組みが徐々に広がりつつあり、『投票』以外の政治参加で社会を変える事例も少しずつ増えてきている。」
そのような記事を書いたのが2019年2月。(徐々に広がりつつある「投票」以外の若者の政治参加。政策提言で社会を変える方法)
それから2年が経過したが、今では紹介しきれないぐらいに、若者が「投票」以外の政治参加によって、現実社会を変えた事例が日本でも増えている。
たとえば、高校生らが声を上げた大学入試改革を筆頭に、コロナ禍においては、学生への支援についてさまざまな団体や個人がオンライン署名、SNS、行政・政治家への陳情を行い、「学生支援緊急給付金」が実現。
またこれまで経済的な支援が乏しかった博士課程の大学院生への支援も実施されるなど、以前に比べ、当事者(特に若者)の声が政策決定の場に入るケースが桁違いに増えている。
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筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、設立年の2015年からほとんど毎年主要政党と政策提言イベント、「日本版ユース・パーラメント」を開催しているが、今年も3月から各党に政策提言を行う予定となっている。
党内部会への参加
こうした取り組みは、「外」からの運動にとどまらない。
自民党の議員曰く、自民党内の部会(政策立案・決定のための会議体)に、高校生が出席したのは2015年の「成年年齢に関する特命委員会」(日本若者協議会から約30名の高校生・大学生が出席)が初めてだったそうだが、最近ではその機会も増え、自民党・教育再生実行調査会(恒久的な教育財源確保に関する調査チーム)や、公明党「第4回GIGAスクール構想推進委員会」に高校生や大学生が出席し、意見を伝えている。
有識者会議への出席
また党内だけではなく、省庁の有識者会議に参加するケースも増えている。
昨年には文科省として初めて?高校生が有識者会議(「大学入試のあり方に関する検討会議」)に出席し、当事者の立場から大学入試改革について意見を述べた。
特に若者への影響が大きい環境政策においては、つい先日開かれた環境省「中長期の気候変動対策検討小委員会」(産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会地球温暖化対策検討WG合同会合)(第3回)で高校生・大学生がプレゼンを行っている。
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大臣との対話
さらに、小泉進次郎環境大臣は積極的に若者と対話を行い、政策を推し進めようとしている。
また、「第5次男女共同参画基本計画」では、若い世代の提言を橋本聖子女性活躍・男女共同参画担当大臣が直接受け取り、その後対話イベントを実施するなど、意見を反映させている。
大臣との対話に関しては、比較的権限の弱いポストでしか実現していないのは気になるものの、こうした(単なる交流を超えて)政策的な議論が行われるようになったのは画期的と言える。
制度的な改善は進まず
このように、若者を中心に徐々に意識が変わり、「外」からも「内」からも若者の意見を取り入れようとする動きは確実に広がりつつある一方、制度的な改善はあまり進んでいない。
たとえば、初めての18歳選挙となった2016年参議院選挙で各党が公約に載せた「被選挙権年齢の引き下げ」は、野党は法案提出までしているものの、与党内ではあまり議論が進んでいない。
また欧州諸国を中心に、海外では政策立案過程において若者団体から意見を聴取することが法律で担保されていることも珍しくないが、日本ではそうした制度的な担保が存在しない。
小泉環境大臣のように、“たまたま”若者への関心も強く、オープンな姿勢を持っている大臣の時には意見が聞かれるが、他の大臣の時には意見が聞かれないという形では、一貫性のある政策実施が難しく、一時的な対応にとどまる可能性が高い。
また、上記に述べたような自主的な取り組みに期待するだけでは、一部の若者に限定される可能性が高く、投票率の向上に代表されるような、全国的な規模での変化には結びつきにくい。
そうした事態を避けるため、国連子どもの権利委員会では、各国に対し子ども・若者の意思決定への参画を「制度化」するよう勧告している。
たとえば教育・学校分野においては下記のように明記されている。
実際の例として、ドイツでは、社会法典第8編 子ども・若者支援法(Child and Youth Service Act:KJHG)によって、子ども・若者の参画の原則が下記のように定められている。
・親、子ども・若者、若年成人は市民であり、福祉サービスを受ける権利を有する。
・意思決定過程に参画する権利を有する。
・子ども・若者支援法に携わる育成担当者は、親、子ども・若者、若年成人を参画させる義務を負う。
そして、それを実施するために、十分な予算と人員が割かれ、「若者協議会」のようなアンブレラ組織(若者を束ねる組織)も公的に設置されている。
そうした各国の取り組みと比べると、日本の若者の政治参加における制度的な取り組みは弱いと言わざるを得ない。
5年前と変わらない「子供・若者育成支援推進大綱」
現在、日本の若者政策の方向性を定める「2021年 子供・若者育成支援推進大綱」が策定中(3月15日までパブリックコメント受付中)だが、その案を見ると、若者の政治参加に関わる「社会形成への参画支援」として、下記のように述べられている。
(4)社会形成への参画支援
(社会形成に参画する態度を育む教育の推進)
社会の一員として自立し、適切な権利の行使と義務の遂行により、社会に積極的に関わろうとする態度等を育む教育を推進する。
民主政治や政治参加、法律や経済の仕組み、社会保障、労働者の権利や義務、消費に関する問題など、政治的教養を育み、勤労観・職業観を形成する教育に取り組む。
(ボランティア活動等による社会参画の推進)
ボランティア活動等を通じて市民性・社会性を獲得し、地域社会へ参画するこ
とを支援する。
この内容自体も、なぜ「ボランティア活動」に限定しているのか、2003年大綱、2008年大綱に含まれていた「政策形成過程への参画促進」、2010年ビジョンの「子ども・若者の意見表明権の確保」を再度追加すべきではないか、若者当事者団体への支援などを含めるべきではないか、数字目標がない等、指摘すべき点は多くあるが、そもそもこの内容自体が5年前に作られた「2016年 子供・若者育成支援推進大綱」とほぼ一言一句変わらない。(3月16日追記:ボランティア活動など→ボランティア活動等、ボランティア活動→ボランティア活動等と変化)
つまり、この5年間で何ら変化もなく、現状維持を続けるということだ。
しかし、ここに書かれている、主権者教育などは十分に実施できておらず(参考記事:成果乏しい日本の主権者教育。抜本的拡充の転機になるか、文科省・主権者教育推進会議の最終報告案が提出)、ほとんどの児童・生徒が政治や労働者の権利などについて十分に理解できずに学校を卒業している(上述のような若者による自主的な取り組みは主に海外事例などを各自で見つけて実施している)。
このように、5年前に決まった「大綱」の内容がどこまで実現できているのか、見直しが十分にされていない時点で、この「子供・若者育成支援推進大綱」の実効性が大いに疑われるし、そもそもやる気が全く感じられない。
(他にも「妊娠・出産・育児に関する教育」など一切変わっていない箇所は多数存在する)
ただ繰り返しになるが、より多くの若者の主体性を育むためには、制度的な取り組みが必要であり、そのためにも、若者政策のPDCAが回るよう、「子供・若者育成支援推進大綱」の見直しが求められるだろう。