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なぜ「校則の改正プロセス明文化」が重要なのか?高校生らが提言書を文科省に提出

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
鰐淵洋子文部科学大臣政務官に提言手交する高校生ら日本若者協議会のメンバー

「ブラック校則」がここ数年大きな話題となっているが、現状校則見直しのプロセスが明文化されていないことから、2021年1月28日に、「校則の改正プロセス明文化」などを求める提言書を高校生らが文部科学省に提出した。

提言を作成した、筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、校則見直しや学校運営において生徒の声が反映されていない現状を変えるため、2020年8月に「学校内民主主義を考える検討会議」を設置。

現職の生徒会長をはじめとした全国の高校生5名・大学生5名の計10名が中心となり、学校運営への生徒参加を通じた校則見直しや、生徒会活動、主権者教育のあり方について議論を重ねてきた。

その間、有識者や教員、文科省官僚などに対するヒアリングや、児童生徒・教員を対象にした実態調査をインターネット上で行い、それらの結果を踏まえて提言を作成。

「校則の改正プロセス明文化」や、「学校運営への生徒参加」、「調停者制度(メディエーター)」の導入などを文科省に提言した。

提言本文(要約は本稿末尾)→ https://youthconference.jp/wp/wp-content/uploads/2021/01/b4814d556999c81f07c8e9d50f161247-1.pdf

「当事者意識」の欠如や「学習性無力感」に陥っている現状

なぜ「学校運営への生徒参加」が重要なのか。

その大きな理由の一つが、現状、初等中等教育課程の経験によって、主体性や批判的に物事を考える習慣が失われているからである。

その実態を示すデータとして、たとえば、日本財団が2019年に日中韓米英など9カ国で実施した「18歳意識調査」では、日本は「自分で国や社会を変えられると思う」人が約2割で最低となっている。

他にも、「自分は責任がある社会の一員だと思う」、「自分の国に解決したい社会議題がある」、「社会議題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している」といった、政治や社会への参加要因となっている「当事者意識」や社会問題について話す習慣など、どの項目を見ても、諸外国と比べて突出して低い結果となっている。

これでは健全な市民社会を作れないことは明らかである。

出典:日本財団「18歳意識調査」第20回 テーマ:「国や社会に対する意識」(9カ国調査)
出典:日本財団「18歳意識調査」第20回 テーマ:「国や社会に対する意識」(9カ国調査)

また、日本若者協議会が実施したアンケートにおいても、「児童生徒が声を上げて学校が変わると思いますか?」という問いに対し、約70%の児童生徒が「(どちらかというと)そう思わない」と回答している。

それも、「(生徒会の)候補者が何度も校則を変えると言ってきたけど変わったことはない(鳥取県・私立高校 生徒)」、「実際に学校に陳情したことがあり、受け入れる旨の回答をもらったが、後にほとんど対処してもらえていなかった事がわかった(奈良県・私立高校 生徒)」、「どうしても変えたいという要望を持ち、声をあげたとしても、『それはしょうがない。生徒なんだから』とまるで取り合ってもらえないから(千葉県・国公立中学校 生徒)」など、これまで学校の中で声を挙げてきた経験からこうした感覚に陥っており、社会に対する参加意欲が増すどころか、マイナスの影響を与えてしまっているのが現状となっている。

つまり、学習性無力感(=不快だとわかっている状況でも「自分は無力なんだ」と学習してしまい、抵抗や回避をしなくなってしまう)に陥ってしまっているのである。

これらを改善するためには、「話を聞いてもらえる」、「社会の一員として物事を変えられた」経験を積み重ねることが必須であり、学校運営への生徒参加、校則などルールメイキングへの生徒参加が重要な鍵となる。

もちろん、現状全く行われていないわけではないが、生徒の声に対する反応も学校や教員によって大きく異なり、より多くの児童生徒が民主主義の意思決定プロセスを経験するためにも、全国的に「制度化」していく必要がある。

出典:日本若者協議会「学校内民主主義」に関する生徒/教員向けアンケート結果まとめ
出典:日本若者協議会「学校内民主主義」に関する生徒/教員向けアンケート結果まとめ

「合意形成」のトレーニング

また、学校運営への生徒参加によって実現される教育効果は当事者意識の醸成にとどまらない。

OECD(経済協力開発機構)は2030年の教育のあり方を展望する「Education 2030」の中で、今後必要な3つの力の一つとして「対立やジレンマを克服する力」を示しているが、これは、多様な人が存在する民主主義国家において非常に重要な力である。

対立やジレンマを克服する力

格差によって特徴づけられる世界においては,多様な考え方や利害を調停していく緊急性があり,そのためには若い世代が,例えば公平と自由,自治と集団,イノベーションと継続,効率性と民主的プロセスといった対立軸のバランスをとるなど,対立やジレンマ,トレードオフの扱いに熟達することが求められる。対立する要求の間でバランスをとることが求められる場合,二者択一での選択や単一の解決策につながることは稀である。十分に練られていない結論を出すことを避ける,相互関係を認識するなど,一人一人がより総合的に考える必要がある。相互依存や紛争が生じている世界では,自分や家族,あるいはコミュニティのウェルビーイングを確実に確保していくためには,他者のニーズや欲望を理解する力をつけるほかないのである。

将来に備えていくためには,矛盾した考えや相容れない考えや論理,立場についても,それらの相互のつながりや関連性を考慮しながら,短期的な視点と長期的な視点の両方を踏まえて,より統合的な形で考え行動していくことを学習する必要がある。違う言い方をすれば,システム的な思考をするように学習しなければならないのである。

この「対立やジレンマを克服する力」は、実際に考えの異なる人や、立場が異なる人と「合意形成」をしていく経験を積み重ねることで身につけることができる能力である。

そして学校運営への生徒参加や校則見直しへの生徒参加は、まさに、意見や立場の異なる、生徒同士、教職員、学校長、保護者と合意形成していく体験であり、うってつけの学習機会となる。

実際、ドイツやオランダ等では、生徒が利害調整・合意形成・問題解決できるよう、生徒会や日々の学校生活の支援を行う専門職として「メディエーター(調停者制度)」を導入しており、日本でもこうしたファシリテーションを専門とした人材育成、学校への配置が求められる。

その意味では、「校則の改正プロセス明文化」は、ブラック校則の撤廃以上に大きな成果を生む可能性が高く、日本で一刻も早く実現することを期待したい。

令和3年1月吉日

一般社団法人日本若者協議会

「学校内民主主義」に関する提言

 日本若者協議会ではこれまで若者の政治参加を促進させるため「被選挙権年齢引き下げ」や「若者議会」等の政策を主要国政政党等に対して提言してきたが、選挙における若年層の低投票率に象徴される「若者の政治離れ」はいまだ解消されていない。その大きな要因の一つに、児童・生徒にとって身近なコミュニティである「学校」の場が自身(児童・生徒)の意見を尊重する民主主義の実践の場になっておらず、社会参画に対する有効性感覚を培えていないということが挙げられる。

 日本若者協議会が2020年11月に行ったアンケート調査(主にWebでの回収)によると、回答学生779名のうち、「児童生徒が声を上げて学校が変わると思いますか?」という問いに対し、約70%の児童生徒が「(どちらかというと)そう思わない」と回答している。

 「(生徒会の)候補者が何度も校則を変えると言ってきたけど変わったことはない(鳥取県・私立高校 生徒)」、「実際に学校に陳情したことがあり、受け入れる旨の回答をもらったが、後にほとんど対処してもらえていなかった事がわかった(奈良県・私立高校 生徒)」、「どうしても変えたいという要望を持ち、声をあげたとしても、『それはしょうがない。生徒なんだから』とまるで取り合ってもらえないから(千葉県・国公立中学校 生徒)」といった声が多数寄せられ、現状は初等中等教育課程において、社会参加意欲の減退、大人への信頼喪失など「マイナスの学習経験」をしていることが明らかになった。

これらを改善するためには、「子どもの意見表明権」や「参加権」を実態の伴った形で保障し、学校のあり方を変えていく必要がある。具体的には、新学習指導要領で示されている「主体的・対話的で深い学び」の考え方を学校運営の側面にも導入し、学校内のルール・メイキングへの児童生徒の参加を促進するなど、児童生徒、保護者、教職員が互いに信頼し尊重し合いながら学校運営に携わることのできる民主的な学校コミュニティを実現していかなければならない。

そこで、日本若者協議会では2020年8月に設置した「学校内民主主義を考える検討会議」での議論を踏まえ、以下の点を要望する。

なお、教職員が児童生徒と対等に向き合い、民主的な学校コミュニティ形成に尽力するためには、それだけの余裕のある環境が必要であり、教職員の働き方改革と、子どもの「管理」を学校に求めてきた地域社会の現状の見直しも進めていかなければならないことを併せて指摘しておきたい。

1.校則の改正プロセス明文化を求める通知の発出

2.主権者教育の手法に「学校運営への生徒参加」を含める

3.生徒会活動に関する副教材の開発・全校配布(グッドプラクティス集、ガイドブック)

4.「調停者制度(メディエーター)」の導入(地域ごとに専門人材の配置)

5.「子どもの権利条約」について教職課程に盛り込む

6.学校の第三者評価機関を設置

7.学校運営協議会制度(コミュニティスクール)において「生徒参加」を盛り込 む

8.生徒会活動・校則に関する全国的な実態調査の実施

9.教職員の働き方の改善

※冒頭写真は日本若者協議会撮影

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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