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文科省・博士課程進学者の半数を支援へ。博士学生の待遇改善に向けた大きな一歩

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
出所:文部科学省

博士課程在籍中の経済的負担と将来的なキャリアパスの不透明さ(アカデミックポスト不足や企業等での待遇の悪さ)によって、主要先進国が軒並み博士号取得者を増やす中、減少を続けている日本。

そうした中、2020年12月15日、萩生田光一文部科学大臣は「博士を目指す学生の皆さんへ」と題して、文科省HPにメッセージを掲載

博士を目指す学生の皆さんへ

(中略)

欧米では、博士課程学生の研究に支障の無いよう奨学金等が支援されています。我が国でも、世界レベルの研究基盤を構築する大学ファンドに先駆ける形で、博士を目指す皆さんへの経済的支援を拡大します。具体的には、自由で挑戦的・融合的な研究を推進する大学への支援等を通じて、より多くの博士課程学生の方々に、研究費や生活費相当額を支給することを予定しています。

これらの取組を通じて、「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」の目標値である約 15,000 人への支援の達成を目指します。また、高等教育、科学技術及び産業政策の全体を見渡して、RA(リサーチ・アシスタント)支援の促進など総合的な施策を講ずることにより、大学院生への一貫した切れ目のない支援をしっかりと行います。

ぜひともじっくりと腰を据えて、思う存分研究に打ち込んでください。

これから我が国を背負って立つ皆さんが、経済的な不安を抱えず安心して博士課程へ進学できるよう、これまで以上に強力に博士課程の学生の皆さんを支えてまいります。そして、イノベーションの創出に向けて、博士が大きく活躍できる社会の実現に向けて最大限取り組んでいきます。

令和2年12月15日 文部科学大臣 萩生田 光一

先日の『BSフジLIVE プライムニュース』で萩生田大臣が発言していた通り、修士課程から博士課程に進学する約3万人のうち、半数の1万5000人に生活費相当額の支援を目指すことを掲げた(博士課程に在籍している学生は7万5000人)。

関連記事:「欧米の大学院で給料をもらっていない理系の学生は一人もいない」。日本で博士学生が減るのが当然な理由(室橋祐貴)

実際、同じく12月15日に閣議決定された令和2年度第3次補正予算(案)では、若手研究者への支援として、312億円を計上。(単純に計算すると、312億円÷1.5万人=208万円/人)

◆我が国の研究力の抜本的強化に向けた取組の加速 312 億円

若手を中心とした研究者に対する創発的研究支援事業を拡充するとともに、博士課程学生に対する支援強化のため、自由で挑戦的・融合的な研究を行う博士課程学生を支援する事業の創設及びフェローシップ支援等を開始するために必要な体制の整備を行う。

もちろん最終的には、欧米諸国のように、修士課程も含めた全学生を対象に経済的支援を目指すべきだが、まずは大きな一歩と言えよう(全学生3万人を対象にしても312億円×2倍=624億円で、社会的な効果を考えれば決して大きな金額ではない)。

さらに欲を言えば、制度開始時の平成3年から変わっていない日本学術振興会による特別研究員の研究奨励金の額面増加(消費税や社会保険料、大学授業料などが増える中でずっと月額20万円のまま)も実現してもらいたいが、まずは幅広い対象に支援が行き渡ることを優先してもらいたい。

修了後のポストは引き続き大きな課題

他方、博士課程に進学する学生が増えても、かつての「ポスドク1万人計画」のように、修了後のポストを十分に用意できなければ、学歴に見合わない低待遇の研究者を生むだけになってしまう。

そのため、アカデミックポストの増設、民間企業での待遇改善にとどまらず、公的機関における博士課程修了者の採用を積極的に行ってもらいたい。

現在政府ではデジタル庁新設の議論が進められているが、日本のはるか先をいく韓国政府の国家CIO機関である「情報化振興院」では、職員500名のうち博士号取得者が約8割と専門性の高い人材を積極的に採用している。

また、教育大国フィンランドでは、初等教育段階、中等教育段階にも修士課程レベルの教員養成が法的に規定されており、博士号を持っている教員も珍しくない。

これらを日本で実現するためには、近年特に問題視されている国家公務員・教員の「働き方改革」を実現しなければならないが、社会に対するメッセージとしても、博士号取得者を高待遇で採用することは大きな意味を持つものと思われる。

この点に関しては、萩生田大臣も問題意識を持っており、今後の動きに期待したい。

萩生田大臣:霞が関にも、博士持っている人いっぱいいるんですが、博士だから何か特別な専門性高い部署に就けるかというと全然そんなことなくて、普通に並ぶ。いい勉強してきているのに、もったいないなと。だから文科省では人事で、専門性を発揮できる分野で、最初はしょうがないにしても、何年か後には配置をしようと、新しい仕組みを作っている。でも定年は一緒。そうすると、能力はあっても、ある程度のところまでしか行けない日本の仕組みになっている。こういうところをブレイクスルーしていかないと、博士や修士を終えた人が霞が関で頑張ろうというインセンティブがなくなるので、そういう改革をしていかないといけないと思っています。

引用元:2020年11月11日『BSフジLIVE プライムニュース』

関連記事:「大学院生にも給付型奨学金を」「国は科学を衰退させたいとしか思えない」、若手研究者の切実な声(室橋祐貴)

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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