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なぜ今「男性の育休義務化」が必要なのか?フランスでも「男性の産休」義務化の動き

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:アフロ)

7月17日に閣議決定された「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2020)」に「配偶者の出産直後の男性の休業を促進する枠組みの検討など、男性の育児休業取得を一層強力に促進する」という文言が入るなど、急速に注目が集まっている「男性の育児休業取得」。

今年には小泉進次郎環境大臣が大臣として初めて育休を取得し、世間的にも「取りやすい雰囲気」が徐々に醸成されつつある。

記者から「小泉進次郎環境相が“育休”を取得したことの効果もあるか?」という質問が出た。これに対して、積水ハウス・ダイバーシティ推進部の森本泰弘さんは次のように答えた。

「社会に影響力がある方のご発言や行動については、非常に社会も注目しているところであります。特に環境大臣があのような行動を取られたということで、我々もすごく追い風が吹いたなと感じています。我々としてもご支援ができることがあればさせて頂きますし、それを元に世の中にいろいろなデータや気づきを共有させていただくことで、日本全国のパパたちが当たり前のように育休を取れるような社会になるように頑張っていきたいです」

出典:小泉進次郎氏の取得が「すごく追い風」。男性育休の取得経験者が12.8%に増加(積水ハウスの調査結果)

関連記事:なぜ小泉進次郎環境大臣の「育休取得」が重要なのか?若者世代から集まる期待(室橋祐貴)

また、読売新聞の報道(7月26日)によると、政府は男性の育児参加を促すため、出産直後の父親を対象とした新たな休業制度(産休制度)を創設する方針であるという。これによって、現在、母親にしか取得が認められていない産休制度を父親も取得できるようになる。

9月17日には、男性の育休促進を政府に働きかけてきた小室淑恵・株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長と天野妙・みらい子育て全国ネットワーク代表が『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』 (PHP新書)を出版し、なぜ男性の育休が重要なのか、取得率は7%台と普及しない理由は何なのか、データや具体的事例を交えながら解説している。

企業側への「義務化」

本書では、男性の育休に関して7つの政策提言が書かれているが、中でも注目されるのが、男性の育休「義務化」である。

これまで政府が実施してきたのは「イクメンプロジェクト」などの男性に向けた啓発活動だったが、約10年間かけて男性の育休取得率は2%程度から約7%に変化しただけ。

本人への啓発も大事ではあるが、それ以上に男性の育休取得を阻止している企業に対して、抜本的な制度改定をするべきであるという議論が「イクメンプロジェクト」の委員の間でも年々高まっていったという。

(P141)

会議終了後、ついに「このイクメンプロジェクトの敗北宣言をしよう」というアイデアが浮上したのです。「10年間やりましたが、男性本人への周知事業だけでは、効果がありませんでした!」と委員メンバーが、「ちゃぶ台をひっくり返して」謝る記者会見を開くのです。そしてその場で、「本気で少子化を解決しようと思うならば、本人への周知事業ではなく、企業に対して男性育休義務化制度を作るべき」と発信しようという内容でした。

(中略)

(P156ー157)

義務化は、誰への義務なのか

「男性育休義務化」議論は、当初SNSで大炎上しました。「義務って、どういうこと?」「取りたくない男性も絶対に取得しないといけないの?」と。これは、多少狙った効果ではありましたが、誤解です。あくまでも「義務化」の対象は企業であり、「企業には、育休取得対象者に対して、取得する権利があることを必ず説明する義務がある」ということです。

出典:『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』 (PHP新書)

(太字は筆者)

フランスでは1週間の男性産休「義務化」

こうした男性の育休取得を促進しよう、という動きは日本だけではない。

「育児は母親が中心」とする保守的な価値観の根強いスイスでは、これまで父親に有給の産休・育休を認める法律がなかったが、父親に2週間有給の「出産休暇・育児休業」を法的に認めるかを判断する国民投票が9月27日に行われ、賛成多数で新制度が承認された。

またフランスでは、エマニュエル・マクロン大統領が9月23日、パートナーの出産直後の男性を対象とした「男の産休」のうち、少なくとも1週間の取得を義務とすると発表した。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、インスタグラムに投稿したビデオメッセージの中で、「『男の産休』を1か月に増加させる。このうち、7日間の取得を新しく父親となる全員に義務付ける」と発表した
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、インスタグラムに投稿したビデオメッセージの中で、「『男の産休』を1か月に増加させる。このうち、7日間の取得を新しく父親となる全員に義務付ける」と発表した

フランスでは2002年に2週間の「男の産休」を導入し、取得率は約7割になっているが、雇用形態(正社員or契約社員等)によって大きな差があることから、2週間を4週間に倍増させ、うち1週間は休暇を義務とする。来年7月1日に施行される予定だ。

企業側に男性育休制度の周知行動を義務化させる日本でのアイデアと、「産休」を義務化させるフランスとでは設計が異なるが(そもそも日本ではまだ男性の産休制度が存在しない)、男女平等のために男性の育休/産休取得を促すべきというのは世界的にも共通しており、これまた先進国共通の課題となっている少子化対策のためにも欠かせない取り組みである。

菅新内閣では、女性閣僚が少ない点が問題視されているが、安倍政権がやり残した大きな課題の一つが「男女平等」であり、女性に家事・育児の負担が偏っている現状を是正し、男性の家庭進出を促進することを期待したい。

関連記事:安倍政権の「若者政策」を振り返る(室橋祐貴)

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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