安倍政権の支持率がずっと下がらないのはなぜか?その理由を考えてみる

(写真:つのだよしお/アフロ)

憲政史上最長の在任期間となった安倍晋三総理大臣。

11月23日、東洋経済オンラインの『安倍内閣の支持率はなぜ下がらないのか 不祥事続発でも「支持率安定」の摩訶不思議』という記事が話題になっていた。

記事を簡単に要約すると、不祥事による大臣辞任や英語の民間試験導入の延期、「桜を見る会」などの問題が連発しているにもかかわらず、「なぜか」支持率は全く下がらず、その理由は硬派な伝統メディアの報道が国民に届いていないのではないか、という話だ。

この記事の筆者、薬師寺克行東洋大学教授は元朝日新聞社の政治部長であり、伝統メディアの関係者は特にそう感じているかもしれない。

なぜ国民は安倍政権の実態(ひどさ)を知ろうとしないのか?知りさえすれば、政権が変わるはずなのに、と。

となると、政治家の倫理観の欠如などの問題を、硬派メディアがいくら力を入れて説いたところで、多くの国民には届きようがない。そもそも基本的な事実関係さえ十分に伝わっていない可能性がある。その結果、多くの国民にとって、永田町や霞が関は、何も見えない別世界になっているのではないだろうか。

そういう人たちを対象に行うマスコミの世論調査の結果はいかなる意味を持つのだろうか。少なくとも内閣支持率に実態が伴っていないことは間違いないだろう。

出典:安倍内閣の支持率はなぜ下がらないのか(東洋経済オンライン)

11月19日にも、NHKオンラインで『安倍政権は、なぜ続くのか』という記事が出るなど、度々言及されているテーマであり、さまざまな意見があるだろうが、報道で出ているこの種の記事はどれも的を得ていないように思える。

というのも、その安倍政権の支持率が下がらない最大の理由は、報道の中身自体にあり、「伝統メディア」が自身を批判しなければならないからだ。

各社世論調査の「安倍内閣を支持する人の理由」をみると、「他の内閣より良さそうだから」という理由を挙げる人が多くを占め、NHKの調査結果だと、2017年3月以降、支持する人の40%~50%にまで増えている。

安倍内閣支持する理由(出典:NHK)
安倍内閣支持する理由(出典:NHK)

多くが「消極的支持者」であり、あくまで「他の政党(政権)」と比較して、ということである。

つまり、冒頭で紹介した記事では野党について全く触れられていないが、そもそもまず問うべきは、「なぜ野党の支持率が上がらないのか?」である。

重要なのはスキャンダルより生活

ではどうすれば、野党の支持率が上がり、現政権の支持率は下がるのだろうか?

まず、スキャンダル追及で野党の支持率が上がることはない。

当然ながら、一般の有権者が重視しているのは日々の生活であり、政権運営能力だからだ。

冒頭で紹介した記事中で、鳩山由紀夫内閣の急激な支持率低下について触れているが、失策の内容が外交・安保(普天間基地移設問題)やマニフェストの未達成だったからであり、お金などのスキャンダルではない。

そもそも、2009年に政権交代したのはマニフェストへの期待の高さであった。

当時、民主党は「子ども手当1人月額2万6000円」「農家の戸別所得補償の導入」「高校教育の実質無償化」など生活を大きく変えるマニフェストを打ち出し、民主党支持者の89%がマニフェストを「評価」した。

この頃は、世論調査で「国民の支持が得られなければ、実現にこだわる必要はない」が74%となっており、比較的公約の達成、政権運営能力は軽視されていた。

それまで、抜本的には政権運営者が変わらない、「党内政権交代」が可能な中選挙区制だったことを考えると、当然の結果である。

しかし、自民党に戻った2012年の衆院選以降は、「政権運営能力」が重視され、公約の達成度を意識する有識者が増えている。

2度の政権交代をもたらした有権者の政治意識 2015(NHK)
2度の政権交代をもたらした有権者の政治意識 2015(NHK)

つまり、民主党政権の「失敗」を経て、有権者はますます現実的な公約と政権運営能力を重視するようになってきているが、スキャンダル追及ではこれらが見えてこない。

55年体制と変わらないマスコミ報道

ではなぜ、マスコミはいまだにスキャンダル追及を大きく取り上げるのか?

結論から言えば、政治改革によって小選挙区制に移行したにもかかわらず、その変化に対応できていないからだ。

周知の通り、中選挙区制から小選挙区制に移行したのは、政治腐敗を防ぐためである。

同じ党から複数候補者が並ぶ中選挙区制の場合、政党中心よりも、候補者中心の選挙戦となるため、政党以外に支援を求め、それが政治腐敗を招きやすいという批判であった。

そのため、中選挙区制下では、報道も、政策よりも、「政治と金」が中心となり、実際それで何度も政権交代が起きている。

一方、政党本位の小選挙区制に移行してから重要になったのは、政策と政権運営能力である。

「期間限定」で権力を集中させるからこそ、政策の効果や実現性を問う「検証」が重要であり、「実績」を求めなければならない。

選挙時に、「わかりやすい」公約の違いがあれば、もっと投票先が変わるかもしれないが、小選挙区制では、特定の組織・団体の支持だけでなく、無党派層からも支持を得ようと互いの政策が似通う傾向があるため、表面的に大きな違いを見出すことは難しい(米国のように人種・経済状況的にわかりやすい違いがあれば明確にターゲットを分けられるが、日本国民は比較的近似している)。

そのため、各党の違いを見つけるためには、政策の裏付けや政治家本人の能力を日頃から見る目を国民が養わなければならない。

その時に重要になるのは、もちろんマスコミであり、各党の政策や議員にどのような違いがあるのか、生活に直結するテーマでの政治家・専門家同士の論争を見る機会が増えなければならない。

しかし、現状の民放テレビでそうした番組を見る機会はほとんどない。

今国会で重要法案となった日米FTAや与野党で協議して修正が決まった会社法、消費増税時の軽減税率の導入是非、それらを与野党の議員や専門家を交えながら、政策論争の機会を作った民放テレビはどのくらいあるだろうか?

選挙期間にはある程度その種の報道もされているが、日本の選挙期間は短く、「公平性」重視の観点から深掘りもされないため、普段のイメージを覆すほど、十分な量・質ではない。

関連記事:10代の投票率は3分の1以下。主権者教育と政治報道を抜本的に見直さないと若者の投票率は上がらない(室橋祐貴)

政治家を育てる視点を

上述したように、中選挙区制から小選挙区制へと移行していく中で、求められる報道も、「政治と金」中心の報道から、「政策本位」の報道に変わった。

にもかかわらず、その変化に追いついていないのは「伝統メディア」である。

そして、SNSが発展した現代では、ファクトチェックが疎かになりがちであり、信頼性の高い情報を流すマスコミの重要性は増すばかりである(その意味で、政治的素人である芸能人が政治トピックに感想を述べる番組では、事実誤認のコメントも多く、何の価値があるのかわからない)。

他方、「権力監視」ももちろん重要な役割であるが、政治家を育てることもマスコミの重要な役割である。

11月20日に日本若者協議会が主催した、「国会改革・官僚の働き方を考える」国民民主党との意見交換会にて、国民民主党の古川元久衆議院議員が「イギリスでは、逐条審査における自由討議が政治家の登竜門になっており、そこで実力が足りない議員は副大臣、大臣に上がれない評価の仕組みになっている」と紹介していたが、国会だけではなく、政治報道に関わる報道関係者が、政治家を競わせる、本当に実力のある政治家を評価する、そうした観点が決定的に欠けているのではないだろうか?

そうして、互いに切磋琢磨をさせなければ、野党の支持率も上がらないし(≒政権の支持率も下がらない)、「不祥事」ばかりで政権交代が起きても、一向に生活が改善せず、国民にとっても不幸である。

日本は至るところで減点方式が採られているが、政治報道も、「減点方式」から「加点方式」へと、転換すべきである。

そこで仮に、野党が評価を高めれば、結果的に政権の支持率は下がり、政権交代は実現するだろう。