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台風なのに帰宅できない国家公務員の悲惨な現状

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
過度な長時間労働により官僚は疲弊している(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

官僚の長時間労働はいつになったら改善されるのか?

政府が「働き方改革」を国民に求める一方、その舞台裏では、与野党の攻防のために官僚が長時間労働を強いられ、「過労自殺」にまで追い込まれている。

10月9日、総務省のキャリア官僚だった男性(当時31歳)が2014年3月に自殺したのは、長時間労働が原因だとして、男性の両親が同省に公務災害の認定を求める申請をした。

東京都内で記者会見した川人博弁護士によると、男性は2014年に行われた消費税増税の対応などに忙殺され、2013年11月の残業時間は135時間に上り、うつ病を発症したという。

こうした現状から、報道でも度々「官僚の長時間労働」が取り上げられ、筆者も何度も取材を行い、記事にしてきた。

「霞が関で働きたい人はいなくなる」官僚の長時間労働は“機能不全”な国会のせい(Business Insider Japan)

さらに、小泉進次郎衆議院議員ら自民党若手議員が、2018年6月に国会改革案をまとめ、その後超党派の「『平成のうちに』衆議院改革実現会議」でも提言がまとめられたが、大きな進展はない。

現在の国会は、審議日程が事前に明確化されておらず、翌日に本会議・委員会を開くかどうかも含め、与野党の調整に委ねられている。その結果、自民党の野党時代もそうだったように、野党は、審議拒否を武器に、与党から譲歩を引き出すことを目指すため、国会審議は日程闘争が中心になる

「充実した政策本位の国会審議に転換するためには、質疑前に十分な準備期間を確保し、計画的に政策討議を進めることが必要である。このため、議長・委員長は、2週間先まで審議日程を決める。与野党の合意が得られない場合、議長・委員長が職権で審議日程を決定する。また、内閣が要請した時は、委員長は委員会を開会すべきである」

出典:機能不全国会は誰のためか。理想の国会目指し小泉進次郎ら自民党若手議員が独自改革案

台風でも帰宅できない

そして、超大型台風19号の接近に伴い、スーパーやコンビニに客が殺到し、航空各社や鉄道各社も12日の運転見合わせを発表する中、週明けの予算委員会での質問が出そろわないとして、待機させられていた官僚からは悲鳴の声が上がっている。

担当の官僚は質問が通告されてから、議員に質問の趣旨を確認し、答弁準備をしなければならないが、質問通告が出そろうまで、どの省庁、課が担当することになるかわからないため、基本的には全員待機せざるを得ない。

国会対応業務の流れ(出典:内閣人事局)
国会対応業務の流れ(出典:内閣人事局)

根本的には「日程闘争」を変えないと解決しない

そして、今回指摘されている国民民主党の森ゆうこ参議院議員は、質問通告期限の11日17時より前の、16時30分に通告済みだと言っているが、そもそも、前日の17時から、答弁担当の課を決め、趣旨確認、答弁作成をしていたら夜遅くになるのは確実だ。

(台風が来るのは10日時点でわかっていたのだから、もっと早く質問通告できたのでは、とは思うが)

内閣人事局が2016年12月に発表した調査結果によると、全ての議員からの質問通告が出そろうのは全省平均で前日の20時56分。通告を受けた質問について、担当課・局の割り振りが確定するのが平均22時36分。その後、答弁を作成する。当然ながら、退庁する頃に日付が変わっていることも珍しくない。

こうした現状を変えるためには、本来与野党間で取り決めされている「2日前ルール」を守れるように、国会の日程を前もって決める、「通年国会」の導入などを検討しなければならない。

度々改善策が提案されているものの、いつまでも変わらない国会の「日程闘争」。

そして官僚は疲弊し続け、8月には厚労省の若手チームが緊急提言を発表。

そこには現場の悲鳴の声が集まっている。

・ 「厚生労働省に入省して、生きながら人生の墓場に入ったとずっと思っている」(大臣官房、係長級)

・ 「毎日いつ辞めようかと考えている。毎日終電を超えていた日は、毎日死にたいと思った。」(保険局、係長級)

・ 「家族を犠牲にすれば、仕事はできる」(社会・援護局、課長補佐級)

・ 「今後、家族の中での役割や責任が増えていく中で、帰宅時間が予測できない、そもそも毎日の帰宅時間が遅い、業務量をコントロールできない、将来の多忙度が予測できないという働き方は、体力や精神的にも継続することはできないと判断した」(退職者)

出典:厚生労働省の 業務・組織改革のための 緊急提言

こうした結果、国家公務員の志望者は激減している。

2018年度国家公務員総合職試験の申込者数は、国家公務員I種試験から移行した12年度以来初めて2万人を割り込み1万9609人、17年度に比べ4.8%の減少となった。国家公務員の倍率も下がり続けている。

与野党の非合理な対立が、はたして国民のためになっているのか。

国会議員一人一人は、これを機に本気で考えて欲しい。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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