朗報続く日本ラグビー

きつい、汚い、危険の3Kスポーツとも言われてきたが、ラグビーを愛する人はそんなことは思っていない。愛好家が作った「ラグビー」の当て字には、いくつかある。楽しさと苦しさを備えるスポーツだから、「楽苦備」。楽しくて、苦しくて、でも美しいスポーツだから、「楽苦美」。苦しいのは当たり前、楽しくて、美しいから、「楽美」。本コラムでは、筆者の好みによって「楽苦美」を採用。さまざまな角度で語っていきたい。

さて、毎年6月と11月、世界のラグビー界は国代表の交流月間である。日本代表は欧州遠征で、ルーマニア、グルジアに勝利した。1973年に始まった日本代表の欧州遠征で、欧州の国代表の勝利するのは初めてのこと。もっとも、フランス、ウエールズなど強豪国と主に戦ってきたので当然の結果ではある。

今遠征はターゲットが明確だった。欧州の大型選手のパワフルなプレーに慣れ、その圧力のなかで正確な攻撃を磨き、日本の弱点とされるスクラムを強化する。過去によくあった「若手を試す」という冒険的な遠征とは一線を画していた。遠征前、世界ランキングは16位だったが、18位のルーマニア、15位のグルジアを破ったことで15位に上がった。試合内容も良かった。強力FWの圧力に耐えながら、前半最後、試合終了間際の疲れが出てくるところで、ミスのない連続攻撃を仕掛けた。地に足着いた強化がようやく動き出したという気がする。

ここ数年の日本代表強化はマッチメークに苦しんできた。1987年から始まったラグビーワールドカップ(RWC)で過去1勝しかしていない日本代表は、強豪国との対戦がなかなか実現できなかった。しかし、2019年RWCが日本で開催されることが決まり、世界のラグビーを統括するIRB(国際ラグビーボード)も、日本代表強化、日本国内でのラグビーの盛り上げに積極的になっている。日本代表の岩渕健輔GMが世界を飛び回ってネットワークづくりに奔走していることも奏功。来年6月には世界ランキング8位(11月21日現在)のウエールズが来日する。

蒸し暑い時期に、世界一のフィットネスを目指して鍛える日本代表が走り勝つ。エディー・ジョーンズヘッドコーチの筋書き通りに事が運べば、日本ラグビーにはさらなる追い風が吹く。日本ラグビーを盛り上げるには、一つずつ進歩が確認できるチーム作りと、ファンを惹きつけるマッチメークが必要だ。いい流れができつつある。

日本代表SH田中史朗(京産大→パナソニック)のスーパーラグビー入りも日本人初の快挙だ。スーパーラグビーは、現在の世界3強国「ニュージーランド(NZ)、オーストラリア、南アフリカ」から5チームずつが参加して開催されているプロリーグである。田中が契約することになったのは、NZ南島のダニーデンを本拠地とするハイランダーズ。同じくダニーデンを本拠地とするオタゴ州代表での活躍が認められての契約となった。同国代表オールブラックスは、原則としてこの5チームから選出されるため、日本人が入っていくのは至難の業。田中の奮闘は大いに評価されるべきだ。そして、「僕が開けた扉に続いてほしい。そして、みんなで2019年ワールドカップを盛り上げたい」と言う通り、少なくとも日本代表の半分は、スーパーラグビーや海外のプロクラブでプレーしている選手で構成されてほしい。そうなることが日本代表の強化につながり、2019年大会の成功につながるからだ。※こう書いた直後、パナソニック ワイルドナイツに所属する、堀江翔太選手が、スーパーラグビーのメルボルン・レベルズ入りする発表があった。

どんどん行ってほしいと言いたいところだが、そう簡単な話ではない。日本代表クラスの選手であれば、NZやオーストラリアのトップクラブでプレーできる能力は十分にある。それなのに、ほとんどの選手が日本でプレーしているのはなぜか。日本にいたほうが報酬も環境もいいからである。特に報酬は大きな問題だろう。野球やサッカーと違って、ラグビーの場合は世界の一流プロでも報酬は低い。プレーに対する報酬だけで年間1億円を超えるのは、ほんの一握りだ。ほとんどの選手は、日本の平均的なサラリーマンと大差ない報酬でプレーしている。

日本のチームを退団し、裸一貫で海外挑戦するのは選手にとって負担が大きすぎる。田中、堀江もパナソニック所属のままオタゴ州代表でプレーした。ラグビー部を持つ企業と日本ラグビー協会が協力し、報酬面でのバックアップをしながら海外挑戦の道筋を作らなければ、今後、田中、堀江に続く選手は出てこない。2019年大会の決勝トーナメント進出を本気で狙うなら、システム作りを急ぐべきである。