DAZN炎上から学ぶプロジェクトマネジメントの重要性
J1リーグが2月25日、J2リーグが2月26日に開幕した先週末、今季からJリーグの放映権を獲得したDAZN(ダ・ゾーン)の配信トラブルが相次ぎ、土日ともに一部の試合において視聴者がライブ配信を見ることができない状態となった。
視聴できない顧客から批判が相次いで、DAZNのヘルプツイッターアカウントのリプライ欄は大炎上した。
筆者は17年間、本業でシステム導入のコンサルティング業務に従事しており、その知見に基づいて、今回のシステム不具合について解説する。
最たる問題は品質管理
まず、こういった新サービスを提供する事業を展開する場合、品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)の三要素(QCD)を正しく担保するために、普遍的なプロジェクト管理手法を用いるのが常識だ。
PMBOK(ピンボック)と呼ばれるプロジェクトマネジメント体系が世界的には有名である。
この10個の管理体系の中で、今回のDAZN障害において、どこが問題だったかを簡単に解説していきたい。
端から見て一目瞭然なのは、「品質管理」の不徹底だ。
ライブ配信をメインコンテンツとするサービスが、Jリーグ開幕節からライブ配信ができなくなる障害が起きるのは、プロジェクト管理の視点から見ても言語道断だ。通常のシステム導入プロジェクトであれば、品質管理責任者のクビが飛んでもおかしくない。
DAZN公式が発表した障害の原因は「配信映像へ方式変換するプラットフォームにあるスケジューリングシステムの構築誤差」とのこと。
何とも分かりづらい説明なので解釈が難しいが、土日とも同時間帯で並行して行われる試合数が減ったタイミングでトラブルが発生しているため、視聴ユーザ数が桁違いに増える開幕節を想定したパフォーマンステストが不十分だったのではないかと推測される。
本来であれば、昨年の1試合平均視聴者数のデータをJリーグ経由でもらって、それに準じる負荷テストを行うべきだが、必要なテストコンディションを全て開幕前に漏れなく終えていたのか疑問が残る。
コンティンジェンシープランは入念に準備されていたのか?
「リスク管理」についても本来、サービスリリースの何カ月も前から、コンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)が網羅的に検討され、何かしらの障害が起きてサービス提供が継続できない場合の代替案を事前に準備しておくのが、プロジェクト管理においては鉄則だ。
ただし、現実には2月26日のG大阪対甲府の試合が試合開始からずっと視聴できない状態が続いた際、YoutubeのGoal.com公式チャンネルでの代替配信に切り替えたのがもうじき試合が終わる頃だった。複数のコンティンジェンシープランを入念に用意しておけば、障害発生直後に即代替手段への切り替えが行えたはずだ。
「コミュニケーション管理」については、不具合に関するプレスリリースにて、DAZN CEOが「私にとっても受け入れがたいことであります」と若干火に油を注ぐようなコメントをするなど、炎上後の火消し方法に一抹の不安が残る。原稿の校閲も含め、プレスリリースを出す前段階で何重ものレビューを慎重に行う体制が必要ではないだろうか。
ちなみにツイッターのヘルプアカウントの運用に限っては、顧客ひとりひとりに個別でリプライを返すなど懇切丁寧に対応しており、好印象を受ける。実際私は開幕2週間前にDAZN東京オフィスに出向き、カスタマーサービス部の担当を取材したが(記事はこちら)、非常に丁寧に顧客と向き合っている印象を受けた。
あたたかく見守っていく姿勢も必要
「人的リソース管理」については、炎上後のこれからが不安だ。経験者として語るならば、プロジェクトが炎上すると精神的に、もしくは肉体的に追い詰められた社員が会社に出社しなくなるケースが頻発する。特に顧客の批判の矢面に立つ前述のカスタマーサービス部の面々が心配だ。
このコラムを読む読者には、DAZN利用者も多いことだろう。自分の愛するクラブの開幕戦をライブで見れなかった時の残念な気持ちは痛いほどわかる。ただ、辛辣な批判で担当者を追い込み過ぎると、安定的なサービス提供が更に遅れる可能性も出てくる。Jリーグをともに作り上げていくフットボールファミリーの一員として、あたたかく見守っていく姿勢も必要だとも思える。
本田圭佑はよく「準備が全て」とインタビューで答える。サッカーの試合に限らず、こういった事業展開においても、計画段階で8割方、事業の成否が決まってくると言っても過言ではない。DAZNから随時報告を受けるJリーグの担当者は、上記PMBOKのフレームワークで、各要素がしっかり管理されているかをフィードバックすると、DAZNを正しい方向に導くことができるだろう。
Jリーグ第2節のライブ配信までたった5日間の猶予しかないが、DAZNのスタッフには身体を壊さない程度に、全力でインフラ改善・強化に取り組んでほしい。