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なでしこ予選敗退 手のひら返しのマスコミにモノ申す その報道姿勢は経営理念に則っているのか?

村上アシシプロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント
試合後に握手をする佐々木則夫監督と宮間あや選手(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

なでしこジャパンのリオデジャネイロ五輪・アジア最終予選の敗退が決定したことを受けて、各マスコミが手のひら返しで酷評記事を書いている。

選手と監督の微妙な距離感は、大きな溝に変わった。互いに歩み寄ることができず、指揮官は選手と一線を引く。「冷たい」「もっと見てほしいのに」と選手が訴えても、指揮官は「おまえらは俺から何を言われても聞かないだろ」と吐き捨てたこともあった。11年W杯ドイツ大会では東日本大震災などの映像を見せるなど、女心の分かるモチベーターだった指揮官の求心力は急降下。かつて「ノリさん」と慕われた指揮官は「選手が“ノリオ”と呼ぶ。リスペクトがない」「俺をバカにしている」などと話し、冷戦状態に陥っていた。

出典:【スポニチ】なでしこ佐々木監督「俺をバカにしている」 ロンドン五輪後に求心力急降下

当然、敗因を検証する記事は必要だ。それはメディアのひとつの役割と言えるだろう。しかし、発言者を伏せたコメントを元に「大きな溝」「冷戦状態」と印象論で片付ける手口はまるでゴシップ紙のようで、真っ当な敗因分析記事とは呼べない。

このような記事の書き方に対し、僕はサポーターとして憤りを感じている。サッカー界を共に盛り上げていく役割を担うべきスポーツメディアとは到底思えない。記事の執筆担当を「特別取材班」と記して、実名を出さないところも卑怯だ。

世界大会で優勝1回、準優勝2回を誇るなでしこジャパンに対するリスペクトはないのか? 5年間続いた「なでしこブーム」に便乗するだけ便乗しておいて、落ち目が来たら使い捨てるその態度は、ジャーナリズム以前の問題として、人としてどうかと思う。

采配や戦術、強化方針などをテーマにした然るべき批判ならともかく、過激な釣りタイトルとソース不明の印象論で酷評するやり方は、ウェブ記事のページビューが稼げれば何でもいいのか? と勘ぐってしまう。

現場の記者に提言する その報道姿勢は経営理念に基づいているのか自問自答せよ

単にサポーターとしての愚痴を羅列するだけでは、ゴシップ記事を書く記者と同レベルなので、ここで僕はひとつ提言をしたい。

僕の本業は経営コンサルタントである。クライアント先では、判断に迷った時にはプロジェクトの目的、更に言えば企業の経営理念に立ち返れと常日頃説いている。

スポニチの企業理念の一部をここに引用する。

私たちは、スポーツ、芸能など文化の創造と発展に寄与し、楽しく元気な社会を築くことに貢献する。

出典:スポニチの企業理念

個人を攻撃するような記事を予選期間中に出すことは、果たして「スポーツなどの文化の創造と発展に寄与」しているのだろうか? 答えは自明だろう。

サッカーに関わるメディアには是非、「日本サッカーを強くする」理念を持って、報道に真摯に取り組んでほしいと思う。日本サッカーがより高みを目指すためには、選手、協会、サポーターのみならず、メディアも同じベクトルを向く必要がある。

今回はスポニチを例にしたが、その他のスポーツメディアにも是非、経営理念や社是に立ち返って、改めて何のための報道なのかを見つめ直してほしい。「売上至上主義」のデスクの指示に従うだけが仕事ではないはずだ。

現場の記者には、フットボールファミリーの一員として、日本サッカー界の発展に自ら寄与する覚悟を持って、取材に取り組んでほしいと願うばかりだ。

プロサポーター・著述家・ビジネスコンサルタント

1977年札幌生まれ。2000年アクセンチュア入社。2006年に退社し、ビジネスコンサルタントとして独立して以降、「半年仕事・半年旅人」という独自のライフスタイルを継続。2019年にパパデビューし、「半年仕事・半年育児」のライフスタイルにシフト。南アW杯では出場32カ国を歴訪する「世界一蹴の旅」を完遂し、同名の書籍を出版。2017年にはビジネス書「半年だけ働く。」を上梓。Jリーグでは北海道コンサドーレ札幌のサポーター兼個人スポンサー。2016年以降、サポーターに対するサポート活動で生計を立てているため、「プロサポーター」を自称。カタール現地観戦コミュニティ主宰(詳細は公式サイトURLで)。

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