コンサドーレ札幌を変革する野々村社長の徹底したメディア戦略とは?

札幌ドームで開門時から入口に立って、サポーターと握手を交わす野々村社長。

今季のコンサドーレ札幌は、シーズン終盤までJ1昇格プレーオフ進出を懸けて戦ったものの、最終節をギラヴァンツ北九州相手に0-0で引き分けて、惜しくもプレーオフ進出を逃し、J2で8位という結果に終わった。

昨季はJ1の舞台で史上最速でのJ2降格という屈辱を味わい、予算も大幅に削られて、クラブ史上最少の2億8千万円という人件費でJ2から再出発となった今季。最終節までJ1昇格を争う順位で戦ってきたのは、十分及第点に値するパフォーマンスだったように思う。

8位の戦績に対して、平均観客動員数の成績だと、今季の札幌はJ2の22クラブのうち、G大阪、神戸、松本に次いで4位(10,075人)だった。9季連続で1万人台の大台に乗せてきたのは上出来の数字と言える。その動員数を支えた要因として、特に今季のコンサドーレ札幌が素晴らしかったのは、メディアに向けたプロモーション活動だ。

シーズン前に札幌OBの野々村芳和氏の社長就任が発表された。慶應義塾大学卒の切れ者社長が今季、矢継ぎ早に繰り出してきたメディア戦略はとても興味深いものばかりだった。

ここで、それらの中で筆者が面白いと感じた施策をいくつか紹介していこう。

1. 開幕前の強化試合のスタメンをファン投票で決定

いわば、AKB48選抜総選挙と同様の原理を練習試合のスタメン選抜方法に導入した格好だ。特に応援するサポーターにとっては、自分の投じる1票がクラブの強化方針に関わるため、クラブ運営に自分も参加していると実感できるわけだ。サポーター参加型企画としては、非常に興味深い施策である。

2. 3月10日のホーム開幕戦、サトウさんは310円で入場可能

札幌ドームで行われたホーム開幕戦は、3月10日の日付にちなんで、北海道在住のサトウさんはみんな、310円で観戦できるキャンペーンを実施した。単なるおやじギャグと言われればそれまでだが、こういった語呂のよい企画は媒体でも取り上げやすいようで、地元メディアのニュースで数多く露出していた。

3. 野々村社長におねだりできる観戦チケットを販売

「ののさんおねだり回数券」と題して、野々村社長へおねだりできる応募券がついた3枚セットの観戦チケットを販売。抽選で選ばれた人には、例えば銀婚式を迎えたご夫妻の奥様の誕生日に、野々村社長が花束を持って現れるというサプライズ企画を実施。知名度の高い社長だからこそできる施策のように思う。

4. 超豪華なサービス付きVIP観戦チケットを販売

VIP待遇の観戦券「ハンマープライスチケット」をオークション形式で販売するサービスを実施した。特典の一部を紹介すると、

  • 高級車“アウディ”によるお出迎え
  • ピッチ練習をベンチにて見学
  • 吉原宏太氏の解説付き観戦
  • ヒーロー選手への花束贈呈及び記念写真撮影(札幌が勝利の場合)
  • 試合終了後、野々村芳和社長とディナー

などなど。これに類する企画は他クラブでも実施されているが、話題作りにはもってこいの施策と言えるだろう。

5. ベトナムの至宝レ・コン・ビン獲得

コンサドーレ札幌は年初に「北海道とともに、世界へ」というクラブスローガンを掲げた。J2に降格したばかりなのに、やけに大きく出たなと感じたサポーターも多かったことだろう。

がしかし、野々村社長は1年目からそのスローガンに則った施策を繰り出してきた。そう、ベトナムの英雄と呼ばれるレ・コン・ビン選手の期限付き移籍での獲得だ。当然この移籍はレ・コン・ビンの選手としてのポテンシャルを買ったものであるが、それに付随して、この「ベトナムの至宝」獲得は様々な恩恵をクラブにもたらした。

まずは新たな協賛企業の獲得だ。アジア市場開拓を進めている住友商事メディア事業本部と10月にスポンサー契約を結んだ。シーズン終盤にスポンサー契約を追加するのは異例のことだ。ベトナム国内での札幌の試合中継決定を受けて、ベトナム語での広告看板が札幌ドームに設置された。北海道とともに、世界へ――。有言実行とはまさにこのことである。

加えて、筆者が最も大きいと感じたのは、メディアへのプロモーション効果だ。J1J2の40クラブのうち、東南アジアの選手を初めて獲得したのはコンサドーレ札幌である。Jリーグの東南アジア市場のパイオニアとして、レ・コン・ビン獲得とその後の動きを、NHKや日本経済新聞などのマスメディアがこぞって全国版で報道している。地方のJ2クラブにとって、この効果は計り知れない。

各施策に共通する野々村社長の経営哲学

興味深いメディア戦略を5つ紹介したが、全てに共通して言えるのは「徹底した話題作り」である。大企業が親会社である強豪クラブと比べて、コンサドーレ札幌は非常に予算規模の小さい市民クラブだ。予算縮小となれば、真っ先に削られるのが広告費などの間接費であるのは自明である。

そんな逆境の中で、いかに効率よくクラブの宣伝活動を行っていくか。サッカー界に限らず、どんな企業も抱えるこの普遍的な経営課題において、野々村社長が出した答えは「マスメディアに乗っかること」だと推測される。それくらい、メディアの活用方法が秀逸に思える。

来季の札幌は強化費を4億円に上乗せして、J1再昇格を目指す。コンサドーレがどういう戦い方をしてくるかも当然楽しみだが、それ以上に野々村社長が今度はどんなメディア戦略を繰り出してくるか。そういう視点でも来季のJリーグは楽しめるのではないだろうか。41歳の若手社長が指揮するコンサドーレ札幌の2年目にも是非、注目してほしい。