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白キャンはここで終わるグループじゃないよ――真っ白なキャンバス5周年TDCライヴレポート

宗像明将音楽評論家
真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))

ワガママですけど、もっと大きいステージに立ちたい

真っ白なキャンバスの5周年ワンマンライヴの最後のMCで、ただひとり5年間ずっと活動してきた小野寺梓はこう挨拶をした。目からは涙がこぼれ落ち、言葉はとぎれとぎれだ。

「TOKYO DOME CITY HALLに立ててて、すごく大きいし、本当に幸せです、ありがとうございます。でも、ワガママですけど、もっと大きいステージに立ちたいです。だからこれからも頑張ります、応援よろしくお願いします」

小野寺梓(撮影:真島洸(M.u.D))
小野寺梓(撮影:真島洸(M.u.D))

この人はまだ夢を見るのだ。パンデミックと戦争と気候変動の時代に、若者が夢見ることを誰にも止められない。しかし、そこに私が夢を重ねることは、自分のエゴを重ねているかのようで、どこかグロテスクだと感じてしまう。しかし、エンターテインメントの本質とは他者に夢を見させることである。ならばせっかくなのだから、同じ夢を見てみたい。

2022年11月18日、TOKYO DOME CITY HALLで「真っ白なキャンバス 5周年ワンマンライブ 『希望、挫折、驚嘆、絶望、感謝 それが、私。』」が開催された。真っ白なキャンバス(通称、白キャン)は、5年間のうち、すでに半分はコロナ禍での活動を余儀なくされている。周囲のアイドルが次々と解散していくなか、それでも白キャンはTOKYO DOME CITY HALLで夢を語っていた。

ふだんは満面の笑みを見せることの多い3期生の西野千明は、しかし真剣な表情で力強く言い切った。

「白キャンはここで終わるグループじゃないよ、Zeppの壁を越えたからって、こんな大きなステージに立てたからって、ここで止まるグループじゃないので、もっともっと上に行きたいです、これからもついて来てください」

西野千明(撮影:真島洸(M.u.D))
西野千明(撮影:真島洸(M.u.D))

2期生の三浦菜々子の声は少し涙の気配をはらんでいたが、彼女の言葉は強い意志に貫かれていた。

「いつもステージに立たせてくれて、私に生きがいを与えてくれて、私に居場所を与えてくれて本当にありがとうございます。私の今日からの残りのアイドル人生、全部賭けてみなさんの居場所を守っていくので、私たちのことを信じて、これからもついて来てください」

三浦菜々子(撮影:真島洸(M.u.D))
三浦菜々子(撮影:真島洸(M.u.D))

2017年~2019年、コロナ禍前の白キャン現場の狂騒

白キャンは、2017年11月18日にデビューしたグループだ。私が彼女たちに初めて取材したのは、2018年6月のことだった。当時の鈴木えまと麦田ひかるは質問をしても極端に発言が少なく、小野寺梓はプログラミングを学びたいと脈絡なく言いだしていた。そんな1期生とは対照的に、2期生の三浦菜々子がまともな受け答えをしてくれたのには救われた。そして、当時20歳だったプロデューサーの青木勇斗の若さを目の当たりにして、どういう経緯でグループを作ったのか質問をせずにはいられなかったことも思いだす。これほど長い付き合いが待っているとは、まだ想像もしていなかった頃の話だ。

2018年の終盤には、当時のリーダーの1周年ライヴでの卒業と、3期生の西野千明と橋本美桜の加入が待っていた。そして、2019年1月に新体制の白キャンに取材すると、メンバーの6人中4人が泣きだすという予想外の展開になった。それまでの白キャンは、極めて順調なグループだと私の目には映っており、メンバーが激しい葛藤を抱えていることを私は理解できていなかったのだ。小野寺梓は、取材開始2分未満で泣きだしたのだから。冷静に周囲を俯瞰してケアすることの多い橋本美桜が、唯一取材の場で涙を見せた日でもあった。

橋本美桜(撮影:真島洸(M.u.D))
橋本美桜(撮影:真島洸(M.u.D))

それでも、2019年の白キャンの勢いは目覚ましいものがあった。特にMIXと呼ばれる掛け声やコールの激しさは、他に類する現場がないほどだった。2019年の夏を迎える頃、白キャン現場の狂騒は高鳴り続け、「TOKYO IDOL FESTIVAL」のメインステージを賭けた「TIF2019メインステージ争奪LIVE」で敗北しても、勢いが逆に増していたほどだった。2019年11月の2周年ライヴでは、メジャーデビューが発表された。何もかもが希望に満ちた状態で迎えた2020年だったが、予期せぬ未来が私たちを待っていた。コロナ禍だ。

2020年~2022年、激動の卒業と加入と再加入

白キャンはメンバーの心の動きが忙しいグループでもあった。そんななか、2020年3月には麦田ひかるが卒業を発表。そして、コロナ禍が深刻化し、麦田ひかるの卒業時期が延期されていくなか、さらに鈴木えまの卒業も決まった。2020年6月の卒業ライヴは無観客で配信のみ。同じ初期メンバーの仲間ふたりを一気に失った小野寺梓の苦しみようは、まるで自分の身体から肉を削がれたかのようだった。

麦田ひかる(撮影:真島洸(M.u.D))
麦田ひかる(撮影:真島洸(M.u.D))

鈴木えま(撮影:真島洸(M.u.D))
鈴木えま(撮影:真島洸(M.u.D))

それでも2020年7月には、白キャンは4期生となるふたりの新メンバーを迎える。ところが、ひとりがほどなく脱退し、浜辺ゆりなだけが残された。彼女は、2020年11月にZepp DiverCity(TOKYO)で開催された3周年ライヴまでに、白キャンの全曲を習得してファンに賞賛されることになる。その浜辺ゆりなも、全曲習得後にはどう成長したらいいか悩んでいたと、私は後に知ることになる。天真爛漫さの裏で、彼女は苦悩を募らせていた。

浜辺ゆりな(撮影:真島洸(M.u.D))
浜辺ゆりな(撮影:真島洸(M.u.D))

2021年3月から4月にかけては、コロナ禍でも白キャンは全国ツアーを開催。仙台では、ライヴ中の地震により公演中止となり、5月に振替公演が開催された。一方で、東京での追加公演が決まったものの、感染拡大で中止になるという辛酸も舐めている。

そして2021年7月、5日間連続ライヴ「Be the IDOL」が開催され、その最終日には新メンバーオーディションの発表が行われた。そして、新メンバーとしてステージに登場したのは、1年前に卒業した鈴木えまと麦田ひかる。その展開に、会場のファンは驚きの声をなかなか止められなかったほどだ。それは、一度は白キャンを去ったふたりを、青木勇斗とメンバーが受け入れた結果だった。かくして「真っ白なキャンバス」「白キャン」は、Twitterのトレンドに入ることになる。4周年ライヴは、こうして現在の7人体制で行われた。再加入後の鈴木えまと麦田ひかるには、白キャンこそが自分の居場所であるという覚悟が感じられる。かつては無口だった彼女たちが、明るく話すようになった。

2022年の白キャンにとって重要だったのは、7月に河口湖ステラシアターで開催されたフリーライヴだった。なぜなら、2020年3月24日から封印されていた声出しが復活したからだ。かくして、この日の白キャン現場はMIXとコールの嵐となった。どれほどかと言うと、開演前のBGMですでにファンがMIXを打っていたほどだった。

この河口湖の前、誰もが「白キャンの歌姫」と認める三浦菜々子の声が出なくなった時期があった。しかし、メンバーが支えるなかで、不意に彼女の声は戻ってきたのだ。その経緯に、メンバー同士で繊細な距離感を保ってきた白キャンが、少しだけ変わったのだろうかとも私は考えた。

ゲストダンサーを迎えた12人でのパフォーマンス

河口湖以降、会場によっては声出しライヴも行われるようになったが、過去最大規模のTOKYO DOME CITY HALLは声出し不可。逆境とはこういう状態を言うのだろう。そんな状況を前に、白キャンは最初期以来となるチケットの手売りを渋谷で行った。それは3日間の合宿の最中に行われ、そこではチケット手売りのほか、ダンスレッスンや、自分の内面と向き合うための作文、プロデューサーとの面談なども行われた。

そんな5周年ライヴ前の日々、私は不安を抱えていた。白キャンは朝から稼働して夜はライヴという日も多く、合宿終了当日も夜にはライヴがあったほどだ。白キャンの疲弊は誰の目にも明らかで、11月12日をもってライヴを一旦止めて、振付演出家のゲッツによるダンスレッスンに専念したことに安心したほどだ。しかし、5周年ライヴの当日まで、私の記憶の中には疲れた白キャンがいた。どうなるのだろうか。そんな不安を抱えながら会場に入った。

「真っ白なキャンバス 5周年ワンマンライブ 『希望、挫折、驚嘆、絶望、感謝 それが、私。』」は、1曲目の「アイデンティティ」のイントロで、紗幕にメンバー7人のシルエットが投影された。ところが、紗幕が落とされてみるとメンバーはそこにおらず、センターステージにいるというトリックで幕を開けた。メンバーが着ているのは新衣装である。

ライヴの2日前の生配信で公開された新曲「メンションガール」は、ブギーのテイストが入ったブラックミュージック色の濃いサウンドで、白キャンとしては新機軸。しかも、明るくポップだ。後述するもう1曲の新曲と強いコントラストを形成することになる。強い日差しが濃い影を生みだすかのように。

「ポイポイパッ」では、ステージの段差を活用し、3段にわかれてのパフォーマンスを展開。「共に描く」のアウトロでは、この日のライヴを楽しもうというメンバーからのメッセージが挿入された。小野寺梓のアカペラで幕を開けたのは「ルーザーガール」。「パーサヴィア」と「ダンスインザライン」はノンストップでつながっており、初の趣向だった。その「ダンスインザライン」では、ステージからスモークが噴きあがる。さらに「SHOUT」ではレーザーが会場を鮮やかに彩った。

真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))

麦田ひかると5人のゲストダンサーによるダンスパフォーマンスは、緊張感に満ちていて激しくも狂おしく、しかし可憐なものだった。一瞬だけ「レイ」の振り付けが挿入されており、他のメンバーも登場した後、その「レイ」へと12人で流れこんだ。メンバーは2着目の新衣装だ。その「レイ」のアウトロにはキックが加えられ、「Whatever happens, happens.」へとつながり、さらに「オーバーセンシティブ」へとノンストップで続いた。この日の「オーバーセンシティブ」での三浦菜々子のシャウトは、声が出なかった時期があったことが嘘のようであり、それは彼女が乗り越えてきた葛藤の軌跡のようにも感じられた。

真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))

世界はあんまりにも無慈悲だけどそんなのどうでもいい

そしてこの日、事前アナウンスなしで披露された新曲が「世界犯」だった。シリアスかつドラマティックな楽曲であり、小野寺梓が「だからさ 死にたくても 死ねないんだ」「世界は あんまりにも 無慈悲だけど / そんなの どうでもいい」(作詞 : mimimy/Hayato Aoki、作曲 : 古屋葵)と歌っているのが聴きとれた。まるでこの5周年ライヴのテーマソングのようだ。

「キャンディタフト」では、最後に小野寺梓が「君が好きだ」と叫ぶ箇所に、いつもより長いタメが用意されていた。「全身全霊」でスクリーンに投影されたのは、この5年間の「全身全霊」ライヴ映像たちだ。「HAPPY HAPPY TOMORROW」では、大量のシャボン玉がステージの両端から吹きあげられる。

本編ラストの「PART-TIME-DREAMER」では、カメラマンがステージ上でメンバーを撮影し、それがスクリーンに投影される演出があった。歌う小野寺梓のもとに集まったメンバー全員の表情が実に豊かで、この日のライヴの充実ぶりすら印象づけたほどだ。西野千明と浜辺ゆりなと鈴木えまが寄り添い、西野千明は大きく口を開けながらの笑顔で宙を仰いだ。三浦菜々子は小野寺梓とともに歌うかのような表情をして、三浦菜々子の頭に麦田ひかるを手が伸ばしていた。そんなメンバーたちを橋本美桜が笑顔で見守る。そして次の瞬間、銀テープが会場に噴射されたのだ。

真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))

真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))

「PART-TIME-DREAMER」には、「この世界で勝ちたい ひとりでは無理だな / 誰かと手を取り合う勇気があればな」という歌詞がある(作詞:シロトリリオン、作曲:ジジ)。消極性を乗り越えて未来を切り拓く「PART-TIME-DREAMER」は、白キャンの精神性そのものだと言っていいだろう。そして、そんな「PART-TIME-DREAMER」とともに、私たちはいくつもの夏を過ごしてきたのだ。「いつか同じ夢見よう 醒めなくてもいい夢を」という歌詞とともに。

アンコールは「いま踏み出せ夏」「桜色カメラロール」と季節にまつわる楽曲が歌われ、「桜色カメラロール」では桜を模した紙吹雪がフロアに舞い散った。そして、小野寺梓が締めの挨拶をしようとしたところで、三浦菜々子が止めに入り、会場が笑いに包まれる。冒頭で紹介した、メンバーそれぞれの挨拶を忘れていたからだ。無事に7人それぞれの想いが語られた後に「自由帳」が歌われ、5周年ライヴは幕を閉じた。

真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))

予測不能な要素を抱える白キャンという存在

最近の白キャンは、「清純派アイドル」「王道アイドル」と形容されることもある。しかし、私はそれに違和感を抱いてきた。ジャーナリズムの怠慢ではないか、と。そんな単純なグループではないのだ。

白キャンのメンバーは、ときに「自分がここにいていいのだろうか」「自分が必要なのだろうか」といった不安を誰もが口にする。病むメンバーもいれば、落ちつきのないメンバーもいる。彼女たちが「バッドが入る」という感覚を共有しているのも特徴的だ。そうした歪な面もありながらも、メンバー同士で支え合っているのも白キャンなのである。だからこそ私は感じてきたのだ。こんな面白いグループはないと。

アイドルシーンは厳しい時代が続いている。MIXやコールが生みだす一体感という武器を手放さざるをえなくなり、白キャンは新たな価値を身につけるべくパフォーマンスを磨いてきた。その成果と、ふとしたタイミングで垣間見られるメンバー同士の関係性、そして採算が心配になるほどの青木勇斗渾身の演出。それが結実したライヴだったからこそ、「5周年ライヴ後、自分はどうなるのだろうか」と内心で不安を抱いていた私も確信したのだ。5周年の先もまだ見ていたいと。

ただ――白キャンを見るとき、喜怒哀楽では分類できない「苦み」を感じることもある。私がどこまでついていけるのかは、自分自身にもわからない。そのくせ、良くも悪くも予測不能な要素を抱える白キャンという存在に、あなたを巻きこんでしまいたいと強く願う私がいる。ただそれだけのことなのだ。

真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))
真っ白なキャンバス(撮影:真島洸(M.u.D))

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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