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倖田來未とフルオーケストラの共演――Bunkamuraオーチャードホール公演ライヴレポート

宗像明将音楽評論家
撮影:釘野孝宏

2022年5月20日、倖田來未の初となるフルオーケストラ公演「billboard classics KODA KUMI Premium Symphonic Concert 2022」の2日目の公演が、渋谷・Bunkamuraオーチャードホールで開催された。

撮影:釘野孝宏
撮影:釘野孝宏

私は、2021年12月3日にZepp Tokyoで開催された倖田のワンマンライヴも見ている。かつて、自身初のツアーをZepp Tokyoからスタートさせた倖田が、Zepp Tokyoの閉鎖・解体前に開催したライヴだった。その日は、多数のダンサーを従えたステージで、ヒップホップのビートを主軸としていた。

ところが「billboard classics KODA KUMI Premium Symphonic Concert 2022」では雰囲気が一転。当然と言えば当然だが、会場に入ると、ステージ上に所狭しとオーケストラの楽器が並べられていたのだから。会場のファンも新鮮さを味わっているような空気のなかで開演を迎えた。

撮影:釘野孝宏
撮影:釘野孝宏

指揮は藤原いくろうが務め、東京公演の演奏はパシフィック フィルハーモニア東京が担当。登場した楽団員と指揮者をファンが拍手で迎えると、その時点ですでにステージ上には数十人がいた。ピアノに櫻井大介、コーラスにTIGER、ラテン・パーカッションに小野かほりも参加した編成だ。

そして、オーケストラの緊張感に満ちた演奏のなか、倖田がステージに現れた。艶やかな黒のワンピースを着た姿は、まさに歌姫。そして、オーケストラの演奏とともに、倖田は自身のルーツであるR&Bのフィーリングに溢れたヴォーカルを聴かせはじめた。倖田が歌ってきたR&Bにおいて、ストリングスの音色が響くことはごく一般的だが、今回はオーケストラしかいない。それでいて自然なのだ。

撮影:釘野孝宏
撮影:釘野孝宏

今回はフルオーケストラだけあって、その打楽器群がスパイスとなり、倖田のヴォーカルの妖艶さを引きだす場面も。録音されたトラックを流すライヴとも、バンド演奏によるライヴとも異なるがゆえに、倖田のヴォーカリストとしての魅力を多面的に引きだしていた。

撮影:釘野孝宏
撮影:釘野孝宏

MCで倖田は「緊張しすぎてカミカミなんだけど」と笑いながら語り、一気に茶目っ気に満ちたトークに戻っていた。

さらに、エレクトリック・ヴァイオリンやエレクトリック・チェロを投入し、その妖艶な響きのなか、倖田がこだわる「エロかっこいい」を追求しながら、ラップをする楽曲も。

撮影:釘野孝宏
撮影:釘野孝宏

また、倖田が敬愛するCHARAが歌った「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」(YEN TOWN BAND)のカヴァーは、まさにこの日の白眉だった。いつもと異なるステージで、倖田はあえて自身のルーツに回帰していた。

撮影:釘野孝宏
撮影:釘野孝宏

20分の休憩を挟んでの後半では、倖田は薄紫のドレスで再登場。MCでは、倖田がブレイクする前から応援してくれていた先輩であるTRFのDJ KOOが見に来ているということで紹介。すると、客席で立ち上がったDJ KOOは鮮やかなオレンジのシャツで、倖田は「地味にしてきてって言ったのに!(笑)」と突っ込み、ファンを笑わせた。

撮影:釘野孝宏
撮影:釘野孝宏

フルオーケストラの持つスケールの大きさをいかしきった「1000の言葉」は、この日のハイライト。フルオーケストラの厚い響きに包まれながら、倖田の歌声が新たなる高みへと昇っていき、かつ倖田はフルオーケストラと見事に拮抗してみせた。

アンコールが終わるとスタンディングオベーションが起き、倖田が涙ぐんだ。「billboard classics KODA KUMI Premium Symphonic Concert 2022」は、6月27、28日に大阪・フェスティバルホールでも開催される。

撮影:釘野孝宏
撮影:釘野孝宏

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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