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総勢26組出演!津軽三味線奏者にしてシンガーソングライター・川嶋志乃舞主催サーキットイベントレポート

宗像明将音楽評論家
川嶋志乃舞(提供:Harelu-Arts)

津軽三味線奏者にして、シンガーソングライターとしてポップスにもアプローチする川嶋志乃舞。2019年10月19日、彼女が主催する「川嶋志乃舞レコ発&生誕祭~新宿3会場サーキット編~『ハイカラサミット』」が開催された。これは、新宿MARZ、新宿Marble、新宿Motionと、3つのライヴハウスを舞台にしたサーキット・イベント。バンド、シンガーソングライター、アイドルなど、川嶋志乃舞が愛するアーティストがジャンルを問わず出演した。その数、実に26組だ。

川嶋志乃舞(提供:Harelu-Arts)
川嶋志乃舞(提供:Harelu-Arts)

各会場には、楽曲とともに出演アーティストの魅力をラジオ形式で紹介する川嶋志乃舞の音声が流れていた。共演アーティストへのリスペクトを感じさせる趣向だ。

イベントは、WHY@DOLLのステージで13時にスタート。大トリの川嶋志乃舞が終わる21時過ぎまで約8時間続いた。ここでは、新宿MARZのステージを中心に紹介したい。

ビースティー・ボーイズの「Ch-Check it Out」を流しながら登場したのは「ポップしなないで」。ヴォーカルとキーボードのかめがい、ドラムのかわむらによる2人組バンドだ。2017年にMVを公開した「魔法使いのマキちゃん」は、TikTokで多数使われることになった。「現実と上手くやれない“君”に寄り添ったり寄り添わなかったり」というキャッチコピーも、彼らの一癖あるスタンスをよく表している。ステージにキーボードとドラムしかないセッテイングは珍しいが、それで何かが足りないとは一切感じさせないアレンジと演奏の能力の高さ。以前インタビューしたとき、かめがいのヴォーカルに一番合った音楽を作っているという主旨のことをかわむらは語っていたが、ときに激しく歌いあげるかめがいのヴォーカルとともに演奏は疾走する。実にスリリングだ。2人しかいないということは、縛るものがないということでもある。ライヴで聴く「魔法使いのマキちゃん」には、ジャズの生演奏を浴びているような感覚に陥った。

MELLOW MELLOWは、ブラック・ミュージック色の濃い楽曲を歌う3人組グループ。フィロソフィーのダンスの全編曲でも知られる宮野弦士がサウンド・プロデュースを担当している。ステージが低い新宿Motion、メンバーは全員身長が150センチ以下、フロアは超満員。ほぼメンバーの姿が見えない状態でのライヴだったが、SENA、MAMI、HINAのヴォーカルは、それぞれ聴きわけができるほど個性が出ており、かつ安定したものだった。「シュガシュガ」では、ファンの激しいコールやシンガロングも響く。EDMな「マイストーリー」でSENAが歌いあげる瞬間には、強烈な昂揚感があった。

かつては相対性理論でも活動していた、ギターの真部脩一とドラムの西浦謙助が、「ミスiD2016」ファイナリストの齋藤里菜を迎えて結成したバンドが集団行動。現在はさらに、Vampillia/VMOのミッチーがベースとして加わっており、この日はサポートとしてキーボードも参加していた。齋藤里菜が「こんばんは、集団行動の時間です」と告げるとライヴがスタート。ロック的な熱量を放つ演奏でも保たれている冷静さ、楽曲に「SUPER MUSIC」と名づける大胆不敵さ。そうしたものが、集団行動の音楽にある種、凶悪なまでのポップさを内在させている。かと思うと、ミッチーが手にパペットをはめ、一人二役の芝居を始める。そして、そこから楽曲へと続く場面もあった。

ジャクソン5の「I Want You Back」とともに登場したのは、シンガーソングライターのにゃんぞぬデシ。鮮やかな赤いワンピースが、赤茶色のアコースティック・ギターによく似合う。全編アコースティック・ギターの弾き語りによるステージだ。彼女の歌声の高音は、若き日のジョニ・ミッチェルをも連想させる。ペットボトルの水を飲んでフタを落とす光景や、伝えたいことに言葉が追いつかないような話し方、そしてそもそも名前といい、常にユーモアを感じさせるにゃんぞぬデシだが、歌いだすと途端に才能の溢れるシンガーソングライターそのものになる。楽曲には、ときに1970年代の歌謡曲のような透明感もあれば、ときに聴き手に迫るシリアスな雰囲気も。一方で、突然ファンに「楽しい!」と言わせるコール・アンド・レスポンスが始まる。にゃんぞぬデシは、一度のステージでさまざまな表情を見せた。

そして大トリは、もちろん主催者である川嶋志乃舞。「川嶋志乃舞レコ発&生誕祭~新宿3会場サーキット編~『ハイカラサミット』」は、10月9日の彼女の誕生日、そして同日にリリースされた伝統芸能ポップ盤「SUKEROKU GIRL」と完全民謡盤「光櫻~MITSUSAKURA~」のリリースを祝うものだった。

川嶋志乃舞(提供:Harelu-Arts)
川嶋志乃舞(提供:Harelu-Arts)

この日に先立って、YouTubeでは、川嶋志乃舞とTOKYO GROOVE JYOSHIのコラボレーションによる「WHAT IS HIP?」という楽曲が公開されていた。ここにおける川嶋志乃舞のタイム感は非常に鋭く、津軽三味線奏者、つまりプレイヤーとしての彼女の凄味を体感させるものだった。伝統とポップスの両方に根ざしながら、独自の感性を獲得してきたアーティストならではの演奏だ。

この日の川嶋志乃舞のステージは、ベースの友重悠、ドラムの油布郁を従えた編成。彼女の津軽三味線の独奏から始まったが、その撥さばきは聴く者を酔いしれさせる。バンドとの演奏になると、川嶋志乃舞自身が歌いながら津軽三味線も弾いていく。ラップのパートまであるし、ときにはタオルも回すエンターテイナーぶりだ。

川嶋志乃舞(提供:Harelu-Arts)
川嶋志乃舞(提供:Harelu-Arts)

津軽三味線を弾く姿は、リズム隊が刻むタイトなビート上で自在に遊ぶかのようだが、そこには確実に川嶋志乃舞が培ってきたタイム感が存在する。彼女の撥さばきには、ときに優れたR&Bのヴォーカリストのレイドバックを重ねあわせてしまう。演奏にロックやソウルの要素が濃くとも、柔軟に合わせることができ、しかしプレイヤーとして本質的な部分は不変。その点が川嶋志乃舞というアーティストを特異な存在に押しあげている。

川嶋志乃舞(提供:Harelu-Arts)
川嶋志乃舞(提供:Harelu-Arts)

川嶋志乃舞がポップスにアプローチするとき、ブラック・ミュージック色が濃くなるのは彼女のユニークな資質だ。津軽三味線奏者としてポップスにもアプローチしてきた上妻宏光、吉田兄弟といった先達と同様に、川嶋志乃舞もまた注目されるべきだ。「Drum Strings」で、打楽器のごとく弦をはじく彼女の姿を見ながら、改めてそう考えた。

アンコールでは、2020年4月30日に渋谷WWWで主催ライヴ「ハイカラハーバー」を開催することも発表。そもそもは「津軽三味線奏者にしてシンガーソングライター」という存在ゆえに居場所がなく、主催ライヴを開催しはじめたという川嶋志乃舞。彼女が今後どんな仲間を増やしていくかも楽しみにしたい。

「ハイカラハーバー」の発表をする友重悠、油布郁、川嶋志乃舞(提供:Harelu-Arts)
「ハイカラハーバー」の発表をする友重悠、油布郁、川嶋志乃舞(提供:Harelu-Arts)
音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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