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生きている間に「歌」を手に入れられるのだろうか――CYNHNインタビュー

宗像明将音楽評論家
CYNHN(提供:テイチクエンタテインメント)

 2019年2月24日に下北沢GARDENで開催された初のワンマンライヴ「Link to Blue」を、1か月以上前にソールドアウトさせたCYNHN(スウィーニー)。ヴォーカル・ユニットとして急成長を遂げている彼女たちが、5枚目のシングル「空気とインク / wire」をリリースした。各メンバーがシングルでリード・ヴォーカルを務めてきたCYNHNだが、「空気とインク」で桜坂真愛、「wire」で百瀬怜がリード・ヴォーカルを務めたことで、一周したことに。新しいフェーズへと進もうとしているCYNHNに話を聞いた。

CYNHN「空気とインク / wire」初回限定盤A。左から青柳透、綾瀬志希、崎乃奏音、桜坂真愛、月雲ねる、百瀬怜(提供:テイチクエンタテインメント)
CYNHN「空気とインク / wire」初回限定盤A。左から青柳透、綾瀬志希、崎乃奏音、桜坂真愛、月雲ねる、百瀬怜(提供:テイチクエンタテインメント)

歌にはずっと「片思い」なんですよね

――当初こそアイドルでしたが、ヴォーカル・ユニットとして活動してみていかがですか?

百瀬怜  私はアイドルになるつもりで入ったので、ヴォーカル・ユニットだと聞いたときはびっくりしました。

――「FINALegend」では、百瀬さんが「できるかな? アイドル」って歌ってますもんね。

百瀬怜  そうなんですよね。わかりますか、その歌詞を、今歌う私の恥ずかしさを? でも今は、そのほうがこの6人に合ってると思ってます。ただ、自分がこれでヴォーカル・ユニットでいいのかなとは思います。

崎乃奏音  私はアイドルになるつもりじゃなかったんです。オーディションが、アニソンシンガーと歌手とアイドルを募集していて、気づいたらアイドルになっていて。だから、「ヴォーカル・ユニットとしてやっていきます」と言われたときはうれしかったです。でも、はたから見たら、たぶんアイドルと同じだと思われているだろうし、ヴォーカル・ユニットだって思ってもらえるようなパフォーマンスをしないといけないっていうプレッシャーはあります。ハモりをライヴで付けるようになりました。

青柳透  私は、そもそもオーディションを受けたきっかけが、審査員に未鈴さん(古川未鈴。でんぱ組.inc)がいたからなんです。適当に希望を「アイドル」って書いたんですけど、自分はアイドルを応援するほうはやったことがあるけど、自分がアイドルになるのはちょっと違うなって思ってたんですよ。だから、ヴォーカル・ユニットって言われてから、ちょっと安心して。自分の好きな場所だから、失敗しないように歌を頑張ろうって思います。

――青柳さんは、2019年2月23日に大好きだった妄想キャリブレーションの活動休止ライヴを見ましたよね。

青柳透  いまだにうまく言葉にできないんです。今日も電車に乗りながら、アイドルのコールのまとめみたいなページを見ながら来たんですよ。そこに妄キャリさんもめっちゃ載っていて、活動を終了しちゃった実感が湧いてない感じです。

CYNHN「空気とインク / wire」初回限定盤B(提供:テイチクエンタテインメント)
CYNHN「空気とインク / wire」初回限定盤B(提供:テイチクエンタテインメント)

――桜坂さんは、ヴォーカル・ユニットとして活動してみていかがですか?

桜坂真愛  アイドルとヴォーカル・ユニットのどっちかだけやりたいってわけでもなかったし、どちらにせよ自然体で、得意なところを伸ばしていけたらなという気持ちでやってます。

綾瀬志希  私は救われました。私は別にかわいくないし、それを武器にするなんて、諸刃の刃すぎるから。自分が戦えるものを与えてくれる環境に置かれて、私はすごい救われましたね。私はうまく歌うことに重きを置いてないんですよ。歌うことが好きだから、その気持ちをみんなに伝えるため、自分自身を救うため、歌を聴いたみんなを救うためなんです。

―― Twitterで「音楽は人を狂わすし歌は私を壊す」と書いていましたね。あの真意はどういうものなんですか?

綾瀬志希  片思いなんですよね。好きな気持ちがあふれて、なんか書いちゃうんですよね。生きてる間に歌を手に入れられるか、すごい考えるんです。たぶん、一生かかっても答えが出なくて、ずっと片思いだなって思いますね。

――何をもって、歌が自分のものになると考えていますか?

綾瀬志希  自分自身が認めることと、歌を聴いてくれた人が救われることが一番だなって思ってるんで、そうなったときには満足できますね。

月雲ねる  私はアイドルになりたくて入ったし、今もなりたいんですけど、「はりぼて」からヴォーカル・ユニット路線になって。でも、今はそんなにアイドルとかヴォーカル・ユニットとか考えてなくて。それを決めるのは見てる側だと思うんです。自分はアイドルとしてやってても、見る人はヴォーカル・ユニットって思ってもいいし、アイドルにこだわりすぎずにできるようになりました。K-POPが好きなところも、プリキュアや日本のアイドルが好きなところも取り入れて、自分らしくやっていきたいですね。

ワンマンライヴまでの記憶がない

――下北沢GARDENでのワンマンライヴは超満員でした。あのライヴを終えた感想を教えてください。

百瀬怜  達成感はあったんですけど、それと同時に自分の中で反省点が多くて。「あー、やっとスタートラインに立ったな」みたいな感じでした。

崎乃奏音  ソールドアウトしたから、次はもっと大きい会場を目指せると思いました。パフォーマンスに関しての反省点はたくさんありますね。あと、アカペラで歌ったんですよ。多いところでは5声で。そういうところで、CYNHNのヴォーカル・ユニットとしてのこれからの可能性につなげられたかな、とは思いました。

青柳透  私はCYNHNにもっと貢献したいなって思いました。自分自身も歌は上達して、ハモりも前よりできるヴァリエーションが増えたけど、個人としてもっとCYNHNの力になれるように頑張りたいです。

桜坂真愛  頑張らなくちゃいけない時期って、集中力を全部そこに使ってるので、記憶がないんです。でも、楽しかったとか、頑張ったとか、うまくいかなかったとかっていう感覚は残ってるんです。とりあえず、走り抜けたなっていうのが大きすぎて。当たり前じゃない景色を見させていただいて、あったかい思い出みたいな感じです。

――どこからどこまでの記憶がないんですか?

桜坂真愛  練習中と、当日の本番前までの記憶がないですね。

――本番中の記憶はある?

桜坂真愛  はい、要所要所。

――良かったです。綾瀬さんはいかがでしたか?

綾瀬志希  中学生から専門学生のときまでバンドでライヴをしていて、誰も私の歌を聴く人がいないライブハウスでずっと歌ってきたので、人でいっぱいになった下北沢GARDEN見たときに、現実味がない感じがすごいありました。自分ひとりでは見られなかった景色だし。

月雲ねる  この6人でCYNHNじゃなくて、いろんな方も含めたチーム感が出てきた気がします。今後もチームを大事にしていきたいなと思いました。個人的な部分で言うと、いつもと違うことがけっこうあったから、いっぱいいっぱいになってて。もっと表情も意識してできたら良かったかな。それを当たり前にできるようにしたいです。長いライヴに耐えられる体力と集中力を付けたいなと思いました。

CYNHN「空気とインク / wire」通常盤(提供:テイチクエンタテインメント)
CYNHN「空気とインク / wire」通常盤(提供:テイチクエンタテインメント)

百瀬の声が薬味になってくれる

――「空気とインク」のリード・ヴォーカルは桜坂さんですね。

桜坂真愛  私の曲って、「くれーるクレーン」もそうなんですけど、あんまり盛りあがる感じではないんですよ。私の声だけで、その空間を仕立てあげなくちゃいけないので、苦戦しましたね。私がセンターの曲を聴いて、みんなが言ってくれるのは、すごく感動したとか、穏やかな気持ちになったとか、にっこりしたとか、涙が出たとかなんです。

――そういう曲を任されている面もあるんですかね。スタッフの皆さんとそういう話はしましたか?

桜坂真愛  また集中してたので、忘れましたね。曲を聴いたときからレコーディングまで、すごく集中してて。でも、うれしいなって思います。やっぱりできることはやりたいなって思っているので。

――百瀬さんは、ロック・ナンバーの「wire」をリード・ヴォーカルの曲としてもらってどう感じましたか?

百瀬怜  私のことをすごい考えて作ってくださってるなって思いました。キーも歌詞も。でも、めっちゃ難しくて、「え、これ、大丈夫かな? レコーディングの当日、声出るかな?」とか、やればやるほど、不安、不安っていう感じでした。ライヴでは、みんなが声を出してくれる部分があるから楽しいですね。

――プレッシャーはありましたか?

百瀬怜  Aメロは百瀬が歌うんですよね、やばくないですか? 百瀬で曲が始まるって、本当にプレッシャーで……。CYNHNとして恥ずかしくないように頑張らなきゃ、と思って。この2曲の緊張感は半端ないんですよ。

――「空気とインク」でも緊張するんですか?

百瀬怜  真愛ちゃんが歌って、私がそれに続いて歌うところがうまく乗らなくて。真愛ちゃんの曲だから、トチらないようにと思って、すごい緊張しちゃって。

――桜坂さんから見て、「空気とインク」での百瀬さんは、どんな感じでしょうか?

桜坂真愛  1番は百瀬と私しか歌わないので苦しいんですよ。そういうときに、百瀬が寄り添ってくれてる感じがすごくあって。百瀬の声が薬味になってくれて、心強いですね。

百瀬怜  すごい、120点満点の回答ですね。うれしいですね。ありがとうございます……!

アクト・シーンのあるMVのほうがアーティスト感がある

――「演じまスウィーニー」と題して、MVの中では歌も演技もしてきましたが、やってみていかがでしたか?

百瀬怜  大変でした。私、「タキサイキア」にもめちゃめちゃ出てるんですけど、演技するのがつらすぎて、帰りのバスで志希ちゃんと大号泣して。今回「wire」で自分がメインでやったんですけど、前回よりは楽しんでできましたけどね。でも、やっぱり大変だなって思いました。

綾瀬志希  もう「タキサイキア」の演技シーン、「ほとんどなくしてください」って山田さん(山田裕一朗。CYNHNディレクター)にお願いして、なくしてもらいました。見た人が曲が入ってこないぐらい、演技が下手だったんで。

――事前にひとりひとりのパーソナルな部分を調べて、MVに投影したという話も聞きました。

百瀬怜  私は、友達もたくさんいて、ラジオパーソナリティーになりました、みたいな役なんです。すごいイケイケの人生になっていて。事前のインタビューで聞いてくださったときに、小中学生時代はすごく暗かったけど、高校からはめちゃめちゃ明るくなったことを話したんで、高校の明るくなった自分が投影されてるんだと思うんですよ。

――百瀬さんが、少女閣下のインターナショナルとか、NECRONOMIDOLとか、おやすみホログラムとか見ていた時代は、投影されてない?

百瀬怜  投影されてないですね。NECRONOMIDOLさんを見ながら泣いてた私は投影されてないですね。

――崎乃さんは「絶交郷愁」で演技をやってみていかがでしたか?

崎乃奏音  緊張しちゃって。最初に撮ったシーンが、部屋でカップラーメンを食べてるシーンだったんですけど、上手に息ができなくて。MVを自分で見返したときに、「息吐けなかったんだよな」とか「ここ、もうちょっとこうしたほうがもっと何か伝えられたのにな」とか、反省してますね。

――青柳さんは「So Young」では苦労しましたか?

青柳透  自分では自然にできたと思ってたんですけど、映像で見たら大根役者すぎてびっくりしました。今回の「空気とインク」で、真愛ちゃんのファンみたいな役で出たんですけど、ちょっと大げさにしてウザさを足したら、いい感じにできました。

――桜坂さんは「空気とインク」で演技をしてみていかがでしたか?

桜坂真愛  役が実際の自分に当てはまりすぎたので、演技っていうより、そのままやれば良かった感じです。私、お母さんに「ごめんなさい」とか「ありがとう」とか言えなくて。それなりの距離感があれば言えるんですけど。あと、変なこだわりがあって、自分の中身を出すのがすごい嫌で、人に見せたくなくて。なので、演技でやるとなると「あーっ」てなりました。

――綾瀬さんは、「タキサイキア」の演技がなんでそんなに大変だったんですか?

百瀬怜  すべてだよね。

綾瀬志希  すべてだよね。みんなが「あいつ来たよ」みたいな感じで私を見るシーンがあるんですけど、私の過去の再現率がものすごくて、感情移入しすぎてつらかったし。演技が苦手で、めちゃめちゃ撮影の時間が延びちゃって、朝までやってたんですけど、それもなんか申し訳なくて。もう、ねえ。

百瀬怜  ねえ。

綾瀬志希  ねえ。

――今後またメインで演技をすることになったら、どうしますか?

綾瀬志希  もうちょっと前に言ってくれれば勉強してきますね。頑張ります。ありがとうございました!

――ひとりで完結した! 月雲さんは「雨色ホログラム」で演技をしてみていかがでしたか?

月雲ねる  そんなに苦戦した記憶がないんです。うまくできたかは知らないんですけど、みんなほど大変じゃなかったです。

――演技に向いているなと思いましたか?

月雲ねる  いや、向いてないです。シュークリームを食べてから、フルートを吹かなきゃいけなかったんですけど、シュークリームを食べた口でフルートを吹きたくなくて、一回水を飲ませていただきました。歯磨きしたいぐらいだったんです。でも、MVでアクトのシーンがあるのは好きなので、今後もあったらいいなと思います。リップシンクとダンス・シーンのMVより、リップシンクとアクト・シーンのMVのほうが、なんかアーティスト感があるから、いいと思います。

CYNHN。この青い建物は取り壊されるのだという(提供:テイチクエンタテインメント)
CYNHN。この青い建物は取り壊されるのだという(提供:テイチクエンタテインメント)
音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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