加茂啓太郎×寺嶋由芙×rionos鼎談~このチームでサブスクのバイラルチャートに入る名曲を作りたい

左からrionos、加茂啓太郎、寺嶋由芙(撮影:梅本高志)

4年にわたる3人の関り

 ウルフルズ、氣志團、ナンバーガール、Base Ball Bear、相対性理論などを世に送りだしてきたプロデューサー・加茂啓太郎。彼が育成を手がけたアーティストの新譜が、10月から11月にかけてリリースされる。

 一枚は、2017年10月25日にリリースされたrionosのメジャー・デビュー・シングル「ハシタイロ」。そして、加茂啓太郎が直接プロデュースしている、寺嶋由芙のニュー・シングル「知らない誰かに抱かれてもいい」が11月8日にリリースされ、フィロソフィーのダンスのセカンド・アルバム「ザ・ファウンダー」も11月22日にリリースされる。

 寺嶋由芙が2013年にソロ活動を開始した最初期から関わっているのが加茂啓太郎とrionosでもある。実に4年だ。寺嶋由芙の「知らない誰かに抱かれてもいい」でも、加茂啓太郎がプロデューサーとディレクターを兼任し、rionosは「知らない誰かに抱かれてもいい」の編曲を担当している。また、寺嶋由芙が現在行っている全国ツアー「『寺嶋由芙の会いに行くつもり』supported by japanぐる~ヴ(BS朝日)」のオープニングSEやメドレーの制作を担当しているのもrionosだ。

 4年にわたって続く3人の関係。その関係性はどんなものなのだろうか? そして3人がそれぞれに目指すものとは? 実は集まるのは珍しいという3人に話を聞いた。

寺嶋由芙(提供:ディアステージ)
寺嶋由芙(提供:ディアステージ)
rionos(提供:ランティス)
rionos(提供:ランティス)
加茂啓太郎(提供:加茂啓太郎)
加茂啓太郎(提供:加茂啓太郎)

「知らない誰かに抱かれてもいい」はインパクトが欲しかった

――寺嶋由芙さんのソロ活動を支えてきた加茂啓太郎さんとrionosさんですが、この3人が揃うことはふだんあるのでしょうか?

加茂啓太郎  ないですね。

寺嶋由芙  ないかも。

rionos  レコーディングやゆっふぃーのライヴのときぐらいですね。

寺嶋由芙  ライヴに来てもらったときは私がだいたいバタバタしているから、そんなにゆっくりは語らいはできず……。

――そこで今日はゆっくり語ってもらおうかなと思うんです。今回の「知らない誰かに抱かれてもいい」の制作にあたって、加茂啓太郎さんがいしわたり淳治さんに詞先で頼んだのはなぜでしょうか?

加茂啓太郎  詞先だと、譜割を先に計算しないといけないし、作詞家のスキルがないとできないですからね。いしわたりさんとは前作(寺嶋由芙の2017年のシングル『わたしを旅行につれてって』)でコミュニケーションも取れていたし、もう一回頼もうと思っていたんです。たまたまライヴを見ていたら「詞先がいいんじゃないかな」と思って。誰のライヴかは忘れたんですけど(笑)。

寺嶋由芙・rionos  (笑)。

加茂啓太郎  詞先がいいなと思いついたら、ヤマモトショウくんからLINEが来て「ゆふちゃんの新曲は詞先がいいんじゃないですか」って書いてあって、これはシンクロしてるなと思って。

――そこでヤマモトショウさんに頼まないんですか!

加茂啓太郎  それは思わなくはなかったんですけど、次もいしわたりさんに頼もうと思っていたからお願いすることになりました。

――「知らない誰かに抱かれてもいい」は、CD化された歌詞のほかに、マイルドなヴァージョンも一応あったそうですね。どういう経緯で、波紋を呼ぶことになるヴァージョンで行くと決まったのでしょうか?

加茂啓太郎  やっぱりインパクトが欲しかったんですよね。漫然と出しても引っかからないし。たとえばYouTubeで曲名が出たときに、その曲名だけで見てみようかってなるじゃないですか? あと、歴史的にも清純派のシンガーがセクシャルな意味合いが多く含まれる曲を歌ってブレイクするのは、山口百恵からオリビア・ニュートン=ジョン、おニャン子クラブまで事例があるんで、今回ちょっと踏みこんだ感じですね。

――寺嶋由芙さんはこういう説明を受けていたのですか?

寺嶋由芙  そんなに説明はされてないですけれど、「そういうことなんだろうな」と思っていました。

加茂啓太郎  第一稿ができたときに「もうちょっとインパクトが欲しい」といしわたりさんにリクエストしたんです。

――ということは、マイルド版が先にあったんですか?

寺嶋由芙  マイルド版が先にありました、そちらもかわいかったんですけども。

加茂啓太郎  「これだとインパクトに欠けるからもっと踏みこんでください」ってリクエストをもう一回して、現行の歌詞ができたという形です。

知らない誰かに抱かれてもいい(初回限定盤A)(提供:テイチクエンタテインメント)
知らない誰かに抱かれてもいい(初回限定盤A)(提供:テイチクエンタテインメント)

――そして、ソロ活動開始当初から寺嶋由芙さんを知るrionosさんは、編曲を頼まれたら「知らない誰かに抱かれてもいい」という曲名だったことにどう感じましたか?

rionos  最初に見たときは「おお……!」と思いました(笑)。タイトルを見たときは「ゆっふぃーのイメージで大丈夫かな?」って思いましたけど、曲を聴いたときにいい曲だとすごく思いました。

――「知らない誰かに抱かれてもいい」は「90年代」と銘打たれていますが、編曲で工夫した部分はあるでしょうか?

rionos  マイナーにすると悲しい感じになっちゃうし、逆にキラッとしていて切なさが強調されるのがいいなと思って、そういう感じにしました。ピアノから始まって、シンセと宮野(弦士)くんに弾いてもらったリード・ギターで、すごくエモい感じを出せたかなと(笑)。

知らない誰かに抱かれてもいい(通常盤)(提供:テイチクエンタテインメント)
知らない誰かに抱かれてもいい(通常盤)(提供:テイチクエンタテインメント)

――「知らない誰かに抱かれてもいい」は70曲からコンペで選ばれたそうですが、藤田卓也さんのメロディーになった決め手はどこだったのでしょうか?

加茂啓太郎  一番キャッチーだったからでしょうね。業界的にも詞先でコンペをするのはあんまりないんですよ。「全然来なかったらどうしようかな」と思ったけど、曲先の「わたしを旅行につれてって」のコンペは105曲だったんで、意外と少なくなりませんでしたね。

寺嶋由芙  今回決まった曲を最初から気に入っていたので、それになって良かったなと思いました。決まるのが早かったですよね?

加茂啓太郎  意見が割れなかった。

――寺嶋由芙さんは「わたしを旅行につれてって」の105曲といい、「知らない誰かに抱かれてもいい」の70曲といい、候補曲を全部聴いているそうですね。アイドル本人がそこまでするのはなぜでしょうか?

寺嶋由芙  自分のことだから。どこまでが仕事なのか、わからなくなってきました(笑)。でも、やらせてもらえることには関わろうと思います。

――105曲を聴いていたときは、Instagramでずっとコメント返しをしていたじゃないですか。今回は70曲を聴きながら何をしていたんですか?

寺嶋由芙  仕事をしながら仕事をしていました(笑)。

――最近の寺嶋由芙さんのシングル表題曲がコンペで選ばれているのはどうしてなのでしょうか?

加茂啓太郎  僕のいる部署が、ソニー・ミュージックエンタテインメントのコンペをまとめる部署で、外部のコンペをまとめてもいいんです。そこでコンペをすると、日本中の作家や作家志望者に情報が行くんですよ。

――加茂啓太郎さんは、以前はコンペに対して否定的だったのでは?

加茂啓太郎  以前とは規模が違うので、出会いのきっかけにもなればいいと思います。コンペで曲を選んで、作家に会いもしないで進めるやり方もありますけど、今回の作家の人もライヴに来てくれて、すごく喜んでくれて。また仕事ができればと思いますね。

寺嶋由芙  お会いしたら握手会みたいになってましたね(笑)。

rionos  私もゆっふぃーに初めて会ったとき、握手会みたいだった……。

寺嶋由芙  「#ゆーふらいと」(2014年のソロ・デビュー・シングル)の大阪のリリース・イベントで初めてりおちゃんに会ったんですよ。

rionos  上京する前で、本当にファンに混ざっているみたいな感じで。

寺嶋由芙  お互い「うわー」ってなって終わりました(笑)。若い女の子とは聞いていたけど、本当に普通の若い女の子だったんでびっくりした記憶があります。「お菓子あげたい!」みたいな(笑)。(テーブルの上のお菓子を開けて)いっぱいお食べ!

rionosはなぜ寺嶋由芙に緊張するのか?

――テレビアニメ「クジラの子らは砂上に歌う」のエンディング主題歌でもあるrionosさんの「ハシタイロ」を、加茂啓太郎さんと寺嶋由芙さんが聴いた感想を教えてください。

加茂啓太郎  自分名義のオリジナル作品は久々ですね。才能がある子だなと思っていたのがその通りだったなと思いました。

寺嶋由芙  曲のキラキラ感とか切ない感じとか、りおちゃんっぽさがめっちゃ入っていて。MVも、きれいで神秘的な景色の中にふわっといて、りおちゃんってこういう感じだなと。あと、りおちゃんの顔が出ているMVって今までなかったよね? ひとりのオタクとしては、りおちゃんのヴィジュアルが前面に出ているものができて非常に嬉しいです。

rionos  お恥ずかしい……嬉しい……。

――昔はrionosさんは顔すら出していなかったですもんね。

寺嶋由芙  だから大阪で謎の人物が来ると思っていたんですよ(笑)。

――寺嶋由芙さんとrionosさんは、ふたりで遊んだりしないんですか?

寺嶋由芙  ピューロランドに行ったことがある!

rionos  ついていきました(笑)。原宿のポムポムプリンカフェやサンリオの展示会にも行きました。

――ピューロランドへ行っていかがでしたか?

rionos  ……ときめきの空間(笑)。

寺嶋由芙  また行こう!

rionos  行く!

寺嶋由芙  あんまり人と遊ばないんで、遊びましょう!

rionos  私はいまだに緊張する……ずっと緊張するんですよ。

――え、なんでrionosさんが寺嶋由芙さんに緊張するんですか?

寺嶋由芙  恐いですか?(笑)

rionos  私にとってずっと芸能人だから「わー」ってなっちゃう。

寺嶋由芙  初めて言われた!(笑)

――でも、その芸能人にずっと関わっていますよね。

rionos  ゆっふぃーのレコーディングにも行ってます。

寺嶋由芙  バンド(寺嶋由芙&I wanna be your cat。バンドマスターはrionos)で共演したこともあります。

rionos  共演するときもずっと緊張してるんです、緊張が途切れる瞬間はないです、勝手に緊張しちゃうんです……。

寺嶋由芙  距離が縮まらない(笑)。

――でも待ってください、rionosさんは「ハシタイロ」で佐野康夫さんや渡辺等さんのような錚々たるミュージシャンと共演していて、こちらのほうが明らかに緊張するじゃないですか?

寺嶋由芙  緊張しないの?

rionos  もちろん緊張するんですけど、これはこれでまた別じゃないですか? 音楽を作りあげないといけないから、別の感覚が働くというか、「もっとこうして欲しい」とか頑張ります。だからそういうときは違うかも。

寺嶋由芙  そのテンションのままご飯に行けばいいのかも?

rionos  その頃にはまた戻っちゃうかも……。

加茂啓太郎  レコーディングでディレクションしてるときには全然そんなふうに見えないですよね。

rionos  「かまたんが来る♪」(千葉県鎌ケ谷市のゆるキャラ・かまたんの応援ソング。ヴォーカルが寺嶋由芙、編曲がrionos)のレコーディングのときは、ゆっふぃーにもテンションを上げてもらおうと思って、私もテンション高めに「かまたんが来る~♪」っていう歌を「かまたんが来る~!!」みたいな感じで、ジェスチャー入りで歌って(笑)。レコーディングの現場になると変わるんです。

寺嶋由芙  すごく変わる(笑)。お手本もやってくれるし、雰囲気もわかりやすくディレクションしてくれるし。私の音が外れているときも、りおちゃんはすぐにメロディーを歌ってくれます。

加茂啓太郎  ピッチが良すぎてシンセみたいだから(笑)。

rionos「ハシタイロ」(提供:ランティス)
rionos「ハシタイロ」(提供:ランティス)

鎌ケ谷市 - かまたんが来る♪

――もしや今もまだ緊張していますか?

rionos  すごくする……。

寺嶋由芙  そんな(笑)。でも、私も仙台で麻里ちゃん(高橋麻里/Dorothy Little Happy)と共演したけど(2017年11月4日)、いまだに緊張したので人のことは言えない!

――友達なのにまだ緊張するんですか?

寺嶋由芙  LINEも知ってます! ドヤッ!

――効果音を入れてまでドヤらないでください……。

寺嶋由芙  ステージの上では仕事だと思うと頑張れるんですよ。でも、ふたりで振り合わせをしているときとか、ご飯を食べにいったときとか、牛タンを食べさせてもらったときとか……。あー、なんでもないんです! 本当にごちそうさまでした!

――自己完結しないでください……。

寺嶋由芙  でも、誰よりも私に対して緊張しているのは宮野さんだと思うので(笑)。恐いのかな、なんなんだろう!(笑)

rionos  やっぱり雲の上の人の感じがする。学校にいないタイプの感じがする。

――学校に寺嶋由芙さんがいたらどうなっていましたか?

rionos  近づけないと思う……。

――結局同じじゃないですか!

rionos  大学にいても「アイドルしてます」みたいな子がいたら「ああ……」ってなっちゃうと思う。

寺嶋由芙  大学生でアイドルしていたしなぁ(笑)。

――でも、音楽活動をしている人はいたのでは?

rionos  そこそこはいたけど「めっちゃ芸能人」とかはいなかったです。

寺嶋由芙  りおちゃん、大きな間違いをしている! 「めっちゃ芸能人」じゃないんですけどね(笑)。初めて言われたよ、そんなことオタクからも言われたことがないよ(笑)。でも、たまに「初めて会えて嬉しい」って「わー」ってなっちゃう子もいてくれるので、そこは女の子のほうが違うんですかね?

――寺嶋由芙さんのライヴや特典会で泣いている女の子たちは、なぜ泣いているんでしょうね?

寺嶋由芙  ツーパターンあって、まずずっと好きでいてくれて、初めて生で見ることができてすごく感動してくれている子ですね。もうひとつは、私が歌わせてもらっている曲がそれぞれに響いているんだろうな。特に今回の「知らない誰かに抱かれてもいい」は女子から評価が高いんですけど、その歌詞に自分を重ねていると聞くんです。この曲と「初恋のシルエット」(2015年のミニ・アルバム『好きがはじまるII』収録)は、女子の涙腺を刺激しがちらしいです。

――rionosさんのメジャー・デビューのきっかけは、寺嶋由芙さんへの提供曲なんですよね?

rionos  佐藤純之介さん(ランティスのプロデューサー)が「#ゆーふらいと」と「猫になりたい!」(寺嶋由芙の2014年のシングル)を聴いて「この曲を作っているのは誰だろう?」となってくれて、加茂さんに連絡してくれて、佐藤さんと加茂さんと私の3人で初めて面会したんです。

――寺嶋由芙さんとしては、自分がrionosさんのメジャー・デビューのきっかけになれてどういう感覚ですか?

寺嶋由芙  とても良かったですよね、やっとちょっとだけ恩返しができて。

rionos  いやいや恩返しだなんて、私が恩を受けてばかりなので……!

――rionosさんはメジャー・デビューして環境は変わりましたか?

rionos  そんなに変わってないです。

寺嶋由芙  渋谷駅にすごく大きな広告が出ていて「りおちゃんがやっているやつですよー!」って周りにオーラを出しながら歩いているんです(笑)。

――どうやって出しているんですか?

寺嶋由芙  わからないんですけど(笑)。

――「rionosガチ恋」とかいないんですか?

rionos  いやいやいやいや、いないです。

加茂啓太郎  街を歩いててスカウトされたことなかったっけ?

rionos  ありました、原宿で3回ぐらい!

寺嶋由芙  すごい! なるしか!

――原宿でスカウトされてアイドルになっていたら、今頃原宿系のグループに入っていましたよ。

rionos  髪の毛も青いし(笑)。でも、相変わらず引きこもりです。ライヴもしてないし、リリース・イベントもないです。

寺嶋由芙  アイドルとは全然違いますよね、展開の仕方が。

rionos  CDが出たとき、お店回りをやるはずだったんですけど、アニメの劇伴の仕事(『メルヘン・メドヘン』)があったので、作家のほうを頑張っていました。

寺嶋由芙  アイドルは顔を知ってもらってなんぼだから、前に出ていって握手会をしてオタクと触れ合ったりしているけれど、りおちゃんはそういうことをしない位置にいたほうがいいと思いますね。

rionos  できないし! できないし! 握手会って握手をするの?

寺嶋由芙  握手してしゃべるの。

rionos  無理! しゃべれない!

寺嶋由芙  でも、たまにしゃべらない子のほうが人気あるから需要はあると思う(笑)。

rionos  やったらふたりぐらいは来てくれるかな……?

――私は行きます。

加茂啓太郎  僕も行こうかな(笑)。

テイチク澤田吉隆  僕も行きます。

――これで5人は集まりますよ!

寺嶋由芙  なんで関係者が握手会に行くんですか(笑)。

3人が生んだ未CD化曲「サクラノート」

――それにしても、寺嶋由芙さんの初めてのソロ・ライヴだった2013年10月22日に初披露された「サクラノート」(寺嶋由芙のソロ・デビュー・シングル『#ゆーふらいと』の原曲。rionosが作詞作曲編曲を担当)から遠くに来ましたね。4年ですよ。

寺嶋由芙  恐ろしいねー、早っ! でも、今もこうしてそれぞれに環境が変わっても、加茂さんやりおちゃんにお世話になれているのは良かったと思います。

rionos  途中で離れることなく今も続いていてすごいと思います。

加茂啓太郎  りおちゃんも着々と成長してね。あのときは学生だった。

寺嶋由芙  私も学生でしたよ!(笑)

加茂啓太郎  入れ物が変わっても、一緒にやってることは嬉しいですね。

――寺嶋由芙さんが現在行なっている全国ツアー「寺嶋由芙の会いにいくつもり」の初日の千葉公演(2017年10月14日)で、「サクラノート」を歌ったことはrionosさんはご存知ですか?

rionos  ツイートで見かけて、「サクラノート」でエゴサしたらいっぱい出てきて、感想を書いてくれていて。

寺嶋由芙  今回のツアーは、「サクラノート」やリミックスとかもセットリストに入れているんですけれど、もう手に入らない音源もあるし、特に「サクラノート」はレコーディングもしていないし。昔から応援してくれている人なら知っているけれど、そうじゃない人には初めて聴く曲かもしれないし、思い入れがない曲かもしれないので、入れるべきか迷いながらやっていたんです。でも、「サクラノート」をやったときに「噂に聞いていた伝説の曲を僕も聴けました」みたいな反応が多くて「これはやっていったほうがいいな」と思いましたね。

rionos  「伝説」って書いてくれていて「ファンの間でそういう風になってるんだ」と思って。すごく嬉しいなと思いました。

――rionosさんが「サクラノート」を歌うご予定はないんでしょうか?

rionos  えっ、私!? でもライヴとかやる場がないから。

寺嶋由芙  なんで?

rionos  苦手……。

――rionosさんは「今会えないアイドル」みたいな感じがしますよね。

rionos  アイドルじゃないです(笑)。

寺嶋由芙  りおちゃんはそういう方向で行ったほうがいい気がしますよね。テレビでも全然顔を出さないみたいな(笑)。

――とはいえ、rionosさんは寺嶋由芙さんやふぇのたすのサポートもやっていたじゃないですか?

rionos  後ろにいるのは大丈夫。でも、ライヴは自分が一番見られるわけじゃないですか? 恐い……。

――一番見られている寺嶋由芙さんから何かアドバイスを……。

寺嶋由芙  私は平気なんですよね。人前で、歌とかダンスをすることに関しては緊張することがほとんどないんです。

加茂啓太郎  好きだからじゃないですかね(笑)。パフォーマンスをするっていうことがひとつの才能なんじゃないですか?

寺嶋由芙  オタクがいないときのほうが緊張します。撮影とか、テレビ収録でカメラに向かって歌うときとか。

――加茂啓太郎さんは緊張することってあるんですか?

加茂啓太郎  もちろんありますよ。

寺嶋由芙  本当に!?

加茂啓太郎  緊張するの好きですよ、自分をそういう環境に追いこむことが。講演会とかで「質問のある方いらっしゃいますか?」って聞かれるじゃないですか? そこでわざと質問をするんですよ。そこで面白いこと言えるかどうか。そういう緊張が好きですね。そういうときにうまいこと言えると、人としてフェイズが上がった気がします。

寺嶋由芙  加茂さんを緊張させる企画をいつかやりましょう(笑)。

加茂啓太郎  でも、ゆふちゃんをプロデュースする前に食事会をしたときは緊張しましたよ。

寺嶋由芙  2013年の夏でしたね。

加茂啓太郎  どういう子かもわからないし、アイドルにどういう対応をしていいかもわからないし。

寺嶋由芙  加茂さんはそのときアイドルの仕事をしていたわけじゃないし、私も緊張しました。次に会ったときには「10月22日の『アイドル・フィロソフィー』(加茂啓太郎の主催イベント)に出ましょう」という話になっていて(笑)。

――2か月後のライヴのためにオリジナル曲を4曲用意したのも狂っていましたよね。

加茂啓太郎  アイドルの場合、曲を用意するのはちょっと大変だったかな。やり方がわかってなかったし(笑)。

寺嶋由芙  ヤマモトショウさんが大活躍で。りおちゃんは「サクラノート」を書いてくれて。あれはもともとあったの?

rionos  歌詞は新しく付けたかな。

加茂啓太郎  でも、りおちゃんがいるから「ゆふちゃん、できるな」と思ったのもありますよ。

rionos  すごいお言葉を……!

加茂啓太郎  アイドルって、才能のある作家との出会いがないと成功しないから、りおちゃんは最初から念頭にありましたね。

サブスクリプションのバイラルチャートが本当のヒットチャートになっていく

――加茂啓太郎さんがプロデュースしているフィロソフィーのダンスの編曲にはrionosさんも参加していますが、寺嶋由芙さんとフィロソフィーのダンスの明確な違いは、加茂啓太郎さんの中にあるのでしょうか?

加茂啓太郎  ありますよ。フィロソフィーのダンスでは、ヤマモトショウと宮野弦士はフィックスなんで、そこを含めたグループですよね。ゆふちゃんに関してはそこをフィックスさせてないんですけど、アレンジャーは基本的にりおちゃんと宮野くんに頼んでますね。ゆふちゃんにはブラック・ミュージックの要素はないけど、フィロソフィーのダンスはブラック・ミュージックのテイストが絶対に入るので、線引きされてますよね。

フィロソフィーのダンス「ザ・ファウンダー」(提供:PHILOSOPHY OF THE WORLD)
フィロソフィーのダンス「ザ・ファウンダー」(提供:PHILOSOPHY OF THE WORLD)

――面白いのは、寺嶋由芙さんの「知らない誰かに抱かれてもいい」のカップリングの「世界で一番かわいい君へ」と、フィロソフィーのダンスの「ザ・ファウンダー」収録の「ベスト・フォー」は、両方ともヤマモトショウさん作詞、芦沢和則さん作曲なんですよね。言われないと、同じコンビの作品だと気づかないんじゃないかなと。

加茂啓太郎  芦沢さんは職業作家としてプロだから、良い意味で作家性がないんです。リファレンスがあればリファレンスをそのまま返すタイプですね。

――寺嶋由芙さんは「ベスト・フォー」を聴いてどう感じますか?

寺嶋由芙  「かっこいいなー」って(笑)。逆にフィロのスちゃんの曲は、私と同じ人たちが作っていても全然違うから、宮野さんの振り幅にいつもびっくりします。「宮野さん、『天使のテレパシー』(2017年のシングル)や『わたしなる』(2016年のアルバムのタイトル曲)を作った人だよね?」って(笑)。

加茂啓太郎  「世界で一番かわいい君へ」のリファレンスは、KISSの「God Gave Rock And Roll To You II」っていう曲なんですよ。

――ジャケットやMVを見て、まさかKISSがリファレンスだとは思いませんよ!

寺嶋由芙  知らなかったです(笑)。合唱曲にしたかったんだけれど、学校でみんなで歌う唱歌よりは、「でっかい宇宙に愛がある」(モーニング娘。)とか「世界に一つだけの花」(SMAP)とかかなって。

知らない誰かに抱かれてもいい(初回限定盤B)(提供:テイチクエンタテインメント)
知らない誰かに抱かれてもいい(初回限定盤B)(提供:テイチクエンタテインメント)

――「知らない誰かに抱かれてもいい」のカップリングの「好きがはじける」は、ミナミトモヤさん作詞作曲、宮野弦士さん編曲ですが、宮野弦士さんはGreen Dayをイメージしたと言っていました。

加茂啓太郎  それは初めて聞きました。ポップ・パンクだから、そうなってくるでしょうね。

――rionosさんは、寺嶋由芙さんに新曲を作るとしたら、どんな楽曲にしてみたいですか?

寺嶋由芙  「ゆるキャラ舞踏会」(2016年のアルバム『わたしになる』収録)はりおちゃんならではでした。あれは本当に強い。

rionos  嬉しい、「激ヤバ」みたいなことを言われるので(笑)。

寺嶋由芙  ツアーでも、ゆるキャラと一緒に全部の会場でやっています。しかもキティちゃんが踊ってくれたこともあるし!

rionos  各地のゆるキャラとゆふちゃんが一緒に踊ってくれている動画を見られるわけじゃないですか? そういう体験はなかなかできないから嬉しいし、そういう曲を作らせてもらえて嬉しかったです。めっちゃまた作りたいです。

――シングル三部作が終わって、寺嶋由芙さんは来年はどんな音楽活動をしたいと考えていますか?

寺嶋由芙  わからないです、どうしましょうか? 三部作はやりたかったことを全部やらせてもらったんです。演歌(『天使のテレパシー』のカップリング『終点、ワ・タ・シ。』)とか、かわいい合唱曲とか。来年はどうしようかな、っていうところではあります。

――そこでプロデューサーとしての加茂啓太郎さんの展望を聞かせてください。

加茂啓太郎  そこは名曲を作りたいですね。国民全員が知っているような曲を作りたいというのがミュージックマンとしての悲願ですからね。どんどんサブスクリプションになって、バイラルチャートが本当のヒットチャートになっていくだろうから、そこに入る曲を目指すということでしょうね。

寺嶋由芙  私のやっていることは、CDを出して握手会をして……っていうアイドルの路線に乗っていて、それは私も好きだし、CDが形になるのは嬉しいから大事にしたいんですけど、そればっかりやっているうちに世の中が変わっていくのは恐いと思うんです。曲だけじゃなく、自分の活動を広げていかないといけないなと思いますね。

――rionosさん、寺嶋由芙さんはどうしたらいいと思いますか?

rionos  えっ!?(笑) YouTuberになる!

寺嶋由芙  じゃあ私、YouTuberになるんで、効果音もBGMも全部りおちゃんに作ってもらう!(笑)

――最後に、加茂啓太郎さんのもとから立派に育った寺嶋由芙さんとrionosさんにメッセージをお願いします!

加茂啓太郎  僕なんて何もしないわけじゃないですか? 曲を書くわけでもないし、歌えるわけでもないし。歌詞を書いたことはありますけど。

寺嶋由芙  じゃぁ私の次の歌詞、加茂さんが書いてください(笑)。

加茂啓太郎  だからこのふたりに出会えたことには感謝してますね。まだ結実したわけではないけれど、このふたりを引きあわせたのはいい仕事ができたなと思います。あとはこのチームで名曲が作れればと思いますね。