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ザ・ぷーとチームラボによる音楽と笑いとテクノロジーの最前線「ザ・ぷー in チームラボジャングル」

宗像明将音楽評論家
「ザ・ぷー in チームラボジャングル」でハッスルする街角マチオ

ザ・ぷーとチームラボとは何者なのか

有無を言わさないほどに光とモノで空間を埋めつくし、音楽と笑いとテクノロジーの最前線を提示してしまう試み。それを行ったのは、「ザ・ぷー」というなんだか気が抜けてしまいそうな名前のユニットだった。

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2017年8月26日、ザ・ぷーがワンマンライヴ「ザ・ぷー in チームラボジャングル」を開催した。そもそも、ザ・ぷーとは2017年7月31日までは「ザ・プーチンズ」を名乗っていたユニット。まだ公式サイトのプロフィールが「ザ・プーチンズ」と書かれたままなのはさておき、いろいろツッコミどころの多いプロフィールを紹介したい。

ロシア系怪電波ユニット。メンバーは街角マチコ(テルミン奏者)、街角マチオ(フリースタイルボサノヴァ奏者)、川島さる太郎(さるのパペット)、SONE太郎(演出家)の4人。

出典:prof | ザ・ぷー[The Puh]オフィシャルサイト

かなり補足が必要なプロフィールだ。ロシア発祥の電子楽器・テルミンを担当する街角マチコ、アコースティック・ギターやスティール・パンなどを担当する街角マチオ、どう見ても街角マチコの片手にいるパペットの川島さる太郎、そしていつのまにか加入していた演出家のSONE太郎。この4人(いや川島さる太郎は人なのだろうか?)によるユニットだ。ザ・プーチンズからザ・ぷーに改名したことで、正直なところさまざまなメディアが紹介しやすくなったことだろう。

ザ・ぷーが特殊なのは、非常に演劇性が高いところだ。それゆえに、音楽をメインにしたワンマンライヴ「ぷ道館」と、演劇をメインにした「本公演」を開催してきた。「音楽」に分類するか「演劇」に分類するか、メディアによって変わるのがザ・ぷーというユニットの特殊なところだ。そして、どちらにしてもコントが挿入されてくる。音楽、演劇、笑いがザ・ぷーの三大要素だ。

そんな長い説明を必要とするザ・ぷーが、チームラボと組んだのが「ザ・ぷー in チームラボジャングル」。公式サイトから「チームラボについて」を引用しよう。

テクノロジーとクリエイティブの境界はすでに曖昧になりつつあり、今後のこの傾向はさらに加速していくでしょう。そんな情報社会において、サイエンス・テクノロジー・デザイン・アートなどの境界を曖昧にしながら、『実験と革新』をテーマにものを創ることによって、もしくは、創るプロセスを通して、ものごとのソリューションを提供します。

出典:チームラボについて

長い。しかしTwitterのbioを見ると「ウルトラテクノロジスト集団」と13字で説明してあった。テクノロジーを駆使したアートを展開している集団だ。

ザ・ぷー族、それは後の渋谷系……?

今回の「ザ・ぷー in チームラボジャングル」は、チームラボが主催する「チームラボジャングルと学ぶ!未来の遊園地」(2017年7月28日~9月10日)の一環として開催された。しかも、夜の22:00からである。

会場である渋谷ヒカリエのヒカリエホールに入ると、奥へ奥へと案内される。そしてたどりついたのは、真っ暗な空間。しかも、四方八方から動物の鳴き声が響いている。やがて街角マチオによるナレーションが始まり、どうやら私たちは縄文時代にいるらしいことがわかった。いきなり15,000年前かよ……。

ナレーションは主旨として次のようなことを語る。「洗練されたザ・ぷー族は、後の渋谷系である」。街角マチコの英訳ナレーションも平行して放送されるのだが、明らかに日本語とは別の内容を言いだしているなか、観客は床に座らせられた。

すると、暗闇を貫く一本のスポットライトが、稲を手にした街角マチオを照らしだした。さらに天井一面のライトが輝くと、街角マチコと街角マチオは「顔の前に置くと顔面が巨大に映る箱」という使い道の少なそうな機材を使用しはじめた。

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「玄米、白米、五穀米」というフレーズをザ・ぷーが歌いだすまですっかり忘れていたのだがライヴである。ザ・ぷーの代表曲のひとつ「シンデレラII」とともにライヴは始まった。

巨大な風船、巨大なミラーボール、そして鳴らない「マチコテルミンGTR」

街角マチオいわく、壁の四方にライトが200個、モーションセンサーが2,000個、スピーカーが20,000個配置されているという。スピーカーは明らかに盛りすぎだが、ライトが200個、モーションセンサーが2,000個というのはおそらく事実で、それゆえに観客の動きに反応してライトが動くというインタラクティヴな空間が形成されていた。

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この日の街角マチコのテルミン演奏は、このライヴのために作成された「マチコテルミンGTR」によるもの。しかし、「派手さを優先したので楽器としての機能はない」とのことだった。ほぼヤンキーの発想である。

「色色色」では、壁に投影されるライトに観客が触れると色が変化するという趣向も。そして「すしてるみん」では、巨大な風船が会場に投入されて驚いていたのも束の間、次から次へと約30個の巨大な風船が投げ入れられ、みるみる間に会場は風船で埋めつくされる事態になった。楽曲が終わり街角マチオが「片付けるぞ!」と叫ぶと、観客がみんなで風船をステージ側に戻す一幕も。夜の運動会のようだった。

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「デンパデンパ」では、ザ・ぷーが「電波!」と叫ぶと、観客が「最高です!」と叫ぶコール&レスポンスも。会場に人力で怪電波が飛び交っていた瞬間だった。

「僕のプリン食べないで」では巨大なミラーボールが登場して、ザ・ぷーとともに会場を前へ前へと前進。さながら今回のライヴにおける本尊のようであった。

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最後の「ナニコレ」では、すっかり頭のネジが外れてきた観客のヴォルテージがロックのライヴのように上がるなか、紙吹雪が天井から舞ってきて大団円。終演後も、紙吹雪まみれの会場で歌舞伎のように見得を切る黒子がふたり立っており、「なんなんだよ……」と思ってしまう不可解さとユーモアを残しているのがザ・ぷーらしかった。

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音楽でもあり演劇でもあり、オーバーグラウンドでもアンダーグラウンドでもない存在

「ザ・ぷー in チームラボジャングル」はこうして1時間ほどで終了したが、「ライヴ」と呼ぶにはあまりにも圧倒的な物量と仕掛けが用意されており、チームラボの凄味を感じさせられる「体験」でもあった。自分の周囲360度すべてから音と光が溢れ、そして頭上からは巨大な風船が落ちてくるのだから。

また、今回のライヴのために楽曲のトラックは一新されており、その一部はBiSH、GANG PARADE、BiSのサウンド・プロデューサーである松隈ケンタ率いる音楽制作チーム・SCRAMBLESによるものだったという。松隈ケンタも来場しており、終演後、興奮冷めやらない観客でごった返すなかで会うことができた。

チームラボだけではなく、J-POPシーンを駆けあがるBiSHを手がけている松隈ケンタも今回のライヴに関わっていたことは、ザ・ぷーという存在の特異さを雄弁に物語っている。前述したように、ザ・ぷーは「音楽」と「演劇」というカテゴリーをまたいでいるために、ともすれば「わかりづらい」存在かもしれない。しかし、その「わかりづらさ」のなかで、ザ・ぷーはエッジを極限まで尖らせている。まだオーバーグラウンドでこそないが、アンダーグラウンドと呼ぶには規模が大きい存在でもあるザ・ぷーの今後が楽しみだ。

ザ・ぷーというすっかり気の抜けたような名前になったものの、それが逆に彼らの先鋭性を浮きあがらせていたのが「ザ・ぷー in チームラボジャングル」だった。

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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