寺嶋由芙×町あかり対談――20代の解釈で作ったカオスな演歌「終点、ワ・タ・シ。」

「天使のテレパシー」初回限定盤Bのジャケット。あくまでアイドルのCDである。

2017年3月22日にリリースされる寺嶋由芙のシングル「天使のテレパシー」のカップリング曲「終点、ワ・タ・シ。」は不思議な楽曲だ。演歌といえば演歌なのだが、歌っているのは寺嶋由芙というアイドル。タイトル曲の「天使のテレパシー」は1980年代の香りもするポップスなのに、カップリングの「終点、ワ・タ・シ。」は突然の演歌なのだ。

また、作詞作曲を担当した町あかりは、1970~1980年代の歌謡曲を愛するシンガーソングライターとして知られているが、一般的な「演歌」を作っているイメージはない。さらに編曲の宮野弦士になると、多くの楽曲を手がけている「フィロソフィーのダンス」でのファンキーなサウンドのイメージが強く、演歌の編曲を担当したことに少なからず驚いた。

この20代の3人を中心として生まれた演歌「終点、ワ・タ・シ。」は、パスティーシュのようでいて、演歌というジャンルへの批評性をも感じさせる。そもそもサウンド・プロデューサーは、これまでウルフルズ、氣志團、ナンバーガール、Base Ball Bear、相対性理論などを世に送りだしてきた加茂啓太郎。一筋縄でいくわけがないのだ。

当の寺嶋由芙と町あかりは、そんな「終点、ワ・タ・シ。」をいかにして生みだしたのだろうか? じっくり話すのは実は初めてだというふたりに語ってもらった。

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寺嶋由芙

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町あかり

町あかりから見た寺嶋由芙は1970年代前半~半ばのイメージ

――おふたりはもともと面識はあったのでしょうか?

寺嶋由芙 共演はしたことがあります。

町あかり ライヴで対バンしましたね。

寺嶋由芙 そのときは、もぐらたたき(町あかりの『もぐらたたきのような人』でのパフォーマンス)が強烈でした(笑)。

町あかり 出番が続いていたんですよね。私もお客さんも転換がないイベントに慣れてなくて、私のステージの最後でお客さんが紙テープを投げてくれたら、すぐにゆふちゃんの出番で申し訳なくて……(笑)。

寺嶋由芙 でも、普通にやりましたよ。華やかでいいな、って(笑)。

――おふたりとも同い年で、しかも2010年に活動をスタート、2015年にメジャー・デビューとタイミングが重なっているんですよね。

町あかり 言われて気づきました。高校を卒業して大学で活動を始めようとしたのが一緒なんじゃないかな? 高校生のときから歌を作ってデモテープをいろんなところに送っていたら、卒業直前に今の事務所にデモテープが届いて「面白いね、ライヴハウスで歌ってみたら?」と声をかけてもらって、2010年から活動を始めました。

寺嶋由芙 私は高校生のときはモーニング娘。のオーディションを受けても全然ダメで、大学生になって自分でアイドルをやろうとSNSで作曲家さんを探したんです。それで花小金井のライヴハウスで歌ったりしていたんですけど、上の階がそろばん教室で、授業が終わるまで音が出せなかったりしました(笑)。

――町さんから見て、「古き良き時代から来ました」というキャッチコピーの寺嶋さんの時代設定はいつ頃に見えますか?

町あかり パッと見た感じだと、麻丘めぐみさん。姫カットだからかな? 私の単純なイメージですけど、80年代は過激なイメージもあるから、70年代前半か半ばの温かいイメージがします。

寺嶋由芙 そんなに時代設定にはこだわってないんです。松田聖子さん風と言っていただけると80年代風かなと思うけど、麻丘めぐみさんと言っていただけることもあるし。「アイドルと言ったらソロアイドルだったあの頃」ぐらいの認識しか私にもないし、私のヲタクも昭和に詳しい人ばかりではないので、「アイドルってソロでかわいい衣装を着て手袋をして歌ってるよね」というイメージの方に、懐かしい感じが伝わればいいなと思っています。

町あかり (寺嶋由芙の衣装を見て)衣装感があってかわいい、手首のところがすごく!

――おふたりの「古き良き時代」の好きな歌謡曲を教えていただけますでしょうか。

寺嶋由芙 なんだろ? 曲調をオマージュしているのは松田聖子さんなんですけど、中森明菜さんの影がある感じも好きで、「ミスiD」(寺嶋由芙が2013年に受けたオーディション)の最終審査では「DESIRE-情熱-」を歌いました。「明るく楽しい感じは伝わるけど影のほうも見たい。ハッピーな方向だけじゃないことを大事にしたほうがいいよ」と審査員の方に言われて「明菜ちゃんを歌おう!」と思ったんです。

町あかり 実は岩崎宏美さんが大好きなんです。音楽に興味を持った中高生のときに好きになって、難しいけどカラオケで頑張って歌ってたんです。

寺嶋由芙 お母さんの影響? 懐メロと出会うきっかけって、私は親しかなかったから。

町あかり 親も別に岩崎宏美さんを聴いてなかったんですけど、私が懐メロ番組を見て「岩崎宏美さん、松田聖子さん、キャンディーズがかわいい!」って突然感じて。

寺嶋由芙 ピピピっとですね!

――寺嶋さんはさりげなくワンマンライヴ(2017年3月26日開催の『ピピピっのレッツぐる~ヴ』)の宣伝を入れてきましたね(笑)。演歌で好きな楽曲はありますか?

町あかり 「これが演歌、これがポップス」と区別して聴くことはないですけど、YouTubeで貴重な資料として「夜のヒットスタジオ」を見て、五木ひろしさんを好きになった感じですね。「夜空」とか「待っている女」とか。

寺嶋由芙 私は坂本冬美さんが好きです。中澤ゆうこ(中澤裕子)さんが歌った演歌がハロー!プロジェクトのオムニバスアルバムに入っていたのでカラオケで歌ったら祖父母が喜んだんですよ。中高生のときはおばあちゃんとカラオケに行くことが多くて、「カラスの女房」や「純情行進曲」を歌っていて、「もうちょっと覚えよう」と石川さゆりさんの「津軽海峡・冬景色」や坂本冬美さんの「夜桜お七」も歌っていました。演歌って歌詞がいいじゃないですか? 特に「夜桜お七」や「天城越え」とか、情念がこもっていて。中学生の頃かな、おばあちゃんと坂本冬美さんのコンサートに行ったら、かっこよくて衝撃を受けて、でも演歌を志すことはなくて。だから今回、こうして演歌を歌える機会をいただけて、おばあちゃんが喜ぶ!

――町さんは寺嶋さんについて「なんて信頼できるアイドルなんだ」とツイートされていましたが、そう思ったのはどういう点でしょうか?

町あかり どなたかに曲を書くときには、その方についていっぱい調べるんです。ブログを読んだり、画像検索をしたり。ゆふちゃんのブログを読んでいて「すべての振る舞いが信頼できる!」と思って、勢いで書いちゃいました。図々しいんですが……。

寺嶋由芙 へへ! 最近そういうことを言っていただくことがヲタク側からも多くて、推しについて相談されるんです。私には何もできないんですけど(笑)。

町あかり すごいことだな(笑)。

寺嶋由芙 答えられないですよね、「彼女と別れそう」とか(笑)。

町あかり でも、ゆふちゃんに相談したくなる気持ちはわかります。

寺嶋由芙 淡路島(2016年5月27日~29日に開催された『ガールズ・ポップ・フェスティバル in 淡路島』)以降に増えましたね。なんとかしてくれると思われているのかな、光栄だけどプレッシャーですね(笑)。

「終点、ワ・タ・シ。」の原曲は「終点、ゆっふぃー。」

――そもそも、今回なぜ演歌というアイデアが出てきたのですか?

寺嶋由芙 たぶん「わたしになる」(寺嶋由芙の2016年のアルバム)のインタビューのときに、「せっかくテイチクさんに移籍したから演歌も歌いたいです」と言ったのをどなたかが覚えていてくださったんです。「わたしになる」が新境地だったので、次は「テイチクさんに移籍したぞ」とみんなに知ってもらえるサウンドにしようとして、「じゃあ演歌」となりました(笑)。

――町さんは演歌というオーダーを受けて戸惑いはありませんでしたか?

町あかり でも、演歌っぽいものって「決まりもの」じゃないですか? 演歌はよくわからないんですけど、型があるから、なんとなく作るよりもわかりやすくて楽しそうだと思いました。

寺嶋由芙 加茂さんから突然の演歌オーダーが(笑)。

町あかり 大変でした、加茂さん(笑)。

寺嶋由芙 すいません、うちの加茂さんが(笑)。歌詞が大変で、何回も書き直してくださったんです。最初は「終点、ゆっふぃー。」(『ゆっふぃー』は寺嶋由芙の愛称)だったんです。

町あかり 私はそうしたかったんです。

寺嶋由芙 そうなると私以外の人が歌えないので、「歌い手が終点」として成立するようにしていただいたんです。

町あかり その理由を聞いてすごく納得しました。「終点、ゆっふぃー。」とはメロディーもめっちゃ変えましたね。

――実際に「アイドルが歌う演歌」を作ってみていかがでしたか?

町あかり 別にそんなに不安に感じるところはなくて。ゆふちゃんがいい感じに歌ってくれると信頼できましたから。でも演歌を歌うのは難しいよね?

寺嶋由芙 大変でした。町さんのデモも良くて、懐の深さを勉強しました。歌のタメ方とか。

町あかり 自分でも演歌っぽくなるか試したんですよね。でも、最初は演歌というオーダーじゃなくて、「寺嶋由芙かもしれません」というお琴が入っている曲を書いたんですよ。でも、「すごく演歌のほうがいい」という話になったんですよね。

寺嶋由芙 名前を入れるのはこだわりなんですか?

町あかり 「たまちゃん!ハーイ」(町あかりの姫乃たまへの提供曲)とか、名前を入れるのが好きで、ゆふちゃんにもしたいとすごく思ったんです。

寺嶋由芙 次作ではあるかもしれません! 「終点、ゆっふぃー。」からは演歌の路線にガラッと変わりましたね。しかも、翌日が本番のレコーディングなのに、ギリギリのなかでもスタジオに来てくださって。サンリオの服で来てくださって意識が高くて(笑)。

町あかり タキシードサムくんを着て行きました(笑)。ゆふちゃんが好きなポムポムプリンくんともぽっちゃり仲間だから(笑)。

――「演歌」の定義も曖昧ですよね。演歌といえばマイナー・キーのイメージがありますが、町あかりさんがYouTubeで歌っていた細川たかしさんの「北酒場」や新沼謙治さんの「嫁に来ないか」は、メジャー・キーで明るいですし。

町あかり メジャーかマイナーかは気にしてなかったけど、加茂さんに「マイナーにしてください」と言われたからそうしたのかな?

寺嶋由芙 「寺嶋由芙かもしれません」はメジャーで明るかったですよね。

町あかり それを「マイナー・キーでド演歌にしてください」ってリクエストされて。

寺嶋由芙 「最初に言ってよ」って感じですよね(笑)。

町あかり 大丈夫です(笑)。あまり深く考えずに普通に作りました。

寺嶋由芙 でも、私の現場では「終点、ワ・タ・シ。」がすごい秘密兵器です。対バンのイベントで歌ってもざわめきますね(笑)。気持ちいいです(笑)。

町あかり やばい(笑)。

寺嶋由芙 いつも来てくれる人は「日本一!」とか言ってくれます(笑)。

町あかり いったいどうなってるんだろ?(笑)

我々なりの解釈で演歌を作りましたがいかがでしょうか

――宮野さんのアレンジを聴いていかがでしたか? 宮野さんも演歌畑の人ではまったくないですし。

町あかり そうですよね(笑)。細かいところまで含めてすごいですよね。

寺嶋由芙 本当は、宮野さんが北海道まで行って、電車の音を生で録らなきゃいけなかったんです(笑)。

町あかり なんだそりゃ(笑)。デモの段階で私がいっぱい効果音を入れたんです、「プルルルル」とか「ガタンガタンガタン」とか。

寺嶋由芙 それを宮野さんがまとめてくれて、(川嶋)志乃舞ちゃんの三味線が入って、コーラスも入って!

町あかり ムード歌謡みたいでゴチャゴチャ(笑)。

寺嶋由芙 演歌をリアルタイムで聴いて育ったり、仕事で作ったりしてない人が作っているから、カオスな感じがあって面白いんじゃないかと思います。

町あかり おっしゃる通りだと思います(笑)。

寺嶋由芙 我々なりの解釈で演歌を作りましたがいかがでしょうか、って(笑)。

町あかり わからないなりに頑張った(笑)。

寺嶋由芙 わからないなりだからこそ、「演歌ってこういうものだよね」とみんなが感じるものを詰めましたね。

町あかり ゆふちゃんのサビの歌い方がめっちゃ良くて。YouTubeで見たら、すごく力がこもっていて。

寺嶋由芙 へへ、ほめられた。宮野さんがコブシの回し方を検索して調べてくれたおかげです(笑)。

町あかり そんな方法があるんだ(笑)。

寺嶋由芙 私に専門的な技術があるわけではないけれど、演歌を好きな方が聴いたときに「あ、演歌だな」と思ってもらえるようにしました。

町あかり めっちゃ「いい!」と思いました。

寺嶋由芙 メロディーの良さがあってこそです!

――川嶋志乃舞さんが三味線を弾いていますが、町さんは三味線が入った楽曲は初めてでしょうか?

町あかり あんなにがっつり三味線が入っているのは初めてですね。めちゃくちゃかっこいい。

寺嶋由芙 生ですしね。

――コーラスアレンジは芦沢和則さんが担当していますが、演歌は自分でコーラスを入れないそうですね。

寺嶋由芙 芦沢さんは加茂さんの御学友だそうで、音楽のお仕事をされている方なんです。芦沢さんがコーラスアレンジをして、いくつか素材を録ってくださって、後で宮野さんが組み立ててくれて。いつもはレコーディングのときにハモりも録るけど、それがなくて衝撃でした。いつもハモりで苦労していたから。

町あかり たしかにないのか?

寺嶋由芙 演歌の方々は、基本的に音に対して自分の声一本でやっていてすごいですよね。日本の伝統芸という感じで。

――歌詞では、現場に来るファンや去るファンをしっかり描いていますよね。ライヴでは、寺嶋さんが現場にあまり来ないファンを見ながら歌ったりしていて。

町あかり マジで!?(笑)。

寺嶋由芙 「あなたですよ?」って見ながら(笑)。現場の出席率が上がるように(笑)。振り付けがないぶん、「あれやりたい、これやりたい」とすぐに思い浮かびました。

――原曲の「終点、ゆっふぃー。」から「終点」というキーワードは変わらなかったんですね。

町あかり ゆふちゃんが「終着駅」だというイメージにしたくて。

寺嶋由芙 私は「ヲタクの墓場」と言われるから、「終着駅」ときれいに言ってもらえてありがたいです(笑)。

町あかり 「ヲタクの墓場」と言われていたことは知らなくて。知っていたら墓場に引きずられていたかも(笑)。勝手に「安定のゆっふぃー」と思っていて、自然に「終着駅」が出てきたんです。

寺嶋由芙 墓場に引きずりこまなくて良かった(笑)。

――町さんから見て、今後寺嶋さんはどんな楽曲を歌うと面白そうだと思いますか?

町あかり なんでしょうね……?

寺嶋由芙 今回振りきったので、次の秘密兵器は作るべきなのかどうなのかと。今、「ゆるキャラ舞踏会」(アルバム『わたしになる』収録曲)と「終点、ワ・タ・シ。」が二大飛び道具になっているので(笑)。

町あかり こだわるけど、麻丘めぐみさんっぽいのはどうですか?

寺嶋由芙 「わたしの彼は左きき」ぐらいのインパクトが欲しいけど、私の彼はなんだったらいいんだろ(笑)。

町あかり じゃあ明菜ちゃんみたいな雰囲気の歌は?

寺嶋由芙 セクシーな感じでせつない曲がないので、大人っぽい失恋ソングはやってみたいです。

町あかり 書かせていただけるならいくらでも。詳しいと言えば詳しいので。

寺嶋由芙 またライヴでもご一緒したいですね。私の握手会に「町あかり被害者の会」の方がすごく来てくださるので。

町あかり 私のライヴにも「ゆっふぃーのヲタクの者です」と来てくれましたよ。自分のことのように「ありがとうございます」って。

寺嶋由芙 仕事みたいな(笑)。お互いそういうヲタクに恵まれているので(笑)。

町あかり だから一緒にライヴをやると喜んでくれる方がいっぱいいると思います!

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