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ファフ・デクラーク来日で旧友を「イラつかせる」宣言。大物来日の意味は。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
日本大会では3度目の世界一に輝いた(写真:ロイター/アフロ)

 あの時は、ラグビーファンならずともこのラグビーマンの姿を認識していたのではないか。

 ファフ・デクラーク。2019年のラグビーワールドカップ日本大会で優勝した南アフリカ代表のスクラムハーフは、2022年7月20日、日本の横浜キヤノンイーグルスの入団会見に出た。今年12月以降は、国内のリーグワンで戦う。

「イーグルスを世界でもベストチームと言われるような存在にしていきたい。コーチ、スタッフが一丸となればそれができる。プレー面だけではなく、色んな意味で若手、国民の皆様にいい影響を与えたいとも思っています」

左から永友氏、デクラーク(筆者撮影)
左から永友氏、デクラーク(筆者撮影)

 身長172センチ、体重88キロの30歳。代表戦への出場数を示すキャップは38。この国で広く認知されたのは、日本大会の時だろう。

 決勝トーナメントの準々決勝で、初の8強入りを果たしたばかりの日本代表と対戦。列島に未曽有のラグビーブームが巻き起こるなか、対戦国の主力であるデクラークは地上波で何度も紹介された。

 試合は南アフリカ代表が勝った。26―3。デクラークは強気の仕掛け、タフな防御を披露した。

 今回は初めて国内リーグに参戦する。イーグルスで就任3季目に突入した沢木敬介監督は、こう期待する。

「ラグビーに対する取り組み、プロフェッショナルな姿がチームのロールモデル(手本)になる」

 契約年数は非公開。ただし永友洋司ゼネラルマネージャーは、複数年のコミットを希望する。

「未来の子どもたちに夢を与えることを、各チームが目指している。デクラーク選手にはその中心となって欲しいです」

 今度の会見は、日本大会の決勝が実施された神奈川・横浜国際総合競技場内の一室でおこなわれた。その様子は、観客席に座る約800名のファンも大画面で観られた。会見後はグラウンド上で、本人参加のトークショーが開催されたのだ。

 会見にはデクラーク、沢木、永友が出席した。さらにデクラークは、画面に映らない場所でも囲み取材に対応。報道陣とソーシャルディタンスを保ちながら、朗らかに話した。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(会見、囲み取材を含む。編集箇所あり)。

――イーグルスの本拠地である横浜の印象は。

「ワールドカップ期間中に多くの時間を過ごした街。刺激的で色んなお店やレストランがある。日本の文化にいち早く溶け込みたい。

 リーグワンで展開されるラグビーは非常にわくわくするもの。ランがあり、動く。自分としても楽しみにしている。日本のリーグのスタンダードは高くなっているし、若手も育っている。ラグビーの成長を感じられるので、私もここで力を発揮してチームに貢献したい。日本の将来のためにも頑張りたいです」

――日本およびイーグルスでプレーすると決めたわけは。

「ワールドカップの時に約10週間、滞在し、日本を気に入りました。ここでなら何年か、プレーできると思っていました。また、日本でプレーする南アフリカの選手が、日本でのプレーや生活を楽しんでいると聞いた。それも大きなポイントでした

 新たなチャレンジがしたい気持ちもありました。私は2017年から、イングランドのセール・シャークスに在籍しました。居心地がいいところにとどまると成長が止まる。さらに成長するためにも、ビッグチャレンジがしたかった。

 チームを選ぶ時には、過去の成績を見ます。イーグルスはめまぐるしく成長を遂げていると感じました(後述)。友人のジェシー・クリエル(もともとイーグルスに在籍する南アフリカ代表選手)からもいい話を聞いていました。住まい、コーチ陣、スタッフと、すごくいいと聞きました」

――ワールドカップフランス大会は2023年に開かれます。大会前年に生活環境が変わることへの不安は。

「不安はないと思いたいです。日本でプレーする南アフリカ代表の選手は、日本の環境のもとでもいいプレーさえすればそれを首脳陣に見てもらい、代表に選ばれている。リーグワンの競技力、競争力が高まるからこそ、選手たちはいいプレーができる。それを(代表側に)評価してもらえている。一番の問題は、自分がいいプレーができなくなること。そうなれば修正しなければいけないが、いいプレーができていればまた代表に選んでもらえるはずです」

――目標は。

「まずはしっかりとチームになじまないといけない。選手の顔、名前、特性、個性を自分から学び、適応したい。イーグルスは見ていてわくわくするラグビーを展開しているので、自分も早くその一員になって、プレーに専念したい」

――対戦が楽しみな選手は。

「他のチームのすべての選手を把握しているわけではないですが、南アフリカ代表の選手と対戦するのは楽しみです。私が得意な、相手をイラつかせるプレーをしたいです。特に仲のいいマルコム・マークス選手(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ所属)にたくさん嫌がらせをして、キレさせたいなと思っています!」

――これまで、南アフリカ人選手が数多く来日している。なぜか。

「選手たちが共通して言うのは、ファンの皆様の応援が温かいこと。以前いた欧州ではシーズンの成績次第で観客の方からきついことを言われます。ただ日本では、勝敗がどうであれ観客の皆様が楽しんでいてくれる。かつ、コーチも信頼して起用してくれる。また、欧州や南アフリカよりも試合数が少ないので、コンディションを維持しやすい。元気な状態で長く過ごせるのも魅力的です。文化を含めて日本が大好きになり、再契約の決断をした選手が多いと聞いています」

 現在、リーグワンにあっては試合数の少なさが課題となっていた。若手選手の出場機会を担保すべく、カップ戦のような大会も作るべきではと議論されている。

 しかし海外のトップ選手にとっては、その試合数の少なさがメリットに映るのかもしれない。

 デクラークはこうも意気込む。

「日本ではまだプレーしていないので何とも言えませんが、スキルはさらに上げていきたい。テストマッチ(代表戦)ではキックが多くなると思いますが、日本ではアタックのチャンスが増えそう。パス力、チャンスを見極める力、集中力を高め、持っているスキルを発揮し、チームに貢献したいです。それができれば、テストマッチでも活かせます。自分は完ぺきな人間だと思っていないし、常に改善できるところがある。リーグ期間中に自分のスキルを伸ばしていくことを楽しみにしています」

――日本はハイテンポなラグビーを志向する。かたや南アフリカ代表はスローテンポで、フィジカリティ勝負が多い。来年のワールドカップフランス大会に向け、異なるスタイルを両立するのは難しくないか。

「そうは思いません。(母国で所属先としていた)ライオンズなどでも、日本のようにランプレーを主体としていました。私は、いまではキックの多いスクラムハーフだと思われていますが、もともとはよくランをするアタッキングスクラムハーフとして知られてきました。

(キック主体とアタック主体という)両方のラグビースタイルを体現すること、チームが必要とするものに適応することが大事。(キックが多い)南アフリカ代表も、チャンスがあればどんどんボールを回します。私はいつ何時でも、どちらのスタイルにも適応したい。その資質を日本で培いたいです」

――自身の強みは。

「タックルが好き。アタック面ではしっかりとゲームスピードをアップさせ、周りの選手にチャンスを作る。周りの選手が目立つということは、自分もいいプレーができたということ。それを見せていきたい」

 イーグルスは進化の途上にある。2018年の旧トップリーグでは16チーム中12位と低迷も、2021年の同リーグラストシーズンでは2016年度以来の8強入りを果たした。

 今季のリーグワン1部では、12チーム中6位。一時はプレーオフ進出圏内にあたる4位へ躍り出ていた。

 その頃から検討されていたのが、今季からのデクラーク加入である。近年の成績アップを支えた沢木監督も、今回の件が正式に決まる前からこう示唆していた。

「(デクラークは)日本に来たら、盛り上がるんじゃないですか」

「いまのウチには、本当に代表でバリバリに活躍している選手がひとり、必要なのかな、とは思います」

「圧倒的にパフォーマンスが違うと思うんです、そういう選手って。チームにいいエナジーを与える。それでまた、外国人のなかでも競争が生まれる。いい刺激になる」

 イーグルスは、プラン通りにデクラークを迎え入れたと言える。ここから注目されるのは、デクラークの獲得が結果に繋がるかだ。

 日本ラグビー界には、各国代表の大物が相次ぎ加入してきた。ただし、それが所属クラブの目標達成にどれだけ関わるかはケースバイケースだ。

 直近の成功例では、2018年度のダン・カーターが挙げられるか。

ボールを持つのがカーター
ボールを持つのがカーター写真:西村尚己/アフロスポーツ

 神戸製鋼コベルコスティーラーズ(当時)に加わり1年目で、15シーズンぶりのトップリーグ制覇を達成。しかし内部では、当時就任したてのウェイン・スミス総監督を最大の功労者とする声が大きかった。

 元ニュージーランド代表アシスタントコーチのスミスは、クラブの文化と戦法を最適化。カーターら海外選手のリクルートにも深く関わっていた。

写真左がスミス
写真左がスミス写真:ロイター/アフロ

 イーグルスの沢木監督は、日本代表のコーチングコーディネーターとして2015年のワールドカップイングランド大会で歴史的3勝。2016年度からの3季は、サントリーサンゴリアス(当時)の指揮官を務めてトップリーグで2度、優勝した。

沢木監督
沢木監督写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 サンゴリアス時代は、ジョージ・スミスらオーストラリア代表歴のあるレジェンドを重用していた。ただし本当の勝因は、練習強度を高めて献身の文化を植え付けたことと見られていた。

 今回、ビッグネーム加入を目標の「ベスト4入り」に結びつけるには何をすべきか。

 そう問われた指揮官は、デクラークの存在が周囲を変えるだろうと話した。

「これで絶対にイーグルスの注目度は上がる。そこで他の選手も注目され、頑張る。そこで、いいコンペティション(競争)が生まれる。注目度が上がり、チームの皆がハングリーな気持ちを抱くこと。そこが、一番、大事なところだと思います。彼はチームの戦術にもすぐに対応すると思うし、彼の強みを戦術に採り入れなきゃいけない部分もあります」

 別な問いにはこう応じる。

「本当の一流選手は(周りの)選手が、コーチが、環境が変わっても対応し、力を発揮できる。彼(デクラーク)もそう。うちのスタイルにもすぐにフィットすると思います。あとはワールドカップで優勝しているチームの一員ですし、ウイニングカルチャーを知っていると思うんですよ。彼のプレーを見ていても常にアグレッシブで、クレバー。勝つために必要なものを皆に伝えてくれる」

 関係者によると、デクラークはこの日のために20日に来日。22日に日本を離れ、8月には南アフリカ代表の一員としてラグビーチャンピオンシップ(南半球の強豪国による対抗戦)に挑む。

 その後、イーグルスへ一時的に合流し、再び隊列を抜ける予定。秋の代表戦にも臨む見込みだ。

 予定通りなら、デクラークの本格的な合流は11月下旬以降か。今季のリーグワンの開幕が12月中旬頃と想定されるなか、急ピッチでの調整が求められる。

 デクラークは、自身の加入を価値あるものにしたいと強調する。

「もちろん私が若手から学ぶこともありますが、まず、若手に自分の培ってきた経験を伝えたい。口でいくら言っても伝わらないので、行動で示す。自分から率先する。

 うまくいっていない時、苦戦している時に、それをどう乗り越えるか。そこについては、様々な経験をもとに伝えられます。これまで一緒にいた選手、コーチから多くを学んできたので、それをイーグルスに還元したいです」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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