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「世界のコロナ対応は変わっている」。日本代表・藤井雄一郎NTDが理解求める【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
7月9日の国立競技場。マスク姿のファンがスタンドを埋める。(写真:松尾/アフロスポーツ)

 ラグビー日本代表は7月9日までに、「リポビタンDチャレンジカップ2022」とされた今夏のテストマッチ(代表戦)全4試合を終えた。

 最終戦ではフランス代表に15―20と惜敗。一夜明けた10日、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチと親交の深い藤井雄一郎ナショナルチームディレクター(NTD)がオンラインで会見した。

オンライン会見は10日9時から約17分間にわたっておこなわれた(スクリーンショットは筆者制作)
オンライン会見は10日9時から約17分間にわたっておこなわれた(スクリーンショットは筆者制作)

 チームは6月下旬以降、新型コロナウイルスの陽性者を発生させていた。苦難に直面しながら、テストマッチを2勝2敗としていた。

 この日の藤井NTDは試合の所感、今夏の目標だった選手層拡大への手ごたえを述懐。さらには、ウイルス禍との向き合い方について見解を示した。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「NDS(ナショナルディベロップメントスコッド=代表予備軍)の別府合宿から2チーム制で始まり(代表本隊は宮崎で始動)、トンガ(出身者ら)との慈善試合、ウルグアイ代表との2試合を重ねて、フランス代表とも試合をした。途中、コロナに感染して何人かの選手が離脱したんですが、何とか、昨日、試合ができた。勝つことはできなかったですが、若い選手も試合に出られました。いいシーズンだったと思います」

 非テストマッチを含めた今夏の戦績は、以下の通り。

6月11日 EMERGING BLOSSOMS×TONGA SAMURAI XV(東京・秩父宮ラグビー場) 〇31―12

6月18日 ウルグアイ代表戦(秩父宮) 〇34―15

6月25日 ウルグアイ代表戦(福岡・ミクニワールドスタジアム北九州) 〇43―7

7月2日 フランス代表戦(愛知・豊田スタジアム) ●23―42

7月9日 フランス代表戦(東京・国立競技場) ●15―20

 上のふたつはNDS主体のメンバーで、下のみっつは代表本隊が軸となって臨んだ。

 2020年に活動ができなかった日本代表。23年のワールドカップフランス大会に向け、選手層の拡大を急務とする。

 そのため6月上旬から中旬は日本代表、NDSがふたてに分かれて活動し、19日以降は代表本隊がNDSの一部選手を昇格させて動いた。

――若手の経験値は。

「今回、NDSを含め、初キャップ((代表戦デビュー)の選手がたくさん出た。テストマッチとリーグワンがどれくらい違うかを、ウルグアイ代表との試合でも経験できた。どの選手がどれくらいのパフォーマンスができるかというのもわかった」

 NDS組で代表デビューを果たしたのは、ロックの辻雄康。11日の慈善試合で活躍するや、他選手に先んじて代表本隊に合流。フランス代表との最終戦で途中出場を果たした。

慈善試合でプレーする辻
慈善試合でプレーする辻写真:つのだよしお/アフロ

 国内リーグワンで新人賞を受賞したばかりのウイング、根塚洸雅は、18日のウルグアイ代表戦で初キャップを得た。

根塚は国際舞台でも自慢の走力と運動量をアピール
根塚は国際舞台でも自慢の走力と運動量をアピール写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 さらに司令塔のスタンドオフでは、27歳の山沢拓也、21歳の李承信がそれぞれ1試合、3試合に出場した。

埼玉パナソニックワイルドナイツ所属の山沢。フランス代表戦シリーズは陽性判定のため回避(写真提供=日本ラグビーフットボール協会)
埼玉パナソニックワイルドナイツ所属の山沢。フランス代表戦シリーズは陽性判定のため回避(写真提供=日本ラグビーフットボール協会)

李は長短のパス、絶妙なキック、好判断をアピール。
李は長短のパス、絶妙なキック、好判断をアピール。写真:松尾/アフロスポーツ

 特に今季初代表の李は、対フランス代表2連戦の両方で先発した。

 藤井NTDはこうも言う。

「スタンドオフでは山沢(拓也)、李(承信)も試合に出られました。計算できる選手になっていくんじゃないかと思います」

「最後は『とにかく試合ができたらええ』みたいな感じ。若い選手がいいプレッシャーのなかでできたのはよかった。ジェイミーも同じことを思っていると思います。スタンドオフに厚みができたのは収穫だと思います」

――逆に、さらなる発掘が求められるポジションについては。

「今後、日本のラグビー界で数が少なくなるであろうロックのポジション。またどのポジションでも、スピードのある選手がもうひとり――福岡堅樹に代わるような選手ですよね――出てきてくれればいいかなと」

――ここからは技術的な総括です。今回、5試合中3試合で反則数が2桁にのぼりました。

「受けに回った時、反則がちょろちょろと出ていた。ひとつの反則で流れが変わることを選手はわかっているんですけど…。昨日のレフリーもどうかと思うところがたくさんあるのですが、どうしてもティア1勝負になると、特に順位が離れるほど、レフリーにもプレッシャーがかかる。完全にトライならトライ、反則ならどう見ても反則じゃないというプレーを続けていって、勝利しないといけない。アウェーだともっとプレッシャーがかかる。その意味では、それがティア1とやる時のレフリングかなと」

――今後、国内のレフリーに代表側から注文は。

「ルール自体は一緒なのですが、解釈(が異なる場合がある)。レフリー自体に問題はないですが、それぞれをどうコーチングするかで海外と差がある。スクラムの組んだ後のことなど…。今回の合宿にも何名かのレフリーが参加。こちらからも呼んだりしている。少しずつ改善していけると思います」

 選手層の拡大や課題の抽出を前向きに捉える格好か。さらに9日の試合には、公式で57011人の観衆が集まった。

写真:松尾/アフロスポーツ

 以後、さらなる機運向上を図りたいところだ。

「選手のモチベーションはお客さんに応援してもらうこと。ファンのためにやっているので、高いモチベーションのなかで最後までできた。自分たちは勝つことでファンを増やしていく。広報がどう売り込んでいくか(を考える)。お互いに協力しながらやっていくしかない」

 その意味では、検討課題もあった。会見ではかようなやりとりもあった。

――今回はメディア対応が少ない印象。昨春にあった全選手のオンライン取材がないうえ、個別取材の申請もなかなか通りにくかった。理由はあったのか。

「特に理由はないんですけど、ちょっとコロナが出るなどして選手の出入りは厳しくなった。最後の方はそうなったかもしれないですが。今後は多くしていきたい」

 確かに6月3日から約1か月間に及ぶ宮崎合宿中、練習が公開されたのは6、8、15日の3日のみ。フランス代表戦の直前期も、相手が週に1~2度おこなっていた練習公開を日本代表は実施していなかった。

 ここからは感染症に関する問いへの質疑。ここでは、藤井のほうがメディアに理解を求めた。

――キャンプ中に新型コロナウイルスの陽性判定が出た。それをどう受け止めるか。今後の対応策は。

「合宿(先)には、他のお客さんもいっぱい入っています。逆に言えば、いままでなかったのが奇跡に近い状況だった。今回は、出たらどうするかのプロトコルに従った。途中、厳しい状況にありましたが、試合もできました。選手もスタッフも頑張ったと思います。

日本はコロナに対する報道も昔からほとんど変わってないんですよね。ただ世界のコロナへの対応は、スポーツ界でも変わっています。

取材ができなくなったのも、メディアの過剰な反応に選手があっち行ったり、こっち行ったりするのが嫌だったので、少し対応を減らしたんですけど。

これは、スポーツ界全部で変わっていくしかない。今回、ラグビー界が新しい取り組みをして試合ができました。重症化もしない(と言われる)し、感染症の先生と密に連絡を取りながらやっていて、私たち素人が勝手にやっていることではない。極力、試合を止めないようにしていく動きに変わっていっているというのが、世界の状況。それをもう少し、メディアの方にもわかっていただきたいと思いますけど」

――公式発表者以外の離脱者は。

「感染症の先生は、『抗原検査で陰性の場合は練習も試合もしていい』と。隔離して、熱が下がれば…という形をとっていました。チームから完全に離れた選手は離脱と発表したんですが、そうでないちょっと調子の悪い選手は隔離をしながら戻れる日を待っていたということです」

 チームはこのまま解散し、8月まで各々の時間を過ごす。再始動は9月上旬からで、11月にはイングランド代表、フランス代表とのテストマッチを控える。

「今回のように完全にチームを分けて、とはしないと思いますが、少しコーチの数を増やし、より細かいコーチングを若い選手に向けさせ、そのなかで競争を促したいと思っています。

大体、50名強くらいの選手でスタートしたい。

年齢のいく選手もいますし、それを追い抜きそうな若い選手もいるでしょうし。(競争が本格化するのは)いまからだと思います」

――「50人」には途中離脱した流大選手、不参加だった松田力也選手、松島幸太朗選手らも含まれますか。

「もちろんそうです」

――それ以外の選手を含め、復帰が待たれる全員がカムバックできると見てよいですか。

「選手によると思います」

今夏は怪我の治療もあり選外となった松島
今夏は怪我の治療もあり選外となった松島写真:REX/アフロ

 このように展望について聞かれる流れで、時折、表情を崩す。

――秋の試合日程について。リーチ マイケル選手がオーストラリア代表、ニュージーランド代表とのテストマッチがあると示唆していましたが。

「言ったらあかんと言われているので、なかなか言えないです」

――また、以前、検討していると話していた南半球でのツアーについては。

「上手に聞き出そうとしているんだと思いますけど、まだ決まってないので…」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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