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日本代表・稲垣啓太は、なぜオフロードパスをしたのか。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
昨年のブリティッシュ&アイリッシュライオンズ戦でもプレー(写真:ロイター/アフロ)

 反則厳禁。ラグビー日本代表の稲垣啓太は、常々そう口にする。

 だから反省しきりだ。

 6月25日、福岡・ミクニワールドスタジアム北九州。左プロップとして先発した、ウルグアイ代表戦の後半29分のことだ。

 腰を落として繰り出したタックルが、さらにしゃがみこんでいたボール保持者の首あたりにかかって「ハイタックル」と判定された。イエローカードをもらい、10分間の一時退場処分を食らった。

 チームにとっての実質的な初戦を43―7で制したものの、本人はこう述べる。

「反則は減らさないといけない(チームの反則数は15)。僕自身もシンビン(一時退場処分)になってしまった。相手の選手にも申し訳ないことをしましたし、チームにも迷惑をかけた。しっかり反省して、修正していきたいですね」

 もっとも試合全体を通せば、稲垣は圧巻のパフォーマンスを披露していた。

 前半7分頃にはハーフ線付近で好タックル。グラウンドの端側から内側へと折り返す相手の攻めを寸断し、すぐに起き上がる。その瞬間、味方のリーチ マイケル、ベン・ガンターがジャッカルに入ったことで、ペナルティーゴールを獲得。5点のリードを8点に広げる。

 身長186センチ、体重116キロで32歳の稲垣は、持ち場のスクラムで圧をかけながら、動きのなかでも存在感を示したのだ。それがかねての持ち味でもある。

 試合後のオンライン会見には、約2年7ぶりに代表復帰の堀江翔太と登壇した。

スクリーンショットは筆者制作
スクリーンショットは筆者制作

 6月3日に再出発したチームの現状に加え、自らの攻撃中のあの動きについても詳細に説いた。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――序盤は好調。

「最初の20分、ウルグアイはエナジーを持って仕掛けてくると話はしていたので、チームとしてどう入っていくのか、常に課題に挙げていきました。そのなかで準備したプレーを出して、それが先制トライに繋がりました。試合の入りとしてはよかったんじゃないですかね」

――スクラムの総括。

「マイボールスクラムがあればペナルティが取れる感触はあった。ただ、それがなかった。セットプレーが安定しているからこそ、味方がアタックでよりチャレンジできているんです(ミスでプレーが止まっても、相手ボールのスクラムに圧をかけられそうだとの意味か)。そして相手ボールのスクラムにプレッシャーをかけ続ける。それが今回のキーポイントでした。80分間通してスクラムで相手の脅威になったか。僕は、なったと思います」

――いまのチームの成長している点は。

「今回、選手の入れ替わりが多かったと思うんです。秋と比べ色んな選手と入れ替わりがありましたし、キャップ総数で言うと若いチームだった。ですが、早い段階でチームとしてのまとまりを感じています。正直、コネクションを取るのに時間がかかると思っていたのですが、それがすごく早くできていると実感します(6月3日に集合)。

 それはひとりひとりが何をやるべきかを理解しているからだと思います。もっとコネクションの取れる場を増やしていきたい。よりチームが強く結束できるように。まだ、考えて動いている段階だと思いますが、考えるよりも身体が動くのがベスト。それができるよう、コネクションを取り続ける必要も、その場を増やす必要もある。ですので、まだまだ伸びしろを感じます」

 さかのぼって2019年。ワールドカップ日本大会で、日本代表は初の8強入りを果たした。その折に流行語と化したプレーに、オフロードパスがあった。

 タックルされながらボールをつなぐ動きで、現体制のジャパンが段階的に身に付けていたスキルのひとつだった。当時の鮮やかなトライシーンには、多彩なオフロードパスが絡んでいる。

 当時、それを繰り出すことはなかった稲垣だが、この日は2本も妙技を成功させている。一時は自ら禁じ手としている節のあったオフロードパスを、有効なオプションに昇華させていた。

 まず後半4分。ハーフ線付近左中間で球をもらうや、倒れ込みながら左へパスを浮かせる。そこへ駆け込んだのは、インサイドセンターの梶村祐介。そのまま前進する。

 稲垣は続く19分にも、倒れながらのオフロードパスでビッグチャンスを生む。

 ここではスタンドオフの山沢拓也が、カウンターアタックから敵陣10メートル線付近でラックを形成する。

 接点から出た球は、4人一列となったフォワードのユニットを経由する。今度は、山沢に代わって司令塔の位置にいた梶村がキャッチ。防御を引き寄せながら、右側にあったもうひとつのユニットにさばく。

 それを受けたのは稲垣だ。タックラーにぶつかりながら、一緒にユニットを作っていたロックのジャック・コーネルセンへつなぐ。コーネルセンは人垣をすり抜け、約30メートル、ゲインする。

 ふたつのパスについて、稲垣自らが丁寧に解説する。

「(ひとつめの)あの場面。パスが少しずれたとしても(スペースのある)外へボールを運んだ方がいいと感じたので、梶村選手にオフロードパスをしました。もしうまいパスが通らなくても、スペース自体はあったのでゲインは切れたと思っていました。また自分が準備してきて、これはできると思ったので、投げました。

 2つめのジャック・コーネルセン選手へのパスの場面は、完全にスペースがクリアでしたし、しっかり準備していたプレーだったので問題なくできた。あのシチュエーションでも少しの不安があるなら放りませんが、あそこでは自信を持って放ることができた。準備してきた部分が、出せたということです」

 プレーを言語化する力は、仕事量と並んで日本トップクラス。国内きっての実力者は、7月2日、愛知・豊田スタジアムでフランス代表とぶつかる。25日にはこうも言ってきた。

「正直、フランス代表戦のことは考えてなかったです。ウルグアイ代表戦にどう取り組むべきか、どうやるべきかについて100パーセント、フォーカスしてきた」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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