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リーグワンベストフィフティーン&新人賞はファンも選べる。投票前に抑えたいこととは?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
初代トライ王のディラン・ライリー(写真:つのだよしお/アフロ)

※5月19日、一部修正いたしました。

 ラグビーのリーグワンは、初年度の年間投票にファンの意見を採り入れる。

 1月から5月まであったディビジョン1(1部)のリーグ戦のベストフィフティーン、新人賞のファン投票を、5月16日から20日の18時まで実施する。異例の取り組みが生むのは、「投票できる楽しみ」と「投票する責任」だ。

 国内最高峰のラグビーのリーグ戦は、前身のトップリーグから現行のリーグワンに新装開店。試合を開く権利にあたる主管権は、従来の日本ラグビーフットボール協会から一般社団法人ジャパンラグビーリーグワンに委譲された。加盟する計24チームは、自分たちでホストゲーム(本拠地開催)のチケットを販売し、地域とつながることが求められる。

 いわゆる「企業動員」がなくなった構造的な変化や昨今の社会情勢もあり、ディビジョン1のほとんどの試合で公式入場者数が4桁台と、集客には苦しんだか。

 もっとも複数のクラブはスタジアム演出、グッズの展開に趣向を凝らす。例えば埼玉ワイルドナイツは選手の名前入りのタオルを販売し、熊谷ラグビー場でのホストゲームにTRFのDJ KOOさんを招く。盛り上げる。同部の坂手淳史主将はこうだ。

「(ウォーミング)アップ中には音楽や拍手で何も聞こえないくらい。たくさんの方々が選手の名前入りのタオルを掲げていて、応援してくれていると感じます」

 リーグワンの各クラブは、これまでラグビー場に来ていない人を招く「0→1」の活動と同時に、一度ラグビーに興味を持った人を繋ぎとめる「1→2」の施策にも積極的。レギュラーシーズンが終わってから発表された「ファン投票」の取り組みも、その流れから生まれた。

 改めて、今回、実施されるのは、プレーオフ終了後の年間表彰式で表彰するディビジョン1のベストフィフティーン、新人賞のファン投票だ。投票権はひとつのGoogle アカウントにつき1回ずつだ。「有権者」は専用のQRコードかURLをアクセスし、有資格者のうちからそれぞれ選考する。

 投票権はディビジョン1のヘッドコーチ、主将、メディアにも与えられ、最終結果は識者からなる「ジャパンラグビーリーグワン表彰選考委員会」が決める。

 前身のトップリーグでは、最優秀新人賞はMVPとともにリーグ側が選定。ベストフィフティーンは、参加する各クラブの監督(ヘッドコーチ)、主将、メディアの投票で決まっていた。

 ところが今回は、リーグワンへの「模様替え」を受けて「ファンの意見を反映させるべき」という声が発生。最終的にはリーグ側が今回のプランを提案し、やがて理事会で採択された。

 調査によれば、プロ野球のベストナインやゴールデングラブは記者投票、Jリーグのベストイレブンは現場投票、バスケットボールのBリーグのベストファイブは記者投票と現場投票の総計で決まる。

 スタンドで、画面の前で熱戦を見守ってきたファンに選択権が与えられるのは、日本スポーツ界では珍しいケースと言える。SNS上でも喜びの声が沸いている。

 ただし繰り返せば、今度のファン投票は「投票できる楽しみ」と同時に「投票する責任」を生んでいる。

 振り返ればトップリーグ時代も、投票権を持たない現役の代表経験者が選考結果に首をかしげたシーンはいくつか散見された。

 このからくりの説明はひとまず控えるが(ご興味のある方は当欄過去記事を参照のこと)、とにかく、「ファン」であれば誰もが投票できる新システムのもとでは、現場の納得感、投票結果の正当性を保つのがより難しくなるのではないか。

「有権者」によっては贔屓筋のチームの選手を重点的に選んだり、プレーとは無関係なファンサービスの充実度を基準にしたりしかねないからだ。

 もしもリーグ側がかような偏愛ぶりを表彰に反映させたいのなら、既存の選考とは別に「ファン選考部門」を設置しているはずだ。

 ただし今回の投票では、チームが監督およびヘッドコーチ、主将の1票ずつで全体の50パーセントを担い、残る50パーセントのうち25パーセントずつをメディア、ファンが占める。

 最終審議に「選考委員会」が携われるとはいえ、ひとまず、上記4者が選んだ各ポジション1~3位の選手はそれぞれ同じポイントを得られる。現場で身体を張ったり、頭を使ったりしているパフォーマーにとっての「ベストプレーヤー」と、観戦者の総意としての「ベストプレーヤー」が等しい評価を受ける。

 自戒を込めて書き添える。

 少なくとも今回おこなわれているのは、「それぞれの推し選手の紹介」ではない。「優秀選手のセレクション」だ。こちらは切に認識されたい。

 あなたの愛するクラブを苦しめたボールハンターが、リーグ屈指の人気ランナーを簡単に走らせなかったチームの名黒子が、文句なしでリストアップされますよう。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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