リーグワン1部はレギュラーシーズン最終節にあって、今季最大級のトラブルに出くわした。5月7日の東京・秩父宮ラグビー場でのブラックラムズ対レッドハリケーンズの一戦が、キックオフの約100分前になって中止と発表されたのだ。

 詳細と背景は本稿以外で触れる。そのうえで言えるのは以下のふたつか。

 問題の直接的な要因は、両クラブとリーグ側とのコミュニケーション不足だ。でき上ったばかりの一般社団法人ジャパンラグビーリーグワンには、ヒューマンリソースの領域で課題がありそうだ。以上。

 だからといって、リーグ側をスケープゴートにすれば済むほど事は単純ではない、とも言える。これについても、別項での説明が必要だ。

 本稿では談話をひとつ、紹介する。

 ブラックラムズの西辻勤ゼネラルマネージャーは、後日、最後の不戦勝により12チーム中9位で終わったシーズンを公式ホームページ上で総括。文中にこう添えた。

<我々にとって最後のホストゲームであり、そしてレッドハリケーンズにとってもシーズンを締めくくるゲームであったことから、最後まで試合開催に向けた提案を行いました。ただ、クラブにとって選手は宝物です。選手の安全安心を担保できない試合を開催することはできませんでした>

 同部OBでもある西辻氏は、引退から約3年後の2012年にクラブのスタッフに着任していた。

 役職を変えながら、当時の課題であった選手とスタッフとの信頼関係の構築、クラブハウス内の風紀の見直しに尽力してきた。神鳥裕之前監督が規律遵守の方針を貫いてきたこともあり、タックル後の起き上がり、防御ラインへの素早い立ち戻りを、グラウンド上における看板商品に昇華できた。

 黒星が先行した今季、部内に漂う空気について問われれば、「これがいいのか悪いのか、雰囲気はいいんですよ。前向きに課題と向き合っている」との趣旨で述べた。その延長で絞った単語が、「クラブにとって選手は宝物」だった。

 選手が大事にされていると感じさせるチームとしては、スピアーズも挙げられる。

 2016年就任のフラン・ルディケヘッドコーチは「正直なフィードバック」を意識し、控え組とも積極的に対話。昨季は前身のトップリーグで初めて4強入りし、今季のリーグワン元年も第14節までに4チームによるプレーオフへの出場権を得た。

 ブラックラムズがトラブルに見舞われたのと同じ日には、ワイルドナイツに相対した。この日は埼玉・熊谷ラグビー場で、終盤に連続失点を喫した。14―35。ランクを2位から3位に落とす。

 攻めてはキック主体の試合運びに終始していた。向こうの看板たる防御をどう崩すつもりだったかと聞かれれば、スタンドオフの岸岡智樹はこう述べる。

「ワイルドナイツのディフェンスを崩し切るのは、他のチームにとってもなかなか難しい。チームとしてのフォーカスポインには『できるだけ戦うエリアを間違えない』があったのかなと」

 防御を崩す術を用意したというより、防御を崩さずとも勝つ方法を模索していたのだろうか。キックで相手にボールを渡してでもまずは陣地を獲得し、向こうの反則を機に自軍の強力フォワードに点を取ってもらう算段だったか。

 そもそも両軍は22日、秩父宮で再戦する。レギュラーシーズンの最終戦は、マストウィンの公式戦であると同時に大一番へのリハーサルでもあった。もしもスピアーズがワイルドナイツの防御を崩す策を練っていたとしても、この日に発動する必要性は薄かったのも確かだろう。「崩し切るのは難しい」が本音なのか建て前なのかは、当日の試合展開にも少なからぬ影響を与えうる。

 プレーオフでは戦法と同時に、顔ぶれの変化も見込まれる。

 スピアーズはこの日、スタンドオフのバーナード・フォーリー、センターのライアン・クロッティといった、それぞれオーストラリア、ニュージーランドの代表選手だった軸をグラウンドに立たせなかった。

 シーズン途中にけがをした南アフリカ代表フッカーのマルコム・マークスも、プレーオフからの復帰が期待されている。

 ルディケヘッドコーチはこうだ。

「(欠場中の外国人選手については)過去2~3週間にかけてメディカルチームがハードワークしてくれているおかげで、(次戦の)セレクションに入ってこられるでしょう。あくまで、そこから選考に入るということですが。彼らは影響力があり、準決勝以降に戻ってくれるのはうれしいです」

 スピアーズ側の思惑に関し、勝ったワイルドナイツの堀江翔太は「同じ(カードが続く)。ガラッと、(相手は)戦術、戦略を変えてくるのかなと予想はしてます」。話はこれにとどまらず、自らも構築に携わるワイルドナイツの防御システムについて言及する。

「(相手が)同じこと(攻め)をやってくることはなかなかなくて。そこらへんで、どうコミュニケーションを取りながら自分たちのやりたいことを(ディフェンスを)やるか、と、はめ込むようにしてやる」

 相手が誰を出場させ、何を仕掛けてきても、自分たちは相手を自分たちの型に引きずり込み、失点を防ぐ。その、意思がにじんだ。

「それを前半からできればいいんですが、前半は向こうが僕らを分析してきたこと(用意してきた防御を崩す策)をバーッと出してくるのですけど、何度かそこをうまいこと抑え、80分間(を通しても)抑えたいと思いますね」

 果たして当日、スピアーズが変調をきたせるか、もしくはワイルドナイツが通常運転を貫けるか。まずは、スピアーズが球を持ってからの一挙手一投足に注目されたい。

 ちなみにワイルドナイツは、開幕からの2戦をウイルス禍に伴い不戦敗としてきた。チームを率いるロビー・ディーンズ監督は、「プレーできることが当たり前だとは思っていません」。日にちが日にちであっただけに、切実に伝わった。

<ディビジョン1 第16節 私的ベストフィフティーン>

1,稲垣啓太(ワイルドナイツ)…スクラムを優勢に運び、タックルの質を保った。機を見てのジャッカルで向こうの攻撃をスローダウン。運動量が際立った。

2,坂手淳史(ワイルドナイツ)…強烈なタックルでピンチを防いだ。

3, 山下裕史(スティーラーズ)…シャイニングアークスに74―34と圧倒。スクラムで優勢を保ち、ショートパス、自陣での強烈なタックルを披露した。ブルーレヴズの伊藤平一郎もスクラムで向こうの塊を切り裂き続けた。

4,ヒーナン ダニエル(ワイルドナイツ)…防御ラインの中央あたりで強烈なタックルを打ち込み続ける。網を破られてからも大きく駆け戻って走者を転ばせた。

5,ジェイコブ・ピアス(ブレイブルーパス)…接点での走者、ボールへの絡みやグラウンド中盤での突進で渋く光る。スティーラーズのJD・シカリングはラインアウトを安定させながら、連続攻撃中の大外へのスワーブでチャンスを作った。

6, クワッガ・スミス(ブルーレヴズ)…プレーオフ進出を決めていたブレイブルーパスと29―33と競った。特にナンバーエイトで先発のこの人は、タックラーを外す切れのある走りとターンオーバー技術で魅した。7―7の同点で迎えた前半30分過ぎに試合終盤までリードを保つなか、自陣ゴール前左の接点に絡んで相手の反則を誘う。直後のラインアウトの攻めから、味方のキックをジャンプ一番で捕球するや滑走。貴重な勝ち越し点を奪った。イーグルスのコーバス・ファンダイクはグラウンド端でのランとジャッカルで魅した。

7,ラクラン・ボーシェー(ワイルドナイツ)…試合中盤に劣勢局面を迎えた際も強烈なタックル、ジャッカルを重ねた。先制点を引き出したのも敵陣でのこの人のジャッカル。

8,アタアタ・モエアキオラ(スティーラーズ)…自陣からのビッグゲイン、オフロードパスで序盤のスコアラッシュをおぜん立て。前半29分には対するイズラエル・スピアーズのカウンターアタックで味方防御網が切り裂かれるなか、大きく駆け戻ってのタックルでピンチを救いかける。ファウルア・マキシも強いキャリーとタックルを重ねる。

9,中嶋大希(スティーラーズ)…接点から球を持ち出して防御をひきつけ、強いパスを放つ。攻撃の勢いを生む。時には逆目へのランも交え、攻めの選択肢を増やした。

10,サム・グリーン(ブルーレヴズ)…防御の裏側へのキック、深い位置から駆け上がっての突破、大外のスペースへのパスと、チームのスタイルに即したゲーム運びを遂行。自陣での守勢局面では大型選手へも臆せずタックル。身体を張る司令塔として存在感を示した。

11,山下楽平(スティーラーズ)…キックパスへの反応、勢いのある走りが際立ち前半だけでハットトリックを達成。端側で球を得ても、簡単にタッチラインの外へ出されずに接点を作ったり、オフロードパスを投げたり。

12,ルカニョ・アム(スティーラーズ)…抜け出す味方へのサポート、自軍ラインアウトからのギャップを突く走り込み、防御をひきつけながらのパス、自陣でのカバー防御やターンオーバーと八面六臂の活躍。ブルーレヴズのヴィリアミ・タヒトゥアもハードタックルとハードキャリーを重ねる。

13,ジェシー・クリエル(イーグルス)…グリーンロケッツを26―14で下す。スコアを促すビッグゲイン、チョークタックルを繰り出した。

14, ベン・スミス(スティーラーズ)…アウトサイドセンターで先発し、ピンポイントでのキックパス、攻守両面での反応の速さを示す。点差が開いた終盤に相手が仕掛けてきた、ペナルティーキックからの速攻にも落ち着いて対処。ロ―タックルを打ち込んだ。ワイルドナイツの竹山晃暉は、キックを追う動きに機を見てのインターセプトやジャッカルでスコアボードに影響を及ぼした。

15,野口竜司(ワイルドナイツ)…防御の裏側へのキックをカバーし続け、多彩なキックで陣地を挽回する。自ら蹴った球を追いかけてのタックル、バックスペースから競りあがっての防御網を埋める動きも際立った。前半18分頃には、自陣ゴール前左でいったんせり上がり、向こうがキックを放ったと見るやインゴールエリアへ回り込む。失点を防いだ。