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にじむ競技の本質。堀江翔太、会見で記者に問い返す。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
大らかな語り口。繊細なプレー選択。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 ラグビー日本代表として過去3度のワールドカップに出場した堀江翔太は、ドレッドヘアと捲し上げた短パン、的確なポジショニングから放つ鋭いコンタクトとランでグラウンドに異彩を放つ。

 4月16日、埼玉・熊谷ラグビー場でのリーグワン第13節。コベルコ神戸スティーラーズに37―31で競り勝ち、実戦では無傷の11連勝を飾る。プレイヤー・オブ・ザ・マッチにも輝いた。現在36歳も、進化の途上にあるような。

「怪我をなくすのは大前提。37になる年なので、怪我は多くなるし、年齢がいくにつれて衰えてくるところもあると思うんですけど、衰えないようにコンディションを高いものにする。そのために(旧知の)佐藤義人トレーナーと毎日1回は連絡を取り合っています」

 この日は後半5分に登場。折しもチームは失点したばかりで、11-17と6点差を追っていた。それでも逆転して概ね試合を優位に運べたのだが、記者会見で本人はこのように応じる。

――後半、巻き返せた理由は。

「まぁ、(チームの)戦術戦略がよかったんじゃないですか。チームで用意したこと以外はやってないです。僕の判断でどうのこうのというの、は、一切ないですね」

 防御のリーダーでもある堀江の役目のひとつは、チームの戦術遂行力を喚起すること。団体競技に必須な、無形の力を醸す。

「(周りに伝えたことは)ポジショニングっすよね。誰がどこにポジショニングしているかがわからんと、(ラグビーは)できないですよ。どこにいるの? 何をしたいの? 僕はこれしてる。それを発信して、周りがやりやすいようにしている。それだけですね」

「自分がやってきたこと、チームのやってきたこと以外のことをしないようにしています。特別に、俺が点数を取ってやろうとか、ゲームを変えてやろう、とかは、しないです。チームのいままでやってきたことを、最後の80分になるまでやり続ける。あとはそれをチーム全体ができるように促す、ということ以外は考えてないです」

 そうはいっても、自らも輝きを放つ。

 投入されてまもなく、自陣22メートルエリア右で相手のミスボールを拾う。加速。接点に巻き込んだ相手の反則を誘い、陣地を挽回する。

 チームが得意とするアンストラクチャーからの攻めで18―17と勝ち越したのは、その5分以内に起きた出来事だった。

 以後もグラウンド中盤でのパスダミーを交えた走り、対する南アフリカ代表のルカニョ・アムをひっくり返すタックルでスタンドを騒然とさせた堀江。23―17とさらに点差をつけて迎えた後半24分には、敵陣22メートル線付近左のラインアウトからのフェーズで驚きの走りを繰り出す。

 左中間で接点から球をもらうと、正面から飛び込んでくるタックラーの左側へ駆け込み、2人の防御をひきつけワンハンドパス。味方をゴール前まで前進させる。

 すると味方の接点を援護し、瞬く間に次にできた接点の後ろで待ち構える。最後は自らボールをもらってタックラーをひらひらとかわす。トライを決めた。ゴール成功で30―17。

 一連の流れを生み出すきっかけの走りについて、本人はこう振り返る。

「(もともと)あの場面では裏に蹴ろうと思ったんですけど、目の前の選手が一瞬、内(接点に近い側)に寄ったので、そこ(「目の前の選手」の外側)を突いていこうと。あとは、寄ってきた選手の弱い肩(相手の力が入っていない方の肩)を(狙って走る)…という部分です」

 堀江が入る位置はスクラム最前列のフッカー。縁の下の力持ちと見なされる働き場で「裏に蹴ろう」という発想の選手が務めるのは稀だ。ただ、堀江の万能性はポジションを超越する。

 終盤は取って取られての展開とされながら、勝ち切った。それでも表情が冴えないのは、できたプレーよりもできなかったプレーに視線が向くからだ。

 会見の内容を改めて振り返る。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「なかなかこう、苦しいゲームがずっと続いている。ディフェンス、アタックともに、自分たちのミス、やらなければならないことができていなかったことが多くて。この前の試合よりは、今日の試合の方がまだよかったんですけど。

 僕はディフェンスのリーダーに入っているんですけど、言ったことができていないことが多くて。その辺はまた修正していきたいです」

 確かに4月9日の第12節では、11位のNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安と31―24と接戦。前半は0―10とリードされ、効率的に勝ち越した直後も相手の猛攻を浴びていた。

 さかのぼって3月27日の第11節では、序盤4試合などを感染症の影響でスキップさせている静岡ブルーレヴズと26―25と競り合った。

 このように「苦しいゲームが続いている」のは、自分たちの戦術上の「ミス」が続いているからだと堀江は言う。

 ワイルドナイツの防御は、接点に人を割かずに列をなし、前に出るのが特徴。裏側に蹴られれば後方にカバー役が先回り。以前の堀江に言わせれば、「相手としたら何で止められているんやろう」という形を遂行する。

 ところが最近は、人員の揃わぬ箇所に球を運ばれるシーンもなくはない。今回は、飛び出す防御の真横に短いパスを通されピンチを招いたような。

 決まったことの遂行力について話題が及ぶと、「なんでやと思います?」と記者に問い返す一幕もあった。

――チームがやろうとしていることの遂行力が足りないとしたら、それはなぜなのでしょうか。

「ほんまにねぇ…。教えて欲しいです。なんでやと思います? わかんないっす。ずーっと言い続けてやっているんですけど、できないんですよねぇ。(自分の)教え方が悪いんかなと思いながら、色々、試行錯誤しながらやっています」

――防御をパスで破られたシーン。本当はどうしたいところでしたか。

「あれ、普通にしてたら、(止めることが)できるんですよ。先を見すぎているという部分がある。コンマ何秒分、目の前のことをやってから次のことをやらなあかんのに、コンマ何秒未来のことを考えて動いている選手が何人かおって。そこかなと思います」

 当該のシーンは前半26分頃などにあり、ナンバーエイトの大西樹は「終わった後も堀江さんに無茶苦茶、怒られたんですけど、ここ何試合か、ディフェンスで飛び出しすぎるミスがあった」としてこう反省する。

「僕がまず怒られたのはノミネートのミス(立ち位置を誤ったことか)、食い込まれてワンパスでゲイン切られたこと、かぶり(外側に飛び出し)すぎて内側を(攻撃に)切られたこととか、です。パナソニックのディフェンスシステムを、堀江さんが練習中から口酸っぱくして言ってくれて、ディフェンスが機能している。僕も練習ではそう考えていたんですが、試合では外(のスペース)を気にして(自分の本来の立ち位置から異なる場所へ)飛んだりというのが2~3回あったのかな…。チームとしてディフェンスからプレッシャーをかけるチーム。次節はちゃんとディフェンスします」

 ここ数試合、ワイルドナイツは一部の選手を入れ替えながら戦っている。戦術の浸透度合いも、それに左右されているのだろうか。改めて堀江が問われる。

――怪我などの影響で出場選手が入れ替わっています。いまの課題と関係がありますか。

「あるかもしれないですねぇ。若い選手とかが目立ちたいと自分たちで考えたことをするとか、逆に考えなさ過ぎて(必要なことを)やっていないとか。ま、ラグビーの難しいところですよね。色んなキャラクターを同じ方向を見させるのは難しい」

 理想と現実のギャップに苦しむ言葉にも、集団競技としてのラグビーの本質をにじませる。

 レギュラーシーズン終了まであと3試合。その後にはプレーオフも控えるが、まずは次戦までに検討課題を解消したい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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