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なぜサンゴリアスにスター候補が集まるのか。日本代表・流大が魅力語る。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
自身も過去には南アフリカ代表選手と競争(スクリーンショットは筆者撮影)

 陣容が豪華になるのは間違いない。ただ、その背景に無配慮な見解には異を唱えねばなるまい。

 東京サントリーサンゴリアスの流大は、2月27日、短文投稿サイトのTwitterでかように投稿した。

 さかのぼって25日には、同部の2022年度新加入選手が発表されていた。

 そのラインアップには、学生シーンの綺羅星が並ぶ。大学日本一に輝いた帝京大学の細木康太郎主将が筆頭となり、早稲田大学からは細木と同じ右プロップで経験のある左プロップの小林賢太、世代有数のフルバックと目される河瀬諒介が加入。さらには明治大学のフルバックでキックに定評のある雲山弘貴、慶應義塾大学のフランカーで屈指のタックラーである山本凱も名を連ねた。

 かくしてSNS上では様々な意見が散らばるのだが、2015年度のルーキーだった流は毅然とした態度を取る。

 28日、共同会見でその件に触れられた際も、「あまり深入りすると怒られそうなので軽めにしておきますけど」としながら、サンゴリアスというクラブの魅力をアピールした。

 まずは進行中のリーグワンについて発言する。26日の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦は、序盤に17得点も後半はノースコアで17-34と今季初黒星を喫していた(埼玉・熊谷ラグビー場)。来る3月4日には東京・秩父宮ラグビー場で、コベルコ神戸スティーラーズと激突する。

  連敗阻止に向け、やや短い準備期間を充実させんとしていた。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「パナソニックとは差があるなと率直に思いました。きょうレビューしたスタッツ(プレーごとの統計)はあまり悪くないのに、ダブルスコア。いつの間にか点差が離されている。いつものパナソニックの強さが出た試合でした。サントリーにもいい時間帯がありましたが、総合的にパナソニックが上回ったと思います。去年(トップリーグプレーオフ決勝で)負けて、今年も負けて、次にチャンスがあるとしたらプレーオフ。それまでに僕たちもレベルアップをしてリベンジしたい思いがあります。負けはしましたけど、これでシーズンが終わるわけじゃないです。特に今週はショートウィークで、神戸戦に向けてトレーニングを再開させた。サントリーのホームゲームでしっかり勝って、ファンの皆さんに喜んでもらえればと思います」

――ワイルドナイツ戦の敗因は。

「ペナルティで自分たちの勢いを失うことがあった。この試合では、ペナルティの内容やそれへのアジャストの部分がよくなくて。同じペナルティを繰り返すこともありました。パナソニックは、ペナルティがあってもしっかりと自分たちのストラクチャーに戻るのがすごくうまいと学ばせてもらった。ミス、ペナルティが起きた時の判断、次のプレーというのが、向こうを上回れなかった要因だと感じています」

――ワイルドナイツの防御についての所感は。

「立っている選手が多く、スペーシングがしっかりしているイメージがあります。前半、僕たちは17点、取ったんですけど、その時は速いボールのリサイクルで相手の広いディフェンスの間へアンダーラインで入って、少しずつ相手の穴を開けて2トライできた。ただ、後半に入るにつれてその穴が少なくなって『ここ』のボールを出したいという接点で相手のジャッカルプレーヤーに手をかけられたり、こちらのファンダメンタルなエラーでボールを失ったりするシーンがあった。パナソニックのディフェンスが素晴らしいのは、僕が社会人になってからずっと感じていることです。ただ、トライが取れているのも事実。とにかく、質を高める。それに尽きると思っています」

――次に戦うスティーラーズの印象は。2018年のトップリーグを制覇も、ここまで2勝5敗と苦しんでいますが。

「序盤は苦しんでいる印象がありますが、力は間違いなくある。強いチームです。ただ簡単にキーマンにラインブレイクをされると難しい展開になる。ただ、お互いアタッキングチームだと思うので、(それぞれが)ボールを持って脅威になるような試合にできれば面白いと思います」

 ワイルドナイツ戦では打撲のため前半25分で自ら交代。「その時にベストな人が出ないとパナソニックには勝てない」との思いから決断したというが、「ベンチに直人がいた」のも大きかったという。

 同じスクラムハーフの齋藤直人とは、サンゴリアスはもちろん日本代表でも定位置を争っている。選手層の厚さはサンゴリアスの魅力だ。

 会見中には、その選手層に関連したこの話題にも触れた。

――2022年度のルーキーに関する様々な意見に対し、流さんご自身もSNSで発言されていました。改めて伝えたいことはありますか。

「あまり深入りすると怒られそうなので軽めにしておきますけど、やっぱり『(進路を)選ぶのは選手だ』というのが考えて欲しいポイントであって。もちろん、出場機会を求めるならほかのチーム、という言い方をする人もいると思いますが、いまのリーグワンは本当にレベルが高くて、どんなにいい大学生でも(他のチームへ行っても)試合に出られるとは限らない。

 彼ら(細木ら5名)がサンゴリアスに入ったのは――もちろん試合に出ることも考えたでしょうが――成長するために必要なことがこのクラブにあると思って――ここは僕も、そう思います――入ってきてくれていると感じます。その気持ちを尊重したい。

 あとは、リーグに外国出身選手が増えるなかでも、僕らサンゴリアスは『日本出身選手が育ってこのクラブを引っ張る』という気持ちを抱くクラブです。だから、大学を卒業した選手――下川甲嗣、中野幹、辻雄康――も先の試合でメンバー入りし、いいパフォーマンスを発揮している。それは、チームのカルチャーにしていきたいことです」

――確かにサンゴリアスには、才能のある大卒の日本出身選手が成長している印象があります。元帝京大学主将の流大選手は2年目で主将となりました。それと同じキャリアで現主将の中村亮土選手らとともに、日本代表の常連となっています。

「チーム内で競争があるのがまず1番。約束されたポジションがひとつもない。毎回の練習が本当に厳しいものになる。競争率があるというのが、それぞれの選手が成長できる一番のポイントです。そこに世界的な外国人選手(ニュージーランド代表のダミアン・マッケンジーら)が加わるわけですが、彼らも日本出身選手と一緒に成長したい気持ちで、全体練習が終わってからも個人練習、オフフィールドで、自分の経験を僕たちに伝えようとしてくれている。ここも、大きいと思います」

 会見後、チーム関係者からも補足があった。「もし(この件を)書かれるのなら」と、このような趣旨で述べる。

「一部の方は戦力均衡の側面で問題にしていますが、リーグ戦全16試合に出て得られる成長機会と、うちで日々トップ選手と切磋琢磨する成長機会を両てんびんにかけ、その結果うちを選んでくれた選手もいるのではないでしょうか。また条件面についての意見もありますが、リーグにはサラリーキャップ制度(前身トップリーグ時代の紳士協定)もある。そして1年目は社員選手です」

 以下は筆者の責任の範疇で記す。

 そもそも前提として、リーグワンはプロリーグではない。クラブの運営形態もまちまちで、所属プレーヤーにも職業選手と社員選手が混在。特に後者は行き先によって勤務内容が違うのだから、プロ野球で見られるドラフト会議は成立しえない。

 旧トップリーグ時代から、クラブの採用担当者は各地の高校、大学の試合や練習を視察。基本的なビジョン、現状のポジションごとの年齢構成などを鑑み、これぞと思った選手とその指導者などにアプローチする。以後の獲得競争に競り勝つことで、はじめて意中の選手を仲間にできる。

 サンゴリアスは、日本出身で代表経験のない新卒1年目とはプロ契約を結ばない方針だ。それでも流や前出の関係者が言うように、クラブのポテンシャルに惹かれてラブコールに応える選手は多い。

 特に2017、18年度の新加入選手の多くは、2016年度から3季指揮を執った沢木敬介監督(現横浜キヤノンイーグルス監督)の影響を受けて加入。沢木は、当該のメンバーが選ばれていた20歳以下日本代表を指導していた。

 その年代の1人に、副将で日本代表の堀越康介がいる。1学年上に同じポジションの有力者、中村駿太がいるのを知ったうえでサンゴリアスに加わり、2019年のワールドカップ日本大会で日本代表となった北出卓也を交えて競争。昨季、こう所感を述べた。

「高いレベルで競争できていることはポジティブに考える。この環境で試合に出ることに、意味がある」

 流の「成長するために必要なことがこのクラブにある(と思ったのでは)」という見立ては、ここで裏付けられただろう。

 筆者は、2022年度の新加入選手のすべてを学生時代に取材済み。そのうち数名は単独インタビューに応じている。話題が進路に及べば、具体的な行き先こそ明言しない範囲で「社員選手として強豪クラブでプレーしたい」「子どもの頃から憧れていたチームへ入りたい」との思いを伝えてくれていた。

 ちなみにサンゴリアスの田中澄憲ゼネラルマネージャーは、昨年5月末まで明治大学の指揮官だった。自らもサンゴリアスの採用を経験していたためか、学生の進路選択へは原則的にノータッチ。向こうから相談を受けた場合のみ、その選手に合った助言を授ける。

 そのスタンスを貫くから、サントリーからの出向の形で率いていた明治大学の選手がサンゴリアス行きを選択した際、周りは私が勧めたという目で見るのだろうな、といった風に、達観した様子で呟いた。時系列で言えば、田中が現職を命じられたのは、明治大学で指導した雲山がサンゴリアス入りを決意するよりも後になってからだ。

 いずれにせよ、今度のフレッシュマンたちの充実した競技生活が望まれる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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