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選考基準は? あの人の不在はなぜ? 2021年日本代表候補をひも解く。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
2大会連続でワールドカップの主将を務めたリーチ(写真:REX/アフロ)

 2021年度の日本代表候補52名が4月12日、発表された。2019年のワールドカップ日本大会以来、最初の代表活動がようやく近づいてきた。

 今回のメンバーは5月24日までに35名に絞り込まれ、同月26日からの大分合宿、6月12日の強化試合(静岡・エコパスタジアム、対戦相手未定)、同26日のブリティッシュ&アイリッシュライオンズ戦に挑む。7月以降も代表戦の実施を検討中(国内開催を目指しながら、欧州に滞在するプランBも模索中とのこと)。

 ジェイミー・ジョセフヘッドコーチと親交の深い藤井雄一郎ナショナルチームディレクター(NTD)が会見。こう述べている。

「50名強の選手。全員が集まるというより、そのなかから35名を選んで合宿をおこない、ライオンズ戦等に臨みたい。怪我人等による入替はあるかもしれないですが、35名をしっかり選ぶ。基本的にトップリーグで調子がよかったり、『見てみたい』となったりした選手も何人か含まれている。初選出も何人かいる。どれくらい強度の高いなかでプレーできるかを見極め、選出していきたいと思っています」

信頼関係が大事

 まずは、顔ぶれを確認されたい。

<<ポジションごとの並びは原則的に順不同。表記は全て「名前(所属先)…身長・体重・生年月日・キャップ=代表戦出場数」。記号は以下の通り>>

◎=2019年ワールドカップ日本大会出場選手(下記○□の該当者含む)

○=同大会は未出場も、同年に代表候補と見なされたり、代表候補合宿に参加していた選手(下記□の該当者含む)

□=◎○以外で、ジェイミー・ジョセフ体制下の代表関連活動、および2017年以降のサンウルブズに参加経験がある選手(2020年の水面下での活動は除く)→※参照

★=2020年のサンウルブズに参加した選手

▲=今回、初めて代表資格を得られる、または得られる見込みの選手

※参照…2016年、当時あった国際リーグのスーパーラグビーへ日本のサンウルブズが参戦。2017年以降は現体制の日本代表とプレースタイルの大枠やコーチ陣を共有していた。2018年はジョセフ自ら指揮を執り、首脳陣と一部選手の信頼関係の礎ができた。

<プロップ1>

稲垣啓太(パナソニック)…186・116・1990/06/02・34 ◎

中島イシレリ(神戸製鋼)…186・125・1989/07/09・8 ◎

クレイグ・ミラー(パナソニック)…186・116・1990/10/29・― □▲

森川由起乙(サントリー)…180・113・1993/02/06・―

<フッカー>

坂手淳史(パナソニック)…180・104・1993/06/21・21 ◎

堀越康介(サントリー)…175・100・1995/06/02・2 ○

中村駿太(サントリー)…176・100・1994/02/28・― □

彦坂圭克(トヨタ自動車)…178・99・1991/01/18・―

<プロップ3>

具智元(ホンダ)…183・118・1994/07/20・13 ◎

ヴァル アサエリ愛(パナソニック)…187・115・1989/05/07・14 ◎

垣永真之介(サントリー)…180・115・1991/12/19・9 □

北川賢吾(クボタ)…178・110・1992/08/27・3 

淺岡俊亮(トヨタ自動車)…186・121・1996/06/24・―

<ロック>

ヴィンピー・ファンデルヴァルト(NTTドコモ)…188・112・1989/01/06・16 ◎

ジェームス・ムーア(宗像サニックス)…195・110・1993/06/11・8 ◎

ヘル ウヴェ(ヤマハ)…193・113・1990/07/12・16 ◎

長谷川崚太(パナソニック)…188・100・1993/05/12・― ○

マーク・アボット(宗像サニックス)…197・111・1990/02/20・― □▲

リアキ・モリ(日野)…197・110・1990/01/04・― □▲

<フランカー>

ピーター・ラブスカフニ(クボタ)…189・106・1989/01/11・8 ◎

リーチ マイケル(東芝)…189・113・1988/10/07・68 ◎

ベン・ガンター(パナソニック)…195・120・1997/10/24・― ○▲

松橋周平(リコー)…180・99・1993/11/24・8 ○

小澤直輝(サントリー)…182・102・1988/10/08・4 □

ジャック・コーネルセン(パナソニック)…195・110・1994/10/13・― ▲

<ナンバーエイト>

アマナキ・レレイ・マフィ(キヤノン)…189・112・1990/01/11・27 ◎

姫野和樹(トヨタ自動車)…187・112・1994/07/27・17 ◎

テビタ・タタフ(サントリー)…183・124・1996/01/02・3 

ナエアタ ルイ(神戸製鋼)…193・118・1994/02/02・―

<スクラムハーフ>

茂野海人(トヨタ自動車)…170・75・1990/11/21・10 ◎

荒井康植(キヤノン)…175・80・1993/05/14・― □

小山大輝(パナソニック)…171・74・1994/10/31・― □

齋藤直人(サントリー)…165・73・1997/08/26・― ★

<スタンドオフ>

田村優(キヤノン)…181・92・1989/01/09・63 ◎

松田力也(パナソニック)…181・92・1994/05/03・24 ◎

前田土芽(NTTコム)…178・88・1996/11/30・4

<ウイング>

アタアタ・モエアキオラ(神戸製鋼)…186・108・1996/02/06・4 ◎

松島幸太朗(クレルモン)…178・88・1993/02/26・39 ◎

レメキ ロマノ ラヴァ(宗像サニックス)…177・94・1989/01/20・15 ◎

江見翔太(サントリー)…183・95・1991/12/08・― □

シオサイア・フィフィタ(近鉄)…187・105・1998/12/20・― ★

中野将伍(サントリー)…186・98・1997/06/11・― ★

ジョネ・ナイカブラ(東芝)…177・95・1994/04/12・―

<センター>

中村亮土(サントリー)…181・92・1991/06/03・24 ◎

ラファエレ ティモシー(神戸製鋼)…186・100・1991/08/19・23 ◎

梶村祐介(サントリー)…181・95・1995/09/13・1 ○

シェーン・ゲイツ(NTTコム)…183・95・1992/09/27・― ○

ディラン・ライリー(パナソニック)…187・102・1997/05/02・― ▲

<フルバック>

山中亮平(神戸製鋼)…188・100・1988/06/22・18 ◎

尾﨑晟也(サントリー)…175・85・1995/07/11・3  ○

野口竜司(パナソニック)…177・83・1995/07/15・13 ○

ゲラード・ファンデンヒーファー(クボタ)…192・102・1989/04/13・― ○▲

 現体制の原則的な選考基準は「プレッシャーのなかで正確にプレーできるか」。付け加えれば、「やるラグビーにどれだけフィットするか」(後述)も重視されそうだ。

 さらに、首脳陣がこの2点を見定める際には、これまでの活動に基づく信頼関係(①)、当該選手の国際経験(②)に依拠していよう。

 特に重視されるのは①。日本大会で正インサイドセンターだった中村亮土は、同大会直前にこのように述べたものだ。

「きっかけは、2年前(2017年)のフランス遠征かな。その時は1試合も出られなかったんですけど、自分のなかでチームがよりよくなるために動いたと自信を持って言える。練習(での主力組へのプレッシャー)、相手の分析だったりで。そこからスタッフ、コーチ陣からも、『こういう人間だ』というのを知ってくれだしたのかなと思います」

 2020年に水面下で編まれた日本代表候補から漏れた1人(しかも今回の「○」に該当)は、その年度のトップリーグに怪我であまり出ていなかったことから「(落選は)それはそうだろうなと。まだジェイミーからそこまでの信頼は得ていない」と発言した。

 ブリティッシュ&アイリッシュライオンズ戦のようなテストマッチでは、上記表での「◎」のような勝手を知る人が重宝されそうだ。事実、レメキ ロマノ ラヴァら、怪我で満足にアピールできなかった日本大会組も今度の候補メンバーに名を連ねている。

 藤井NTDは今回の会見で、「(35名のメンバーは)大体、絞り込めてはいる」と発言。問答を通し、その背景もにじませる。

――選考基準は。

「前回同様、プレッシャーのなかで正確なプレーができるかどうかが第一。この選手ならば…というのを頭に置いて選んでいます」

――52名から35名にどう絞っていくか。

「トップリーグがまだ続きますし、あとは怪我の状況、ポジション…。大体、絞り込めてはいるのですが、あと数名はこれからの活躍を見て(決める)ということですね。(決まった35名から)怪我人が出れば、そこ(それ以外の候補選手)から新しい選手を入れるという形になると思います。

 35名。大体、ジェイミーの頭の中に入っている。35人で合宿をして、そこで怪我人が出たらこの(合宿メンバーに入らなかった候補選手の)なかから(代役を)選びますという感じです」

――トップリーグでプレータイムの少ない選手も選ばれている。例えば、サントリーで控えに回ることの多い齋藤選手やNTTコムで出番のないままキヤノンへ移籍したマフィ選手。

「マフィに関しては大体、力もわかっている。ビッグゲームを何回もこなしている。齋藤選手はサンウルブズでも出ていてどういう選手かわかっている。それを基準に選んでいます」

――スタンドオフの前田土芽選手は。

「走力もありますし、NTTコムの試合を見たらプレッシャーのなかでもプレーできていた。あとはテストマッチでできるのかを見極めるんだと思います」

――フィフィタ選手は。

「大学選手権でも活躍した。サンウルブズでも出ている。走力もあるし身体も大きい。プレーも学年が上がるごとに柔軟になってきた。それを代表のなかで出せるかどうかということだと思います。強いストレスのなかでもできるかどうか(を見極めたい)」

――主将は。

「えーと…決まってるんじゃないかな。(日本協会側が「発表していない」と報告したのを受け)じゃあ、発表してないみたいです。決まっているのに、発表しない。何で発表せんのか、わからないですけど」

――ワールドカップに引き続き、リーチ選手なのか…。

「そんな感じです」

――海外にいる姫野選手、松島選手は国内合宿には加わるか。

「基本的にはダイレクトに(現地に)入ってくると思います」

――この52名のうち、どれくらいの選手が2023年のフランス大会に残るのか。

「最初に選んだ50数名。新たに選手が出てくる可能性も、怪我の可能性もあります。本当に、何人かの経験のある選手を中心に、若くてインパクトのある選手を(含めて)35人。基本的にはこのなかから選んでいくんだと思いますけど」

堀江、流は「リフレッシュ」へ

 またある選手からは「一度、信頼を失ったら取り戻すのは難しい」とも聞かれる。過去に選出歴がありながら今回選外となった選手がいるのも、起こりうる事態のひとつではあった。

 もちろん、それとは事情の異なるメンバーもいよう。日本大会で活躍した堀江翔太、流大について、こんなやりとりがあった。

――日本大会の出場組のうち、堀江選手、流選手が入っていないが。

「体調が万全ではないということと、ちょっと、強いプレッシャーのなかで何年もラグビーをやってきたので、もう出るのであればメンタル的にリフレッシュしたいということです。これは外れたわけではなく、随時、体調を見ながら、こっちから声をかけていきたいと思っています」

どれだけフィットするか

 以上の意図を踏まえれば、今回の選考結果を受けて「トップリーグで活躍している選手がなぜ選外に」と問うのにはいくつかの前提条件を乗り越えなくてはならない。「将来性を重視して若手の抜擢は」と投げかけるのもまた、現状では無理筋にあたりそうだ。

 そんななかでも、「トップリーグで活躍し、かつジョセフ体制下のラグビーに適応しそうだと考えた選手がなぜ選外に」と自らの見立てを自問自答するのは建設的か。

 ちなみにジョセフ体制下で攻撃を統括するトニー・ブラウンアタックコーチは、攻撃陣形をち密に変質させてスペースにパスやキックを放つ。蹴り込んだ先への圧力、直後のカウンターアタックでも組織性や意図をにじませる。

 試合ごとに計画を変えてゆくのも特徴だ。日本大会では欧州諸国との対戦時はポゼッション(ボール保持)重視に、それ以外のゲームではキッキングゲーム重視にした。

 会見中、一部の記者が「トップリーグで活躍している山沢拓也選手、竹山晃暉選手、髙橋汰地選手の名前がありません」といった趣旨で聞いた。藤井NTDはこうだ。

「トニー・ブラウン、ジェイミーのやるラグビーにどれだけフィットするかということ。選ばれなかったというより、この(選ばれた)選手が選ばれたという感じ」

難航する外国人選手選考

 今回の「★」にあたる選手は、②の国際経験で一定の評価を受けたと見られる。少なくとも齋藤は、活動のなかった2020年の日本代表候補にも選ばれていたのが明らかとなっている(なお、無印の選手のうち複数名も同候補の一員)。

 さらに現有戦力を底上げしそうなのが、「▲」の存在だ。

 ガンター、ファンデンヒーファーは、日本大会出場を目指しながらも当時の時点で居住資格の取得が認められなかった2人。なかでもガンターは、ジャック・コーネルセン、ディラン・ライリーとともに所属先のパナソニックから将来の日本代表候補と見なされ、育成されてきた。

 かたや、今年の代表入りが大きく期待されながらリストに名を連ねられなかった選手も複数いる。マイケル・ストーバーク、マイケル・リトル、ヤマハのサム・グリーンら、期待されたメンバーがリストアップされなかった背景には、「一時帰国」に関する諸問題があった。

 国際統括団体のワールドラグビーは、「競技に関する規定第8条」で「国の代表チームでプレーする資格」を定めており、その条件のひとつに当該国・地域に継続して居住する必要のある期間を定めている。

 現行ルールのもとでは、2021年12月31日までは「連続居住36か月間(3年)」が経った選手から順に代表資格が得られる。ただし2022年1月1日以降は「連続居住60か月間(5年)」が求められる。その間に長期の一時帰国があった場合は、厳しく見られる傾向が強い。

――本来、日本代表に選出したいとしながらそれが叶わなかった選手は…。

「かなりいました。過去はあまりそれが厳しくなかったのですが、今回は記録も取り寄せて…と。そうすると、(国外での)滞在がオーバー(審査に影響する)の選手もいたので。今回、選ばれた選手はそこをクリアしています。ディラン・ライリーは10月にOKが出る。その他の選手は(すでに)クリアしています。ただ、結構、大変だったですね、そこは」

――今回選ばれていない選手は2023年のワールドカップフランス大会出場も難しいという認識でよいですか。

「ワールドカップまでに5年(の連続居住期間)をクリアする選手が出てくれば選ばれる可能性はあると思います。ただ、5年は、かなり厳しいです」

――リトル選手、ストーバーク選手、グリーン選手の事情は。

「そこが、今回のコロナで帰国している選手が、(やむを得ない理由での帰国にもかかわらず)そこを考慮されなかったので、(スコッドから)離れているという形ですね」

――新型コロナウイルスの影響で一時帰国をしたことで、連続居住のカウントがリセットされる…。それは選手のキャリアを鑑みても残酷な決定では。

「そこはワールドラグビーに(認めてもらえないかと)話をしているところです」

――手応えは。

「いやぁ…。厳しいです」

――パナソニックのガンター選手、コーネルセン選手、ライリー選手へは日本への滞在を求めた、と言われていますが。

「皆、帰ったらだめだというの(規定)を知っていたので。ただ、(他チームでは)何人か、辛抱できずに帰った選手がいるんです。それに対して、なかなか、こっちもストップがかけられなかった。マーク・アボットなんか、コロナが始まってから1回も帰っていない。その辺は、選手が頑張ったんですよ」

 「▲」にあたらない海外出身選手では、ナエアタ ルイ、テビタ・タタフのようにトップリーグで出色の働きを示してきた突破役が目立つ。とにかく今回の候補メンバーは、今週末からの国内トップリーグプレーオフトーナメントに出場予定。一挙手一投足が注視される。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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