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姫野和樹のハイランダーズ挑戦の背景に日本ラグビー史あり。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
身長187センチ、体重112キロ。突進力が魅力(スクリーンショットは筆者制作)。

 ラグビー日本代表として昨秋のワールドカップ日本大会で8強入りした姫野和樹(トヨタ自動車)が、ニュージーランドのハイランダーズへ期限付き移籍。10月22日、オンラインで会見した。

「ラグビーを日本になくてはならない存在に」

「居心地のいい日本を離れ(さらに成長する)」

 26歳のリーダー候補が、海外挑戦への決意を語った。

 以下、共同会見時の一問一答(関連した内容をひとまとめにするなどの編集箇所あり)。 

「皆さん、こんにちは。お忙しいなかお集まりいただいてありがとうございます。本日は僕の海外挑戦に向け、これだけの人に集まっていただいて心から嬉しく思います。本日はたくさんの質問に答えられるようにしていきたいと思います」

――スーパーラグビーに挑戦しようと思ったきっかけは。

「自分の夢に、今後、ラグビーを日本になくてはならない存在にしたいという思いがある。自分が海外挑戦というチャンスを掴むことで、日本ラグビーに大きなものをもたらすと考えています。あちらで活躍することで、何かを感じてもらう、勇気や感動を得られる子どもたち、選手がいればすごくいいかと思います。また自分の成長(を目指す)というところで、居心地のいい日本を離れ、またイチからハングリーにプレーすることが必要だと感じました。それで、海外でプレーすることを選びました」

――日本大会の準々決勝で南アフリカに負けたことは、今回の海外挑戦への思いに影響を与えたか。

「もちろんあります。南アフリカ戦までモチベーションというか、コンディションが維持できなかったというか、あれだけレベルの高いゲームを1週間、2週間でこなしていくのもなかなか初めてで、南アフリカ代表戦ではもう満身創痍だったし、自分のプレーもできなかった。ここで、もっと強くなりたいという向上心が高まりました。スーパーラグビーというレベルの高いリーグで毎試合、毎試合、やる。タフになれる。それは、大きなメリットになると思います」

――いつ頃から。

「昔から海外に行きたい思いはありましたけど、やっぱりワールドカップという舞台を経てからその思いはより強くなりました。はい」

――海外でプレーしたいと感じた、一番大きな理由は。

「夢を叶える、っていうところですかね。うん」

――スーパーラグビーで伸ばしたいものは。

「スキルですね。スキルのところを向上させたい。パスもそうだし。フォワードだけどバックスみたいなプレーができるように。ステップを切って、オフロードパス、裏へ抜けた選手へのサポートをしてトライするとか、そういうところのスキルは期待しています」

――成長させたい点は。

「ひとつは英語の能力も伸ばしたい部分ではありますし、プレーで言うとオフロードパス、サポートコースといったニュージーランドの選手に見えて僕には見えていない部分があるので、そこを伸ばしていきたいと感じます」

――ニュージーランドで得たいものは。あるいは、通用する点は。

「オフロードスキル、サポートのコース…。客観的に見て、僕はそうしたスキルがうまくないと感じるので吸収したいと感じます。

(強みは)ボールキャリー(突進)、ブレイクダウン(接点)、タックル…。強みと弱みを理解して、強みを伸ばしつつ、自分の持っていないものを手にするという形でやっていければ」

――向こうへ持って行くお土産は。

「誰に対してですか?」

――向こうのチームメイトへの。

「あぁ、全然、考えてなかった。やっぱ、ヤマトライスさんのCMも出たので、米ですね。ジャパニーズライスは体感してもらいたいです」

――姫野選手と言えばジャッカル。これを海外でどう磨きたいか。

「自分の強みではある。ニュージーランドにはすごくジャッカルのうまいプレーヤーもたくさんいるので吸収することもできる。向こうには大きな選手がたくさんいる。そういった選手からボールが獲れるかも、試したい部分ではあります」

――ハイランダーズでの目標は。

「全試合に出ることを目標にやっています。チームもスーパーラグビーでの優勝を(目標に)掲げていると思う。自分のパッション、リーダーシップをあちらでも発揮して、引っ張れるようにできたら。リーダーとしてもあちらで引っ張っていけるような存在になっていけたらと思っています」

――スーパーラグビーへのイメージは。

「すごくレベルが高いイメージ。アオテアロア(ニュージーランドのスーパーラグビー加盟クラブによる国内大会)もそうですし、自分に持っていないものを持っている選手が多いとすごく感じました。はい」

――ハイランダーズを選んだ決め手は。

「ブラウニー(トニー・ブラウンヘッドコーチ=日本代表でアタックコーチを務める)、S&Cのサイモン(・ジョーンズ=日本代表でS&Cコーチだった)もいるし、そういったところも選んだ理由のひとつかなと思います。ブラウニーは僕のこと、僕に足りないものも知っていると思う」

――ブラウンからオファーがあったのか、もしくは自ら加入への意志を申し出たのか。

「言っていいのかな? 自分自身、行きたいのがどこかという打診をしていて、ハイランダーズからオファーをいただいたという感じです」

――ブラウンから言葉はもらったか。

「まだなんも喋ってないです。(周りを見ながら)ブラウニーは契約の細かいところには関わっていないと思うので」

――他クラブからのオファーは。

「それは…わかんないです!」

――ヨーロッパ挑戦への興味は。

「行ってみたいなという思いはいまもあります。フランスのラグビーも体験してみたいとは感じます。ただ、いまの自分に必要なのはスーパ―ラグビーが持っているんじゃないかと感じます」

――日本からスーパーラグビーへ挑むサンウルブズが活動を続けていたら、サンウルブズでプレーしていたか。

「オプションのひとつとして考えていたとは思いますけれど、色んな面――英語能力、居心地のいい環境は慣れること、素晴らしい選手がいるなかで毎試合、毎試合チームのなかの競争に勝っていく――というのは、日本にいてはなかなか体験できないことだと思うので、そういうところは魅力的だと思っています」

――移籍に際し、誰かに相談したか。

「スティーブ・ハンセン(=元ニュージーランド代表ヘッドコーチ、現トヨタ自動車ディレクター・オブ・ラグビー)もそうですし、HCのサイモン(・クロン=トヨタ自動車ヘッドコーチ)もそうですし、ジェイミー(・ジョセフ=日本代表ヘッドコーチ)にも相談させてもらいました。相談、アドバイスの内容はそれぞれ違ったんですけど、精神的にそうした方々のアドバイスを受けて、残るか、海外に行くか(を考えた)。マイケル・フーパー(オーストラリア代表主将兼フランカー/今季からトヨタに加入)が来ますし、このチームにステイすることも自分にとってはプラスになるということもあったので、すごく悩みましたけど、色々なものを考えると、海外に出てプレーすることの方が大きなものを得られるんじゃないかと思いました」

――相談した相手の反応は。

「トヨタ自動車のハンセンやサイモンからは残って欲しいという風に言われました。フーパーも来るということで、僕のなかでフーパーという存在は大きく、彼から学ぶことは大きかった。それをサイモンもハンセンも言っていた。キアラン・リード(ニュージーランド代表前主将兼ナンバーエイト=2020年シーズンからトヨタ自動車でプレー)もいますし、トヨタの首脳陣からは『そういった選手から学ぶことはなかなかないよ』という見解でした。『海外挑戦のチャンスはまだあるから大丈夫』とも。

 ジェイミーは、『海外に挑戦することが大事』と。是非、今季のうちに行って欲しいと。来年度から日本代表の活動も大きくなるので、日本代表のヘッドコーチとしてはそういった形で不在となるのは嫌だなというところがあると言っていた。おそらく、代表活動にはなるべく帯同してほしいという思いが基本にあります。再来年は新リーグ(2022年1月からの国内リーグ)も始まりますし、今年はチャンスだと思いました」

――過去にスーパーラグビーの海外チームでプレーしていたリーチ マイケル選手(元チーフス)、田中史朗選手(元ハイランダーズ)などへ相談は。

「リーチさんには相談しました。『姫野ならやれるから行きなさい、行った方がいい』と。堀江(翔太=以前、スーパーラグビーのレベルズに所属)さんなど、色んな選手に後押しをいただきました。フミさんはテレビで忙しくて相談できなかったですけど」

――やりたいポジションは。

「特にないです。試合に出ることが第一優先。ロックでやって欲しいと言われればロックで準備しますし、フランカーと言われればフランカーをやります」

――ゆくゆくは、日本復帰も期待していいか。

「もちろんです。そのために海外に行くので。何かを得て帰ってくると期待して待っていて欲しいと思っているので」

――帝京大学を卒業してトヨタ自動車でプレーした4年間は。

「この4年間がなかったらいまの自分はない。人としてもラグビー選手としても成長できた。人生においても、この4年間は大きなものだと思っています。トヨタ自動車というチームに感謝しています。今回の挑戦を受けて、豊田(章男)社長からもどんどん海外に出て活躍するべきだというお言葉をいただいて、より自分がやらなきゃいけないことが明確になりましたし、こういう形で送り出して下さるトヨタ自動車、関係者の皆様には感謝の気持ちでいっぱいです」

――日本代表は来年6月、ブリティッシュ&アイリッシュライオンズと戦います。この件をどれくらい前から知っていて、どう受け止めたか。

「やるのは、噂ではぼちぼちと聞いていて、SNSで知って、自分でも『あぁ、この時期にやるんだ』と驚いたところなんですけど。こういうレべルの高いチームと戦えることは今後の日本ラグビーにとって重要ですし、ワールドカップでの自分たちの成績によって、世界のチームから認められているんじゃないかという思いは感じました」

――渡航時期は見えていないとは思うが、日本でどんな準備をしたいか。

「ずっとコロナ禍のなかでも身体の強さをもっと高めたいと思ってトレーニングをたくさんしてきていました。いまチーム練習が始まってコンタクト(身体をぶつけ合うセッション)にも入ってきたんですが、春からのトレーニングが実を結んでいるところがある。身体の状態はいいですし、筋力的なところもアップしている。このまましっかりといい準備をして、ニュージーランドへ行けたらと思っています」

 日本で初めてスーパーラグビーに挑戦したのは2013年。ハイランダーズの田中とレベルズの堀江がプレーした。2015年、日本代表はワールドカップイングランド大会で歴史的3勝を記録した。

 2016年からの5シーズンは日本のサンウルブズがスーパーラグビーに参加し、多くの日本代表候補のプレー機会が生まれた。姫野もサンウルブズで経験値を積んだ。2019年、ワールドカップ日本大会で日本代表は初の8強入りを果たした。

 今回、姫野は、これから加わるハイランダーズで「リーダーシップ」を発揮したいと宣言。2023年のフランス大会へ向け、新たなチャプターが始まった。

 

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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