『ONE TEAM』流行語大賞受賞までの道のり。【ラグビー雑記帳】

準々決勝の後は、選手の子どもたちもグラウンドへ立った(写真:ロイター/アフロ)

 その年に話題を集めた言葉を表彰する『2019 ユーキャン新語・流行語大賞』が12月2日に発表され、ラグビー日本代表のスローガンである「ONE TEAM(ワンチーム)」が年間大賞に輝いた。チームは今年のワールドカップ日本大会で初の8強入りを決めていた。

 2016年秋就任のジェイミー・ジョセフヘッドコーチが発表したこの標語は、本番が近づくにつれ公の場での使用頻度が高まった。指揮官が「ONE TEAMになれたと確信した」と語る大会開幕前まで、綺麗事と無縁の足跡が続いた。

連敗中の対話

 ニュージーランド出身のジョセフは、同国で指導者だった頃から信頼していたトニー・ブラウンアタックコーチ、日本代表選手だった頃にともにプレーした長谷川慎スクラムコーチら名参謀の力を信頼。その一方で、信頼に足らないと見たスタッフは容赦なく隊列から外した。選手選考でもその傾向が見られ、日本大会時の主力の1人もうなづく。

「ちょっと悪いプレーをしたら誰でもメンバー外に…と、がらっと評価が変わる。ちょっとがっかりすると『もう、いいや』となるような雰囲気は感じます。だから、気が抜けない」

 相互理解の必要性が表面化したのは、2018年の春だった。

 日本代表の強化機関のひとつに、国際リーグのスーパーラグビーへ日本から加わるサンウルブズがあった。同年はジョセフがサンウルブズのヘッドコーチも兼務し、本人の意に沿う形に近い事前キャンプや選手選考を実施。ところが、けが人の続出や一部選手へ休暇を与えざるを得ないチーム事情もあり開幕9連敗と低迷。そのさなか、同クラブで共同キャプテンだった流大は危機感を覚える。

 ジョセフと親交の深い藤井雄一郎ゼネラルマネージャー(現男子15人制日本代表強化委員長)、長谷川、他のリーダー格の選手と会合を開いたうえで、指揮官本人には「控え選手ともっとコミュニケーションを取って欲しい」と要求した。流は大学、社会人のチームで学生ラグビー界きっての名将の岩出雅之、妥協のない指導で知られる沢木敬介といった名物監督とタフに渡り合っていた。上司に意見を言う塩梅を、心得ていた。

「笑わない男」は言った

 膝を突き合わせてナショナルチームのミッションを共有できたのは、同年9月の和歌山での代表候補合宿。「ワークショップ」という名のミーティングを繰り返し、スタミナ強化の必要性、メディア対応についてなど多岐にわたって話し合った。

 いずれ「笑わない男」と言われる稲垣啓太は、当時こう述べていた。

「自国開催で注目度が高まるなかで批判の声が出るかもしれないけど、それは自分たちでコントロールのできないこと。そこでフラストレーションをためないようにという話は、この間の和歌山合宿でもしました」

 チームの共用スペースに鎧や刀が置かれたのも、ちょうどこの年の6月頃だったか。こちらの「侍」は映画『ラストサムライ』の登場人物にちなんで「勝元」と名付けられ、リーチマイケルキャプテンがこう存在意義を明かした。

「自分たちのチームが目指すものとして作っています。彼を目指してチームを作っていく。どう刀を持って、磨いていたか、刀を出す時に何を意識していたか…。それをラグビーに置き換えてやっています。刀を抜く時は人を殺す覚悟(を持つ)。これをブレイクダウン(ボール争奪局面)にタイアップさせています」

猛練習すなわちビクトリーロード

 ワールドカップイヤーに入ると、約60名の候補選手の一部が1月下旬、過半数が2月に始動した。最後まで選考レースに残った山本幸輝がチームソングの「ビクトリーロード」を作ったのは、ちょうどこの季節だった。

 6月以降の宮崎合宿では、強度の高いセッションを朝、昼、夜に実施。選手たちは「いままでのラグビー人生でもっともきつい合宿」と口を揃える。夏場のパシフィック・ネーションズカップでは3戦全勝。鍛錬と休息の末のコンディションのよさに加え、試合ごとに戦術を変えられる柔軟性も示した。

 さらに大会登録メンバー決定前最後の網走合宿時は、選手同士で3人1組のスモールグループを形成。普段から意思疎通を図り、登録された31名中15名が海外出身者という多国籍軍に絆という芯を通した。トンガ出身のヘル ウヴェは稲垣、松田力也と同組となり、「僕も、もっと日本語が上手くなりたい。だから(生まれながらの)日本人と一緒にいる」と笑った。

 リーダー陣の1人である中村亮土は、宮崎合宿をターニングポイントに挙げながらこうも話す。

「確実に言えるのは、長期間、一緒にいて色んな苦難、大きな壁を乗り越えるような環境じゃないと『ONE TEAM』は作り上げられないと思います。それが全部、正解かと言われればまた違う形もあるのかもしれないですが、今回は、それ(時間をかけた熟成)がうまくいった。宮崎合宿以外で代表がまとまるうえで大事だったと思えるのは、2018年のサンウルブズ。同じようなメンバーで長い時間を過ごし、プレーのなかでお互いを知り、求めているものを感じられるようになりました」

 本番に入ると、故障を抱えて本調子ではなかったリーチ マイケルキャプテンがアイルランド代表戦で先発落ち。2大会連続でワールドカップ日本代表の船頭役を担うバイリンガルは、ジョセフの決断によって2試合続けてゲームキャプテンから外れる。裏を返せば、この決定でひびが入るほどやわな組織ではなかった。

 ゲームキャプテンとして8強入りを決めたスコットランド代表戦の直後、リーチは会見で「日本ラグビーが勝ったのはジェイミーとコーチ陣の指導のおかげだと思いました」と発言。隣席のジョセフはやや息を乱したように映った。かたやリーチと重責をシェアしたピーター・ラブスカフニは、母国の南アフリカ代表との準々決勝を前に記者団へこう述べた。

「私は日本を、ここにいる皆さんを愛しています。これが私のチームです」

北出丼という気遣い

 グラウンド外では、主力選手によるメンバー外選手への気配りも垣間見えた。

 ある時、控え組の北出卓也が高菜、明太子、しらす、ねぎを飯にのせているところへ、同じフッカーのポジションでレギュラーだった堀江翔太が「これ、何?」と反応。まもなく報道陣に「チームで北出丼というのが流行っている」という旨を報告した。結局、北出自身はもちろんその他のベンチ外組の献身ぶりが注目されるようになった。

 堀江がメディアへ「北出丼」の話をしたのは、メンバー外選手への配慮なのではと北出は想像する。

「確認を取ったわけではないですが、僕はそう捉えました。(堀江は)いろんな方に気を遣う方なので」

 試合中は給水係を務めたフランカーの徳永祥尭が、こう言葉を足す。

「気を遣わせるような感じになって本当に申し訳ないんですけど、試合に出ているメンバーにサポートしてもらっている感じです。稲垣さん、堀江(翔太)さんがお茶や外食に連れてってくれて、愚痴を言ったり、『お前、頑張っているよ』と言ってもらったり」

 ちなみに今大会で出番のなかった選手は登録メンバー31名中5名で、8強入りしたチームでは最多だった。

 流は大会後に「5試合連続で出ている選手も数多くいて、身体の疲労があったのは事実。今後プールステージを突破してその後も勝っていくのなら、今回感じたこと、必要だと思ったことはスタッフにも伝えていかないといけない」としたが、こうも言い添える。

「僕らはまずグループステージを突破することが一番のミッションでしたし、コーチ陣のメンバー選考に思うことは何もない」

新しい「ONE TEAM」はどう作る?

 日本協会は、ジョセフとの契約延長を発表している。4年後のフランス大会に向け、すでにリスタートが切られている。

 ただしサンウルブズがスーパーラグビーに挑めるのは現状では2020年限りで、2021年の国内プロリーグ発足を準備するなか今度もワールドカップイヤーの長期キャンプができるかは未知数。2023年までの間、2019年までと同じプロセスを踏めないのは無理からぬことかもしれない。

 野球を除くスポーツの言葉が流行語大賞で表彰されたのは、オリンピックやその競技のワールドカップなどビッグイベントが開催された年が多い。ここで重要なのは、流行語が生まれない年の蓄積こそが大きな成果を導くという真理である。再び「ONE TEAM」を作り直すための新たな青写真に、注目されたい。