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日本代表ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ合流。会見中の課題は。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
笑みは穏やか。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 ラグビー日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチが、2月15日、11日前に本格始動していた同候補合宿(ラグビーワールドカップトレーニングスコッドキャンプ=RWCTSキャンプ)に合流。トレーニングの一部を視察し、共同取材に応じた。

 2016年秋に就任のジョセフが日本で公の場に姿を現すのは、昨年秋の遠征終了後の会見以来。国内トップリーグの開催中も母国に滞在し、直近では欧州6カ国対抗戦を視察していたとされた。

 今秋開幕のワールドカップへの意気込み、離日中にどう国内の情報を収集していたかなど、焦点は複数あった。しかし…。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「昨日、東京に戻ってきました。この1か月間、どんな活動をしていたかを皆さんにお伝えします。世界中を回りました。最初はハリケーンズに行き、彼らのスタイル、アイデアを持ち帰りたいからと習得しました。ハイランダーズでも時間を過ごしました。その後はイングランドにも行きました。イングランドの環境も色々と見させてもらいました。スコットランドにも4~5日。アイルランド、スコッドランドにも行き、テストマッチも観戦しました(欧州6か国対抗のことか)。当地のグラスゴー・ウォーリアーズなども見てきました。コーチとして刺激になる要素がありました。

 チームに戻って感じたのは、ワールドカップイヤーなので選手がやる気に満ちているということです。コーチ陣としてこの期間は『ファンデーション1』と名付けています。

 前回のワールドカップから、選手は十分な休暇を得られていなかった。ですので、この期間(1月のことか)でしっかりと休ませ、ラグビーから完全に離れ、各々で家族と過ごさせるなどしました。そして2月は基礎的なこと、体力づくりなどをしていきました。練習の強度はかなり落としています。今後その強度は、上げていきますが。

 3月10日からの10日間の沖縄合宿で、選手たちを鍛えたいと思っています。高い強度で鍛えます。ラグビートレーニングに切り替え、ワールドカップへの準備をしていきます。サンウルブズ所属の選手はサンウルブズに活動する一方(※)、それ以外の選手たちのチームは私が指揮を執る形で運営します。その(後者の)チームはウルフパックと名付けます(以下の試合日程を読み上げる)。

第1戦:3月 29 日(金)/ハリケーンズ B(新ポリルア ・ ジェリー・コリンズ・スタジアム)

第2戦:4月 5 日(金)/ハイランダーズB(新ダニーデン・フォーサイス・バー・スタジアム)

第3戦:4月 20 日(土)/ハリケーンズB(千葉・ゼットエーオリプリスタジアム)

第4戦:5月 12 日/対ブランビーズB(豪キャンベラ・GIOスタジアム)

第5戦:5月 17 日/対レベルズB(豪メルボルン・AAMIパーク)

※サンウルブズ=スーパーラグビーに日本から参戦するチーム。代表と連携を取る。関係者への取材によれば、すべてのサンウルブズ所属選手がサンウルブズに帯同するとは限らない。

※新=ニュージーランド、豪=オーストラリア

 これで2本目の選手たちに試合をさせ、ワールドカップへの準備の前の準備をします」

――選手たちの顔を見て。

「そこまで選手たちを追い込んでいないので、現状では過去の合宿の入りのフィットネス状況に比べ、いまのほうがよりフィットしていると思います。初日にテストをしましたが、2名以外は11月にテストした数値に達成しました(ここまで2週間の取材を総合すると、異なる証言もあり)。スコッドとしていい兆しです。感じられるのは、(選手たちが)高いモチベーションを持って自分たちのコンディションを保つことを継続してくれていたということです。ムードもすごくいいです。皆、ラグビーを始めたいと思っていると思いますが、ワールドカップに向けていいペースでチームのピークを持っていきたい。気を急がないようにと言っています」

 以後は通例通り、テレビの代表質問が切り出す。

――序盤キャンプでは「24/7」というテーマを掲げているようですが。

「四六時中という意味。ワールドカップに向けた課題、磨き上げるべきことなどが色々あると思いますが、それをグラウンド外でも常に、頭の片隅で意識して欲しいと思いました。常に、自分を磨き上げて欲しいと考えたからです」

――いま、基礎力を重視する意味。

「ピーキングは各国それぞれだと思いますが、我々はストレングスなどの土台をしっかり作ってからワールドカップに向けてピークにもっていくということです」

――ワールドカップで対戦するスコットランド代表、アイルランド代表をチェックしての印象。

「両チームとも強い。ジャパンとは違ったスタイルのラグビーをしていて、セットプレーやキックからのプレッシャー、ディフェンスが多い印象です。それを生で観られたのは良かった。ジャパンは違う脅威で攻めていきたいです。昨秋のイングランド代表戦で垣間見えたと思いますが、乗りに乗っている時は強豪を窮地に追い込める(前半15-10とリードも15―35で敗戦)。それを80分間、継続してやらなきゃいけない。それをどうやっておこなうか。サンウルブズ、ウルフパック、7~8月(合宿)、代表戦で戦術戦略を落とし込んでいきたいと思っています。ワールドカップまでには選手たちがフィジカル的にもいい状態で、戦術も熟知している状態で入れるという手ごたえを掴んでいます。自信も持っています」

 ジョセフがここまで語り切ると、隣にいた日本協会広報部の関係者が「いま、ジョセフが色々とお話をした。これと違ったご質問のある方は、お願いします」と強く念を押した。

――堀江翔太選手が怪我から復帰。リハビリの日々です。

「非常に経験豊富な選手。リカバリーは忍耐強く、焦らずやらないといけない。いま走り始めていますが、無理してラグビーに入れるのはあまりに愚か。丁寧にラグビーに戻していきたい。ラグビーに戻れば多大な影響を与えてくれると思いますが、そこまでは時間をかけたいです。あくまで本番は9月。ここにパーフェークトな状態で入って欲しい」

 ここから前出の関係者が「あと、1、2問」とし、他のテレビ局が質問する。

――16日、サンウルブズが初戦を迎えます。

「プレシーズン期間に怪我人に悩まされたり、極端に準備期間が短かったり、トップリーグ明けの選手が入ってきたり(今年のトップリーグは12月中旬に閉幕)、急ピッチで作り上げたチーム。でも、レベルズとの練習試合を映像で見ましたが、バックスに経験豊富で強い選手が揃っている。今回の対戦相手は手ごわい。セットプレー重視で体格が大きい。そこを見たいと思います」

――個別で色々と学んで来られたようですが、今後のマネージメントで変化は。

「イングランドで見学をさせてもらったが、比べる対象が違う。日本と違って予算も無限にある。彼らの作り上げていることを日本でやろうとするのは無理なところがあります。ただ、海外で色々なアイデアをもらうというのは――トニー・ブラウン(サンウルブズのヘッドコーチ兼日本代表のアタックコーチ)と一緒に回ったのですが――各チームのプロセス、どういうコーチをどう起用しているか、スタッフとどうコミュニケーションを取っているか、それによってどう円滑に組織を運用しているかを学べた。色々な変更はあるかと思いますが、これは1日で一気に変えるのではなく、徐々に徐々に発展させていきたい」

 帰り際に一言。

――元日本代表のトンプソン ルークがサンウルブズに入りました。

「怪我人がたくさん出たので、経験者を。こちら(RWCTS)の選手をサンウルブズへ…というのは避けたかったので」

 取材時間は約20分。質疑を通訳していた時間を踏まえると、ジョセフが肉声を届けたのは長くて10分強程度か。カメラ目線でのメッセージよりも具体的な振り返り、冒頭発言の詳細な確認を求める新聞、インターネットのメディアからの質問は、帰り際の問答を除けば最後の1つのみにとどまった。なおテレビ局は会見の序盤に質問をするのが通例であるため、質問者に罪はない。

 かねてよりジョセフ率いる日本代表には、メッセージの統一化や取材時間のスリム化など、情報発信に関して敏感な措置をとる傾向があった。今度の会見も、事前に時間が設定されていたと見られる。もっとも、この日のジョセフは必ずしも話すことに後ろ向きではなかったような。会見後の報道陣が異議を唱えたのは自然な流れで、今後、現場と広報部が改めて話し合うと見られる。協会関係者は「ゴールはたくさん取り上げてもらうこと。そのための、互いにとって最良な形を目指したい」とする。

 一方、ある報道関係者は、「こういう状況を作ったのは自分たちの責任でもある」。語学力を磨くなど、指揮官との信頼関係の構築する努力をもっとすべきだったのではと指摘する。本欄運営者としては自省するほかない。

 ワールドカップイヤー。人気競技に負けない情報量がファンに届くまでには、多角度的なハードワークが求められる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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