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明治大学・武井日向、2度目の決勝で晴らしたかった「悔しい思い」とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
写真は昨年度の選手権決勝時。この日のことを忘れなかった。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 雪辱を果たす権利を得た。

 2019年1月11日、明治大学ラグビー部3年の武井日向が本拠地の東京・八幡山グラウンドにいた。翌日の大学選手権決勝戦を見据えて言った。

「去年の悔しい思いはある。明日はスタートで出るので、(思いは)決勝で勝って話したいですね。スクラムは自分たちの形をやる。もしうまくいかなかったら修正する。修正力はこの大会を通してついてきています」

 武井は國學院大學栃木高校出身のフッカー。身長170センチ、体重98キロと小柄ながら運動量と低い姿勢での突進やタックルを持ち味とする。

 ここでの「悔しい思い」は、2018年1月7日に沸き起こったという。東京・秩父宮ラグビー場で、チームにとって19シーズンぶりという選手権決勝に出場。しかし武井はスターターの背番号2ではなく、リザーブの背番号16をつけていた。

 1年時からレギュラーの武井は、「最後まで2番を背負い続けられなかったのが、悔しかったです」と口にした。

 その決勝戦では後半から出場も、ラインアウトのボール投入を乱すなど「緊張を楽しめなかった」。さらに20―7とリードして迎えた10分過ぎ。明治大学は敵陣ゴール前左で自軍スクラムを獲得も、武井は地面に足を滑らせてしまう。塊を故意に崩す、コラプシングという反則を取られてしまった。

 対する帝京大学は以後、ペナルティーキックで陣地を獲得するたびに明治大学のペナルティーを誘発。15分のトライなどで14―20と接近した。最後は21-20と逆転。明治大学は、相手の9連覇を見届けることとなった。

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 3年生になった武井は1月12日、秩父宮での選手権決勝戦に背番号2をつけて出場できた。天理大学に22―17での勝利。序盤こそスクラムで苦しめられながら、ハーフタイム直前のピンチを無失点でしのぐなど献身的な防御で魅した。後半21分には貴重なトライを決めた。

 リベンジを果たした思いを語った。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――スクラムは、前半は苦しみながら後半に修正させた。

「前の選手たちがうまく崩せたから、後ろの選手の押しを前に伝えられた。前の修正がうまくできた。相手の前の選手が塊を上に突き上げてくるのに対し、僕らは頭を上げて反則を取られていた。そこで、頭を上げないように低く抑えようとしました。首を上げてくるのを(肩で)抑えてという感じ」

――相手は、左側から押し上げる形をイメージしていたような。

「相手がそういうスクラムを組むとわかって対策をしてきたのですがうまくいかなかったので、その時に方向を変えたり、いろんな形を試したりして、修正しました。横同士のまとまりが割れると全部、崩れてしまう。横のまとまりを意識しました」

――ノーサイド直前の相手ボールスクラムの際、メンバーチェンジ。控えフッカーの松岡賢太選手に申し伝えたことはありますか。

「ヒットで前に。それだけ伝えました。リザーブ同士でも色々と準備をしていたと思います。

 メイジのAチームは、練習でBチームに押されることもあります。全員が強いスクラムを組めています。だからあそこで代わっても、不安はなかったです」

――きょうは、武井選手のいい突進もありました。

「きょう、ホテルから出発する前の試合前ミーティングで、メンバーに入れなかった人たちのビデオメッセージがポジション順にあって。それを見てやらなきゃという気持ちになりました。『日本一のBチームと練習しているんだからお前らは日本一だ』と。本当にその通りで、皆のために頑張らなきゃいけないなと思いました。

(キャプテンの福田)健太さんは泣いちゃったりして、僕も危なかったです。全員が自分のためではなく、仲間のために戦ったと思います」

 記者団の輪が解けると、こう言い残した。

「去年はリザーブからスタート。悔しい思いもありましたし、1年間の集大成をぶつけようとも考えていたので、いい形で終われてよかったです。ロッカールームは皆で『写真、撮ろう!』と言い合ういい雰囲気でした。僕にとって初めての日本一。いい体験をしたなと思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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