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5連敗中サンウルブズの現場。4月7日初勝利へ取るべき態度とは。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
堀江がタックル。苦しむラインアウトでは「毎回、新しいことをしているので」。(写真:アフロスポーツ)

 4年に1度のラグビーワールドカップに向け日本代表を強化するプロクラブ、サンウルブズが苦しんでいる。

 南半球主体の国際リーグのスーパーラグビーへ参戦も、過去2季で通算3勝。加入3季目の今季も、休止期間を挟んで開幕5連敗中だ。

 特に今シーズンの不振は、ファンの落胆を誘っただろう。

 開幕前の時点ではサンウルブズ以外でスーパーラグビーを経験した海外出身者を6名から13名に、現状では2019年までに日本代表資格(他国代表経験を持たず3年以上日本へ居住)を得られないであろう選手を1名から6名に増やしていた(途中離脱者は除く)。

 他クラブに比べて短い約4週間という事前キャンプの質も、日本ラグビー界を挙げて改善させた。

 

 けが人発生のリスクがある壮行試合は現体制の意向で中止させ、国内トップリーグ(下部との入替戦は除く)の終了からキャンプ入りまでの休息期間を約1週間から約2週間に伸ばした。北九州での事前キャンプ中、選手やコーチは「今季は経験者が多い」「今季はフィジカルを鍛えられる」と口を揃えた。

 ところがふたを開ければ、2月24日の初戦(第2節)でブランビーズに25―32と惜敗したのを皮切りに黒星を重ねた。3月24日の5戦目(第6節)では、チーフスに10―61 で大敗した。人気ミュージシャンを呼ぶなど興行面での努力もむなしく、観客数は減る一方。一体、何が起きているのだろうか。

皮膚感覚は文書に勝る

「ジェイミーのスタイルは『それぞれが自分の仕事をする』というもの。エディーの頃は『そこ(攻撃陣形の一部や守備網の穴』に誰かがいなかった場合は周りの選手が状況判断して『そこ』を埋めていたのですが、ジェイミーの考えのもとでは『そこ』を埋めることは『自分の仕事をしていない(本来いるべき場所にいない)』ということになる。理想通りに行けばいい結果が得られるのでこのスタイルを信じてやっていますが、メンバーを入れ替えた時にもろさが出ることがある。新しく選手の仕事が不十分だったりすると、その穴を突かれるんです」

 こう語るのは、サンウルブズにいる代表歴の長い選手の1人だ。ジェイミー・ジョセフ現ヘッドコーチ体制下の日本代表への見立てを、ワールドカップイングランド大会で3勝を挙げたエディー・ジョーンズ前ヘッドコーチ時代と比べながら話した。

 ここで語られたジョセフのチーム作りの美点と盲点は、サンウルブズにも通じる。フィロ・ティアティア前ヘッドコーチ率いた昨季のサンウルブズもジョセフのコンセプトのもとで活動し、今季は日本代表のジョセフがサンウルブズの指揮官を兼ねているからだ。

 

 そして「メンバーを入れ替えた時にもろさが出うる」との傾向は、昨季も実証された。さらに今季のチーフス戦も、その「もろさ」と無関係ではなかった。

 2シーズン目の5月を振り返れば、第13節はシャークスに17-38で(シンガポール・ナショナルスタジアム)、第14節はチーターズに7-47とそれぞれ屈している(秩父宮)。

 直前のニュージーランド・アルゼンチン遠征時は接戦を演じるなど収穫もあったが、第13、14節に登録された23名のメンバー表に当該ツアー不参加の選手がそれぞれ9名、8名いた。そこで待っていたのは、キックを蹴った先でのタックルエラーなどだ。

 チームはローテーションプランなる計画を実施中だ。国内外で休みなく戦う選手に休暇を付与している。そこへ脳震盪やケガなどでの離脱も重なれば、メンバー固定とは程遠い状況に陥る。

 これはサンウルブズに課された前提条件のようなもので、今季は入れ替えに動じぬ組織作りが期待されていた。ところが今季のチーフス戦では、またもローテーションプランのデメリットを痛感させられた。

 チームはチーフス戦の約1週間前まで南アフリカ遠征を実施。シャークスに22―50で屈した1試合目の後に防御システムを微修正し、2試合目では前年度準優勝のライオンズに38―40と迫っていた。

 ところがチーフス戦では、遠征の疲れや国内待機組の充実ぶりなどが考慮されメンバーが様変わり。ツアーに不参加の選手が登録の23名中7名いて、その全員が先発した。伊佐キックオフを迎えると、挑戦者にとって特に肝心な開始20分で4トライを与えた。

 味方がキックした先でのチェイスラインはひとつのタックルミスをきっかけに破られ、勝負所でのラインアウト(タッチライン際での空中戦)では相手の長身選手のプレッシャーで何度も球を失った(ラインアウトの自軍ボール獲得率は7割台で、全15チーム中最下位)。

 サンウルブズの他にレベルズでもスーパーラグビーを経験している堀江翔太は「久々に試合をする選手は大変なんじゃないですか。ニュージーランドなら、どんな一流選手でも(地元の)クラブチームの試合に出てスーパーラグビーへ…(復帰する)と身体を慣らしている」と、日本国内でローテーションを運用する際の改善点を示唆。南アフリカツアーとチーフス戦の両方に参加したフランカーの徳永祥尭は、前年から指摘されたツアー直後に起こる問題を具体的に述べた。

「南アフリカで毎試合、毎試合、(出た課題を)修正をしてきた選手とその時ずっと東京にいた選手の間では、感覚の部分で差が出てしまったと思います。(遠征中の改善点などは)極力PDFなどで共有しようとしていますが、(両者間では)体現できるものが変わってくる」

「出ている人が、頑張る」

 次戦でぶつかるワラターズは、現在世界ランク4位というオーストラリア代表の経験者を12名擁する強豪だ。サンウルブズはまたも難敵と対峙する格好だが、ワラターズ在籍経験のあるフルバックの松島幸太朗は淡々と宣言する。

「遠征に行っている人も、遠征に行かないで(日本で)きつい練習をしている人も、疲れているのは皆、同じ。試合に出る以上は、出ていない人の分もいいプレーをしようという態度が大事です。出ている人が、頑張る」

 互いの連携不足から防御網を破られたとしても、抜け出した選手を追いかけてタックルするかどうかはその選手の資質によるところが大きい。松島は、こういう各自でコントロールできる領域でプライドを示すべきだと言った。

 ジョセフは、良質化された開幕前の準備期間について「他のチームは12月から集まり、2試合のプレシーズンマッチを終えて開幕に挑む」と強調している。しかし選手は、置かれた状況を言い訳の材料にするつもりはない

 例えば、相手司令塔のバーナード・フォーリーへの激しい圧力で不快感を与える。例えば、大型ウイングのタンゲレ・ナイヤラボロの背後にキックを蹴り出足を鈍らせる…。スクラムハーフで先発する流大キャプテンは、「それぞれの特徴は掴んでいるつもり」。サンウルブズを覆う構造的な課題には触れようとせず、現状の力でも勝てると証明しにかかる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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