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5連敗サンウルブズが思い返すべき田邉淳コーチの言葉。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
今季のキャプテンは流大(中央)、ヴィリー・ブリッツ(右)の2人。(写真:松尾/アフロスポーツ)

 国際リーグのスーパーラグビーへ日本から参戦するサンウルブズは現在、開幕5連敗中。4月8日の6戦目(東京・秩父宮ラグビー場での第8節)も、オーストラリア代表を多く揃えるワラターズが相手とあって初勝利への道のりはタフだ。

 日本代表の強化機関という側面もあるサンウルブズだが、参加チーム数が18から15に減ったプロリーグに加盟するいちクラブでもある。参入決定時に定められた在籍年限は2020年までとあって、生き残りのためにも結果が求められる。

 ここで思い返したい問答が、ある。2月初旬に組まれた北九州合宿で実施された、田邉淳スキルコーチの単独インタビューである。

 田邉は、発足時から在籍する唯一のコーチングスタッフ。現役時代を過ごしたパナソニックでコーチ職に携わっていた頃から、「日本人初のスーパーラグビーコーチ」を目指していた。15歳の頃から9年間ニュージーランドへ留学していたとあって、英語と日本語の二か国語で指導ができる。

 下記の問答は『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』のための追加取材の一環でおこなわれたのだが、おもに語られたのは今季取るべき態度と未来への展望だった。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――チームの歴史を振り返れば、1年目と2年目とでチームの作り方が変わったのではないでしょうか。突貫工事に近い形で臨んだ1年目はマーク・ハメットヘッドコーチのもと、日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチと連携を取った2年目はフィロ・ティアティアヘッドコーチのもとで戦いました。

「チームの作り方って、ヘッドコーチによって大きく変わります。ハメット、ティアティア、ジョセフにそれぞれのやり方がある。監督の色が出る」

――ティアティアヘッドコーチ時代は、アシスタントコーチだった田邉さんが日々の練習計画を考えていたようです。

「そうですね。ほぼほぼ」

――ジョセフさんがサンウルブズの指導を兼ねる今季は、いかがでしょうか。

「セッションプランを考えることはないです。ジェイミー、ブラウニー(トニー・ブラウンアタックコーチ)とは日本代表でずっと一緒にやっているし、特にブラウニーは現役時代に(パナソニックの前身となる三洋電機で)一緒にプレーもしている。彼らの言いたいこと、やりたいことは大体。把握しながら進められています。自分なりに重要な位置にいると感じながらやっていますね。一番、大きな絵をジェイミーが作っていて、その色付けをブラウニーがやっていて。そこで細かく個々人の能力を上げていくことに時間をかけて欲しいと言われています」

――2年目は、日本代表のジョセフヘッドコーチがサンウルブズにいる日本代表選手へ順番に休暇を付与。ティアティアヘッドコーチ率いるサンウルブズは、毎週異なるメンバー構成でチームワークを作らなくてはなりませんでした。

「そこらへんの話は、おそらくフィロとジェイミーがやっていたんじゃないかなと思います。選手をローテーションさせることの難しさは、確かにありました。去年は50~60人の選手がいるなか、明らかにスタッフの人数が足りていない感じもありました。遠征ごとにメンバーが変わっていた。デビューの選手が多くいたことはサンウルブズにとってはよかったけど、勝利を求めるのであれば、ちょっと、厳しかった」

――それは、ベストメンバーとされる構成で1試合でも多くプレーすれば…という意味でしょうか。

「ただ、今年のメンバーを見れば、スーパーラグビーを経験している外国人選手、(日本代表で)ジェイミーのもとでずっとやって来た選手が多くいる。いいのではないかと思います。(事前キャンプの時は)S&Cコーチを手伝う方もいて、トレーナーの数も増えました。なおかつ、選手数が減った(開幕直前の時点で46名)。そういう意味では管理しやすいと言えば管理しやすい気がします」

――キックとポゼッションの比率について。日本代表の基本計画上はスペースへの効果的なキックが求められましたが、田邉コーチが計画を練る昨季のサンウルブズはボールをキープする時間を増やした印象です。

「(当時のサンウルブズで)大きかったのは、ボールを蹴っても、それを(相手から)取り返す策がなかったということです。策がわかっていても、そこに到達する前に選手がローテーションをするということもありました」

――ボールを奪い返すための防御システムが浸透する一歩手前で、選手が入れ替わった。結果、なかなかボールを奪い返す策が定着しない。

「(システムを)理解する前に交代、交代、交代ということがあったと思います」

――選手をローテーションさせる方針なら、確実にボールを持ち続けている方が勝利に近づきやすかった。

「(ボールキープ重視の戦い方は)11月にあった日本代表の対フランス代表戦も実施してうまくいった(23―23で引き分け)。プレーのバランスは、敵によって変えていくということ。キックを多用した方がいい相手も、ボールをキープした方がいい相手もいる。そのバランスを取りながらやっていく」

――今季のチーム文化を作るうえで意識していることは。

「3週間の事前合宿で、多国籍軍がどう同じ絵を見られる状態を作るか。避けるべきは『負けてもいいだろう、3年目だから』というマインドセットです。負け癖のあるチームにならず、勝ち方を覚えていくというプロセスを踏んでいます」

――サンウルブズはどうあるべきか。

「池田さん(純・チーフブランディングオフィサー)が言っていたのですが、『日本をリードする存在にならないといけない。その可能性があるチームでもある』ということです。(選手にとって)一番やりたいチームがサンウルブズに…という存在になっていきたい」

――2016年には、「沈みかかった船をどう豪華客船にするか」と話しておられました。

「あの時は半分沈んだような船に乗れと言われて乗って、何とか沈まないようにはなった。ただ今度は、(スーパーラグビーを統括する)SANZAARに狙われて沈まされるんじゃないかという状況になった。今度はSANZAARの標的にならないような船にしていって、最終的に豪華客船にできればいいと思います」

――2020年以降に除外勧告を受けるのを避けるためにも、勝利を積み重ねたい。

「その後にどういう存在になるべきか。ここで豪華客船になれれば、日本をリードできる。ラグビーに限らず色々なスポーツを見渡しても、サンウルブズのようなユニークなチームってないと思うんですよ。日本のフランチャイズのチームに、10名以上の外国籍選手がいる。そういうチームは、野球、サッカー、バスケットにはおそらくない…。スポーツ界を引っ張っていけるような存在を目指すべきだと思います」

――いずれ「スポーツ界を引っ張る」。そうなるために、いますべきことは。

「コーチとして言えるのは、勝っていくこと。勝利を取っていかないと認めてくれない世の中だと思うので。それはグラウンド上で勝つこともそうだけど、グラウンド外でも勝つ。グラウンド外でも他のチームに勝てるような何かを、毎回、していきましょうと。どこの国に行っても『いいチームだね』と言われるようなところを、目指していきます」

 グラウンド内で「勝利」を掴むべく、選手間の連携、スキル、プレーの強度を高める。グラウンド外で「勝利」を掴むべく、世界中のファンに闘志を示す。ちなみにジョセフが今季の開幕前に掲げていた目標は「シーズン5位以内」。もし実現の可能性が絶たれても、「負けてもいい」は「避けるべき」である。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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