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明治大学・丹羽政彦監督、外国人枠拡張に「議論されない」ことが「問題」。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
大学選手権決勝では9連覇を決める帝京大学に20-21と肉薄。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 今季限りで辞任する明治大学ラグビー部の丹羽政彦監督が、2018年度からの大学ラグビーの外国人枠拡張について私見を述べた。関東、関西、九州の上位リーグで適用される新ルール適用に向け、十分な議論がなされなかったのではと疑問視した。

 

 就任5年目の今季は19シーズンぶりに大学選手権決勝へ進出。オフシーズンはかねて希望していたシドニー大学クラブとの国際交流試合を企画し、2月11日には東京・明大八幡山グラウンドで現役学生のチームとして、17日には同・江戸川陸上競技場で卒業生も交えたオール明治大学として戦った。

 11日の試合後、退任の経緯やシドニー大学クラブとの関係構築について語る。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――辞任の経緯は。3月からは田中澄憲ヘッドコーチが監督となります。

「もともとは4年(で終える)だったんですが、(4年目となる2016年度のオフは)コーチ陣が一新した時だった。いきなりゼロになったところで(後任に)渡せないので、まずは澄憲にヘッドコーチをやらせて、それまで自分たちのやって来たことのうち、客観的に変えられる部分を変えてきた。組織化をして、上昇した状態でチームを渡すことはできたと思っています」

――2017年度は、田中ヘッドコーチに監督のバトンを渡すことを前提に指揮してきたのですね。

「そうそう。澄憲も(在籍先のサントリーで)フロントの仕事はやっているけど現場はまだやったことがなかったから。1回、自分がやりたいようにやってみたら、と。(試合前に)メンバー選考の最後の1、2か所で悩むところがある時などは話し合いましたけど、今年は、ほとんど僕は口を出していません! ある程度は任せないと、自分の反省できるところが生まれないですから」

――以後、丹羽監督はアドバイザーのような形でチームに携わるようです。

「監督が代わると、高校の先生やトップ選手に考えるところ(進路選択の再考のことか)が生まれてしまう。それに僕は(監督就任前に)20年近くチームの採用をやってきているので、現場を離れると難しい部分が出てくる。そこで、僕が現場を離れずにやっている(と示す)ことと、現場がやりやすい環境を作ること(を仕事にする)。まだ正式には決まっていませんが、明治大学がクラブとして発展するための動きをしていこうと思っています」

――「クラブとしての発展」という意味では、シドニー大クラブとの国際交流も大きな影響を与えそうです。

「これを一過性のものにせずに続け、うちの選手が半年でも現地へ行ってトレーニングして、向こうでは英語の単位も取って帰ってこられる(明治大学への単位の振替のことか)ように調整をしてもらったりできたら…と考えています。本当の国際交流を。外国人3人ではなくて…」

 2018年度から、大学ラグビーシーンの外国人枠が2から3に拡張されることとなった。

 その背景には、海外出身選手の代表資格取得の変更がある。現在は他国代表経験のない選手は当該国居住3年以上でその国の代表を目指せるが、2020年以降はその年数が5年に拡張した。国内最高峰のトップリーグも同時出場が2人までとされる外国人枠とは別に、将来の代表入りが見込める選手を起用する特別枠を設置。2018年からは、その特別枠選手が同時にピッチに立てる上限が1から3に増やされることとなっている。

 大学ラグビー界の変更もその潮流に乗ったものとされるが、この決定はより良いプレー環境を目指す留学生候補の門戸を広げられる一方、チーム方針や予算などに伴うチーム間の戦力格差を助長するリスクも伴う。

 

 ここまで外国人枠の使用をしてこなかった明治大学の丹羽監督は、今回の枠の拡張に異を唱える1人だ。枠を広げること自体にではなく、その過程に十分な議論がなかったとされる可能性に、警鐘を鳴らしていた。

――ルールができた以上、留学生のいるチームはその枠をフル活用して当然です。それは責められない。

「使いますよ、それは。やるしかないですから。ただ、これが日本のラグビーにとってプラスになるかを議論されないままやっていることがよくないと思います。(少年を指導する)ラグビースクールの人たちはものすごく怒っていますよ。これは、書いていいですよ。議論されないままこういうことが決まるのは、問題だって」

――他国代表経験のない海外出身選手の代表資格取得の条件が2020年以降「居住3年」から「居住5年」に伸びることへの対策。2019年のワールドカップ日本大会で指揮を執るジェイミー・ジョセフヘッドコーチへのセレクションの選択肢の提示…。今度の決定の大義は、このあたりでしょう。

「で、それを一生やるのか、という話です。(時の為政者の意志に)右往左往しながら対応しているのはどうかと思います。それだったら、日本人を海外で経験をさせるなどして育てて、トップリーグに送って…とした方がいい。何のためにこれをするのかが、わからない。こんな中途半端なことをするなら、(外国人枠を)15人にすればいい。15人とも外国人でOKです! みたいに。その方が(日本人主体のチームにとって)経験値が上がる」

 もちろん今度の発言の前提には、人種を問わず1つのチームで戦えるラグビーの多様性、これまでの日本ラグビー史における留学生選手の貢献度の高さ、直近での国際競争力強化が急務である点は据えられていよう。丹羽監督が問題視するのは、意思決定までの過程に当事者たちの声があまり反映されなかったかもしれぬ点にある。

 ワールドカップ日本大会での好成績は以後のラグビー人気を勃興させるには不可欠とあって「2019年までは目をつぶってやるしかない」と協会関係者は言う。それとは同時並行で、2023年、2027年、2031年のワールドカップ時のあるべき姿についても議論が求められる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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