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帝京大学9連覇も「勝ってもよし、負けてもよし」?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
歓喜の瞬間。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 学生ラグビー界の王者を決める大学選手権の決勝戦は1月7日、東京・秩父宮ラグビー場であり、帝京大学が明治大学に21-20で勝ち、9連覇した。

 前半4分、明治大学の梶村祐介副キャプテンが自陣でのインターセプトからトライを決め先制。0-5とビハインドを背負った帝京大学は、敵陣中盤右ラインアウトからの連続攻撃で7-5とひっくり返す。しかし以後は、明治大学の連動した攻めにタッチライン際の防御を破られる。15分、右端でウイングの高橋汰地が2人のタックラーを振り切り7-10と逆転した。

 帝京大学がデッドボールライン(ゴールエリアを縁取る線の1つで、ゴールラインと正対)の向こうへキックをするなどミスを繰り返すなか、明治大学は攻撃時間を確保。帝京大学は7-17のスコアでハーフタイムを迎える。

 帝京大学がギアを入れたのは、7-20と大きくリードされた後半5分以降か。自陣ゴール前右で相手ボールスクラムでの反則を誘うと、グラウンド中盤からの連続攻撃でさらに明治大学のペナルティーを誘発。一気に敵陣ゴール前へ進み、ラックの連取から14―20と追い上げる。

 続く20分には自陣からの速攻で3トライ目を奪取。ラスト20分間は追加点こそ挙げられなかったが陣地を支配していた。

 試合後は岩出雅之監督と堀越康介キャプテンが会見。心境を明かした。

 両者は加盟する関東対抗戦Aで11月17日、神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場で対戦。帝京大が6点リードで迎えた前半終了間際のピンチを脱するなどし、41-14で勝利していた。

 以下、公式会見中の一問一答の一部(編集箇所あり)。

岩出監督

「何をお話したらいいかわからないですが、ほっとしています。手に汗握るクロスゲームの醍醐味を、両チームの学生たちが全力を振り絞って出し切った。多少ミスは出ましたが、若さと集中力のある、いい試合ができたと思います。明治大学さんの素晴らしいファイトとプレーに向かっていくことができて、とても嬉しく思います。

 ハーフタイムも、試合前も言っていました。『厳しい時にどんなマインドでできるか』『タフに頑張り切れるか、やり切れるか』。それを楽しみに、試合を見つめていました。最後はしっかりと選手たちの頑張りを信じるしかない。作戦の向こう側で、学生たちが流れの中で頑張り続けられるかという個々の成長を信じ、結果、我々が勝利できると信じて見守っていました。最後は、我々に運が回って勝つことができました。ただ、両チームどっちが勝ってもいいゲームではなかったかと思います。勝った、負けたではなく、学生全員に敬意を表したいです。胃が痛くなるゲームでしたけけど」

堀越

「よろしくお願いしいます。本当に1年間、この日をターゲットに積み重ねてきた結果が日本一という形になって、キャプテンとして嬉しく思いますし、メンバー、支えてもらった方たち全員を笑顔にできて、キャプテンとしてほっとしています。80分間、明大さんがぶつかって、お互いにいい試合ができた。本当に楽しい試合になったと思います。我慢の時間帯が多く続いたゲームでしたが、その我慢の時間帯を全員で楽しもうと、試合前も、プレー中もずっと声かけていました。我慢の時間帯を楽しめたことが勝利に繋がったと確信しています。集大成を最後に出し切れて良かったです。以上です」

――「胃が痛くなった」。どこで。

岩出監督

「胃が痛くなったと言った方がいいかな、と思って言ったんですが…。指導者にも、選手にも、迷う、惑わされる部分があると思うんですけど、僕は僕で、惑わされるものを自分自身で作らない。そういう意味で、最後は学生たちを信じることが大事だと思っていました。

 対抗戦のスコアをどこかで意識している選手がいたら、迷うのだと思うんです。東海大学戦(昨季まで2シーズン連続で決勝を戦った相手との準決勝。33-12で勝利)では感じなかった、ちょっとした、気持ちの違い――慢心ではないですが――は感じていた。受け身になる部分をしっかりとして欲しいという気持ちで臨みました。

 ハーフタイム。スコアが離されていました。逆にそんな心配は捨てました。今年1年間、楽しむことの深さを追求しようとしてきました。まさにその心理で頑張って欲しいと思いました。指導者も選手も、終わった後の勝敗差を気にせず、集中してプレーして出し切ろうと思っていました。

 プレー面では、ディフェンスでファーストタックルが悪いというところがありました。もう少しファーストタックル、セカンドタックルをヒットさせていこう、と。逆に我々のアタックでは2番手が遅れてブレイクダウンに勢いが感じられなかった。そこも修正した。あとはやって来たことに変更なく、いかに自分自身を力を発揮するかというアドバイスをして、送り出しました」

――選手の成長について。

岩出監督

「もの凄く可能性は感じるんですけど、いらいらする空気がなく、のんびりしていました。今年のチームに関しては、力を発揮する時は危機感を持っていた。ただ、少し自分のなかで『…』というものがあると、少し甘いプレーが重なるかなと。そこに関しては、まだまだ成長しきっていないかな、と感じます。逆に今日、厳しい結果が出た方が彼らの人生の教訓になるのではないかと感じる時もあります。

 指導者としては『勝ってもよし、負けてもよし』と心理を安定させ、勝敗に壊されないマインドセットをしています。その意味で、学生たちも追い込まれて成長したのかなと思っています。成長もしましたけど、さらに厳しさを持つ強さがあるともっと面白い。手を抜いていないし、いい加減にもやっていないのですが、ソフトな優しさがある。しかし、裏には厳しい、力強い、いいマインドもある。現代社会の学生の特徴がうちにもあるんだなと思いました」

堀越

「監督が仰った通りのことを考えていて、このチームは少しのんびりしちゃう部分があって、どこかで隙、安心を出すところがシーズン中に多かった。ただ、このチームのいいところは、危機感のある時にひとつのことに集中すれば、本当に大きな力を発揮するところです。

 自分自身、キャプテンとして、チームに危機感、緊張感を持たせるリーダーシップという課題が出ました。その意味でも、これからに繋がる1年間になったと思います」

――スタンドでは明治大学のファンが多かったが。

堀越

「特に気にしていませんでした。ラグビーに集中する部分。明治大学のファンも多かったのですが、仲間が応援してくれていたので力強く声援も聞こえましたし、厳しい時間帯に皆の姿を見てエネルギーが沸いていたので『仲間が見ている。応援しているぞ』とあちらこちらからも聞こえてきて。優勝をチーム一丸となって勝ち得たと思います」

――前半と後半で、ディフェンスのシステムなどは変わったのか。

堀越

「特には変わっていません。レフリングとの関係もあり、前半は反則が多かった。とにかくノーペナルティーで、規律高くやっていこうと話していました。ディフェンスも我慢強くできましたが、アタックでも後半はキャリア(ボール保持者)が力強く前に出て、2人目の寄りを早くしようと、後半、挑んでいた。明治大学さんは前半からファイトしていた分、後半には足が止まっていた。そこで走り勝つ部分があったのかなと思います」

――ラストワンプレー。敵陣ゴール前でペナルティーキックを得た時、ペナルティーゴールではなくスクラムを選びました。

堀越

「敵陣ゴール前スクラムを選択した部分は、スクラムトライを狙いに行きました。去年の選手権決勝では、東海大学さんにスクラムトライを2回もされた。『悔しい思いを忘れんとこう』と、この1年間スクラムにこだわってきました。その結果、スクラムが強みになった。スクラムトライはできなかったですけど、あそこでスクラムを選択できたのは良かったですし、チームでスクラムに対するいい文化ができたと思います」

――最後はシンビンでグラウンドの外へ出ていましたが。

堀越

「正直、グラウンドで優勝を喜び合いたかったという思いはあるのですが、今後の反省として生かせますし、仲間に『あとは任せとけ』と言われましたし、何より仲間を信じていました」

――10連覇へ。

岩出監督

「まず、休ませてください。我々も、より努力していく。まだまだ未完。学生スポーツですから未完で終わることも多いですし、簡単に完成することはない。僕自身も60歳ですが、まだまだ指導の足りないところを見つける。そのことと学生が自分を見つけることを合わせて、チームを育てたいです。明治大学さんには多くの選手が残りますし、慶応義塾大学さんも充実している。早稲田大学さんも100周年という気持ちの入った1年になる。9連覇を支えにするだけじゃなく、指導者、部員も気持ちを持って、いちから積み重ねてゆく。そうして決勝の舞台まで積み重ねて出し切れるように。1年間、学生が本気になってくれるよう導きたいし、新しいリーダーとともに深めていく」

 シーズン中、堀越は辛勝を重ねながらも「このチームは本当に必死こいたらすごい力を…」と首を傾げていた。最後の最後も、綱渡りの80分を勝ち切った。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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