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「秩父宮の芝が芝じゃない問題」について。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
昨季の日本選手権決勝時の秩父宮。スパイクが土を掘り起こしている。(写真:アフロスポーツ)

 日本ラグビー界の「聖地」と言われる東京・秩父宮ラグビー場(秩父宮)が、まるで田んぼのようになっている。

 今年12月は公式戦中に次から次へと芝がめくれ、試合最中の修繕作業が余儀なくされる。

 秩父宮のグラウンドコンディションは、かねて問題視されてきた。使用頻度の多さや高層ビルの隣という立地条件などの影響で、冬の国内シーズン終盤になると状態は極端に劣化。軽やかなステップを持ち味とする選手も、秩父宮での大一番へは味方のキックを追うプレーを練習して臨むほどだった。

 今年はその傾向が輪にかけて強まった。「ウインドウマンス(おもに国代表が活動する期間)」と呼ばれる11月に芝の張替えをおこなったが、その成果も見られず。今月20日には日本ラグビー協会主導で芝の張替えを断行する。

 

 秩父宮はもともと日本スポーツ振興センター(JSC)の持ち物とあって、トップリーグなどの試合を主催する日本ラグビー協会(JRFU)主導でのコントロールは難しかった。今回は怪我のリスクを抑えるなどの目的で、異例の措置を下した。

 とはいえ、その効果は薄かった。ファンのSNS上では、神戸製鋼の一員でオーストラリア代表経験の豊富なアダム・アシュリークーパーがグラウンドの穴埋めを手伝う写真まで掲載された。

 12月20日、JRFUの坂本典幸専務理事が経緯を報告した。

 以下、JRFUの理事会後のブリーフィング時の一問一答(編集箇所あり)。

――今回の芝の悪化について、どんな議論がなされていたのでしょうか。

「1月の日本選手権を一番いい状態の芝でおこないたいという目的がありました。私ども(JRFU)から提案し、ウインドウマンスに芝の張替えをしました。本来であれば関東ラグビー協会が大学生の試合を組む時期でしたが、その時に3週間(秩父宮の使用期間を)空けて、1月にいい状態で臨むべく芝を張り替えるということです。

 計画的に全面を掘り返したのですが、結果、その3週間でいい芝が入っていなかった。施工したJSCさんにその旨を伝え、先週(12月11~15日)、再度全面張替えをしました。

 本当は12月9日の試合(国内最高峰のトップリーグ第11節2試合が予定された)をなくして2週間で張り替えることも考えたのですが、テレビ・マッチ・オフィシャル(ビデオ判定、TMO)など諸設備の都合からグラウンドを動かせなかった。実は当日の4チームには試合会場を代えるというご了解もいただいていたのですが、各チームのある東京(南関東)周辺に2試合同時に開催できるグラウンドがなかった。1試合、1試合で別会場ですと、1週間でTMOの準備をするのが難しいのです。

 最終的に工事が終わったのは、16日の試合前日の金曜日。翌日に(大学選手権で)試合をする東海大学さんには、何か所かでスクラムを組んでいただいて、芝の状況を見てもらいました。『85点』という評価をいただきました。しかし、2試合目になると耕運機で耕したように芝が浮いてきてしまいます。これから時間が経って根が張ればいいが、霜が降りていて、特に南側は陽が当たらない。

(張替え作業の時に)掘り返してみてわかったのですが、(グラウンドに)穴をあけると下の方が湿っているんです。私も長く秩父宮を見てきましたが、こんなことは初めてでした。今年は日照時間が短く、雨が多かったことも影響したのだろうと思います」

 かねてグラウンドコンディションに課題を抱えていた秩父宮が、今年の悪天候でより芝の根付きを悪くさせた格好か。

 11月の張替えは、JRFUが費用を出してJSCが施工業者に依頼して実行。ところが発言の通りクオリティは十分でなく、JRFUからJSCに再度申請。「その後の費用負担をどうするかと言うより張り替えるのが先だった。今後もプレーに支障がないよう、安全第一でやっていきたい」と坂本専務理事は言う。

 くしくもこの日の理事会では、ワールドカップ日本大会後の競技発展のための「RWCレガシープロジェクト」の発足が発表されている。同プロジェクトのミッションのひとつは、秩父宮周辺の資源の活用方法の整理とみられる。もっとも直近で求められるのは、「聖地」がアスリートに望まれる聖地になることだ。「1月」の芝の状態はどうなっているか、注目されたい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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