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快適か不快感か。王者サントリーに、再建中トヨタ自動車はどう挑む?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
写真中央はキャプテン就任2季目の流。日本代表でもリーダー格。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 トヨタ自動車は変わりつつある、との論調が強まっているのは、ボスの存在による影響も大きかろう。

 2007年のワールドカップフランス大会で南アフリカ代表を優勝に導いたジェイク・ホワイト監督が就任。日本選手権優勝3回もも前年度はトップリーグ8位に終わったクラブに、新たな息吹を吹き込もうとしている。社是や伝統を交えつつ「昔のトヨタ自動車に戻りつつある」と語るなど、弁舌は滑らか。今季7戦ですでに2敗も、生気を保っているようだ。

 10月15日、京都・西京極陸上競技場での第8節に挑む。対する前年度王者のサントリーにあって、スクラムハーフの流大キャプテンは相手をこう語っている。

「今年のトヨタ自動車は試合を観ていてもまとまりがあると感じます。フォワードも重たい。色々な記事を読むと、ジェイクが来たことで勝つカルチャーを学んでいる最中だというのもわかります。危険視しています」

 サントリーは、元日本代表スタッフで就任2年目の沢木敬介監督のもと「スペースを攻める」というスタイルを提唱。過去7戦では全勝しながらやや攻めあぐめる場面もゼロではなかったが、沢木監督は「プレーに制限をかけていた」。本来ならばキックを蹴られるシチュエーションでもあえて自重するよう選手に告げるなどし、限られた選択肢で局面を打破できる底力を植え付けていた。

 前節のサニックス戦から「制限をかけなかった」とし、中断前残り2試合となったトヨタ自動車戦もその流れで戦うという。いわば、本格的にエンジンを入れる格好だ。それに対し、トヨタ自動車は、どこまでサントリーに不快感を与えられるか。相手のひずみをえぐるパワーを持つだけに、いかにしてそのひずみを作り出せるかが注目される。

 自在に攻めるサントリーとのカードを前に、トヨタ自動車は防御を改善中。第5、6節まで2試合連続で40失点以上を喫するも、第7節では12―6というロースコアゲームでリコーに勝利した。

 そのリコー戦で初先発したオープンサイドフランカーの吉田光治郎は、課題克服の背景を語る。

「抜かれている部分は、順目(相手が攻める広いスペース)に人が足りていないなどの人数カウント(相手と自分たちとの数の不一致)が理由になっていることが多かった。人数があっている時はいいディフェンスができていたので、声を出して味方を空いている場所に立たせたり、自分がそこへ行ったりという部分を気にはしました」

 今度も分厚い防御網を敷き、タックル成立後の接点でサントリーのランナーにへばりつきたいところだろう。球出しを遅らせることで相手に不快感を与え、自軍ペースを掴むきっかけを得たい。

 加えて攻防の起点となるスクラムでも、重さを活かしてプッシュを重ねたい。リコー戦では、後半22分から登場した身長188センチの右プロップ、ルアーン・スミスが怪力を披露した。かたやサントリーは、唯一後半ロスタイムまで勝負をつけられなかったヤマハ戦でも序盤にスクラムで手を焼いていた。トヨタ自動車としては、スミスを軸とした局地戦の有無や優劣も勝利へのキーポイントに挙げたいところだろう。

 不快感を与えたいトヨタ自動車に対し、快適に攻めたいサントリーもただ手をこまねいているわけではない。

 例えば肉弾戦で停滞させられるシーンについては、元オーストラリア代表のボールハンター、ジョージ・スミスが選手兼コーチの風情で対策を立てる。流によればこうだ。

「ジョージからはミーティングでも練習中も『ブレイクダウン(接点)で仕事をしろ』と言ってくれます。ボール保持者は前に出てグラウンドに寝た後もしっかりとワーク。サポート役は、そのブレイクダウンの状況を見てどんなプレーをすべきかを判断しろ…と。トヨタ自動車もブレイクダウンで絡んでくるチーム。それをさせないように」

 ルアーン・スミスら巨躯が組むスクラムに対しても、身長176センチの12年目、フッカーの青木佑輔が「スクラムで消耗させたい。相手ボールでもプレッシャーをかける。ターンオーバーができなくても、球出しを狂わせる」と穏やかに腕を撫す。

 挑む側の局地戦がはまれば好試合になりうる80分に、沢木監督は「それに付き合わず、スペースを攻める。それだけ」。当日の様相やいかに。

<第5節私的ベストフィフティーン>

1=左プロップ

石原慎太郎(サントリー)…サニックス戦。前半終了間際に敵陣ゴール前のスクラムを自身の側からドミネート。チーム3本目のトライを促す。ボールタッチへの意欲も貫く。

2=フッカー

湯原祐希(東芝)…コカ・コーラ戦でスクラムを優勢に保つ。組み合ってしばしすれば、右プロップの浅原拓真のがわからじわり、と押し上げる。モールの起点となるラインアウトも安定させた。

3=右プロップ

ルアーン・スミス(トヨタ自動車)…リコーとの接戦に後半22分から登場するや、自陣ゴール前の相手ボールスクラムをドミネート。以後もスクラムを組めばプッシュを重ね、僅差での勝利をおぜん立てした。

4=ロック

ジョー・ウィーラー(サントリー)…空中戦を安定させ、攻めてもスペースへの駆け込みで防御網を破る。終盤も味方のロングキックを追う動きが松井千士(後述)のトライに繋がる。

5=ロック

ジェームス・ムーア(東芝)…コカ・コーラ戦に先発。鋭い出足の防御網にあって強烈なタックルを放つ。突進役としても機能。

6=ブラインドサイドフランカー

リーチ マイケル(東芝)…ナンバーエイトとして先発。落球を誘うタックル、一連の流れで2度ボールをもらっていずれも防御網を破るラン、オフロードパスなどを放つ。

7=オープンサイドフランカー

武者大輔(リコー)…トヨタ自動車との接戦で、先制ペナルティーゴールを促すジャッカルや鋭いタックルを重ねる。

8=ナンバーエイト

エドワード・カーク(キヤノン)…そこまで全勝だった神戸製鋼に勝利。ロックの菊谷崇とともに要所でジャッカルを放った。スペースへ鋭角に駆け込んでの突破も。

9=スクラムハーフ

藤井淳(東芝)…後半23分ごろ、自陣22メートルエリア左のモールの脇から抜け出し好タッチキックを放つ。その前には密集脇のスペースを突いてだめ押しのトライを決めていた。途中出場からクローザーを全う。

10=スタンドオフ

立川理道(クボタ)…近鉄戦に先発。自陣深い位置から敵陣22メートル線付近まで駆け上がるカウンターアタックを、チーム2本目のトライに繋げる。同3本目のトライの折は、直前に相手のキックをチャージ。最後はスコアを決めるシオネ・テアウパへオフロードパスを放つ。その後も、逆サイドの奥にスペースがあればキックを放つなど視野と判断の妙が重なる。

11=ウイング

ホセア・サウマキ(キヤノン)…チームの攻撃構造に倣って左タッチライン際でトライをマーク。試合終盤にも、左タッチライン際の一本道を細やかなステップで駆け上がるなど持ち味を発揮する。

12=インサイドセンター

マレ・サウ(ヤマハ)…NEC戦にアウトサイドセンターとして先発。防御の隙間へ駆け込んでのトライから自陣ゴールライン手前での防御など、スコアに直結するシーンで持ち前のパワーとスピードを発揮。

13=アウトサイドセンター 

ライオネル・マプー(クボタ)…先制トライ時は、弧を描くようなランコースで整った防御を突破。その後も攻守逆転直後の接点上で球を拾い、50メートル超を駆け上がってだめ押しトライを決める。

14=ウイング

松井千士(サントリー)…途中出場から2トライした新人。入社後に鍛えた肉体と持ち前のスピードの合わせ技。防御でも献身。

15=フルバック

リアン・フィルヨーン(NTTドコモ)…NTTコムに敗れたものの、最後尾ではハイボールを好捕してカバーディフェンスでも魅す。攻めても後半15分ごろには、パスで味方を走らせる→その先の接点へのサポート→数フェーズ先の局面でスペースを突破と一連の流れで複数の仕事をおこなう。敵陣へ飛んだキックを拾ってのトライも。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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