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サンウルブズ劇的勝利後会見ほぼ全文。来季に向けすべきこととは?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
有終の美。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

国際リーグのスーパーラグビーに日本から加わるサンウルブズは、7月15日の最終節でニュージーランドのブルーズを48―21で圧倒。発足2年目にして初の2勝目を挙げ、最下位を脱出した。ニュージーランド勢からの白星は初。

会場の東京・秩父宮ラグビー場は30度を超す炎天下。ニュージーランド代表を7名も登録したブルーズはミスを連発した。それに対しサンウルブズは、攻防の組織を保った。

2点差を追う後半18分には、敵陣ゴール前右でのモールへポジションを問わず頭を突っ込む。ブルーズが無用な妨害を犯し、サンウルブズはペナルティートライ(その反則がなければトライが決まっていたと判定されてのトライ)を決める。ここで26-21と勝ち越してからは、4度も追加点を挙げた。

もっとも、日本代表との連関性を強化したチームは今季2勝13敗。2日のライオンズ戦ではチーム史上最多の94失点を喫するなど、パフォーマンスの波とそれを招いた複数の要因にも注目が集まっていた。

試合後にはシーズン総括を兼ねた会見があり、フィロ・ティアティアヘッドコーチ、ヴィリー・ブリッツゲームキャプテン、サンウルブズを運営する一般社団法人ジャパン・エスアールの渡瀬裕司CEOが登壇。事前には試合の会見と総括会見を分けるべきではとの要望もあったが、スケジュールなどの事情から今回の形となったとされる。

以下、一問一答の一部(編集箇所あり)。

――きょうは選手にどう送り出したか。どれくらい自信があったか。

ティアティア

「毎回、自信を持って送り出しています。それは過去も変わりません。最近の南アフリカツアーからたくさんの学びがあった。ゲームプランもクリアに落とし込んでいったし、3週間でゲームプランに変化を加えた。そのスタイルによって素晴らしいトライがいくつか生まれたと思います」

――メンタルタフネスについて。

ティアティア

「ライオンズ戦では、コーチ陣、リーダーに大きな学びがあった。キーメッセージは『コントロールできることをコントロールしよう』。ストーマーズ戦にもその形で臨んだ。今回はブリッツをはじめ、リーダー陣に成長がみられた。それを誇りに思っています」

――いま、ボスから「成長」という話がありましたが、今日の勝因は。

ブリッツ

「全員がリーダーとして戦えたと思います。フィロから1週間言われていたのは、『1人ひとり、試合のどこかのタイミングではリーダーとして戦わないといけない』ということ。全員が心を込めたプレーができて、実行力がついてきた。練習の強度を上げた結果、ディフェンス強化にも繋がったと思います」

――逆転トライを挙げた場面。獲得したペナルティーキックでゴールを狙わずラインアウトを選択しています。その理由は。

ブリッツ

「相手のジェローム・カイノがイエローカード(10分間の一時的退場)を受け、フォワードは8対7になっていた。いける、と。また、サンウルブズの全員のスピリットも高く、自然にこのような選択になりました。『スウィング・ザ・バット』。そのテーマを掲げて戦ってきました。全員が、そのような決断ができた」

――先発センター陣2人のディフェンスについて。

ブリッツ

「ティモシー・ラファエレ、ウィリアム・トゥポウはディフェンスで貢献してくれた。また、途中から出た山中亮平もいい仕事をしてくれていました。彼らの良かった点は、試合での読み、1対1でのタックルを完全に決めてくれたことです。彼らの素晴らしいプレーによって、全員に勢いを与えてくれた。そのおかげでターンオーバーが生まれたのだと思います」

――今年から日本代表と連携を強化していますが、2勝したことの意味は。

渡瀬

「パフォーマンス含め、間違いなく底上げができた感じは皆さんにもあったと思うんです。今季初めてスーパーラグビーでプレーした選手も多くいるし、去年より成長できた確信はあります。ニュージーランドのチームに勝ったのは我々にとっては大きな財産。相手はスーパーラグビーが始まった時からいるチームですから。これは来年以降に繋がると思います」

――最下位脱出。

渡瀬

「そこについては特に何も思っていませんが、今週の初めにフィロ、選手に言わせてもらったのは『2月から兄弟愛を大事に、お互いのために体を張ろうとやってきた。いまのままだったら、何も残らない。それが悲しい』。このチームでやっているからこその何かを残さなくてはならないと、その思いを託させていただいた。皆が自分たちのために戦ったのが本当に嬉しかった」

――炎天下でのキックオフ。選手にもファンにも負担があった。

渡瀬

「スーパーラグビーは、すべての試合が重ならないようにしていかなくてはならない。昼間か、ナイターかという選択肢が与えられました。秩父宮のナイター施設は、スーパーラグビーの基準に達していない。他の会場でやる選択肢もありましたが、サッカーとの兼ね合いで確保できなかった。昼にするうえで、12時にするか、14時にするか。これはその日によるので賭けだったのですが、14時の方が気温は上がることが多い…と。苦肉の策でしたが、ファンの方の具合が悪くなることもありました。うまくナイターを活用して運営していくことを、我々としても、日本協会としても考えないといけない」

ティアティア

「(自らマイクを持ち)コントロールできないことは、しない。きょうはいままでで最もよいパフォーマンスができた。耐え、競争できた。暑いなか、世界一のファンのサポートの皆様方に素晴らしいサポートをしてくださいました。素晴らしい1日でした。選手も素晴らしいディフェンス、素晴らしいトライを決めて、相手にプレッシャーをかけられました。もしできれば、今日のことに特化して質問いただければ大変うれしく思います。

日本でレストをした後に戻ってきた選手がいいプレーをした。外国人もいいプレーをした。そんななか、初先発した具智元の話をしたい。彼は入りから素晴らしいプレーをした。その時間を誇りに思います。彼はふくらはぎのけがをしていて、耐えながら、素晴らしい結果が得られた。素晴らしい才能の持ち主です。きのう、智元の素晴らしい記事が書かれているのを読みました。感謝しています。

また大戸裕矢がスーパーラグビーデビューを果たしました。同じロックのサム・ワイクスが脳震盪になって、SOSを出さなきゃいけないなか、招集。所属のヤマハには感謝を申し上げたい。ラインアウトでは谷田部洸太郎とブリッツが勇敢にコールを出してくれた。素晴らしかったと思います」

――きょうは、総括会見も兼ねていますので…。改めて、今後の選手の休養やトレーニング期間について伺います。8月から国内であるトップリーグ期間中、一部選手を休ませる必要があるのでは。現場からもそうした要望が出ています。

渡瀬

「その辺はトップリーグのチームといまも話している最中です。総じて皆さまから日本代表やサンウルブズをサポートしたいという話をいただいている。ここは、変えていかなくてはいけない。怪我などでメンバーを変えなくてはならないと、どうしてもチームのパフォーマンスは落ちてしまう。それでコーチたちにはプレッシャーをかけてしまいました。一気にどこまで変えられるかはわかりませんが、少しでも改善はしていきたい」

――ヘッドコーチにきょうの話を伺います。キッキングゲームの評価は。

ティアティア

「もう少し具体的にお願いできますか」

――きょうのキッキングゲームは効果的だったように思いますが、どうお感じですか。

ティアティア

「向上が見られた。(ボールがどちらへ渡るか)50パーセントの確立を狙えた。また3週間前と比べて、我々のチェイスラインも変わったと思います。またきょうは、チャンスがあればボールをキープしていこうという話をしていた。トライを見ていただけばわかるが、ディフェンスでプレッシャーをかけてからのトライが多かった。運に任せなくてはいけないこともあるだろうが、今回は運がこちらに傾いた。プランがあるからこそ、こちらに運が傾いたのです」

――来季に向け、他国のチームが削減された。サンウルブズは来季のスコッド編成に向け、どう考えますか。これまで通り日本代表候補を軸に編成する一方、経験のある外国人選手を入れるイメージはおありですか。

渡瀬

「こちらは、なかなか説明が難しいのですが、我々は日本代表のためだけにあるべきではない。サンウルブズがスーパーラグビーで成功することで、間違いなく日本代表が強くなる。サンウルブズの選手全員が日本代表である必要はないと思います。海外に必要な選手がいるのなら、採ってもいい。結果を出すことで選手は自信をつけていく。この場では難しいですが、これからは来年に向けた具体性を持ったことも考えていきたいと思います」

――今季、パフォーマンスが安定しなかったことについて。

ティアティア

「まず振り返りをおこなう。今年多くあったのは、リコンディショニングプランで選手を変えなくてはいけなかったこと。試合で使った選手たちは向上したい意思を見せてくれた。私はこのチームが大好きで、今季を振り返ることでどう向上するかを考えるのを楽しみにしています」

――チーム編成について。

渡瀬

「少しずつ考えてはいます。具体的なことは言えないのですが、しょっちゅうメンバーが変わることが望ましくないのは、間違いない。あとはお金の問題もある。選手を海外から呼べばお金もかかる…。その辺は来年に向け、改めてお話しできる時が来たらいいと思います」

ティアティア

「(自らマイクを持ち)すごくいい質問だったので付け加えさせてください。スーパーラグビーが始まった1996年、私はたしか23歳くらいで、ハリケーンズでプレーしました。そのチームはファーストクラスの選手とサードディビジョンの選手が織り交ざった、成功するなんてありえないチームでした。全試合負けたと思います。勝つべきだったが、落とした試合もあったと思います。そんななか、後々のオールブラックス(ニュージーランド代表)になる選手が多々現れました。何が伝えたいかというと、どこかでスタートをさせないといけないということだと思います。経験のない選手にも経験を与えないと、強くならない。そのうえで、その選手がいいのかどうかを見て、よくないのならどのように向上させるかを考える。なので、これからのレビューが大切になると思います」

初代メンバーでもある田邉淳アタックコーチは、メンバーが季節ごとに入れ替わるなかで日々の練習計画を立てるなど戦術の浸透に苦心。それでも「どの試合を、ということはなく、常に勝ちに行っている」と強調してきた。

一方で内部昇格のティアティアヘッドコーチは、一貫して前向きに映る発言を意識。取り囲むメディアにはしばし「エキサイティングな質問を」とリクエストを出し、この日の総括会見でも48得点を挙げた試合の話をしたがっていた。

指揮官の契約は2018年シーズンまで。日本代表側の意向なども踏まえて編成される来季のスコッドを、どうマネージメントしてゆくのだろうか。プロクラブのボスである以上、与えられた状況下で1つでも多くの勝利を得るための具体的な行動が求められる。

――これからすぐにしなくてはならないことは何ですか。

ティアティア

「今日の振り返りも大事で、今季のネガティブだったことも振り返らないといけない。ただ、きょうは勝利を喜びたいと思います。私の親友であるブルーズのヘッドコーチ(タナ・ウマガ)とも分かち合いたい。私の子どもたちがニュージーランドから来ています。そのうち1人はネイピアでバレーボールの試合があるため、ニュージーランドへ帰ってしまった。スナップチャットで、自分がどれだけ喜んでいるかを伝えたいと思います。ハードワークした選手やスタッフとも喜び合いたい。ブルーズの選手たちとも交流を図りたい。ラグビーはゲームなので、人との出会いがかけがえのない財産。心待ちにしています」

ブリッツ

「今季はアップダウンのあるシーズンでしたが、このような形で終わることを目指していた。このことをまず祝い合いたいです。このメンバーで過ごせるのは最後の機会になるかもしれない。ずっと『enjoyment(この時を楽しむ)』と言ってきましたし、家族、キョウダイ(ここは日本語)として時間を共有する時間にしたいと思います」

渡瀬

「まず、選手とコーチを休ませるのが一番大事なことです。そのあと、レビューをしていくのですが、それは強化、ビジネス的なところを含めてです。お金がないと強化できないところもありますから、そこはしっかりとやっていきます。サポートしてくれたスポンサーの方、サポーターの方々にもお礼回りをしたいと思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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