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サンウルブズ長谷川慎スクラムコーチが見る、日本人の「はまる技術」とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
キックオフ直前、最終チェックをおこなう長谷川コーチ。(写真:アフロ)

ラグビー日本代表の長谷川慎スクラムコーチが5月24日、取材に応じた。6月におこなうテストマッチ(国際真剣勝負)の展望などを語った。

現在は、サンウルブズのコーチとして活動中だ。国際リーグのスーパーラグビーへ日本から参戦するサンウルブズは、代表と戦略やプレースタイルを共有。タフな試合経験を重ねながら、代表に適した選手を強化している。チームはここまで2回の休息週を消化しながら1勝10敗。5月27日には、東京・秩父宮ラグビー場でチーターズと第14節をおこなう。

長谷川コーチが指導するスクラムとは、軽い反則が起きた後にフォワードが8対8で組み合う攻防の起点。ボールを前に投げられないこの競技にあっては、スクラムを押したチームほど前がかりになって試合を進められる。

サンウルブズは発足初年度の昨季こそ、この領域で苦しめられた。ところが、昨秋の日本代表ツアーに加わった長谷川コーチが加わると状況は一変。第13節終了時点で、現在の自軍ボール獲得率は16チーム中8位の93パーセント。シーズン序盤戦はしばらく100パーセントをキープしていた。

8人全員が低い姿勢で一体となるのが、長谷川流のスクラムだ。時として押し込みを疎かにしがちな最後列の3選手も、角度にこだわってプッシュ。前列の5選手へ馬力を伝えるためだ。各人の掴み合う方法、姿勢、さらにはその意図は明確化されていて、強固な塊を支える。

最前列中央のフッカー、堀江翔太は「今年はスクラムでも戦術戦略を持ってやっている」と、長谷川コーチの指導内容とそれを個々が咀嚼するさまに目を細めていた。

今回は話が進むなか、日本人独自の強みが定義づけされていった。

以下、一問一答の一部(編集箇所あり)。

――チーターズとの第14節を直前に控えるなかで伺います。ここまでの試合を通し、サンウルブズのスクラムはどう映りますか。

「簡単なところでいうと…。前回のチーターズとの3節を見ていて、(当時といまとでは)えらく変わったな、と。いままで南アフリカ、ニュージーランド、アルゼンチンという色々な国のチームとやって、そこにはそれぞれの特徴があって。それらと組むなかで、日本の特徴というものも出てきたかなと」

――さまざまな強豪との対戦を通し、世界に通用する日本のよさがより可視化された、ということですね。

「そうですね。最終的に。加えて、この相手に対してはこう…と微調整もできてきている。1つの形しかなかったところに、色々なバージョンができてきた。多分、いまの(サンウルブズの)選手は、それぞれの母校などへ行ったらコーチができますよ。それだけ、何をしなきゃいけないかを言葉にできる。理解してくれる。やはり、スーパーラグビーは日本ラグビーを進化させるすごくいい機会だな、と思います」

――4月上旬から約4週間続いたニュージーランド&アルゼンチン遠征。スクラムに関しては最初の2試合(クルセイダーズ戦、ハイランダーズ戦)で苦しんだ一方で最後の2試合(チーフス戦、ジャガーズ戦)はいい形を保っているように映りました。

「もう少し早くいまの組み方をしていたら、あそこにもう少し早く気付いていたら…という部分はありました。(遠征序盤は)南アフリカと組む時と同じように組んでいた。途中から、ちょっと、変えた。それでチーフス、ジャガーズに対して、はまった。いまの組み方があれば、来年のシーズンはまた違った形になるだろうなと。僕自身も、すごくいい経験になった」

――お話に挙がった南アフリカ勢とニュージーランド勢との違い、サンウルブズの微修正について、具体的に教えていただけることはありますか。

「日本のトップリーグ、南アフリカ、ニュージーランドと、全く組み方が違うわけです。例えば、組み際、セットという点では、トップリーグのチームの方がうまく組んでいる。南アフリカのチームはそこで負けても、その次(組み込んだ後の押し合い)で勝っている。力強さがあるからです。ニュージーランドは(相手の)特徴を研究して、突いてきます。(4月の遠征の2試合目でぶつかった)ハイランダーズは、サンウルブズの試合から(それまでと)組み方を変えてきたんです。僕たちは、そのままでした。そこで、なぜやられたかがわかって、チーフス戦までに修正した」

ニュージーランド勢の創意工夫。

そのひとつに、組み合う際の「バインド」の合図で苛烈なプレッシャーが挙げられるか。これは文面上こそ反則だが、その日のレフリーのルール解釈によっては問題視されない傾向が強い。

そのため現状では、各チームの「バインド」時の圧力の度合いは、担当レフリーの見立てや対戦相手の傾向、さらには自軍の組み方などによって変わる。

サンウルブズの今回のニュージーランド遠征でも、対戦相手の「バインド」での圧力のかけ方やそれへの担当レフリーの対応が事前の分析と大きく異なった試合もあったようだ。出場選手の1人は、「試合後、相手選手に話を聞いたらこちらを研究しているようだった」と振り返った。裏を返せば、よりビッグサイズな強豪クラブにも研究対象と見なされていた。

雨中のグラウンドで押し込まれたクルセイダーズ戦(4月14日、3―50で敗戦)を「グラウンドのある位置、雨の溜まったところでは…。あの試合は色々な要素がありましたが、次にやったらああいう風にはならない」とかみしめるように語る長谷川コーチは、日本代表についても話を展開した。

日本代表は6月、ルーマニア代表、アイルランド代表と3つのテストマッチをおこなう。アイルランド代表は、2019年のワールドカップ日本大会の予選プールでも日本代表と対戦予定。まだ予選通過前のルーマニア代表も、出場権を得れば日本代表と同組に入る。

――スーパーラグビーの開幕前は、「80分間、同じ組み方をし続けられるかどうか」をキーに挙げていました。そのあたり、どう映っていますか。

「大まかな部分でのやることは変わっていない。最初のキックオフミーティングの資料をそのまま使っています。だからその形は、全員ができるようになっています。ただ、最初に提示した形というのは、50点ぐらいのもの。そこに(前述の対戦経験などを踏まえ)味付けをして、どんどん変わっていっている。最初は、理解がないから何をしたらいいかがわからない状態だったのだと思います。それでパニックにもなった。いまは、何をしたらいいかがわかる。ただ、きっとこれからもパニックは起きるかもしれない」

――初見のレフリーや初見の選手など、「パニック」を招く要素はいまのうちに出会っておきたいところですね。ここからは、日本代表のこととサンウルブズのことを絡めて伺います。代表チームが今後戦う欧州諸国の代表チーム、スーパーラグビーで戦うチームとはどんな違いがありますか。

「一概には言えない。ただ、いまの日本のプロップの選手は、8人のシステムのなかではまるという技術がすごい。個人同士の1対1だったら海外の方が強いかもしれないけど、日本の選手は8人のなかで自分がどう組むかを理解して…(それに準じた体勢を作る)。すごいな、と。逆に、海外のプロップがここへ来ても、ちゃんと組めないかもわからないです。身体の構造も全然違いますし」

――第2列目のロック、第3列目のフランカー、ナンバーエイトの選手も「8人のシステムのなかではまるという技術」を求められますが、ここには海外出身の選手が並ぶことも。

「外国人の選手にとって、80分間、100パーセントで何回も何回も同じことをすることは難しい。ただ、いまは、それが大分、できてきた。サム・ワイクス、ヴィリー・ブリッツ、エドワード・カーク…。モンスター(リアキ・モリ)やボニー(ラーボニ・ウォーレンボスアヤコ)もそうですよ。8人で組む日本のスクラムのなかで、自分がすること。それを重要だとわかって、やろうとしてくれて、結果も出てきている…。

ただ、メンバーがワンクールごとに変わるのは難しいですね。試合に出るフロントロー(最前列)が週によって、全然、変わったりもする。そのなかで、皆で、うまく組むというための準備期間は欲しかったです。ただ、(来年は)ゼロスタートじゃない。今年のサンウルブズだってゼロスタートではなかったですが、今度は僕がやるスクラムという意味で、ゼロスタートじゃない。それにずーっと続いていく。2016年秋のヨーロッパ遠征から一緒で、代表も6月、11月と続く。ARC(若手が挑んだアジアラグビーチャンピオンシップに挑んだ若手中心の日本代表)も、ニュージーランドへ行った関東代表も同じ組み方をしてくれていた。遠藤の20歳以下日本代表も同じようにしてくれるというし、皆がつながっている」

――下のカテゴリーから繰り上がった選手の適応は、スムーズになりそうです。

「と、思います。もっと言えば、そこにはまる力のある選手のほうが選ばれるかもしれない。また、はめるのがこちらの仕事かな…と」

――シーズン序盤から、お互いにスクラムの姿勢を取って耐えながらコアの筋力を鍛える独自の「スクラムの筋トレ」もなさっています。東欧諸国の強烈なスクラムに対抗するため、個々のパワーを付けようという狙いだと伺っています。成果はいかがですか。

「(昨秋の日本代表ツアーで)ジョージア代表とやった時に、ああいうフィジカルをつけていなかくてはいけない、と感じました。どれだけ強くなったのかは、ジョージア代表と組んでみないとわからないです。ルーマニア代表は、おそらくジョージア代表よりも強い。ルーマニア代表とやれば、いまの日本代表の位置、しなくてはいけないことが何となくわかるな、とも思います」

――今年のアイルランド代表戦、いかがですか。

「急には、強くならない。いまやっていることに、プラスアルファを加えてやっていく。順調に、2019年までいい曲線を迎えられたら…」

――アイルランド代表は一部の主力をブリティッシュ・アイリッシュライオンズ(イギリス連合チーム)に取られているため、ワールドカップ本大会で戦うであろうメンバーとは顔ぶれが変わりそうです。

「そこはあまり関係ないですね。タイプに慣れれば、それでいいです」

――「タイプに慣れれば」。アイルランド代表がどういう哲学をもとにスクラムを組んでいるのか、それを感じるという意味ですね。

「個人の強さは関係ない。システム対システムです。個人が負けたからと言って崩壊するスクラムにはしたくない。向こうが個人で組んでくるのなら、こちらはシステムで」

全体練習が終われば、必ず控え選手らを交えて組み方のチェックをおこなう。そんな選手層拡大のための取り組みの結果、庭井祐輔ら代表経験の浅いメンバーもスーパーラグビーで相手と伍している。

情熱と合理性を重んじ、明日も目を光らせる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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