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サンウルブズ田邉淳アシスタントコーチ、日本代表強化&「愛され」目指す?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
シンガポール・ナショナルスタジアムでは次が今季3戦目(写真:Haruhiko Otsuka/アフロ)

ナショナルチームの強化という大義を果たしながら、プロチームとしてのミッションを遂行する。サンウルブズの田邉淳アシスタントコーチは、ふたつの使命感に動かされている。

国際リーグのスーパーラグビーへ日本から参戦するチームは、4月上旬から約4週間あったニュージーランド、アルゼンチン遠征から1週間の休息を経て、5月15日から都内で合宿を開始した。20日には準ホームのシンガポール・ナショナルスタジアムで、シャークスとの第13節を迎えるところだ。

離日前の最後の公開練習があった16日、試合の戦術や練習計画を考える田邉コーチが共同取材に応じた。

三洋電機から名称変更したパナソニックで正フルバック、コーチとして存在感を示してきた38歳。15歳の時から9年間、ニュージーランドへ留学しているとあって、初年度から加わる多国籍軍のサンウルブズではよきパイプ役でもある。

チームはここまで1勝9敗(試合のないバイウィークを2度消化)。成長の跡を覗かせるなか、善戦をどう勝利に結びつけるかが注目されている。

以下、15日の練習後の一問一答(編集箇所あり)。

――1週間の休息を経て、シャークスに挑みます。

「シャークスが今回初めてのシンガポールであること、昨年に比べてトータル500キャップ(スーパーラグビー出場数)以上分の選手が抜けてヤングなチームになってきたこと。そこに、我々のチャンスがあると思っています。相手には大きな選手がたくさんいるので、どんどんボールを動かすことは変わらず。相手のアタックにどんどんプレッシャーをかけて、ディフェンスからアタックへ切り替える機会を多く作るプランはあります」

――直近の遠征の印象は。

「毎ツアーごとに新しい選手が入ってくること、6月の代表戦にどれだけの選手が手を挙げるのかという点が我々にとってのチャレンジです。あと2試合、どれだけハングリーな選手がいるかが代表にも繋がると思います。

一番勿体ないのは、前半終了間際などの失点。選手の間でもそういう話が出た。開始10分、前半最後の10分、後半開始10分など、その時々に発するキーワードを作って引き締めよう…と」

――長期遠征中にチームが向上する点は、やや体調を崩すこともあった昨年とは違います。

「ツアーに行くたびに我々のしたいラグビーを選手が理解していく。その時間が増えるほどよくなる。ただ、それに慣れていない選手は1、2週間(戦術の定着までに)かかるというのが現状かな、と思います」

――戦術の大枠は変えず、試合ごとにボールの動かし方や陣形にマイナーチェンジを加えています。

「週ごとにちょっとした変更を。それを信じ切った時はいい試合ができるし、それができなかった時は苦戦しています」

サンウルブズは、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ率いる日本代表とも戦術を共有。田邉コーチは昨秋の代表ツアーに帯同して以来、ジョセフヘッドコーチと密に連携を取っている。本人が取材で話した通り、日本代表は今年6月にルーマニア代表、アイルランド代表とテストマッチをおこなう。

ジョセフヘッドコーチは、スペースへのキックで体力を温存しながらここぞの場面でテンポを上げる戦法を唱える。それを効率よく実現するための陣形を落とし込み、各ポジションの選手に明確な役割を与えている。

サンウルブズを支える田邉コーチは、その大枠を尊重しながら別なスタンスも胸に秘めている。

「サンウルブズはあくまでサンウルブズ、というものがあって。代表と大きく違うのは、ボールを蹴った後にずっとディフェンスができるかと言えばそうでもないことが続いている点だと思うんです。そこのバランスをうまくとりながら…」

――確かに、自陣でもボールをキープする場面が増えました。

「それが増えれば増えるほどトライも取れている。ファンやメディアの方に向けては、どうやって好かれるようなチームになるかも大事になる。もちろんいいキッカーもいるし、全くキックを使わないわけではない。ただ、それぞれのキャラを見て有効なキックを蹴りたいなと思います。(弾道へ)プレッシャーをかけられる状態で蹴るか、もしくは我々のアタックに切り替えられるキックを……と」

――ポゼッション重視への微修正については、ジョセフとも話し合っているのですか。

「常に、しゃべりながら。ジェイミーもスーパーラグビーを経験しているので(ハイランダーズの元ヘッドコーチ)、インターナショナルマッチとスーパーラグビーの違いはわかってくれている。インターナショナルマッチでは最大で半年くらい試合が開くのに対し、スーパーラグビーでは毎週、試合が続くために相手にとっても分析がしやすい…(そのため、戦術のマイナーチェンジが必要)。サンウルブズのプランは、ジェイミーにも毎週送っています。たまに、メールのやり取りがあります」

――一方で、今年6月の日本代表の活動へのイメージは。

「どれくらい自分が関われるか、まだ細かくは知らされていません。ただ、ルーマニア代表戦、アイルランド代表戦に向け、ブラウニー(トニー・ブラウンアタックコーチ、現在はハイランダーズのヘッドコーチも兼務)と一緒に計画を立ててゆく予定ではあります」

5月10日に京都迎賓館でおこなわれたワールドカップ日本大会(2019年)の予選プール組み合わせ抽選会を経て、日本代表の入ったプールAにはアイルランド代表、スコットランド代表の参戦が決定。未決定の「ヨーロッパ1位」にはルーマニア代表が、「プレーオフ勝利チーム」には環太平洋の強豪が入る可能性が高い。

――組み合わせ決定がいまの準備にどう影響しますか。

「ひとつ重要になるのはセットプレー(プレーの起点)。また、スコットランド代表はシンガポールでの試合を予定しています(6月にイタリア代表戦)。それは、(蒸し暑い)日本の対策を始めているということ。我々も準備で後れを取らないようにしたい」

ジョセフを船頭に据えた日本代表とサンウルブズで、重責を担う田邉コーチ。多面的なビジョンのもと、勝負をかける。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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