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池田純・元横浜DeNAベイスターズ社長、日本ラグビー協会特任理事に。展望は。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
いつもスタンドが埋まるのならば。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

ワールドカップ日本大会を2019年に見据える日本ラグビー界の喫緊の課題は、集客力とされる。特定選手の人気への依存や母体企業のチケット買い取り以外の方法で、どのようにスタジアムを埋めるか。

日本ラグビー協会は、2019年度の年間総観客動員数(トップリーグ、日本代表戦、大学ラグビー、スーパーラグビーなどを含む全カテゴリーでの総観客数)の目標を「140万人」に定める。現在は約92万人。2015年秋にあったワールドカップイングランド大会後のブームは、ひと段落ついてしまった。秩父宮ラグビー場のある青山地区との連携を密にして、地域を取り込んだ非日常的な空間づくりに活路を見出すか。

4月19日に戦略計画を打ち出した折、この計画をどう遂行するかと問われた坂本典幸・日本ラグビー協会専務理事は「レビューをちゃんとしていくことだと思う」と、一度打ち立てたプランを放ったままにしない意思を明らかにした。

救世主誕生?

ファン層の拡大に向け、新しい特任理事が就任した。池田純氏。株式会社横浜DeNAベイスターズの元代表取締役社長である。

着任は同日付。任期は今年6月までだが、以後の再任も濃厚。今回の役職に就く前から公益財団法人日本プロサッカーリーグ特任理事など、6つの役職を掛け持ちしていた。

2011年に史上最年少の35歳で球団社長となった池田氏は、昨年10月までの約5年間で球団を黒字化していた。ホーム球場を運営する株式会社横浜スタジアムを子会社化し、ファンサービスや場内イベントを抜本的に見直し。その間のメディア露出などで自らの認知度も高めていた。

「できない理由」の排除へ

著名かつキャリアの豊富な経営者の着任に、坂本専務理事も「(ラグビー界の)中だけの議論を外向きの議論にしていただきたい」と期待の言葉を述べる。今後は、発せられた意見がどれくらい実現されるかに注目が集まる。

池田氏は今回の就任を前に、公式戦のおこなわれた秩父宮ラグビー場に何度も足を運んでいる。場内の飲食物の販売方法などについて、顧客満足度の観点から改善策を提示したのだという。

もっともその要望のいくつかは、すぐに実行されるとは限らない。秩父宮ラグビー場は、日本ラグビー協会の所有地ではない。それゆえ各種の制約が生じている。池田氏の提言には、その不文律を飛び越えたものもあるようだ。出された改革案に「できない理由」が用意されている状態、とも取れる。

池田氏が携わったベイスターズは、横浜スタジアムを傘下に置くことなどでその「できない理由」を皆無にした、とみられる。では、日本ラグビー協会もそれと同じように秩父宮を買い取ればよいのでは…と思うファンもおられよう。ただ、それを成し遂げるには十分な財源が必要となる。

今度の戦略計画で出された現状の内部留保(組織の貯金額のようなもの)は「6億円」。いまの秩父宮の「お値段」は不明だが、当時の横浜スタジアムの買収額は「100億円規模」と報じられている。秩父宮と横浜スタジアムが同額ではないにしても、競技場を所有するのには相応のお金がかかるのは事実だろう。

成功するには、「できない理由」を探さないことが必要とされる。池田氏のアドバイスを受けた日本ラグビー界が、いかにして「できない理由」を排除するか。あるいはいかにして現状の「できること」を策定するか。ファンの期待感は高まるばかりだ。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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