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FW起用で開幕弾!「ソシエダの久保建英」を日本代表で再現する道はないのか?

元川悦子スポーツジャーナリスト
カディス戦で強烈インパクトを残した久保建英(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

カディス戦の先制ゴールで強烈なインパクトを残した久保

 2019年夏のレアル・マドリード移籍以来、マジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェ、マジョルカと、3シーズンで4度のレンタル移籍を繰り返してきた久保建英。その彼が今季は完全移籍でレアル・ソシエダに新天地を求めた。完全移籍といってもレアル・マドリードとの共同保有ということで、全く戻れないわけではないのだろうが、本人としても「新たな環境でゼロからやっていく」という決意を固めたからこそ、外に出たはずだ。

 並々ならぬ覚悟が8月14日の22-23シーズン・リーガ・エスパニョーラ開幕戦に色濃く出ていた。敵地・カディス戦で久保は4-4-2の2トップで先発。これは本人も想定外だったようだが、イノマル・アルグアシル監督は足元で引いてボールを受けたがる久保の特徴を認識したうえで、あえて相手DFの背後に飛び出させようとした。カディスのセルヒオ・ゴンサレス監督も選手たちも久保のことをよく知っている分、完全に裏をかかれたと言っていいだろう。

「セカンドトップ」という新境地を開拓へ

 前半24分の久保の先制弾は、まさにそんな駆け引きから生まれた。ボランチのミケル・メリノの斜めのボールに鋭く飛び出した背番号15は、左足で瞬時にトラップし、利き足でない右足で冷静にシュートを決めた。これが決勝点になったのだから、上々の新天地デビューとなったのは間違いない。しかも、得点のみならず、インサイドのポジションでボールを受けてはたいてを繰り返し、嫌なポジションに侵入していくスタイルは、間違いなく敵の脅威となった。データ的にはボールロストやデュエルで負ける回数が多いというネガティブな要素も出てきたが、「セカンドトップ」というポジションを久保はいち早くモノにしつつあるのではないか。

 これまでの久保は、スペインでも日本代表でも「2列目要員」というのが定番だった。自分では「どこでもできる」と自信をのぞかせていたが、サイドアタッカーとしてはスピードで完全に抜き切ってフィニッシュまで持っていくことができず、トップ下としても屈強な相手にフィジカルでつぶされるなど、「帯に短し襷に長し」という印象が拭えなかった。

 だが、今回、190センチの大型FWアレクサンデル・イサクと前線でコンビを組んだことで、イサクにマークが集まり、久保はセカンドトップとして自由自在にプレーできるシーンが増えた。そう考えたからこそ、アルグアシル監督は自信を持って久保を最前線に据えたはずだ。

久保の一挙手一投足を厳しい目で見つめる森保監督
久保の一挙手一投足を厳しい目で見つめる森保監督写真:西村尚己/アフロスポーツ

 日本代表の森保一監督はスペイン人指揮官の采配をどう見たのか…。16日のオンライン取材で筆者がストレートにぶつけてみると、このような回答が返ってきた。

「トップのフリーマンみたいな感じだったと思いますけど、他の選手とローテーションしながら、どこで受けれるかっていうスペースを探して、賢くプレーしていたなと思いますし、時間とスペースがあるところを見つけて自分のよさを発揮していたなと思います。

 ただ、次の試合はどうなるか分からないですし、レアル・ソシエダも戦術的に戦えるチーム。対戦相手であったり、チームの状況によって、彼に対するタスクも変わってくるので、そこにチームのために順応するところをまた見せてほしいなと思います」

 指揮官は前向きに評価しながらも、この役割が続くか未知数だと捉えているようだった。確かにここから強豪と対戦した時に久保が自由自在に前線でプレーさせてもらえるかどうかは分からない。確かに森保監督の見立てにも頷けるところがある。

「タケのよさは出させたいが、その前にチームの戦いがある」(森保)

 ただ、我々としては、日本代表でもセカンドトップでトライしてほしいという期待は少なからずある。そこに対してもこのような見解を口にした。

「タケ(久保)のよさは出させてあげたいとは思いますが、その前にチームの戦い方がある、もともとやってきたコンセプトもあるんで、まずはチームの戦いを一番に考えた中で、彼のよさを少しでも発揮させてあげられるようなポジションや役割を伝えていきたい」

 森保監督は慎重なスタンスを貫いた。実際、今の日本代表は2トップを採用するケースも皆無に近いし、イサクのような屈強なFWはいない。久保をソシエダに近い役割で有効活用するには、4-2-3-1のトップ下に入れて、できるだけFWと近い距離感でプレーさせ、裏を狙う動きを強く意識させるくらいしかないのが実情だ。

 その場合、前線のパートナーは前田大然や古橋亨梧(ともにセルティック)のようなスピード系では難しい。大迫勇也(神戸)が万全な状態で、最前線で敵のマークを受けながらフル稼働できる想定がなければ、「ソシエダの久保」を日本代表で再現してもらう道は険しそうだ。

 加えて言うと、森保監督は最終予選途中から採っていた4-3-3を本大会でも継続しようと考えている模様。この布陣だと、久保のセカンドトップはあり得ない。それでも、限られた時間帯でオプション的に使うという選択肢はないとは言えない。それを9月の欧州遠征でテストしてみてはどうだろうか。

9月の欧州遠征で久保の新ポジションでのトライはあるのか?

 実際、大舞台での久保の決定力というのは日本にとって大きなポイントになってくる。「ここ一番の勝負強さ」と「強心臓」という観点でみれば、久保が代表の中でトップクラスと言えるからだ。

「たぶん相手が強ければ強いほど燃えるんじゃないでしょうかね。相手が強くて、自分たちのチームメイトが劣勢という時の方がいいパフォーマンスが出せるかなと思います」と久保も話していたが、1年前の東京五輪でも南アフリカ、メキシコ、フランスとの1次リーグ3戦で連続先制弾をマークした。重圧のかかる大舞台でも自然体でプレーできるのは大きな魅力だろう。

1年前の東京五輪では号泣したが、チーム最多の3ゴールを挙げている。
1年前の東京五輪では号泣したが、チーム最多の3ゴールを挙げている。写真:森田直樹/アフロスポーツ

 ただ、東京五輪では決勝トーナメント突入後は得点がストップしたという苦い過去もある。3位決定戦でメキシコに敗れた際、久保はピッチに倒れ込んで号泣していた。「今までサッカーをやってきてこんなに悔しいことってないし…」と言葉を絞り出したが、カタールW杯はここまでの過密日程ではないし、久保自身の出番も限られる。イザという状況に合わせて、力を蓄えられる。そうポジティブに捉えれば、割り切って挑めるのではないか。

「人は3ヶ月もあれば変わる。大事なのは本番」(久保)

「人は3ヶ月もあれば変われるし、ワールドカップはサプライズがあって当たり前。『大事なのは本番』って、原口(元気=ウニオン・ベルリン)選手も言っていたんで、自分がいい意味でW杯のサプライズになれればいいかなと思います」

 21歳の誕生日だった6月4日にこう語気を強めていた久保。ソシエダでの鮮烈デビューでその言葉を現実にする布石を打ったと言っていい。しかしながら、森保監督に2トップ採用、セカンドトップ起用、そして自身のスタメン抜擢を促す意味では、もう一押しがほしい。

 さしあたって、8月21日に対峙するバルセロナはまさに格好の相手。エリック・ガルシアやジョルディ・アルバらスペイン代表守備陣を擁するこの相手に2戦連発ということになれば、代表指揮官の考えが大きく変わる可能性もゼロではない。

 いずれにしても、久保建英には今、追い風が吹いている。この機を逃す手はない。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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