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香港戦・観客4980人の衝撃…。「ドル箱時代」終焉を迎えたサッカー日本代表集客の未来は?

元川悦子スポーツジャーナリスト
選手の力になるサポーターの声援(写真:ロイター/アフロ)

鹿島・小泉社長のSNS発信が話題に

 宿敵・韓国を3-0で撃破し、2013年韓国大会以来のEAFF E-1サッカー選手権を制覇した日本代表。MVP&得点王をダブル受賞した相馬勇紀(名古屋)、代表初招集ながら3ゴールを挙げた町野修斗(湘南)、森保一監督の評価を大きく上げたパリ五輪世代の藤田譲瑠チマ(横浜)など頭角を現した選手もいて、国内組の底上げという意味でポジティブな大会だった。

 しかしながら、気がかりだったのは、大会の注目度の低さだ。とりわけ、7月19日の香港戦(カシマ)の観客数は4980人。この数字には長年、ドル箱の代表戦を見てきた我々メディアにとってもショッキングな出来事だった。

 試合後には、鹿島アントラーズの小泉文明社長が「ご来場頂いたサポーターの方々には感謝ですが、カシマだから、火曜だから、香港が相手だからと言い訳せずに、協会やリーグと今の代表人気を考えないと、サッカー人気の停滞は本当に危機感しかないですね。一生懸命プレーしてる選手のためにもやるべきことがあります」とSNSで発信。大きな話題となった。

 確かに、この日は3連休明けの平日夜、東京から離れた茨城・カシマスタジアムでの開催、香港戦という三重苦に見舞われた。加えて、鹿島アントラーズから選手1人も選ばれなかったことも苦境に追い打ちをかけた。

閑散としたスタンドが目についた香港戦(筆者撮影)
閑散としたスタンドが目についた香港戦(筆者撮影)

「東京周辺のスタジアムで開催されていたら、もう少し客足も伸びたはず」と言われたが、今回のE-1は急遽、日本開催になったため、会場が見つからなかったのだろう。

「ならば、ニッパツ三ツ沢球技場やレモンガススタジアム平塚でもよかったのではないか。今回は横浜F・マリノス勢や湘南ベルマーレ勢が多かったから、もう少し集客増につながったはず」という声もメディア関係者の間で聞かれたが、施設が手狭で老朽化が目立つ会場で国際大会はできないという判断もあったのではないか。

 ただ、豊田スタジアムでも、24日の中国戦が日曜日ながら1万526人、27日の韓国戦が1万4117人と集客が大きく伸びなかったのを見ると、地理的要因だけが大きな足かせになったわけではないのかもしれない。フジテレビ系列が全国放送した日韓戦の平均世帯視聴率が9.6%(関東地区)と2ケタに届かなかったのを踏まえても、E-1という大会の関心度の低さを受け止めなければならない。

2003年スタートのE-1。時代とともに位置づけが変化

 2003年にE-1がスタートした頃を振り返ってみると、日本・韓国・中国のいずれの代表も欧州組は数人いるだけで、東アジアの国々が真っ向勝負を繰り広げる大会という印象が強かった。その後、海外組比率が年々高まり、「国内組のテストの場」という位置づけが鮮明になっていった。

 もちろん、2013年韓国大会で活躍した柿谷曜一朗(名古屋)や山口蛍、大迫勇也(ともに神戸)らが翌2014年のブラジルW杯メンバーに滑り込んだ例もあったが、カタールW杯4カ月前の今回はすでに代表の大枠が決まっている。「カタール行きのラストアピール」というより「次世代の発掘」という意味合いの方が強かったと言っていい。

 それを認識しているコアなサッカーファンは「生で観戦したい」と思ったかもしれないが、「W杯に出る選手がいない代表戦は見なくてもいい」という感覚になった人がいてもおかしくない。むしろ同じお金を払うのであれば、27年ぶりに来日したパリ・サンジェルマン(PSG)の方がいいと考える人もいただろう。

「PSGは世界選抜のようなチーム。普段、国内では見られないし、見ようと思うなら高いお金を払って現地まで行かなければいけない。日本で見られるのはすごくいいこと。日本代表との比較は特にしていません」

7月18日に秩父宮で行われたPSGの練習。ネイマールの背後には超満員が(筆者撮影)
7月18日に秩父宮で行われたPSGの練習。ネイマールの背後には超満員が(筆者撮影)

森保監督は「PSGとは別物」と割り切っていたが…

 森保監督は「PSGとは別物」と割り切っていたが、最近の世界情勢の変化で値上げラッシュが続く今、各家計の可処分所得は限られている。限られた原資をサッカー日本代表に向けてもらうというハードルは以前より上がっている。それをサッカー関係者全体がしっかりと認識すべき時期に来ているのは確か。

 コロナ禍の観客制限でサッカー観戦機会が激減したというマイナス面も踏まえ、日本サッカー協会やJリーグ、我々サッカーメディアを含めた関係者は、現状打開に向けた努力をこれまで以上に払っていかなければならないのだ。

 現に、協会はすでにアクションを起こし始めている。近年は公式YouTubeチャンネル「JFATV」の中で日本代表密着ドキュメンタリー「Team Cam」の配信を行っている他、公式Tiktokなどにも力を入れている。

「我々は目下、16~22歳の男女をターゲットに設定し、彼らとどのようなつながりを持つかという新たな課題に取り組んでいます。この年齢層は次世代のファンであり、我々のパートナー企業のターゲット層でもある。デジタルと相性がよく、施策のPDCAサイクルを回しやすいという特徴もある。その3要素を満たす人々なんです」とマーケティング本部長の担当者も話していたが、いかにしてデジタルを駆使しながら新たなファン層を開拓していくべきか。E-1の低調だった集客を踏まえながら、抜本的な策を講じていくべきだ。

相馬勇紀の活躍もあり、日韓戦は間違いなく好ゲームだった
相馬勇紀の活躍もあり、日韓戦は間違いなく好ゲームだった写真:ロイター/アフロ

 Jリーグクラブも観戦機会の少なかった新たな顧客層にアプローチをかけるなど、集客努力を行っている。Jリーグも5月の大型連休や夏休みに招待企画を実施。サッカーファンを取り戻そうと躍起になっている。サッカーが野球に次ぐ日本のメガスポーツであることは今も変わらないが、もはや胡坐をかいていていい時期ではない。そういう危機感をより多くの関係者やファンも共有していく必要があるのではないか。

 E-1自体は決して面白くない大会だったわけではない。日韓戦は久しぶりに見ごたえのある好ゲームで、豊田を本拠地とする名古屋グランパス所属の相馬がゴールを決めるなど大活躍した。だからこそ、もっと多くの人に足を運んでほしかった。2017年からJリーグがDAZNによる有料配信サービスになって5年が経過し、「Jリーグをよく知らない」という人々が増える中、国内組の魅力や特徴、長所などをいかにして広く知らしめていくのか。

 今回のE-1を「仕方ない」と終わらせるのではなく、これをいい機会にして、よりよい議論を深めていきたいものである。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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