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清水移籍有力の乾貴士は、J2降格危機に瀕するオリジナル10の名門を救えるのか?

元川悦子スポーツジャーナリスト
乾は日本代表時代のような輝きを取り戻せるのか(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 6月9日にセレッソ大阪との契約解除が発表されて1カ月半。J2・ファジアーノ岡山のトレーニングに参加していた元日本代表MF乾貴士の新天地が、清水エスパルスに本決まりになりそうだ。

 セレッソを離れることになった際、森島寛晃社長が「双方でしっかり合意をさせていただいたうえで、契約を解除しておりますので、フリーになったと捉えてもらえれば。他のJクラブに行くのも問題ないと思います」と説明していた通り、乾の国内移籍には障害がない状態だった。

 しかしながら、セレッソ時代に小菊昭雄監督やコーチ陣との握手を拒否し、暴言を吐くなど、不満を表に出すタイプの選手を獲得しようとする国内クラブはなかなかないのではないか、という見方が根強かった。噂に出ていたヴィッセル神戸も先月の段階で手を下ろしたと言われていただけに、韓国など海外再挑戦が有力ではないかとも目されていたのだ。

セレッソとつながりの強い大熊清GMが移籍のキーマンか?

 そこへ降ってわいたのが、今回の清水行きである。考えてみると、清水の現ジェネラルマネージャー(GM)は大熊清氏。2014年末~2019年までセレッソで強化部長やフットボールオペレーショングループ部長を歴任していて、スペインから帰国するたびに練習に参加していた乾とはもちろん面識があったはずだ。

 セレッソの森島社長や小菊監督、強化部のメンバーとも懇意にしている間柄で、乾に関する今回の顛末を全て把握していたと見ていい。そのうえで、古巣から乾の今後を委ねられた可能性もないとは言えないだろう。

 清水にしても、J2降格危機に瀕する今、勝利に直結する仕事ができる選手は喉から手が出るほどほしいところ。ドイツ・スペインで足掛け10年を過ごし、2018年ロシアワールドカップ(W杯)で2ゴールを挙げた実績ある乾なら、アタッカーとしての能力は申し分ないはずだ。

 加えて言うと、今の清水は真面目で大人しい若手が多い印象で、乾のような裏表なくストレートに主張できるタイプの人間が入れば、チームの雰囲気がガラリと変わる可能性もある。最後尾に陣取る日本代表GK権田修一とともに、力強くチームを引っ張ってくれると期待するからこそ、獲得話が進んだのだろう。

旧知の大熊GMが乾をサポートしてくれるだろう
旧知の大熊GMが乾をサポートしてくれるだろう写真:アフロスポーツ

早ければ31日の鳥栖戦でデビューも?

 このまま順調に契約締結となり、登録が完了すれば、乾は今月31日のサガン鳥栖戦からピッチに立てる状況になるという。4月5日の柏レイソル戦から4カ月近い公式戦のブランクがあるため、すぐにキレのある動きを見せられるかは微妙である。だが、6月に就任したばかりのゼ・リカルド監督はすぐに戦力として期待し、ベンチに入れるのではないか。リーガ・エスパニョーラで166試合出場16ゴールという屈指の実績を誇る選手というのは、ブラジル人指揮官にとっても魅力的に映るに違いない。

 そんな清水の現状を見ると、22試合終了時点で勝ち点20のJ1・17位。総得点26に対し、総失点35と失点の多さが顕著だ。総失点はJ1でコンサドーレ札幌に次ぐ2番目の多さで、そこはまず改善が求められるところ。直近16日の浦和レッズ戦も2失点し、勝ち点3を献上している。松尾佑介に与えた先制点の場面も、関根貴大が打ったシュートを権田が弾いたものの、松尾のところには誰もマークがついていなかった。後半のオウンゴールのシーンも相手右サイドで華麗なパスワークを許し、最終的に江坂任が入れたクロスを原輝綺がクリアしたはずが、ネットを揺らす形になった。

 この2つのケースを見ても分かる通り、ズルズルと押し込まれた時に失点につながるミスが出てしまう。そうならないように、もっと主導権を握って敵陣に侵入する時間を増やすような戦いをしなければいけない。ボールを持てて仕掛けのできる乾なら一助になれる。そういった意味でも期待は大きい。

現在の清水に乾がどう溶け込むかが見どころだ
現在の清水に乾がどう溶け込むかが見どころだ写真:YUTAKA/アフロスポーツ

チアゴ サンタナに次ぐ得点源になれるか?

 得点もここまで7ゴールのチアゴ サンタナに依存しているのが気がかりだ。右サイドでいい仕事をしていた西澤健太が右膝蓋骨骨折で全治3カ月と診断され、パリ五輪世代のエース・鈴木唯人も負傷離脱している今、攻撃の起爆剤として乾に託される期待は少なくない。目下、左MFに入っているカルリーニョス ジュニオらとうまく連携を取りながら、左右のサイドを活性化させられれば、ゴール数の増加も可能なはずだ。

「サッカーをやめようかという思いもありましたけど、息子に『まだやめんといて』と言われた。他にもいろんな人に止められました」とセレッソを離れた後、現役続行への強い思いを口にした乾。そうやって応援してくれる家族や友人、仲間たちのためにも、今度こそ日常に感謝しながら、真摯な姿勢でサッカーと向き合うことが必要不可欠だ。セレッソで応援してくれたサポーター、国内移籍を容認してくれた森島社長ら関係者の思いも受け止めて、新たな気持ちでキャリアを踏み出さなければいけない。

生粋のサッカー小僧の前向きな変化を強く望む!

 乾は生粋のサッカー小僧だけに、情熱や闘志が前に出てしまう。その反面、うまく行かなければ感情が爆発したり、イライラすることも多い。とはいえ、彼もすでに34歳。現役選手としては大ベテランだ。だからこそ、新天地では自分をコントロールし、周囲とうまくやっていく努力をこれまで以上に払うべきだ。

 清水で心身ともに大きく変貌した姿を示し、J1残留請負人になれれば、ネガティブなイメージも払拭できるはず。4カ月後のカタールW杯行きはさすがに難しいだろうが、2023年から発足する新たな日本代表に再招集されないとも限らない。そういった希望を感じさせてくれるような乾貴士を今一度見たい。それこそが、多くのサッカーファンの切なる願いではないだろうか。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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